Monthly Archives: 5月 2023

本の紹介1984 筋を通せば道は開ける(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から13年前の本ですが、再度、読み返してみました。

齋藤先生らしい切り口の本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

仕事で成功するための必須条件は、上司などしかるべき人に『見込みのあるヤツ』と思われることだ。・・・多くの場合、まずは目の前の仕事で期待以上の成果を出すことである。その端的な方法が、スピードを上げることだ。」(129~130頁)

これは組織内部での話に限ったことではありません。

対外的にも同じことが言えます。

特に若いうちは、周囲の力がある人に「見込みのあるヤツ」と思われることがとても大切です。

他のライバルたちが、階段を1段1段上がっているところを、クレーンで一気に引き上げてくれるイメージです。

えこひいきされてなんぼ、ということです。

周りを見渡す限り、一部の例外を除き、20代~30代前半で、ほとんど決着がついているように思えます。

解雇390 法人格否認の法理の適用が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、解散に伴う整理解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

TRAD社会保険労務士法人事件(東京地裁令和4年6月29日・労判ジャーナル131号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結して主に社会保険労務士補助業務に従事してきたXが、Y社に対し、Y社の解散に伴って解雇されたことは無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めたほか、雇用契約に基づき、未払賃金等の支払を求めるとともに、Y社の唯一の社員であり、代表者であったBに対し、法人格否認の法理により、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるほか、雇用契約に基づき、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

未払賃金等支払請求一部認容

【判例のポイント】

1 法人格否認の法理の適用について、法人格が全くの形骸にすぎないというためには、単に当該法人に対し他の法人や出資者が権利を行使し、利用することにより、当該法人に対して支配を及ぼしているというだけでは足りず、当該法人の業務執行、財産管理、会計区分等の実態を総合考慮して、法人としての実態が形骸にすぎないか判断すべきであるところ、Y社の社員はBであったが、Y社が解散するまでの間にこれとは別にB個人が個人事業主として社会保険労務士としての業務を行っていたような事情はうかがわれないし、Y社としての財産管理がされ、決算が行われていたと認められ、このような事情を考慮すると、Y社が実体がなく、形骸化していたとは認められず、また、法人格の濫用とは、法人の背後の実態が法人を意のままに道具として支配していることに加え、支配者に違法又は不当の目的がある場合をいうところ、BがY社の支配者といえるかはひとまず措くとして、Y社を解散させる必要性、合理性があったと認められるのであって、Xが主張するように、Y社の使用者としての責任を不当に免れる目的で本件解雇に及び、Y社を解散させたとは認められないから、支配者に違法又は不当の目的があったということはできず、BがY社の法人格を濫用したとは認められない。

法人格否認の法理の考え方がよくわかりますね。

ご覧のとおり、要件がかなり厳しいので、裁判所は、そう簡単には法人格の否認を認めてくれません。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介1893 天才を殺す凡人(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

天才、秀才、凡人の3パターンに分けた上で、それぞれの特徴や考えていること、扱い方等が書かれています。

それぞれが着ている服にでも、「天才」、「秀才」、「凡人」とプリントされていればいいのですが、そうではないので見極めが難しいところです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

天才は、共感の神によって支えられ、創作活動ができる。そして、天才が生み出したものは、エリートスーパーマンと秀才によって『再現性』をもたらされ、最強の実行者を通じて、人々に『共感』されていく。こうやって世界は進んでいく。これが人間力学から見た『世界が進化するメカニズム』なんや」(176頁)

私たち凡人ができることといえば、せいぜい天才が生み出したものを再現することくらいなものです。

できれば、少し形を変えたり、他のものと組み合わせたりして。

情報へのアクセスがこれだけ簡単な社会ですから、行動力と継続力こそが成果の差となっているわけです。

成功する方法を知るのは簡単。

でも、それをやり続けられるのは、ほんの一握り。

解雇389 合意解約申込みの撤回が認められなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、合意解約申込みの撤回が認められなかった事案を見ていきましょう。

日東電工事件(広島高裁令和4年6月22日・労判ジャーナル131号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で有期労働契約を締結していたXが、Xについて辞職又は合意解約を理由とする上記労働契約の終了の効果が生じておらず、かつ、上記労働契約が労働契約法19条によって更新されたと主張し、Y社に対し、(1)Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、(2)賃金請求、(3)賞与請求をした事案である。

原判決は、XとY社の労働契約は、Xの退職の意思表示とY社の承諾により終了しているとして、Xの地位確認請求を棄却し、未払賃金等支払請求を一部却下一部棄却したため、Xが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 本件各退職願の提出行為が、XとY社の労働契約について一方的な解約であって、使用者に到達した時点で解約告知としての効力を有するものといえるか検討する。
Xは、本件各退職願の書式は、Y社の作成のものを用いており、Xに適用されるY社の就業規則の規定内容を併せ考慮すると、本件各退職願を解約告知としての退職の意思表示と直ちに認めることは困難である上、Xの本件各退職願の提出の意図を併せ考慮すると、XがY社の担当者と退職についてなお協議する意思を有していたことは明らかであり、本件各退職願の提出行為をもって、解約告知としての退職の意思表示があったことを認めることはできない

