Daily Archives: 2023年3月15日

派遣労働32 派遣先会社での雇用禁止合意と派遣法33条違反の成否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、派遣先会社での雇用禁止合意と派遣法33条違反の成否について見ていきましょう。

バイオスほか(サハラシステムズ)事件(東京地裁平成28年5月31日・労判1275号127頁)

【事案の概要】

本件は、次の各請求が併合された事案である。
(1)Y1に対する請求
Y1と結んだ雇用契約に基づきY1を派遣労働者として派遣先の業務に従事させたXが、Xを退職した被告Y1がXとY1との間で結んだ派遣先での就業禁止の合意に反して当該派遣先で就業したことを理由に、Y1に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき、Y1が当該派遣先で就業したためXが逸失した利益相当損害金211万5000円+遅延損害金の支払を求めるもの
(2)Y2に対する請求
Y2と結んだ雇用契約に基づきY2を派遣労働者として派遣先の業務に従事させたXが、Xを退職したY2がXとY2との間で結んだ派遣先での就業禁止の合意に反して当該派遣先で就業したことを理由に、Y2に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき、Y2が当該派遣先で就業したためXが逸失した利益相当損害金188万4696円+遅延損害金の支払を求めるもの
(3)Y3に対する請求
Y3と結んだ雇用契約に基づきY3を派遣労働者として派遣先の業務に従事させたXが、Xを退職したY3がXとY3との間で結んだ競業避止義務の合意に反して競業したことを理由に、Y3に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき、Y3が競業したためXが逸失した利益相当損害金271万2877円+遅延損害金の支払を求めるもの
(4)Y4に対する請求
Xが、①Y4がXとY4との間で締結した平成24年1月31日付け労働者派遣取引基本契約における雇用の禁止の合意に反して、Y1、Y2及びY3を雇用したことを理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権、②Y4がXよりもよい条件でY1らを直ちに雇用すること、就業場所は従前と同じ事業所であること、業務も同様であること等の条件を提示して、Xから退職するようにY1らを勧誘した結果、Y1らがXを退職し、その直後にY4に雇用されたことをもって、Xと本件基本契約等を結んだY社4が信義則上負うべきXの財産権を侵害してはならないという保護義務の違反行為に当たることを理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権、又は③就業禁止条項による義務又は競業避止義務を負うY1らに対し、Y4が、Xを退職し、Y4と雇用契約を結ぶように誘致するといった不当な働き掛けをしたため、Y1らがXを退職し、その結果、XがY1らに対して有する債権が侵害されたという不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、Y4に対し、Y1らがXを退職しY4に雇用された上で従来の事業所において就業を継続していることによるXの逸失利益5年分に相当する3356万2865円+遅延損害金の支払を求めるもの

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労働者派遣法は、労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を構ずるとともに、派遣労働者の保護等を図り、もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする(1条参照)。
そして、労働者派遣法33条1項は「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先である者に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない。」と、同条2項は「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者との間で、正当な理由がなく、その者が当該派遣労働者を当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならない。」とそれぞれ規定するところ、これらの規定の趣旨は、派遣元事業主と派遣労働者との間又は派遣元事業主と派遣先との間で、派遣元事業主との雇用関係の終了後に派遣労働者が派遣先であった者に雇用されることを制限する趣旨の契約を締結することが無制限に認められることになると、派遣労働者の就業の機会が制限され、憲法22条により保障される派遣労働者の職業選択の自由が実質的に制限される結果となって、労働者派遣法の立法目的にそぐわなくなることから、派遣元事業主と派遣労働者の間又は派遣元事業主と派遣先との間において、そのような契約を締結することを禁止し、もって派遣労働者の職業選択の自由を特に雇用制限の禁止という面から実質的に保障しようとするものであって、労働者派遣法33条に違反して締結された契約条項は、私法上の効力が否定され、無効であると解される。

2 もっとも、その一方で、派遣先であった者が派遣労働者であった者を無限定に雇用できることとすると、派遣元事業主が独自に有し、他の事業主は有しない特殊な知識、技術又は経験であって、派遣労働者が派遣就業をする上で必要であるため当該派遣元事業主が特別に当該派遣労働者に習得させたものがある場合にも、雇用契約終了後は当該派遣労働者が派遣先と雇用契約を結んでそうした特殊で普遍的でない知識等を勝手に利用することが可能となる結果、特殊で普遍的ではない知識等を有することによる当該派遣元事業主の利益が侵害される事態が発生しかねない
そこで、労働者派遣法33条は、そうした知識等を有することによる当該派遣元事業主の利益を保護するといった正当な理由がある場合に限り、上記の雇用制限の禁止を解除することとしたものと解される。
以上によれば、上記の雇用制限をすることは原則として禁止され、これに反して結ばれた雇用制限条項は無効であるが、当該雇用制限条項を設けることに正当な理由があることの主張立証があった場合に限り、例外的にその禁止が解除されて当該雇用制限条項の効力が認められることになると解される。

派遣法33条の解釈が展開されています。

あまり論点として登場する機会は多くないので、この事案を通じて押さえておきましょう。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。