労働時間85 訪問看護師における緊急看護対応業務のための待機時間の労働時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、訪問看護師における緊急看護対応業務のための待機時間の労働時間該当性について見ていきましょう。

アルデバラン事件(横浜地裁令和3年2月18日・労判1270号32頁)

【事案の概要】

本件は、特例有限会社であったY社と雇用契約を締結し、訪問看護ステーションの看護師としての労務に従事したXが、Y社に対し、雇用契約に基づき、平成28年8月分から平成30年11月分までの時間外、休日及び深夜の割増賃金等1152万8940円+遅延損害金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、1055万8236円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金783万2119円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 緊急看護対応業務は、看護ステーションAの訪問看護利用者、介護施設Bの利用者及びホームCの入居者が緊急に看護を要する事態となった場合に、利用者ないし入居者、家族、施設職員等からの呼出しの電話があれば直ちに駆けつけ、看護、救急車の手配、医師への連絡等の緊急対応を行うことを内容とするものであり、看護師が呼出しを受ける理由としては、例えば、発熱、ベッドからの転落、認知症患者の徘徊、呼吸の異変等があり、実際に駆け付けることまではしない場合にも、救急車の手配、当面の対応の指示等をするときもあることが認められる。そして、緊急看護対応業務のための待機とは、前記緊急看護対応業務が必要となる場合に備えて、看護ステーションAの従業員が、Y社からの指示に基づき、シフトに応じて緊急時呼出用の携帯電話機を常時携帯している状況をいう。

2 このような業務の内容等を踏まえると、No1の携帯電話機を所持して緊急看護対応業務のための待機中の従業員は、雇用契約に基づく義務として、呼出しの電話があれば、少なくとも、その着信に遅滞なく気付いて応対し、緊急対応の要否及び内容を判断した上で、発信者に対して当面の対応を指示することが要求され、必要があれば更に看護等の業務に就くことも求められていたものと認められる(しかも、Y社の主張するところを前提としても、緊急出動(オンコール出勤)をした場合の稼働時間として通常は30分から1時間程度を要するというのである。)のであって、呼出しの電話に対し、直ちに相当の対応をすることを義務付けられていたと評価するのが相当である。
なお、Y社は、緊急看護対応の業務については、2名ずつの当番制を採用し、No2の携帯電話機を所持する担当者も待機させ、当番でない従業員も緊急出動(オンコール出動)するなど臨機応変に対応する態勢にあったと主張するものの、あくまでNo1の携帯電話機を所持する担当者が優先して対応するものと指示されていたことに加えて、平成29年1月16日から平成30年11月15日までの1年10か月の間に、No2の携帯電話機を所持する担当者が実際に緊急出動(オンコール出動)に従事した回数は2回、当番以外の従業員がこれに従事した回数は3回にとどまることが認められるから、緊急看護対応業務の態勢についての前記Y社の主張を考慮しても、No1の携帯電話機を所持する担当者が上記対応を義務付けられていたとの評価が直ちに左右されるものではない。

3 緊急看護対応業務に従事するための待機時間中、待機場所を明示に指定されていたとは認められず、外出自体は許容されていたこと(もっとも、呼出しの電話があれば、緊急看護対応が必要な事態の内容によっては、直ちに駆け付けなけれならないことは前記のとおりであるから、外出先の地理的範囲はその限度において自ずと限定されるというべきである。)を考慮しても、上記待機時間は、全体として労働からの解放が保障されていたとはいえず、雇用契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価することができる。

待機時間の労働時間該当性が争点となることは少なくありません。

典型例は警備業や運送業ですが、本件では訪問看護師について判断されています。

いずれも認容される金額が大きくなる傾向にありますので、事前の対策が必要不可欠です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。