2 ①Xが所属するd部門の最上位の役職に位置するB部長が、令和2年1月31日の時点で、本件各退職願のコピーに決裁印を押していること、②Xは、同日、Hと退職を前提として話合いをしていること、③同年2月3日の本件話合いの時点で、Xは、「総務は、撤回してもそのまま処理し、撤回は出来ないと言っていましたよ。」と述べていること、④Xは、本件各退職願を提出した以降、業務に従事しておらず、本件話合い以降にY社は社内に立ち入ることもしてないことが認められる。
そして、本件各退職願には、退職希望日は記載されていないところ、Y社は、Xに対し慰留や再考を促すことはせず、本件各退職願の提出以降、Xの出社を阻止までしていることからすれば、Y社としては、Xのその時点での言動を考慮し、提出した日を退職を希望する日と解釈して、これに応じて退職を承諾したと解することができ、そして、遅くとも本件話合いの中で控訴人が退職の意思を撤回するかのような言動をとった時点までには、既に、これをXに対し伝えていたと認めることができる。
以上によれば、Xは、本件各退職願に基づく退職の意思表示に対して承諾しており、かつ本件話合いの中でXが退職の意思を撤回するかのような言動をとったことがあったとしても、同時点では、既に、Y社は、承諾し、しかもその承諾の意思表示がXに対して到達していた(C部長は、Xの退職願が受理されていること、それをXも了知していることを前提に、本件話合いで本件退職願①の不備を補正させようとしていた。)のであるから、XとY社との間の労働契約は、既に合意解約によって終了したと認めることができる。

原審判決については、こちらをご覧ください。

この論点は、事前に知っているのと知らないのとで、結論が大きく変わってきてしまいます。この機会に是非、しっかりと押さえておきましょう。

退職合意をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介1892 キーエンス解剖 最強企業のメカニズム(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

売れに売れている本ですが、最強企業がいかにして最強企業になったかがよくわかります。

わかることとできることの違いを再認識できると思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・だが『普通じゃない』と感じる部分があった。仕組みをつくったら、その仕組みが役立つように本気で運用を徹底するという、『最後の数センチメートル』の差だ。一言でいえば、手を抜かないのだ。そして、全員がそれをやる。・・・『当たり前のことを当たり前にやる』ー。キーエンスの社員やOBはよくこう表現するが、この『当たり前』の設定値と徹底度が高い。」(243~244頁)

Easier said than done.

キーエンスに限らず、あらゆる分野において、そのまま当てはまる普遍の真理です。

「こうやれば結果が出ます」ということを知ることは、この時代、とっても簡単です。

問題は、それをやり続けられるかどうかです。

ただそれだけの違いです。

解雇388 無断欠勤等を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、無断欠勤等を理由とする解雇の有効性について見ていきましょう。

キョーリツコーポレーション事件(大阪地裁令和4年9月16日・労判ジャーナル131号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、無断欠勤等を理由とする解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、本件解雇前の未払賃金等の支払を求め、XはY社のために時間外労働に従事したにもかかわらず、Y社は労働基準法37条所定の割増賃金を支払わないと主張して、未払割増賃金及び同法114条に基づき付加金等の支払を求めるとともに、XはY社の違法な業務命令により精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、損害金合計55万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

未払割増賃金等一部認容

【判例のポイント】

1 令和2年5月10日までの期間について、同年4月ないし同年5月頃の社会情勢に鑑みれば、Y社が、頭痛、けん怠感、発熱等の新型コロナウイルス感染症への感染が疑われる症状を発症していたXに対し、感染のおそれが払拭され、体調が万全に回復するまで休業するよう指示したことについて、何らY社に責められるべき点はなかったというべきであり、また、同日以降の期間について、Xの主たる業務は、外回りを含む営業活動であるところ、この当時は、初の緊急事態宣言が発出されているまさにその期間中であり、一般市民及び私企業に対する行動の自粛も求められていたところであるから、Y社としては、微熱とはいえ、発熱が見られる状況にあったXを不特定多数人と接触する可能性の高い外回りの営業に従事させることが躊躇われる状況にあったことは明らかであるから、Xに外回りの営業を担当させなかったY社の判断は、何ら責められるべきものではなかったというべきであり、本件に関し、Y社の責めに帰すべき事由による就労拒否があったものと評価することはできない

