有期労働契約112 有期雇用契約に変更のあった医師の雇止めの有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、有期雇用契約に変更のあった医師の雇止めの有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

医療法人社団悠翔会事件(東京地裁令和3年3月31日・労判1256号63頁)

【事案の概要】

本件は、医療法人社団であるY社に雇用されていた医師であるXが、Y社に対し、主位的に、XとY社との間の雇用契約は期間の定めのない雇用契約であるから、Y社が同雇用契約を終了させたことは解雇であり、同解雇は解雇権を濫用したものとして無効であると主張し、予備的に、XとY社との間の雇用契約が有期雇用契約であるとしても、労働契約法19条により、同雇用契約は更新されていると主張し、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、Xは、Y社の実態を知らされることなく雇用契約を締結したため、医師としての良心に従って職務を行うことができず、正当な業務を行う機会を奪われたこと、医師として十分な労務を提供する環境が損なわれたことなどにより、精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為責任又は債務不履行責任に基づき、慰謝料及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XとY社は、Xが独立開業するまでの間の雇用契約の締結に向けた交渉をしており、本件受傷後も、Y社はXが平成28年3月からaクリニックに勤務することを望んでいたこと、XとY社が協議した結果、Xは、同月は、週4日の半日勤務とし、同年4月以降の勤務については、同年3月の勤務状況を踏まえて相談することになり、本件雇用契約が締結されたこと、本件内定同意書及び本件雇用契約書には、「契約期間を1か月単位で更新」との記載があることが認められる。
これらの事情を考慮すると、Y社は、本件受傷後も、Xが独立するまでの1年程度の間、Xの症状を踏まえながら、本件雇用契約を1か月単位で更新していくことを想定しており、Xもそのような認識であったということができるから、Xには、本件雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったということはできる。

2 Xは、専門医、指導医等の資格を有する医師として、半日勤務で日給5万円という待遇で中途採用されており、高い資質や能力が期待されていたこと、更新の上限は、独立開業するまでの約1年間と考えられていたこと、本件受傷後、Xには、病状悪化による緊急受診や入院加療を理由に、訪問診療に従事できなくなるおそれがあり、Xの症状を踏まえながら、1か月単位で契約の更新を検討するものとされていたこと、実際に契約が更新されたのは1回であることが認められる。これらの事情を考慮すると、Xの本件雇用契約の更新に対する合理的期待の程度は、高いものとはいえない
そして、Xの担当する訪問診療は、通常、2週間に1回の割合で実施されており、その前提で薬も処方されており、施設の看護師等の勤務予定も訪問診療日を踏まえて調整していることから、訪問時には、患者や施設に次回の診療日を伝える必要があるところ、Xは、4月勤務表で勤務日とされた日に、自らの通院を理由に勤務しなかったり、F氏に対し、自らの通院後でなければ予定を立てることができないとの理由で、5月の勤務日を伝えなかったというのであるから、このようなXの対応は、Y社や訪問先の施設の業務に支障を及ぼす不適切なものであったということができる。
また、Xが、患者本人や家族からの希望聴取や十分な説明を行わないまま、治療方針を決定又は変更したことが原因で、患者の入所する施設から被告に対して相談や苦情が複数寄せられたことが認められる。このようなXの対応は、Y社の考える在宅医療の理念とは相容れないものであるが、患者や施設は、Y社の理念に基づく訪問診療を期待して、Y社に訪問診療を依頼していることからすると、このようなXの患者等への対応は、Y社の勤務医としては、評価することのできない対応であったといわざるを得ない。
さらに、Xは、平成28年3月25日、Y社から4月分雇用契約書を交付されたが、同年4月27日の時点においても、これをY社に提出していなかったというのであるから、このようなXの対応は、本件雇用契約の更新手続に協力的ではなかったということができる。
以上のとおり、Xの本件雇用契約の更新に対する合理的期待の程度が高いとはいえない中で、Xの勤務状況や患者等への対応に問題が見られ、契約更新手続に対しても非協力的であったことからすると、Y社において、これらの事情を考慮した上で、本件雇用契約を更新しないと判断したことは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる。

有期雇用契約であっても、本件のように丁寧に雇止めの合理的理由を主張立証しなければいけません。

どれだけ裏付けをとれるかによって裁判所の判断が大きく変わりますので、日頃の準備がとても大切なのです。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。