Daily Archives: 2016年4月12日

労働災害86(市川エフエム放送事件)

おはようございます。

今日は、自殺した精神疾患を有するDJの職場復帰への対応と安全配慮義務に関する裁判例を見てみましょう。

市川エフエム放送事件(千葉地裁平成27年7月8日・労判1127号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが自殺をしたことについて、安全配慮義務違反があったと主張するXの相続人が、Y社に対し、損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、約3000万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの職場復帰を認めた平成23年10月7日の時点で、・・・に照らせば、Xの精神状態や他の従業員との人間関係に改善が見られない状態で、職場復帰を認めれば、Xが再度自殺を試みることは予想できたというべきである。
・・・その結果、Xは、職場復帰後、外形的には精力的に職務をこなしていたものの、内面では、極めて多忙であることに疲弊し、職場での人間関係は更に良くなくなっていると感じていたことが認められ、その結果、Y社の職場を壊したのは自分であり、自殺することしか責任を取る方法はないと思い込み、自殺に至ったものと推認できる

2 Aは、Xの職場復帰に当たり、Bの勤務日との調整をするなど一応の配慮をしているほか、X自身、継続的にC医師の診察を受けており、専門家による指導下にあったという事情は認められるものの、そのような状況下においてすでに自殺未遂を起こしているわけであるから、このことをより深刻に捉え、Xの職場復帰の可否を判断するに当たっては、Xに臨床心理士の診察を受けさせ、あるいは、自ら臨床心理士や主治医であるC医師と相談するなど、Xの治療状況の確認や職場における人間関係の調整などについて専門家の助言を得た上で行うべきであった
しかるに、Aは、上記のとおり、自分だけの判断でXの職場復帰及び業務内容を決めたものであり、その業務内容も前記のとおり、Xの精神的・身体的状態を十分配慮したものとはいえないものであったことからすれば、Aの対応は、Xの生命身体に対する安全配慮義務に違反するものというべきである。

3 Xは、Y社に就労する以前から精神疾患に罹患しており、自殺に結びつく素因を有していたこと、Xは、自殺未遂後、主治医であるC医師から3週間ほど休むよう勧められたにもかかわらず、その指導を受け入れなかったこと、Xは、C医師にジェイゾロフトなどの服薬を止めたい旨を申し入れ、C医師の了解を得たが、この服薬の中止がXの精神状態に何らかの悪影響を及ぼした可能性を否定できないこと、Xは、Y社から10日間の休暇を取る了解を得られ、休養の機会を与えられたにもかかわらず、それをあえて短縮して職場復帰をしたこと、Y社の職場における人間関係の悪化について、X自身相当程度の寄与をしていることが認められることなどに照らせば、XとAとの立場の違いや、Y社に求められる前記安全配慮義務違反の内容を考慮しても、Xに認められる前記損害について、損害の公平な分担という観点から、過失相殺ないしその類推適用により、3割を減額するのが相当である。

精神疾患を理由とする休職後、職場復帰をさせる際、使用者としては、細心の注意を払う必要があります。

上記判例のポイント2を理解し、リスクヘッジを図るべきです。

独自の判断だけで手続を進めることは決しておすすめしません。