Monthly Archives: 1月 2023

賃金241 勤務時間外の酒気帯び運転で物損事故を発生させた運転手に対する退職手当支給制限処分が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、勤務時間外の酒気帯び運転で物損事故を発生させた運転手に対する退職手当支給制限処分が有効とされた事案を見ていきましょう。

東京都公営企業管理者交通局長事件(東京地裁令和4年3月17日・労経速2494号32頁)

【事案の概要】

地方公営企業である東京都交通局が運営する都営バスの運転手であったXは、令和2年9月9日、東京都交通局の管理者である東京都公営企業管理者交通局長から、Xが勤務時間外に酒気帯び運転をし、交通事故を発生させたことを理由として、懲戒免職処分及び一般の退職手当の全部を支給しないこととする退職手当支給制限処分を受けた。

本件は、Xが、Y社に対し、本件不支給処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであると主張して、本件不支給処分の取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件非違行為は、酒気帯び運転によって物損事故を発生させたというものであり、勤務時間外に行われたものであるとはいえ、都営バスの運転手という原告の職務及びその責任に照らせば、強い非難に値する行為であるというべきである。このことは、Xの呼気から検出されたアルコール濃度が、呼気1リットルにつき0.15ミリグラムであったことにより、左右されるものではない。
また、Xは、都営バスの運転手として、長年にわたる勤務歴を有し、複数回の表彰歴も有するものの、他方で、勤務中に2回の交通事故を発生させたことからすると、Xの勤務の状況に照らして一部の支給制限にとどめるべき事情があるとまではいえない。
さらに、Xは、①本件非違行為の前日の午後11時頃以降、焼酎の水割り4、5杯とバーボンのロック3杯を飲み、アルコールが体内に残っているという認識を有していながら、知人を車で送っていくと誘い、知人を同乗させて飲酒運転を開始したこと、②普段から、自家用車を運転して飲食店に向かい、深夜まで飲酒をした後、午前7時か午前8時頃、自家用車を運転して帰宅するという行為を行っていたことからすると、Xには飲酒運転に対する規範意識が欠如していたといわざるを得ず、当該非違に至った経緯に関し、Xに有利に斟酌すべき事情は見当たらない
そして、本件非違行為は、都営バスの運転手であるXが酒気帯び運転をして交通事故を発生させたものであるから、都営バスの安全・安心な運行に対する都民の信頼を失わせるものであって、都民の理解を得て都営交通を円滑に運営するという公務の遂行に及ぼす支障の程度は決して小さいものとはいえない。
そうすると、Xが本件事故発生後速やかに本件非違行為を勤務先に報告したことや罰金を納付したことなど、非違後におけるXの言動を原告に有利に斟酌したとしても、一般の退職手当の全部を不支給とした本件不支給処分は、本件解釈運用方針に沿ったものであるというべきであり、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められない。

都営バスの運転手の酒気帯び運転の事案です。

他の類似の裁判例と比較したときに、本裁判例を妥当と考えるか厳しいと感じるかは人によるかと思います。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介1353 自分の中に毒を持て#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から11年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

サブタイトルは、「あなたは”常識人”を捨てられるか」です。

「みんなと同じ」が大好きな国ですが、それではどんどん貧しくなってしまいます。

とてもいい本です。必ず何か感じるものがあると思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

つまり自分自身の最大の敵は他人ではなく自分自身というわけだ。自分をとりまく状況に甘えて自分をごまかしてしまう、そういう誘惑はしょっちゅうある。だから自分をつっぱなして自分と闘えば、逆にほんとうの意味での生き方ができる。誰だって、つい周囲の状況に甘えて生きていくほうが楽だから、きびしさを避けて楽なほうの生き方をしようとする。ほんとうの人生を歩むかどうかの境目はこのときなのだ。安易な生き方をしたいときは、そんな自分を敵だと思って闘うんだ。」(13頁)

みなさんは、日々、最大の敵と戦っていますか。

人生は習慣の集積でできています。

そう。「ちりつも」の結果が今の自分であり、これからの自分を作ります。

言うは易しですが、これまでの習慣を変えることはほとんど不可能なくらいに難しいことです。

「人はそう簡単には変われない」

良くも悪くもそう思います。

可塑性のあるうちに良い習慣を身に付けておくと後が楽です。

賃金240 賃金額が合意に至らず、労働契約の成立が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、賃金額が合意に至らず、労働契約の成立が否定された事案を見ていきましょう。

プロバンク(抗告)事件(東京高裁令和4年7月14日・労経速2493号31頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社との間で労働契約が成立したとして、労働契約上の地位にあることを仮に定めることを求めるとともに、令和3年10月21日以降本案判決確定に至るまでの賃金及び賞与の仮払いを求める事案である。