2 Xは、取得することのできる有給休暇の日数を全て取得し終えた後もC営業所に出勤せず、また、X代理人を通じて職場復帰の意思を伝えたり、職場復帰のための条件を確認したりすることさえ一切せず、Y社はXに対して「コロナウイルス感染の恐れがなければ元通り業務に復帰していただきたい」との記載のある本件回答書を送付し、Xの復帰を歓迎する旨の連絡をしていたにもかかわらず、Xは、職場復帰に向けられた行動を何ら起こさないまま欠勤を続けていたのであって、上記期間におけるXの欠勤には正当な理由がないものといわざるを得ないから、Xには、就業規則所定の解雇事由(正当な理由がない欠勤が多く、労務提供が不完全であると認められるとき)があったものと認められ、また、Y社は、本件解雇に先立ち、X代理人に対し上記回答書を送付したものの、その後、約1か月半にわたり、Xからは何らの応答もなく、Y社において、これ以上、Xとの間の本件労働契約を維持することは相当でないと考えるに至ってもやむを得ないというべきであり、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものとはいえない。

結論には異論がないと思います。

本件同様、無断欠勤を理由とする解雇事案においては、「無断」といえるか否かが争点となるケースがあります。この点は、過去の裁判例を参考に慎重に対応する必要がありますので気を付けてください。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介1891 お客さまの「特別」になる方法(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から12年前の本ですが、再度、読み返してみました。

何を買うかも大切ですが、誰から買うかも同じくらい大切です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

この『あなたから買いたい』という動機が生まれることに、いかなる要素が影響を与えるのかを私は考え、実践し、研究を続けてきた。何があれば『あなたから』となるのか。どんなことをすれば、お客さんのこの気持ちを獲得できるのか。そして至った一つの結論、『あなたから』のカギがある。それが『絆』である。」(43頁)

では、この「絆」は何から生まれるのでしょうか。

人口減少社会においては、顔の見えない売り手・買い手の大量売買を前提とする商売はなかなか厳しくなっていくでしょう。

目指すは、多数の希薄な関係よりも少数の濃密な関係。

価格競争とは無縁の世界です。

賃金248 在宅勤務者への出社命令に業務上の必要性が認められなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、在宅勤務者への出社命令に業務上の必要性が認められなかった事案を見ていきましょう。

ITサービス事業A社事件(東京地裁令和4年11月16日・労経速2506号28頁)

【事案の概要】

Xは、令和2年5月、ITソフト開発やSES等の事業を行うY社との間で、労働契約を締結した。同契約書には、就業場所について「本社事務所」と、賃金月額(40万円)には「毎月45時間分のみなし残業」が含まれる旨の記載があった。
Xは、令和3年3月3日まで自宅でリモートワークを行い、初日のほかに、Y社の事務所に出社したのは1度だけであった。Xが自宅で業務を行っている際には、Slackのダイレクトメッセージ機能を用いて、他の従業員との間でやりとりをしていたが、そのやりとりには、Y社代表者を揶揄する内容が含まれていた。
Xが本件やり取りを行っていたことが判明したことから、Y社代表者は、令和3年3月2日、Xに対し、Xを同月4日から出勤停止1か月等とする懲戒処分を通知するとともに、「管理監督の観点からリモートワーク禁止とする」旨を通告し、同月4日以降のY社の事務所への出勤を求めた(なお、懲戒処分は後に保留とされた。)。
Y社は、令和3年2月分の賃金については、Xの労務提供があったにもかかわらず、その一部(5万7144円)を支払っていない。また、同年3月分以降の賃金については、Xの欠勤を理由に同月分として3万8095円のみを支払った。
Xは、Y社の違法な懲戒処分等によって労務を提供できなかったと主張して、民法536条2項に基づき、令和3年から同年4月4日までの未払賃金等の支払いを求めて提訴した。

これに対し、Y社はXが報告していた勤務時間に虚偽報告等があると主張して、賃金規程6条に基づき、不就労時間分の賃金の返還を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、5万7163円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、40万円+遅延損害金を支払え

Y社の反訴請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件労働契約に係る契約書には、その就業場所は「本件事務所」とされているものの、Y社代表者自身が、①デザイナーは自宅で勤務をしても問題ない、②リモートワークが基本であるが、何かあったときには出社できることが条件である旨供述していること、③現に、Xは、令和3年3月3日まで自宅で業務を行い、初日のほかに、Y社の事務所に出社したのは1度だけであり、Y社もそれに異論を述べてこなかったことからすると、本件労働契約においては、本件契約書の記載にかかわらず、就業場所は原則としてXの自宅とし、Y社は、業務上の必要がある場合に限って、本件事務所への出勤を求めることができると解するのが相当である。

