Daily Archives: 2021年9月8日

配転・出向・転籍46 職種限定労働者に対する配転命令と労働者の同意(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、薬学部教授兼薬剤部長に対する薬剤師としての配転命令の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人国際医療福祉大学(仮処分)事件(宇都宮地裁令和2年12月10日・労判1240号23頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の開学するY大学の薬学部教授及びY病院薬剤部長として就労していたXが、Y社の違法な配転命令により、薬学部教授等の地位を解任され、Y病院において薬剤師として勤務するよう命じられたとして、Y社に対し、主位的に薬学部教授の地位にあることを、予備的に薬剤師として勤務する労働契約上の義務を負わないことを、それぞれ仮に定めるよう求めた保全申立事件である。

【裁判所の判断】

Xは、Y社に対し、Y社が設置するY大学薬学部教授の地位にあることを仮に定める。

【判例のポイント】

1 Xの地位を薬学部教授に限定する明確な合意は認められないが、黙示の合意による成立が認められる余地はあるとして、募集と採用の経緯、人事運用等からみて薬学部教授とする職種限定合意がされたと一応認められる

2 本件配転合意書の上記内容を認識しつつ異議を述べずに署名・押印を行ったからといって、その署名・押印がXの自由な意思に基づいてされたものであるとはいい難く、むしろ、上記のとおり、病院職員証の返却やY病院への着任等につきY社からの要望に応じたのと同様、無用な混乱等を避け、給与や手当の支給手続が円滑に進むよう、とりあえず本件配転合意書への署名・押印に応じたものであって、それは飽くまでY社との無用な軋轢を回避するための暫定的な取決めに過ぎなかったものとみるのが合理的である。
そうすると、・・・本件配転合意書への署名・押印がXの自由な意思に基づいてされたものと一応認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものとはいえず、本件配転合意の成立は一応も認められないというべきである。

3 なお、Y社は、本件配転合意書の記載内容は一見して明白であることや、本件配転合意書の署名・押印に先立ち、X代理人弁護士からは、人事的な事項に関する連絡等について直接X本人に連絡してよいと言われたことを指摘するが、上記のとおり、Xは、本件配転命令に対し、一貫して異議を述べている上、本件配転命令に従わないことで生じる混乱を防ぐために、Y社からの種々の要求に暫定的に応じていたと認められるから、本件配転合意書の署名・押印についても、それらと同様に、Xは、本件配転命令の効力が確定するまでの間の暫定的な勤務状態を受け入れる意図で署名・押印したものというべきであるから、Y社の上記指摘は上記結論を左右しない。

労働者の同意の有効性については、内容の不利益性に比例して厳格に解釈される傾向にあります。

同意を取りさえすればよいと判断するのは大変危険です。

同意の有無にかかわらず、当該行為の客観的な合理性を慎重に判断することが求められます。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行うことをおすすめいたします。