Monthly Archives: 1月 2016

賃金106(国(国家公務員・給与減額)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、財政状況・東日本大震災を理由とする給与減額に対する差額等請求に関する裁判例を見てみましょう。

国(国家公務員・給与減額)事件(東京地裁平成26年10月30日・労判1122号77頁)

【事案の概要】

本件は、政府が、厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み、一層の歳出の削減が不可欠であるとして、国家公務員の給与について減額支給措置を講ずる方針を決定し、当該措置を実施するため国会に提出した給与臨時特例法案の内容を基礎として、議員立法により平成24年2月29日に成立し翌3月1日に施行された給与改定・臨時特例法について(1)個人原告らが、被告に対し、①国家公務員の給与減額支給措置を講じるに当たり、人事院勧告に基づかず、かつ、職員団体との合意に向けた交渉を尽くさず制定され、立法事実に合理性・必要性もない給与改定・臨時特例法は、憲法28条、72条、73条4号、ILO第87号条約及びILO第98号条約に違反し無効である旨主張して、従前の法律状態に基づく給与相当額との差額の支払を請求し(差額給与請求)、これと選択的に、国会議員が、人事院勧告に基づかずに、また、政府をして原告X労連と団体交渉を行わせることなく給与改定・臨時特例法を成立させた行為並びに内閣総理大臣が、人事院勧告に基づかず、国会議員により提案された給与改定・臨時特例法の成立を看過し、その成立に際して原告X労連と団体交渉を行わなかった行為及び憲法とILO条約に反する給与改定・臨時特例法に基づき減額された給与を支払った行為が、それぞれ国賠法上違法である旨主張して、同法1条1項に基づき、給与減額相当分の損害の賠償を請求(損害賠償請求)するとともに、②上記の違法行為による慰謝料として、個人原告ら1人あたり10万円の支払を求め、(2)原告X労連が、被告に対し、給与改定・臨時特例法が成立する過程において、内閣総理大臣が原告X労連と団体交渉を行わなかったことなどが国賠法上違法である旨主張して、同法1条1項に基づき、1000万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告らは、本件で問題となっているのは、年間約2900億円の給与減額の問題であり、一般論として「我が国の厳しい財政事情」を論じても意味がない、国の財政事情及びその国家公務員の給与との関係を客観的に見れば、国家公務員の給与を2年間で約5800億円削減することが必要となるほどの「厳しい財政事情」にあったとはいえない旨主張する。
確かに、国家公務員の給与を減額しても年間約2900億円の歳出削減にしかならず、平成24年度末の公債発行残高705兆円に遠く及ばないことは明らかであり、今回の給与減額支給措置が直ちに被告主張の厳しい財政事情の改善をもたらすものとは考え難い。
しかし、政府(国会)としては、厳しい財政事情を改善するために様々な措置をとる必要性があるのであって、その様々な措置の取り方について議論はあるにしても、その一つとしての給与減額支給措置をとるとする判断が不合理なものとはいえない。もとより、厳しい財政事情が直ちに解消するとは考え難い現状において、そのことのみをもって今回のような大幅な給与減額支給措置の必要性が当然に満たされるかについては議論があり得るところではあるが、今回給与減額支給措置がとられた理由としては、厳しい財政事情に加えて、東日本大震災が発生し、短期的にみて復興予算確保の必要性が生じた状況が存在するのであり、この事情を併せ考えれば、本件給与減額支給措置を実施することが、そのことのみによって直ちに厳しい財政事情を有意に改善することにならないからといって、その必要性が否定されるものではない

2 ・・・これらの事情からすれば、給与減額支給措置が恒久的、あるいは長期間にわたるものや、減額率が著しく高いものであればともかく、今回、前記の必要性のもと、東日本大震災を踏まえた2年間という限定された期間の臨時的な措置として、平均7.8%という減額率で実施された本件給与減額支給措置について、人事院勧告制度がその本来の機能を果たすことができなくなる内容であると評価することは相当ではない。

3 国家公務員の場合、私企業とは異なり給与の財源が国の財政とも関連して主として税収によって賄われるため、その勤務条件は全て政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならないとされている上、その決定手続も、私企業の場合のように労使間の自由な交渉に基づく合意によるのではなく、国民の代表者により構成される国会での法律・予算の審議・可決に基づくものとされているため、原告らの主張する準則は、そもそも、国家公務員の給与減額支給措置の場合に当てはまるとはいえず、民間労働者に適用される「就業規則による労働条件の不利益変更法理」と同等の要件が満たされなければならないことを前提とする原告らの主張は採用できない

