解雇267 休職期間満了時の復職の可否判断における労働者の生活状況に関する記録の考慮(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、欠勤は業務外の疾病によるものであり、傷病休職の期間満了による雇用契約の終了を認めた裁判例を見てみましょう。

幻冬舎コミックス事件(東京地裁平成29年11月30日・労経速2337号16頁)

【事案の概要】

X及びY社が労働契約を締結していたところ、使用者であるY社は、労働者であるXが精神的な障害を発症し、一定の期間出勤をせずに休業したことについて、私傷病による欠勤として取り扱い、さらに、就業規則等の定めに基づくものとして、Xに対して一定の期間の給食を命じた上で、当該休職の期間の終了をもってXがY社を退職したものとして取り扱い、Xが休職した期間以降の期間に係る月額賃金及び賞与をXに支払わなかった。

本件は、Xが、主位的に、この欠勤としての取扱い、休職命令及び退職の取扱いが当該就業規則の定める要件等を欠く違法なものであり、当該労働契約における労働者たる地位を有するXには民法第536条第2項の規定に基づいていわゆるバックペイを請求する権利が発生している旨等を主張して、Xが当該労働契約上の権利を有する地位に在ることの確認並びにXが上記の休職及び休職をした期間+遅延損害金の支払をY社に求めるとともに、時間外の割増賃金が生じている旨を主張して、当該割増賃金+遅延損害金の支払をY社に求め、予備的に、当該休職命令及び退職の取扱いが違法でなかったとした場合の当該割増賃金+遅延損害金の各支払をY社に求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、53万6967円+遅延損害金を支払え

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、同月11日の時において、自らの心身を適切に管理して行動することが困難な状態にあり、営業職としてはもとより、編集職としても、本件労働契約においてXに履行することが求められていた債務の本旨に従った労務の提供(Xは、前職の経験を前提として期間の定めのない労働契約である本件労働契約を締結し、一時はY社の部長職を任され、更には月額39万円の賃金を得ていたことに鑑みると、いわゆる管理職に比肩すべき相応の能力の発揮を期待されていたものと解すべきである。)に重大な支障を来す状態にあって、休職を命ずることが相当である状態にあったものというべきである。
・・・このような経緯によれば、Xは、休職をすること自体についての不満を有していたとしても、その精神的な障害の状態等に鑑み、Y社からの説得に応じて、自らの意思により、有給休暇を取得し、続けて本件休職期間中に欠勤をしたものと認めるのが相当である。

2 C常務及びE副部長とF医師が同月30日に面談を行ったが、当該面談において、F医師がC常務らに対してXに生活状況の記録をさせることはしていない旨を述べたことから、C常務らがF医師に本件生活・睡眠表を見せたところ、F医師は、本件生活・睡眠表を見た上で、C常務らに対し、Xから生活リズムがおおむね整っていると聞いていたが、本件生活・睡眠表を見ると、XにはY社における通常の勤務はできないと思われること、Y社が出版社であるとはいえ、Y社の従業員がY社に午前10時くらいに出社すべきことは常識であると思われることを述べた。

3 F医師の作成に係る復職診断書や原告訴訟代理人に対する回答によっても、営業職としてはもとよりとして、編集職としても、本件休職期間の終了時までに本件労働契約の債務の本旨に従った労務を提供することができる程度にまでXの精神的な障害が回復したものということはできない
なお、Xは、仮にXが復職の当初にY社の所定労働時間どおりに労働することが困難であったとしても、Y社がXの復職後の就業に配慮する措置を講じていれば、通常の勤務に程なく復帰することができた旨を主張しているが、本件全証拠を精査しても、その裏付けとなるべき的確な証拠はない。

上記判例のポイント2は大変参考になります。

復職の可否についていかなる視点で判断すべきについてはとても悩ましいですが、生活状況の記録等から客観的に判断するように努めることが大切です。

決して、主治医がこう言っているから、産業医がこう言っているからという形式的な理由だけで判断をしてはいけません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。