2 たしかに、Xは他の従業員との間で、本件やり取りも含め、必ずしも業務に必要不可欠な会話をしていたわけではないことは認められるものの、Y社が提出する証拠によっても、その時間が、Y社が主張するような長時間であるとは認められず、これにより業務に支障が生じたとも認められない。また、一般にオンライン上に限らず、従業員同士の私的な会話が行われることもあり、本件やり取りの内容は、Y社代表者を揶揄する内容が含まれる点でY社代表者が不快に感じた点は理解できるものの、そのことを理由に、事務所への出社を命じる業務上の必要性が生じたともいえない
これに加えて、Y社代表者は、令和3年3月2日午後3時24分にXに対し、メールを送った後、Xとの間で、メール上で、本件やり取りの当否をめぐって、お互いを非難しあう中で、Xの反省がないことを理由にその5時間後に本件懲戒処分とともに、本件出社命令を発したものであり、そのような経緯を踏まえると、本件の事情の下においては、本社事務所への出勤を求める業務上の必要があったとは認められない。
そうすると、Y社は、本件労働契約に基づき事務所への出社を命じることができなかったというべきであって、本件出社命令は無効であるといえる。

使用者側の判断・対応には共感しますが、裁判所の判断は上記のとおりです。

リモートワークを主たる働き方として採用している会社の経営者のみなさんは、上記判例のポイント1をしっかりと押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介1890 勉強会に1万円払うなら、上司と3回飲みなさい(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から13年前の本ですが、再度、読み返してみました。

飲みにケーションが死語になりつつある昨今、このタイトルの意味がわかるZ世代がどれほどいるでしょう。

まあ、好きにすればいいですけどね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

これは人間の素直な感情であって、やはり理屈ではないし、エコ贔屓でもなんでもない。私は、そういった思わず応援したくなるような人間のことを、『かわいげ力のある人間』と呼んでいます。そして、若い人には『かわいげ力を身につけろ』とつねづね言っています。」(68頁)

特に力がない若いうちはこの「かわいげ力」の有無がとても重要な要素になります。

まさにIQより愛嬌なわけです。

著者も若い人には「かわいげ力を身につけろ」と言っているそうですが、まあ、ただ、正直なところ、実際にかわいげのある人を見る限り、努力によってなんとかなるものではないような気もします。

かわいげがある人は、もともとかわいげがあって、もはや無意識のレベルでそのかわいげ力を発揮しているように思います。

労働時間91 就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効とされた事案を見ていきましょう。

日本マクドナルド事件(名古屋地裁令和4年10月26日・労経速2506号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、
①Y社が、XとY社との労働契約が平成31年2月10日付け退職条件通知書兼退職同意書による合意解約により終了したと主張するのに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、
②主位的に退職の意思表示が無効であることを理由とする労働契約に基づく賃金請求として、予備的に違法な退職強要があったことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として、退職日の翌日である令和元年5月1日から本判決確定の日まで、毎月末日限り45万4620円+遅延損害金の支払、
③時間外労働を行ったと主張して、労働契約に基づき平成29年3月13日から平成31年2月12日までの未払割増賃金合計486万0659円の一部である61万0134円+遅延損害金の支払、
④付加金+遅延損害金の支払
⑤(ア)Y社における業務や違法な退職強要等により労作性狭心症及びうつ病を発病したことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求若しくは(イ)上司らによるパワーハラスメント等により人格的利益を侵害されたことを理由とする使用者責任(民715条)に基づく損害賠償請求として、慰謝料500万円の一部である200万円+遅延損害金の支払
を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、61万0134円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金61万0134円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社は就業規則において各勤務シフトにおける各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間について「原則として」4つの勤務シフトの組合せを規定しているが、かかる定めは就業規則で定めていない勤務シフトによる労働を認める余地を残すものである。そして、現にXが勤務すしていたQ1店においては店舗独自の勤務シフトを使って勤務割が作成されていることに照らすとY社が就業規則により各日、各週の労働時間を具体的に特定していたものとはいえず、同法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足するものではない

2 Y社は、全店舗に共通する勤務シフトを就業規則上定めることは事実上不可能であり、各店舗において就業規則上の勤務シフトに準じて設定された勤務シフトを使った勤務割は、就業規則に基づくものであると主張する。
しかし、労働基準法32条の2は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化することを目的として変形労働時間制を認めるものであり、変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することは許容しておらず(通達)、これは使用者の事業規模によって左右されるものではない
加えて、労働基準法32条の2第1項の「その他これに準ずるもの」は、労働基準法89条の規定による就業規則を作成する義務のない使用者についてのみ適用されるものと解される(通達)から、店舗独自の勤務シフトを使って作成された勤務割を「その他これに準ずるもの」であると解することはできない。
よって、Y社の定める変形労働時間制は無効であるから、本件において適用されない。

管理監督者性に関する別の日本マクドナルド事件同様、他の従業員への波及効果が大きいですね。

シフト表で事前に出勤日を管理するだけでなく、就業規則上でも特定をする必要があることをしっかりと押さえておきましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。