Daily Archives: 2015年10月5日

不当労働行為120(平和タクシー事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、労働委員会の救済命令の裁量と私法規範との整合性に関する争点を見てみましょう。

平和タクシー事件(広島高裁平成26年9月10日・ジュリ1485号4頁)

【事案の概要】

Y労働委員会は、平成24年4月、タクシー事業を営むX社が、その従業員でZ組合の組合員であるAら7名に対して乗務停止などを内容とする本件懲戒処分をしたことが不当労働行為であると認め、懲戒処分を取り消し、給与相当額の本件バックペイを命じる本件救済命令を発した。

一方、Aらは、裁判所に対して、懲戒処分がなければ得られたはずの給与相当額の支払等を求める訴訟を提起しており、1審判決は平成24年8月、控訴審判決は平成25年3月に言い渡され、確定した。

判決は、本件懲戒処分を無効とした上で、Aらの給与相当額の支払いをX社に命じていたところ、X社は、判決の命じた金額の全額を弁済した。なお、その額は、Y労働委員会の命じた本件バックペイの元本額を下回っていた。

その間、X社は、本件救済命令の取消しを求めて訴えを提起した。1審は、本件バックペイの支払を命じた部分について、民事訴訟で確定した額を超える部分を取り消し、超えない部分については訴えを却下した。

【裁判所の判断】

原判決を取り消し、X社の本件救済命令の取消請求を棄却

【判例のポイント】

1 救済命令の目的は、不当労働行為によって損なわれた労働者の個人的・財産的価値の回復を図ることだけにあるのではなく、組合を含めた正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復・確保を図ることにもあること、したがって、救済命令におけるバックペイの賦課は上記目的に基づく公法上の義務であって、民事判決が命じる私法上の義務とは異なるとされていること等を考慮すると、確定した民事判決に基づいて私法上の義務が履行されたとしても、それによって直ちに公法上の義務を課した救済命令の目的が達せられたとはいえず、・・・取消しを求める訴えの利益は失われない

2 救済命令の趣旨・目的は、使用者の不当労働行為により生じた事実上の状態を是正することにより、正常な集団的労使関係の迅速な回復・確保を図ることにあると解されるから、救済命令の内容は、私法的な意味での原状回復と同義とは解されず、私法上の権利関係に従った回復措置に限定されるものではない
ただ、救済内容が、実質的に私法上の権利義務の実現と共通する面を有する場合には、その救済の結果について私法上の権利義務との調整が可能であるか、そのかい離の程度が救済命令の目的からして許容される範囲内にある必要はあるというべきである。

上記判例のポイント1は、知識として押さえておく必要があります。

その前提として、どのような事案において、今回のような問題が起こるのかを理解しなければ、使える知識にはなりませんね。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。