Daily Archives: 2022年3月10日

賃金222 元代表取締役に対する未払割増賃金相当額の損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元代表取締役に対する未払割増賃金相当額の損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

エイシントラスト元代表取締役事件(宇都宮地裁令和2年6月5日・労判1253号138頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Aは、Y社の代表取締役として、同社をしてその従業員であったXに対し割増賃金を支払わせる義務があるのに、これを怠った等と主張して、Aに対し、会社法429条1項又は民法709条に基づき、未払割増賃金に相当する損害賠償金1023万0677円+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

AはXに対し、1023万0677円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 会社の従業員に対する賃金の支払義務は、一時的には当該会社自身が負うべきことは当然であるが、会社は基本的に従業員を労働させることによって利益をあげており、従業員は会社の重大な存立基盤である上、従業員の側からみても、会社から適法に賃金の支払がされることは、その生活を維持するために最も重要な事項であって、違法な賃金の不払には罰則が定められていること(労働基準法119条等)も踏まえれば、会社によって賃金支払義務が履行されず、その不履行が役員の悪意又は重大な過失によるものであって、かつ、従業員が会社に対する賃金支払請求権を有するとしても、なお従業員に損害が生じているものと認められる場合には、当該会社の役員は、会社をして従業員に対し適法な賃金の支払をさせる任務を怠ったものとして、会社法429条1項に基づき、従業員に生じた損害を賠償する責任を負うものと解すべきである。

2 Y社のようなトラックによる運送事業を営む会社において、その運転手の労務管理は経営上重要度の高い事項であり、かつ、必ずしも容易なものではないと考えられるところ、Bらは同業のC社の従業員であったとはいえ、運送会社の経営や労務管理を行った経験があったとは認められないのであるから、Aには、Bらに対して運転手の労務管理についてC社のノウハウを具体的に伝えて指導する等し、また、Y社の業務開始後少なくとも当面の間は、自ら行うか又は専門家に依頼するなどして、給与規程の内容、従業員の稼働状況及び給与の支払状況を確認し、従業員に対し適法な賃金の支払がなされているかどうかを確かめる義務があったというべきである

3 ところが、Y社は、Y社の給与規程の内容や、いわゆる36協定の有無について把握しておらず、法令の遵守について、口頭で法令を守るようにBらに指示することはあったが、具体的な就業規則、給与規程の作成を指示することはせず、従業員の稼働状況や給与の支払い状況について確かめておらず、Xから未払賃金の請求を受けた後も、A代理人弁護士を通じて、Y社の代表取締役を辞任した旨の通知を送った後は、Xの稼働状況等を調査し未払賃金の有無を確認することもしなかったのであって、これは、上記の義務を怠ったものと評価せざるをえず、少なくとも重大な過失により自らの代表取締役としての任務を怠り、BらがY社をしてXに対し労働基準法に定められた割増賃金を支払わせる義務を怠るのを看過したものであって、会社法429条1項に基づき、これによりXに生じた損害を賠償すべき責任を負うと解するのが相当である。

労使ともに今回の裁判例をしっかり押さえておきましょう。

会社法429条1項により役員の責任追及の形で会社と不真正連帯債務を負うことになる可能性があります。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。