公務員の特殊性から、上記のような判断がなされています。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介517 最強営業メソッド(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
保険の神様が教える最強営業メソッド

生命保険業界の世界では超有名なトニー・ゴードンさんの本です。

今回の本は、生命保険の営業のノウハウが主な内容なので、業界が違う場合には、文脈から応用する力が求められます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

恐れを感じるのは、成長の代償、つまり成功の代償です。山の頂に生きることを選んだならば、強風に直面するのは当然です。恐れから逃げるなら、成長することをやめればいいのです。成長するのをやめれば、恐れはなくなります。しかし、これだけ多くのチャンスを与えられる仕事に就きながら、『自分はどこまで行けるのか』という問いに答えを見つけようとしないのは、悲しいことではないでしょうか。」(226頁)

いい言葉ですね。

仕事を通じて、成長すること、成功することが人生の目標としている方であれば、共感できる内容だと思います。

自分の仕事が多くのチャンスに溢れているのかどうかって、結局のところ、主観の問題なのではないかと思います。

チャンスに溢れているのか、それとも不安要素でいっぱいなのかなんて、客観的に決まるものではないと思うのです。

チャンスなんてないと思う人は、目の前にチャンスが到来しても、きっと見逃すのでしょう。

成長したい、成功したいという気持ちを強く持っている人にだけチャンスが到来するのではなく、そういう人は、チャンスを見逃さないだけなのだと思います。

そのための準備を怠らないという日々の習慣の差が出ているのだと思います。

セクハラ・パワハラ16(T大学事件)

おはようございます。

今日は、大学の准教授、教授に対するパワハラを理由とする懲戒処分が無効とされた裁判例を見てみましょう。

T大学事件(東京地裁平成27年9月25日・労経速2260号13頁)

【事案の概要】

本件は、学校法人であるY社との間で雇用契約を締結し、Y社の設置する大学で准教授又は教授を務めていたXらが、同僚の教員や事務職員に対し、パワハラ行為若しくはこれを助長する行為、又は、これらを隠ぺいする目的で口止め行為をしたこと等を理由に、Y社から停職を内容とする懲戒処分を受けたことから、同処分が無効であるとして、Y社に対し、①同処分の無効確認、②停職とされていた期間の給与の支払い、③停職とされたことを理由とする賞与の減額分の支払、④解嘱されたY大学の入学試験問題出題委員会の委員の地位にあることの確認、⑤④の委員報酬の支払、⑥不当な懲戒処分を受けたことにより精神的苦痛を受けたとして、不法行為に基づく損害賠償金(慰謝料及び弁護士費用)の支払、⑦以上のうち、金銭支払請求については、遅延損害金の支払を、それぞれ求めている事案である。

【裁判所の判断】

懲戒処分は無効
→①、②、③認容

【判例のポイント】

1 X1に対する約2か月の停職についてみると、既に判断したとおり、X1懲戒理由については、G准教授が外面的にはXらとの良好な関係を保っており、その深刻な被害感情に思いが及ばなかったとしてもやむを得ないところがあり、Gの健康状態への影響も客観的には明らかではないことからすると、Gの心情等をX1に理解・自覚させた上で改善を待つなどの機会を与えないまま、いきなり停職という重い処分を科すことの相当性には疑問を持たざるを得ない。なるほど、Y社懲戒規程によれば、懲戒処分には停職よりも重い諭旨・懲戒解雇もあり、X1に対する停職期間も定め得る期間の上限と対比すれば重いものではないという見方も可能である。しかし、停職期間中の給与支払の停止、これに伴う賞与の減額分を合わせると、X1の被る損失は189万3028円にも達するものであり、こうした事情も踏まえるならば、約2か月の停職はX1懲戒理由と均衡を欠いた不相当なものといわざるを得ない

