Daily Archives: 2017年4月28日

解雇231 懲戒解雇と就業規則の周知性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、元調理師に対する懲戒解雇と割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

無洲事件(東京地裁平成28年5月30日・労判1149号72頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、食堂の委託業務等を行う会社であるY社に調理師として就労し、Y社から懲戒解雇された後、懲戒解雇は違法であり、かつ、在職中、Y社が安全配慮義務に違反してXに長時間労働を強いた上、労働基準法所定の割増賃金を支払っていない旨主張して、①労基法に従った平成24年7月から平成26年3月までの割増賃金+遅延損害金、②割増賃金に係る付加金、③違法な長時間労働に係る安全配慮義務違反の債務不履行に基づく損害賠償金+遅延損害金、④違法な懲戒解雇に係る不法行為に基づく損害賠償金+遅延損害金の各支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、341万8250円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、298万7523円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、30万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件においては、Xの出勤及び退勤時刻について、タイムカードの記録があるから、基本的には、タイムカードの打刻時刻手書き部分も含む。また、打刻時刻の記録がないときは、原則として、所定の始業時刻又は終業時刻によるものとする。)に基づいてXの実労働時間を認定するのが相当である。
しかし、タイムカードの打刻時刻は、実労働の存在を推定させるものであっても、直接証明するものではないから、所定の始業時刻及び終業時刻の範囲外の時間については、証拠関係に照らし、タイムカードの打刻時刻に対応するような実作業が存在したことについて疑問があるときは、証拠上認められる限度で実労働時間を認定することとする

2 本件におけるXの労働時間は、前記認定したとおりであり、Xの毎月の時間外労働の時間(1日8時間超過分と週40時間超過分の合計)は、平成24年8月から平成25年8月までの間、継続して、概ね80時間又はそれ以上となっている(タイムカード上は、これをはるかに超える。)。
Y社は、三六協定を締結することもなく、Xを時間外労働に従事させていた上、上記期間中、Y社においてタイムカードの打刻時刻から窺われるXの労働状況について注意を払い、事実関係を調査し、改善指導を行う等の措置を講じたことを認めるに足りる主張立証はない
したがって、Y社には安全配慮義務違反の事実が認められる。
本件においてXが長時間労働により心身の不調を来したことについては、これを認めるに足りる医学的証拠はなく、疲労感の蓄積を訴えるX本人の陳述があるのみである。しかし、結果的にXが具体的な疾患を発症するに至らなかったとしても、Y社は安全配慮義務を怠り、1年余にわたり、Xを心身の不調をきたす危険があるような長時間労働に従事させたのであるから、Xには慰謝料相当額の損害が認められるべきである。本件に顕れたすべての事情を考慮し、XのY社に対する安全配慮義務違反を理由とする慰謝料の額としては、30万円をもって相当と認める。

3 まず、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくのみならず、当該就業規則の内容を、その適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られている必要がある(最高裁判所平成15年10月10日第二小法廷判決参照)。
本件において、Y社の就業規則が周知されていなかったことは争いがないから、本件懲戒解雇は労働者に周知されていない就業規則の定めに基くものとして、効力を有しないというべきである。
他方、本件懲戒解雇が、その根拠となる就業規則の周知性要件が具備されていなかったという手続的理由により無効と解されるとしても、そのことから、本件懲戒解雇が直ちに不法行為になるわけではない
むしろ、上記認定した事実に照らすと、Xは、平成26年2月、Y社から棚卸しの不実記載を指摘され、二度とこのような不実の報告はしない旨の書面を提出したにもかかわらず、その直後から、納品伝票の日付を実際の納品日から遅らせるということを継続して行っていたものである。
Y社が適切な経営判断を行うためには、食材原価について現場から正確な報告がされることが不可欠であり、この観点からは、Xが不実の報告を繰り返したことは重大な非違行為と評価されてもやむを得ない。
そうすると、本件懲戒解雇は、無効ではあっても、Xに対する関係で、不法行為を構成するような違法性がある行為であるとまでは認めることはできない。

残業代の支払のほかに安全配慮義務違反に基づき慰謝料の支払いを命じています。

多くの場合、残業代の支払いをもって填補されるという理屈をとるのですが、本件ではそのような理屈はとられていません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。