解雇345 精神疾患の業務起因性と解雇制限(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、労基法19条1項違反に基づく解雇無効地位確認等請求に関する事案を見てみましょう。

中央自動車工業事件(大阪地裁令和2年11月19日・労判ジャーナル108号16頁)

【事案の概要】

本件は、自動車の修理加工、販売、仲立等を目的とするY社の従業員であったXが休職期間満了により退職扱いとされたところ、XがY社の従業員の嫌がらせにより精神疾患に罹患し休職せざるを得なくなったのであって、Xの休職がY社の業務に起因するため、労基法19条1項により退職扱いとすることができないと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに平成30年6月以降本判決確定の日まで毎月27日限り月額44万6000円の賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、上記Y社の従業員の嫌がらせ又はY社の退職扱いによりXの権利ないし法律上保護に値する利益を侵害され、また、これに対して何らの対応もしなかったY社に職場環境配慮義務違反があるとして、Y社に対し、使用者責任(民法715条1項)、不法行為(民法709条)又は債務不履行(民法415条)に基づき、慰謝料200万円及び治療費等34万5600円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Xが平成28年5月頃、適応障害を発症した旨主張し、これに沿うI医師の意見も存する。しかしながら、Xが平成19年6月23日、うつ病と診断され、その後、多少症状が軽減した時期はあるが、平成28年5月頃まで、抗うつ薬を中止できるような寛解状態には至っていないことからすると、それまでのうつ症状とは異質の、いらいら及び攻撃的な感情の出現を認められることを考慮しても、大阪労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会の意見のとおり、「反復性うつ病性障害(F33)」が自然経過を超えて著しく悪化した可能性を否定できない

2 仮に、XがI医師の意見のとおり、平成28年4月後半頃に適応障害を発病していたとしても、発病前おおむね6か月の間に生じた可能性のある出来事は、別表Y社の従業員による嫌がらせ行為一覧表の番号10(「お前なんか死ね。早よ死ね。」,「アホ!ボケ!」)のみである。
この点、Xは、認定基準においても、いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、発病の6か月前よりも前にそれが開始されている場合でも、発病前6か月以内の期間にも継続しているときは、開始時からの全ての行為を評価の対象とするとされていることを指摘する。
しかしながら、Dによる嫌がらせ行為が継続的に行われていたと認められないことは別表Y社の従業員による嫌がらせ行為一覧表「当裁判所の判断」欄記載のとおりである。
また、発病前おおむね6か月の間に生じた出来事に限定しないとしても、別表Y社の従業員による嫌がらせ行為一覧表のうち、認められる可能性のある出来事は、番号4,5,8,10,11にとどまる。

3 加えて、これらを総合的に考慮したとしても、別表Y社の従業員による嫌がらせ行為一覧表のとおり、これらが継続して行われているとはいえず、また、多人数が結託して行われたともいえない(Dの肩が当たったとしても治療を要するものでない)以上、認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」項目29(「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」)に沿って検討すれば、「強」である例には当たらず、心理的負荷の強度が「強」であるとは認められない
したがって、本件疾病の業務起因性を認めることができない
よって、本件疾病が業務上の疾病に該当することを前提とするXの地位確認請求及び賃金請求にはいずれも理由がない。

精神疾患の業務起因性の判断は本当に難しいです。

本件のように全く問題がないというわけではない事案において、業務上の疾病には該当しないと判断すれば、ほぼ間違いなく訴訟に発展します。

その覚悟を持ち、顧問弁護士に相談をしながら客観的に判断することが求められます。