2 Xらは、本件各処分が不法行為を構成するとして慰謝料等の支払を求めている。しかし、既に判断したところによれば、Xらはそれぞれについて懲戒理由とされた事実のうちの一部が認められ、停職よりも軽い懲戒処分であれば適法かつ有効にすることができたと考えられることからすれば、本件各処分が無効であることを前提として、X1については処分の無効確認、Xらについて停職期間中の給与等の支払が認められることに加えて、Xらに精神的苦痛が発生したものとして慰謝料等の請求を認めるのは相当でない。本件各処分が量定上重すぎることを理由に無効とされたものであることを勘案すると、本件各処分が学内報に掲載され公表されている点も上記結論を左右しないというべきである。

懲戒処分に理由があったとしても、処分が重すぎるということで無効とされています。

処分の相当性の問題は、本当に難しいですね。

裁判になった場合にいかなる判決となるのか、事前に予測することがとても難しいです。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

本の紹介516 チームのことだけ、考えた。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
チームのことだけ、考えた。―――サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか

サイボウズの青野社長の本です。

社長就任前からの挑戦、苦悩、失敗が赤裸々に書かれています。

最近読んだ本の中で一番おすすめです。

組織作りに対する経営者の苦悩が伝わってきます。

経営者になろうとしている方は是非、お読みください。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

振り返ってみれば、今までの私は『それなりに頑張ればなんとかなる』人生だった。・・・『私は運が強い。才能もある。それなりに頑張ればなんとかなる』。どこかでそんな風に考えていたのだと思う。しかし、ここから先は違う。・・・勝負できる一点に絞り、命を懸ける想いで取り組まなければ、ここから先には進めない。『頑張る』のと『命を懸ける』のではレベルが違うことを理解した。私はこれから真剣に取り組む。社長として、この会社の成功に命を懸ける。失敗したら死んでもよいと覚悟を決める。そう考えた途端、気持ちに迷いがなくなった。私は覚悟を決めるということを学び、自分の真剣スイッチを生まれて初めてONにした。」(41~42頁)

覚悟を決めた人には、勝てません。

「真剣スイッチ」はきっと多くの人に付いているのでしょうけど、いろんな理由からONにすることができなかったり、ONにできても、それが長続きしないのです。

著者の言葉を見ると、「真剣に取り組む」ということと「一生懸命にやる」という状態では、やはり気持ちが全く異なりますね。

いろんな苦労や挫折を経験したからこそ辿り着いたのだと思います。

どんな仕事でもそうですが、自分の仕事に命を懸けて挑んでいる人は尊敬します。

そういう人たちが、世の中を変えていくのだと確信しています。

セクハラ・パワハラ15(神奈川SR経営労務センターほか事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、前訴和解条項の不履行と名誉毀損行為に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

神奈川SR経営労務センターほか事件(東京高裁平成27年8月26日・労判1122号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、職場のパワーハラスメント等による損害の賠償を求めてY社及びB他1名を被告として提起した訴訟において、平成24年11月26日に裁判上の和解が成立したにもかかわらず、その後、Y社、その代表者会長であるB及び副会長であるその余の被控訴人らが、前訴和解の合意事項を遵守しないばかりか、平成25年6月4日に開催されたY社の平成25年度通常総会等において、共同してXに対する名誉毀損行為を行ったため、著しい精神的苦痛を受けたとして、被控訴人らに対し、債務不履行又は共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計330万円の損害賠償+遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

原審がXの請求をいずれも棄却したので、Xが各控訴した。

【裁判所の判断】

被控訴人らは、Xに対し、連帯して330万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Cの本件総会におけるXに関する発言は、「いきなり声を張り上げて、一方的に同じ内容を繰り返し、約1時間近くしゃべりまくって全然こちらの意見を聞こうとしないというふうな状況があった」、「一層激しくなってきて、一方的にまくし立てるというようなこともございます。その間、その甲野さんの会話に職員のHさんが一緒に加わって、二人でワーワー騒ぐというような事態が起こっております。実際に職場の秩序がだんだん失われていくような状況だった」といったものであったことが認められる。
これらの発言は、本件総会に出席した会員らに、Xが問題行動をする職員であるとの印象を持たせ、その社会的評価を著しく低下させる行為である。そして、その発言内容は、総会における議案の説明又は質問に対する答弁として必要かつ相当な範囲を超えているから、違法にXの名誉を毀損していると認められる