原審は、被保全権利の疎明を欠くなどとして、Xの仮処分命令申立てをいずれも却下したので、Xが即時抗告した。

【裁判所の判断】

抗告棄却

【判例のポイント】

1 XとY社の間では、労働契約の締結に向けた交渉の過程で、賃金の額について合意できず、結局Xが就労するに至らなかったのであって、本件全資料によっても、「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うこと」(労働契約法6条)についての合意があったとは認められない

2 (原審判断)Xは、本件採用内定通知書の交付を受けた後、本件採用内定通知書の月額総支給額40万円に45時間相当の時間外手当が含まれるか否かを問い合わせ、月給30万2237円、時間外勤務手当9万7763円(時間外労働45時間に相当するもの)と記載された労働契約書に署名押印して提出せず、P氏からの複数回にわたる本件採用内定通知書の条件によることを承諾するか否かという趣旨の問い合わせに回答することなく、入社予定日の令和3年10月21日に労働契約書の月給「302,237円」等を削除し、「400,000円」と加筆した労働契約書をY社に提出したことからすれば、P氏が令和3年10月22日にXに提示した労働条件に基づく雇用契約の申込みを撤回するとメールで伝えるまでの間に、XがY社に対し本件採用内定通知書に対する承諾の意思表示をしたと認めることはできない。
したがって、XとY社との間に本件採用内定通知書記載の労働条件による労働契約が成立したと認めることはできない。

上記判例のポイント2を読む限り、労働条件について合意に至っていない以上、労働契約は成立していないと解さざるを得ないと思います。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介1352 パーソナル・プラットフォーム戦略(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から10年以上前に出版された本ですが、再度読み返してみました。

帯には「何が起きても、生きていける人間になる!」と書かれています。

会社の倒産やリストラがあっても、生きていかなければいけませんので。

そのためには、自分は何ができる人なのかを明確にしておくことがとっても大切です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

すでにお話ししたように『何が起こるかわからない』昨今の状況を考えると、自力をつけておくことの重要性が増しています。つまり、勉強の目的というのは、つねに『いまの自分自身の価値を高めること』にあります。」(198頁)

10年以上前に出版された本ですらこのように書かれています。

この「何が起こるかわからない」感は、年々、増すことはあっても、減ることはありません。

これから先の日本の行く末はさまざまなメディアで伝えられているとおりです。

とにかく高度経済成長期を生きてきた世代の思想、価値観、理念を植え付けられないように気を付けましょう。

あの頃と今とでは状況が全く異なるということを忘れてはいけません。

35年間、給与もボーナスも安泰であるなんていう幻想、希望的観測に基づくライフプランを立てないように気を付けましょう(笑)

日本が2023年と2058年で同じ状況であると考える方が無理があると思いませんか・・・?

解雇378 試用期間満了による契約社員の本採用拒否が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、試用期間満了による契約社員の本採用拒否が有効とされた事案を見ていきましょう。

柏書房事件(さいたま地裁令和4年4月19日・労経速2494号24頁)

【事案の概要】

本件は、Xは、Y社が令和2年2月4日をもってした解雇は無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と解雇後の賃金の支払を求めるとともに、在職中に上司らがXを執拗に叱責したことが不法行為(パワーハラスメント)に当たるとして、民法715条1項、709条、会社法350条に基づく損害賠償請求として慰謝料等110万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、経験者として採用されたにもかかわらず、書店担当者の不在を確認せずに訪問したり、電話営業で不在であった担当者に再度電話をかけないまま放置したりし、結果としてY社が営業担当者に期待する売上を達成できない日が多くあるなどしたほか、Y社代表者の指示や営業部会の決定に反し、Pに対して本件書籍の帯の制作を止めるよう連絡せず、あたかも使用する場合に備えて制作は進めておくかのような連絡をし、Pから帯のデザインが送られてきても営業部内で情報を共有せず、また、無断で書店に帯を送った後に営業部会で帯の活用を提案し、却下されてもなお帯を送ったことを報告しないなど、業務命令に違反し、注意や叱責を受けてもこれを不当と捉えて内省しなかったものであり、Xの妻と思しき人物による誹謗中傷や抗議の電話などと同時期に体調不良を理由に出社しなくなり、本件解雇の通知書を受けると、出社無用との指示どおり、欠勤の連絡もしなくなったものである。
かかるXの勤務態度、業務成績、勤怠等を踏まえれば、Xは、小規模出版社であるY社の営業職としての適性を有するとは認め難いところ、かかる事情は、Y社がXについて本採用を拒絶し、試用期間満了をもって契約を終了させることにつき、やむを得ない事由に該当するというべきである。

