解雇385 医療法人及びその経営者に対する雇用契約上の地位確認が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、医療法人及びその経営者に対する雇用契約上の地位確認が認められた事案について見ていきましょう。

医療法人A会事件(東京地裁令和4年6月16日・労経速2502号36頁)

【事案の概要】

本件は、現在休業している医院を設置するY1法人及びその経営を実質的に差配するY2と、当該医院に勤務していたXらとの間の紛争に関する事案である。
XらのうちX2及びX4は、まず、現在もY1法人の被用者の地位にあるにもかかわらず、Y1法人がそれを認めないとして、Y1法人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めている。
その上で両名を含む全てのXらは、それぞれ、Y1法人に対し、各人について未払賃金、解雇予告手当、退職金等の請求をする。
また、Xらは、Y2に対し、Y1法人から上記金員が支払われず、その後Y1法人の破綻によって事実上回収が不可能になったのはY2の放漫経営等が原因であるとして、Y2に対し、不法行為に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求めている。

【裁判所の判断】

地位確認認容
→バックペイ

Y2はY1と連帯責任

【判例のポイント】

1 本件医院が管理医師不在のために休業に追い込まれたことの原因は、Y1法人を実質的に支配していたY2が、本件医院の事務局等からの助言にもかかわらず、本件医院の管理医師の確保に適切に取り組まなかったためであると認められる。
そうすると、本件医院の休業後にXらが従前どおりに本件医院で就労することができなくなったのは、専ら債権者であるY1法人の責めに帰すべき事由によるものというべきであるから、民法536条1項本文により、Y1法人は、Xらに対し、反対給付である賃金の支払を拒むことはできない。

2 Y2は、Y1法人を実質的に支配していた立場として、原告らに対し、債務弁済の基礎となる責任財産を費消してはならない義務を負っていたにもかかわらず、故意又は重大な過失によってそれを費消し、Xらの債権を事実上回収不能なものとしたものということができる。
したがって、Y2は、Xらの請求権に対して不法行為に基づく損害賠償の義務を負う(なお、上記の事実及びY2が被告法人の理事の地位にあることによれば、Y2の損害賠償義務は、医療法48条1項によっても基礎付けられると考えられる。)。

上記判例のポイント2のような理屈で個人に対する不法行為責任が認められることは押さえておきましょう。

なお、医療法48条1項は以下のとおり規定しています。

「第四十八条 医療法人の評議員又は理事若しくは監事(以下この項、次条及び第四十九条の三において「役員等」という。)がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があつたときは、当該役員等は、これによつて第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。