2 ・・・そうであるにもかかわらず、これら被控訴人らは、自らが当事者又はその役員として関係する労働事件である前件訴訟において成立した前訴和解について、本来なら、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正な立場に立ち、社会保険労務士の信用又は品位を害するような行為をしてはならないにもかかわらず、専門分野であるはずの労務管理上の対応を誤り、裁判上合意して成立した前訴和解に基づく再発防止義務及び周知義務の履行を怠るというY社の不相当な皆無執行を助長したか、少なくとも放置したというべきである。
したがって、その責任は重大であって、いずれも共同して義務違反の責任を負うところ、上記義務違反は、Y社に対する忠実義務違反の責任を伴うほか、Xに対する関係でも、違法であって、故意又は少なくとも過失が認められることから、共同不法行為の責任を負うものというべきである。

3 CのXに対する名誉毀損に係る発言は、本件総会において、会長及び副会長で構成される執行部の立場を代表してされたものであり、これら被控訴人らは、本件総会に先だって、正副会長会議なる会合を持って答弁内容等を打ち合わせたことがうかがわれるから、理事であるCの名誉毀損行為について、Y社は、権利能力なき社団として不法行為責任を負い、Bを始めとする他の被控訴人は、故意又は少なくとも過失が認められることから、Cと共同して、いずれもXに対する名誉毀損の共同不法行為責任を負う。

非常に厳しい判決ですね。

前訴和解での約束の不履行の程度や当事者の職業などからこのような結果になったのでしょう。

上記判例のポイント2は、弁護士・社労士としては十分理解しておかなければなりません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

本の紹介515 BtoBマーケティングの基本(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は本の紹介です。
BtoBマーケティングの基本

いくつかのBtoBマーケティングの手法を解説してくれています。

流行に乗っかる必要はありませんが、何が流行っているのかを知っておくことは無駄ではありません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

成果を上げるマーケティング策を継続的に実行している会社とそうでない会社との明確な違いは、たった一つ。それは、『目的とする成果を達成するためのプランを事前に設計しているかどうか』という一点なのです。のべつ幕なしのマーケティング活動で時間を浪費するのではなく、目的達成のための具体的な手段を事前に設計することにこそ、もっと時間をかけるべきです。成功するマーケティングは、実は、事前に設計されているものなのです。」(171頁)

言うは易く行うは難し。

プロのマーケッターの方は、そうなのでしょうね。

素人には真似できる自信がありません。

どちらかというと、ほぼノープランで思いついたことをやってみて、成果が上がらなければやめるというスタイルでこれまで来てしまいました。

そもそも計画したり、設計するだけの引き出しを持っていないのです。

マーケティングの素人なりに、こういう本を参考にしながら、自分であれこれやるのが楽しいわけです。

解雇195(ブルームバーグ・エル・ピー(強制執行不許等)事件)

おはようございます。

今日は、前訴判決に基づく強制執行の不許等請求と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ブルームバーグ・エル・ピー(強制執行不許等)事件(東京地裁平成27年5月28日・労判1121号38頁)

【事案の概要】

1 本訴事件

本訴事件は、Xを雇用していたY社が、Xに対し、主位的に、XのY社に対する平成22年9月1日以降の賃金請求等を認容した前訴判決について、同日から平成25年5月9日までの分の賃金請求に対しては、弁済による賃金請求権の消滅を、同月10日以降の分の賃金請求に対しては、解雇による雇用契約の終了を、それぞれ請求異議の事由として、前訴判決に基づく強制執行の不許を求める(主位的請求(1))とともに、雇用契約の不存在の確認を求め(主位的請求(2))、また、Y社が上記解雇の後にXに賃金として支払った金員について、法律上の原因を欠くものであり、Xは悪意の受益者であったと主張して、不当利得の返還及び利息の支払を求め(主位的請求(3))、予備的に、XにY社の東京支局のReporter(記者)以外の職で勤務することを命じることができる雇用契約上の権利の確認を求める(予備的請求)事案である。

2 反訴事件
反訴事件は、Xが、Y社による上記解雇及び本訴事件の訴え提起等が被告に対する不法行為に該当すると主張して、慰謝料300万円及びこれに対する上記解雇の日以降の遅延損害金の支払を求める(反訴請求(1))とともに、平成22年9月支給分から平成25年4月支給分までの賃金に対する遅延損害金の支払を受けていないとして、雇用契約に基づき、未払の遅延損害金167万1725円の支払を求める(反訴請求(2))事案である。