経験者として中途採用された従業員の場合、当然、新卒の従業員とは求められるレベルが異なります。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介1351 簡単に、単純に考える(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

今から15年以上前に出版された本ですが、再度読み返してみました。

羽生さんの対談をまとめた本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

できる研究者、つまりその人のいうようにするとなぜかできる成功率が高い人というのは、羽生さんがよくいわれる省略のできる人です。どこを端折ればうまくできるかをじょうずに考えられる人なのです。細部にとらわれる人は、いつまでたってもろくな結果を出せません。」(188頁)

神は細部に宿ると言いますが、これは最後の段階での話です。

最初のうちは、大局的に状況を把握し、すかさず動き出せる瞬発力が必要です。

大まかにリスク・ベネフィットを把握し、とりあえずの方向性を決める。

あとは動きながら修正するだけです。

計画ばかり立てていないで、どんどんやればいいのですよ。

どうせやってみないと分からないんですから。

成功したって失敗したって、いずれにしても人生はあっという間に終わります。

労働時間86 警備員の休憩時間の労働時間該当性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、警備員の休憩時間の労働時間該当性が否定された事案を見ていきましょう。

全日警事件(静岡地裁令和4年4月22日・労経速2495号3頁)

【事案の概要】

本件は、新幹線沿線警備業務の隊員であったXら2名が、雇用主であったY社から休憩場所を指定され、携帯電話に出動要請があれば出勤できる態勢を維持し続けており、休憩時間帯が労働時間にあたるとして、主位的に時間外手当を請求し、予備的にはY社が休憩時間を自由に利用させるべき債務を履行しなかったとして慰謝料請求を行った事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 実作業に従事していない仮眠時間であっても、労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間に当たるというべきであり、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているということができる。
ただし、仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられ、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情が認められる場合においては、労働基準法の労働時間には当たらないと解される(最判平成14年2月28日)。

2 これを本件について見ると、2時間の休憩時間中にJRからの緊急要請があった場合には直ちに相当の対応をすることが義務付けられているものの、静岡隊の隊員が休憩時間中に出動要請を受けたのは、平成30年度に1回、令和元年度に1回であり、隊員1人当たり2年に1回程度しかない。いずれも休憩時間中に出動した後、代替の休憩時間を取得している。しかも、いずれの要請も悪天候時点検であったから、当日の天候により予測できるものであった。そもそも新幹線の線路等はJRが保守点検を尽くしており、Y社の警備業務は補佐的役割であるので、勤務時間中も含めた静岡隊への出動要請は年10回前後であるし、休憩時間中の出動要請に対して対応が遅れてもクレームや懲戒の対象にはならない
また、Y社においては、休憩時間中の過ごし方も、多くの者はY社が選定した休憩場所で仮眠を取っているが、その場所から車で移動して別の場所で仮眠を取ることやトイレやコンビニに行くなど自由に過ごすことも許されている。そして、このように休憩時間中自由に過ごせることは、マニュアルが作成され研修が行われて警備隊員は熟知しており、Xらもトイレやコンビニに行ったりして自由に過ごし、管理者から注意を受けることもなかった
以上の事実からすると、Y社における休憩時間については、JRからの緊急要請に対して直ちに対応する必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に対応すべき義務付けがされていないと認めることができるような事情があるというべきである。
したがって、Y社における休憩時間は、労働基準法の労働時間に当たるとは認められない。

警備会社の仮眠時間の労働時間該当性が裁判で問題となることは少なくありませんが、本件のような勤務状況が保障されている現場は、実際にはそれほど多くないと思います。

多くの事案で手待時間(労働時間)と判断されていますので、運用にはくれぐれも注意が必要です。

なお、判例のポイント1記載の最高裁の判断は有名ですのでしっかり押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

本の紹介1350 成功者は端っこにいる#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、今日は本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

自分の人生の主導権を手放さないことがいかに大切であるかがよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

ひと言で言うなら、指示待ちの人生を受け入れているからです。いや、指示待ちなんて格好のいい言葉はやめよう。彼が空虚感に陥ったのは『やらされる人生』を選んでいるからにすぎない。」(84頁)

みなさんはいかがですか?

自分の人生なのにあたかも他人に人生を操られているかのように生きていくなんて、まっぴらです。

自分の人生の主導権を手放してしまったら、誰の人生を生きているのかわからなくなります。

広い家も高級な車もブランド物の洋服も何一つほしくありません。

欲しいのはいつだって「自由」という名の「選択権」。