配転・出向・転籍26(西日本鉄道(B自動車営業所)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、職種限定採用のバス運転士に対する職種変更の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

西日本鉄道(B自動車営業所)事件(福岡高裁平成27年1月15日・労判1115号23頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社との間で、職種をバス運転士とする職種限定合意を含む労働契約を締結していたが、バス運転士以外の職種としての勤務を命ずる辞令が発せられ、その後、退職したため、Y社によるバス運転士以外の職種への職種変更は無効であると主張して、①労働契約に基づき、Y社に対し、得べかりし賃金と実際の受領額との差額327万5557円及び遅延損害金、得べかりし退職金と実際の受領額との差額37万3304円及び遅延損害金の各支払を求めるとともに、②Y社の従業員から退職を強要されたと主張して、Y社に対し、使用者責任に基づき、慰謝料120万円及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

原審(福岡地裁平成26年5月30日)は、Xの請求をいずれも棄却したところ、Xがこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 労働契約が職種限定合意を含むものである場合であっても、労働者の同意がある場合には、職種変更をすることは可能であると解される。しかしながら、一般に職種は労働者の重大な関心事であり、また、職種変更が通常、給与等、他の契約条件の変更をも伴うものであることに照らすと、労働者の職種変更に係る同意は、労働者の任意(自由意思)によるものであることを要し、任意性の有無を判断するに当たっては、職種変更に至る事情及びその後の経緯、すなわち、①労働者が自発的に職種変更を申し出たのか、それとも使用者の働き掛けにより不本意ながら同意したのか、また、②後者の場合には、労働者が当該職種に留まることが客観的に困難な状況であったのかなど、当該労働者が職種変更に同意する合理性の有無、さらに、③職種変更後の状況等を総合考慮して慎重に判断すべきものであると解される

2 まず、Xに係る苦情、責任事故及び指定外運行の件数及び内容並びに本件事故後の所内教育中の状況によれば、Xには、バス運転士として適格性に欠けるところがあったといわざるを得ず、Y社において、Xについて運転士として乗務させることができないと判断したことには相当の理由があり、Xが運転士として乗務を継続することは客観的に困難であったといえる

3 そして、本件職種変更に至る経緯、すなわち、①本件事故後、A所長は、Xとの面談の際、繰り返し退職を勧め、懲戒解雇の可能性を示唆したこともあったものの、上記面談には、西鉄労組のH分会長らも同席しており、Xは、同分会長から、職種変更の場合の待遇等を含めて助言を受け、同所長に対して、一貫して職種変更の希望を述べていたこと、②そのため、Xと同所長の話し合いは平行線のままで、4月11日までには打ち切られ、Xの処遇はD課に委ねられることになり、Xは、同日、同課係員から、Xの処遇について未だ判断されていない旨の説明を受けたこと、③Xは、4月15日までに、弁護士に相談して、A所長らの対応に抗議させ、バス運転士への復帰を申し入れさせた上で、同月19日、C課長との面談に臨み、同課長に対し、運転士として継続したいが、それが難しいのであれば、別の部署で仕事を続けたい旨申し入れたこと、④同課長から、運転士として乗務させることはできないと告げられ、職種変更して他の仕事に就くという「提案」を受け、その際、職種変更の場合の待遇等についても説明を受けたこと、⑤Xは、上記④の「提案」について、4月21日、弁護士に相談した上で、同月22日、C課長に対し、職種変更を希望する旨回答し、本件申出書を作成し、本件職種変更がされるに至ったこと、⑥その後、12月6日まで、Xが本件職種変更について異議を申し出ることはなかったことなどに照らすと、本件同意は明示的または黙示的な矯正によるものではなく、Xの任意によるものであったと認められる。

4 以上によれば、本件職種変更は、Xの任意の同意による有効なものであり、その余の点について判断するまでもなく、賃金差額及び退職金差額の各支払を求めるXの請求はいずれも理由がない。

非常に参考になる裁判例ですね。

いかにして労働者の任意の同意を確保するかがポイントになります。

今回は、組合の分会長や代理人弁護士を同席させたことが、労働者の同意の任意性を判断する上で有効に働いています。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。