【裁判所の判断】

 XからY社に対する地位確認等請求事件の判決主文第2項に基づく強制執行は、平成25年5月25日限り47万9032円及び同年6月から毎月25日限り67万5000円を超える部分については、これを許さない。

 Y社は、Xに対し、167万1725円を支払え。

 Y社のその余の主位的請求をいずれも棄却する。

 Y社の予備的請求に係る訴えを却下する。

5 Xのその余の反訴請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件提案は、その通知書に「下記のとおり提案します。」と明記され、また、提示された復職の条件のうち、復職先の職種、賃金の額、復職日のいずれも具体的に特定されていないことから明らかなとおり、飽くまで復職条件等に関する提案にすぎず、就労義務の履行としての復職を催告し、あるいは、業務命令権の行使として復職を命じる趣旨であると評価する余地のないものである
したがって、Xにおいて、本件提案を応諾し、本件提案に係る復職条件を前提とする協議に応じる法律上の義務を負うとか、そうでなくても、協議に応じてしかるべきであったなどと解すべき根拠は乏しい

2 この点、使用者が、労働者に対し、使用者としての立場で、当該労働者の配置先等の労働条件について協議するよう求めたときには、労働者がこれに応じ、誠実に協議すべき義務を負うと解すべき場合もあり得る。
しかしながら、本件において、Y社は、Xとの間で第1次解雇の有効性についての争いがあり、いまだ前訴事件が控訴審に係属している状況の中で、飽くまでも第1次解雇が有効であり、したがってY社がXの使用者ではないことを前提に、Y社が第1次解雇の撤回に応じることの条件として、本件提案に係る復職条件に同意することを求めたものであるから、本件提案は、紛争の当事者という立場で和解を提案する趣旨に出たというべきものであり、本件提案について、Y社が使用者として有する業務命令権等の権限を行使したものであったと評価することはできない(換言すれば、Y社は、Xの使用者ではないという立場を維持しつつ本件提案をしたものであるから、本件提案に雇用契約上の権利の行使という側面があったと評価する余地はない。)
そうすると、本件提案に応じるか否かは、基本的には、Xの自由な判断に委ねられるべきものであり、Xがこれに応じない旨の意思を明らかにしたからといって、そのこと自体に何ら責められるべき点はないというべきである。

3 本訴事件の予備的請求は、Y社がXに対し、東京支局のReporter(記者)以外の職で勤務することを命じることのできる雇用契約上の権利を有することの確認を求めるというものである。
しかしながら、本件権利は、これを行使することによりY社とXとの間の法律関係を変動させる効果を生じさせるものであるが、いまだ行使されておらず、将来行使されるか否かも現在は明らかでない。また、Y社が本件権利を有していても本件権利の行使が権利の濫用に当たる場合はその効力を生じないことから明らかなように、本件権利の存否を確定することによって将来本件権利が行使されたときの法律関係が明確になるということもできない
そうすると、本件権利を巡る紛争は、Y社において、本件権利を行使した後、これにより生じた法律効果を前提として給付や確認の訴えを提起することによって解決するのが適切であり、行使されるか否かも明らかでない現時点において、本件権利それ自体の存在の確認を求める訴えは、即時確定の利益を欠くというべきである。

労働判例としては、あまりお目に掛からない訴訟内容です。

上記判例のポイント1、2の判断は賛成です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介514 人は感情でモノを買う(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
人は感情でモノを買う

人は理屈ではなく感情でモノを買うことを前提とし、どのようにすれば選んでもらえるのか、ということが説明されています。

マーケティングの本が好きな人には特別目新しい内容ではありませんが、とてもわかりやすくて良い本だと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

プロのコピーライターが肝に銘じている言葉に、『お客さまは読まない(聞かない)、信じない、行動しない』というものがあります。・・・だから、お客さまの興味を突いて、読んでもらうための工夫をします。アメリカの伝説のコピーライターと言われるジョセフ・シュガーマンは、『広告の第1センテンスの目的は第2センテンスを読ませること。第2センテンスの目的は第3センテンスを読ませること』と言いました。すべての文は、次の文を読ませる目的を持っているということです。」(171~172頁)

