Daily Archives: 2016年4月28日

賃金112(類設計室(取締役塾職員・残業代)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、全員取締役制塾職員の労働者性と割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

類設計室(取締役塾職員・残業代)事件(京都地裁平成27年7月31日・労判1128号52頁)

【事案の概要】

本件は、学習塾の経営等を目的とするY社に雇用されていたXが、時間外労働を強いられていたのにもかかわらず、Y社の取締役であったことを理由に残業代の支払を受けなかったとして、残業代の合計548万3465円+遅延損害金+付加金等の各支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、671万9790円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金519万9806円を支払え

【判例のポイント】

1 当該業務従事者が労基法上の労働者に該当するといえるか否かの問題は、個別的労働関係を規律する立法の適用対象となる労務供給者に該当するか否かの問題に帰するところ、この点は、当該業務従事者と会社との間に存する客観的な事情をもとに、当該業務従事者が会社の実質的な指揮監督関係ないし従属関係に服していたか否かという観点に基づき判断されるべきものであると解するのが相当である。
そして、本件においては、Y社は、XがY社の取締役であり労働者ではない旨を主張しているものであるから、取締役就任の経緯、その法令上の業務執行権限の有無、取締役としての業務執行の有無、拘束性の有無・内容、提供する業務の内容、業務に対する対価の性質及び額、その他の事情を総合考慮しつつ、前記のとおり、当該業務従事者が会社の実質的な指揮監督関係ないし従属関係に服していたか否かという観点から判断すべきものであると解される。

2 Y社は、弁論終結が予定されていた第5回口頭弁論期日の当日になって、新たな証拠を提出するとともに、これを踏まえた第6準備書面を提出してきた。
・・・Y社は、訴訟係属後の比較的早期の段階より、Xから労働時間該当性を争うのかについて釈明を求められていたのであるから、最終口頭弁論期日までの間に、積極的な事実を摘示して労働時間該当性を争うことも、これに関連する証拠を収集して提出することも容易に出来たはずであるにもかかわらず、あえてその主張立証活動をしてこなかったものである。
・・・Y社は、自ら労働時間該当性に関する主張立証をしないと述べていたのであるから、上記のような主張立証活動は、訴訟上の禁反言にももとるばかりか、裁判所の争点整理も無に帰せしめる上に、上記のような審理の経過を信頼して誠実に訴訟活動を重ねてきたXにとっても不測の事態を招来するものであるといわざるを得ず、訴訟活動上も無用の負担を強いられるものであって、到底許容し難いものである
加えていうならば、上記主張立証活動は、Xが、弁論再開申立てをして、申立の趣旨変更申立書が提出されたことに乗じて、新たな主張を追加するものであり(本来は、Xの計算の修正を前提とした請求額の拡張に対する答弁のみが想定されていたものである。)、Xに有利な内容での和解が勧試された後のものであることをも踏まえると、判決の内容を想定した上での後出しであるとの評価を受けても致し方ないものである。しかも、Y社は、上記主張立証を最終口頭弁論期日当日に提出したものであり、Xによる反論の機会をも奪うものであったとの評価を受けてもやむを得ないものであった
そうすると、Y社が最終の口頭弁論期日において提出した証拠及びこれを踏まえた第6準備書面における主張については、時機に遅れたものであり、そのことにつき、少なくとも重過失が存するものと認めるほかない。

3 ・・・以上の次第で、Xは、紛れもなく労基法上の労働者と認められる。本件においては、Y社は、自主管理という企業理念を踏まえ、労働者性に関しるる主張をしているところ、当裁判所としても、その企業理念そのものやそれを踏まえて今日まで発展を遂げてきたY社の企業としての在り方を露いささかも否定するものではない。しかしながら、そのことと、労働者に対して労基法を踏まえた適正な処遇をすべきことは別の事柄であるといわざるを得ず、労働者であるXの時間外労働に対しては、労基法に基づき、適正に残業代が支払われなければならない

会社の経営理念や方針それ自体を否定するものではありませんが、やはり従業員全員が取締役として労基法の適用を除外することは労働法の世界では難しいですね。

なお、上記判例のポイント2であげたのは、珍しく時機に後れた攻撃防御方法として裁判所から非難されているので紹介しました。

結審間際になって新たな主張立証を突然するとこうなります。 ご注意を。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。