Daily Archives: 2016年4月6日

配転・出向・転籍29(T社事件)

おはようございます。

今日は、出勤停止の懲戒処分、配転命令が有効とされた裁判例を見てみましょう。

T社事件(東京地裁平成27年9月9日・労経速2266号3頁)

【事案の概要】

本件は、使用者であるY社から、元交際相手の男性との復縁工作を探偵社に依頼した行為に関し3日間の出勤停止の懲戒処分を受け、その後、配転命令を受けたXが、Y社に対し、前記懲戒処分及び配転命令は無効かつ違法であると主張して、①出勤停止ないし休職期間中の賃金7万0975円及び遅延損害金の支払、②配転先の部署であるY社の電力・社会システム技術開発センター高機能・絶縁材料開発部環境機能性材料開発担当において勤務する雇用契約上の義務のないことの確認、及び③違法な懲戒処分及び配転命令により受けた精神的苦痛について不法行為に基づく損害賠償請求として200万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件依頼行為は、本件男性及び被害女性のプライバシーを正当な理由なく侵害する行為で、かつ、社会通念上相当とはいえない行為である。そして、本件依頼行為がなければ起きなかった本件名誉毀損等の行為により、被害女性はインターネット等において実名をもって著しく名誉を毀損され、その結婚式の二次会は中止を余儀なくされ、Y社は数日間の業務妨害により多数の従業員による対応を余儀なくされた。つまり、本件依頼行為は、それ自体が権利侵害である上、起きた結果はさらに重大である。
そうすると、Xが、本件名誉毀損等の行為が行われることについて認識、認容していなかったこと、Xにとって初めての非違行為であること、被害女性と示談が成立していること、Xが、交際相手から他の女性との結婚を伝えられ、焦りの余りとった行動であることを考慮しても、出勤停止3日の懲戒処分を行うことは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるから、懲戒権の濫用であるとはいえない(労働契約法15条)。

2 Y社としては、被害女性の二次的な被害及び他の従業員の動揺等による業務遂行の支障を避けるため、被害女性が業務でしばしば訪問するIECにXを配置しておくことはできず、Xを被害女性との接触可能性が少ない部署に配転する業務上の必要性があったと認められる。

3 配転先の選定については、被害女性が業務で訪問している部署や訪問する可能性が高い部署を外し、かつ、Xの学部時代の専攻である無機材料の物性分析と関連がある、素材の性質の分析に関わる部署を選定していること(Xは本件配転先で一定の成果を上げている)、Y社は、本件配転前に居住していたXの自宅から通勤時間が2時間弱程度かかることに配慮し、Y社の寮の利用を提案していることからすれば、本件配転において、Xを退職させる目的があったとは認められない

4 本件配転により、Xの自宅からの通勤時間は1時間以内であったのが、2時間程度になったが、その通勤時間が、首都圏において一般的に通勤時間として許容できない範囲であるとはいえないし、Y社がXに対し、本件配転先に近い寮の利用を提案していることからすれば、通勤時間が長いため著しい不利益があるとのXの主張は採用できない。

5 Xには本件配転前後で基本給の変更はなく、初めての部署であることを考慮し、自立的な業務遂行ができること等を要件とするフルフレックス制を適用しない合意をしたため、本件配転後の平成26年1月から同年9月まで業務手当10万5100円が支給されなくなり(その代わりに勤務時間に応じて時間外労働手当が支給されることとなった)、一時的に手取り額が減少した。他方、平成26年10月からフルフレックス制が適用されて、本件配転前より多額の10万7720円の業務手当が支給されている。そうすると、・・・その趣旨目的、賃金が減少していた期間、代替措置に照らし、著しい不利益とまでは認め難い。

出勤停止3日という絶妙な懲戒処分であるため、処分の相当性についても問題なく認められています。

配転命令については、会社が退職勧奨の目的がないことを裏付けるために、どのようなアプローチをしたらよいのか、是非、この事例から読み取って下さい。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。