自社のホームページ内の文章を自分で作った経験がある方でしたら、よくわかると思います。

また、自分が、他の会社のホームページ等を読んでいるときを想像すればわかると思います。

そうです。 閲覧者(お客様)は、じっくり文章を最初から最後まで読んではくれないのです。

「これだけがんばって書いたのだから、きっと一生懸命に読んでくれるだろう」は通用しないのです(笑)

基本、最後まで読んでくれない前提で、いかに最後まで読んでもらうのかを必死に考え、工夫しなければいけません。

広告の第1センテンスの目的は第2センテンスを読ませること。第2センテンスの目的は第3センテンスを読ませること

この言葉をしっかり頭に入れておくことが大切ですね。

不当労働行為130(G社(休職期間満了)事件)

おはようございます。

今日は、休職期間満了を理由に労災認定を受けたC組合員を退職扱いとしたことが不当労働行為にした命令を見てみましょう。

G社(休職期間満了)事件(大阪府労委平成27年5月11日・労判1121号95頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、①組合員Cを退職扱いとしたことおよびCを被告として地位等不存在確認請求訴訟を提起したこと、②「休職期間満了・退職通知書」をCに直接送付したことなどが、それぞれ不当労働行為であるとして申し立てられた事案である。

【労働委員会の判断】

Cを退職扱いとしたことは不当労働行為にあたる。

その余は不当労働行為にあたらない。

【命令のポイント】

1 Y社は、平成25年10月17日までは、長時間労働及びパワハラの事実の有無やうつ病発症との因果関係の有無について労基署の判断を仰ぎ、労基署による労災認定がなされれば、それに従い、C組合員の休職を業務上傷病による休職と認める余地があるかのような言動をとっていながら、その後、休職期間内に恒常的な長時間労働と上司とのトラブルにより、うつ病を発症したとの労災認定がなされたにもかかわらず、そのことを知ってただちにC組合員に対して退職通知を送付しており、このような会社の扱いは、不自然な点があるといわざるを得ない
・・・以上のことを総合的に考えると、Y社は、C組合員を組合の組合員であるが故に退職扱いとしたと推認でき、このような会社の対応は、C組合員に対する不利益取扱い及び組合を弱体化させるための支配介入に当たるといわざるを得ない

2 確かに、訴訟の被告とされることは心理的又は経済的な負担になることは否定できないが、何人も民事事件において裁判所に訴えを提起する権利を否定されないものであるから(憲法32条参照)、会社が専務によるパワハラ行為の存否、C組合員の休職は業務外傷病による傷病か及びC組合員の退職の有効性等を明らかにするため、C組合員を被告として、本件訴訟を提起することも権利の行使として尊重されるべきである。したがって、Y社が本件訴訟を提起したことは、組合員であるが故に行われた不利益取扱いであるとともに、組合に対する支配介入である旨の組合の主張は採用できない。

労災認定されていますので、労基法の解雇制限が適用されますので、解雇や休職期間満了による退職処分はできません。

従業員が組合員である場合には、不当労働行為になりますので、ご注意ください。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介513 イーロン・マスク 未来を創る男(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。
イーロン・マスク 未来を創る男

イーロン・マスクの「初の公認伝記」だそうです。

超有名なイーロンさんですが、この本を読むと、多くの挫折や苦悩を乗り越えてきたことがわかります。

また、周囲の人の評価がいいものばかりでないこともまた、この本を読むとよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・だが、マスクはいつも純粋な視点で語る。デザインと技術を選ぶときは、理想型のクルマに少しでも近づける方向で考えなければならない。ライバル各社がどのくらいダメかは、マスクが決めることで、常に二者択一だ。妥協せずに優れたものを作ろうと努力するか、しないかしかないのである。努力していなければ、マスクは遠慮なく失敗とみなす。外部の人間には理不尽か馬鹿げていると映るが、それが彼の哲学なのである。」(248頁)

普通に考えると、トップだけがイーロン・マスクさんのような超完璧主義で、他の役員・従業員がそれを理不尽で馬鹿げていると考えている場合、会社は決してうまくいきません。

意識や方向性を統一する必要があると言われるのは、そうしないと、会社内で足の引っ張り合いが起こるからです。

変化をしたくない、難しいことをやりたくない、楽をしたい、今のままでいい・・・

組織の難しさですが、これを克服しなければ、先へは進めません。