労働時間72 休憩時間、仮眠時間の労働時間性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、休憩時間、仮眠時間が労働時間に該当しないとされた裁判例を見てみましょう。

千代田石油商事事件(東京地裁令和3年2月26日・労経速2448号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、平成29年1月から平成30年3月までの間、時間外・深夜・休日労働に従事したところ、本件請求期間の時間外労働等に係る割増賃金の未払いがあるなどとして、Y社に対し、①雇用契約に基づき、未払残金311万0127円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②労基法114条に基づき、付加金311万0127円+遅延損害金の支払を求め、③Xの子が紛失した健康保険被保険者証の再発行に当たり、Y社から、指示どおりの内容の謝罪文を書くよう要求されたことが不法行為を構成するとして、Y社に対し、不法行為に基づき、慰謝料10万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、68万3552円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、同額の付加金+遅延損害金を支払え。

慰謝料請求は棄却。

【判例のポイント】

1 Y社においては、本船業務を1人又は2、3名程度の複数名で執り行っていたものであるところ、シフト等により休憩、仮眠時間が割り当てられ、これをとるものとされていたものである。この間、Xを含め、休憩、仮眠時間を取っていたY社の従業員が即時の対応を義務付けられていたことを裏付ける的確な証拠はない
この点、Xは、液化天然ガスを扱うという職務の公共的性質や上長としての立場について指摘し、これらの時間中においても作業の監視を続けざるを得なかった旨主張し、X本人の供述にはこれに沿う部分があるが、上記時間中まで作業の監視が続けられていた具体的な事実を裏付ける証拠はなく、まして、上長であったが故に他の従業員の作業内容を補助し続けなければならなかったというような実情を裏付ける証拠もなく、採用し難い。X本人の供述には、休憩,仮眠時間においてもトランシーバを所持し、一歩間違えば大惨事に至りかねない緊急時に備えていた旨述べる部分もあるが、そのような義務付けやこれによる即時対応をY社が義務付けていたと認めるべき的確な証拠はない。

2 トラブル発生の頻度をみても、緊急対応が必要となった大きなトラブル事象は657隻の取扱い中、1件にとどまっている上、これ以外のトラブル事象をみても、多くは入港前やマニホールド業務時間中の発生事象で、かかる時間帯における休憩時間にあって、XやY社従業員が、休憩をしていない従業員に代わり、即時の対応を余儀なくされたというような事実は認め難い。CCR業務(定常荷役中)のトラブル事象に至ってはトラブルの発生頻度自体も低く(4回にわたる桟橋補助業務を含めて3パーセントから5パーセント程度にとどまる。)、やはり、休憩や仮眠に当たっていない従業員が、これに当たっている従業員に代わって、即時の対応を余儀なくされたというような事実は認め難い
むしろ、証拠より窺われる時間管理後のXの休憩、仮眠時間の取得状況に照らすと、桟橋補助業務に当たっていたときはともかく、本船勤務日毎に、特段の中断なく、まとまった休憩、仮眠時間をとることができていると認められる。
そして、これら休憩、仮眠時間にあっては休憩室等の提供も基本的にはされていたものである。また、夜通しの勤務であることから仮眠時間中に仮眠がしっかりとられるべきということはいえても、休憩、仮眠時間中の過ごし方がY社により決定されていたものとも認められず、その間における場所的移動が禁止されていたとも認め難い
そうすると、休憩、仮眠時間において労働契約上の役務の提供が余儀なくされ、これが義務付けられていたと認めることはできないところであり、労働からの解放が保障されていないものとしてY社の指揮命令下にあったと認めることはできず、他にこの点を認めるに足りる的確な証拠はない。

休憩時間、仮眠時間の労働時間性が否定されました。

労働からの解放が保障されているという評価がどのような事実に基づきなされているかを理解しておくことが大切ですね。

この分野も事前の準備・運用が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理することが求めれています。