有期労働契約121 雇用調整助成金受給中のコロナ禍等を理由とした雇止めの適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、雇用調整助成金受給中のコロナ禍等を理由とした雇止めの適法性について見ていきましょう。

コード事件(京都地裁令和4年9月21日・労判1289号38頁)

【事案の概要】

本件本訴事件は、Xが、Y社に対し、①Y社との間で期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して就労していたXが、Y社による雇止めは無効であると主張して、労働契約上の地位の確認及び本件雇止め後の賃金の支払等を求めるとともに、②本件反訴は不当訴訟であるとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、その賠償金等の支払を求めた事案である。

本件反訴事件は、Y社が、Xに対し、①Y社の名誉や信用を毀損する内容の記者会見を行い、②京都府下の多数の労働組合をして、Y社の雇止めへの抗議や撤回を求める大量の書面を被告に送りつけさせて被告の業務を妨害し、③a労働組合総連合会の関係者に誤った事実を流布して、Y社の名誉や信用を毀損したなどと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、その賠償金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xの本訴請求及びY社の反訴請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社において、本件労働契約を有期労働契約とした目的には、相応の合理性があり、しかも、上記のとおり、Xの担当業務は、代替可能なものであるということができる。そして、その後の更新についても飽くまで単年度毎の契約更新となる旨定められていたというのであり、X自身、令和元年8月の1回目の契約更新を経た後、令和2年3月にY社代表者らとの本件面談時に同年8月に必ずしも契約更新とならない旨示唆されたというのであるから、Xは、本件労働契約締結当時及びその後も、本件労働契約の雇用期間が1年であることを十分認識していたというべきである。
以上のほか、本件雇止めまでの間、僅か1回という更新回数や、試用期間を含めても、その雇用通算期間は合計2年3か月と比較的短期間にとどまっていること等を併せ考えると、Xが指摘する契約更新される年齢の上限の定めや、1回目の契約更新時の状況を十分考慮してみても、Xの雇用継続に対する合理的期待を認めるのは難しく、そうでないとしても、その程度は必ずしも高いものということはできない。

2 ①Y社においては赤字経営が続いていたところ、令和2年に入って新型コロナウィルス感染症が拡大していく中、その売上げは、同年3月は前年度比の約62.3%、同年4月は前年度比の約29.4%、同年5月は前年度比の約26.8%に落ち込み、緊急事態宣言解除後の同年6月でも前年度比の約48.8%にとどまっていたこと、②Y社は、同年4月20日頃から、一部の無期雇用従業員とXを含む全てのパート従業員を休業とし、また、勤続20年以上、勤続4年以上のパート従業員2名に対し、退職勧奨をして退職してもらうことにし、さらに、他に従業員に対しても同年夏季の賞与を支給しない旨決定していたこと(なお、Y社は、同年、加工高の107%に相当する額を人件費に充てていた。)、③加えて、本件労働契約の期間満了時である同年8月6日時点では、その2日前に、厚生労働省が、同年9月末までとされた雇用調整助成金の新型コロナウィルス感染症の影響に伴う特例措置を同年12月末までとする案を軸に延長する方向での検討に入った旨の報道がされてはいたものの、緊急雇用安定助成金を含む雇用調整助成金の拡充制度の延長の有無及びその内容や期間は依然として定まっていなかったこと、④製造部には、Xのほかに、もう1名のパート従業員である本件従業員が所属していたが、同従業員は、Xよりも前に採用され、当時既に2度の契約更新(雇用期間各1年)を経て、通算雇用期間も3年となっていたこと、⑤Y社は、契約期間満了の約1か月前には、理由を付して契約更新に応じられない旨通知し、その前後の団体交渉の席上においても、Y社の業績が芳しくないため原告を雇止めする旨説明していたことを指摘することができ、これらを総合考慮すると、本件雇止めが、客観的合理性・社会的相当性を欠いたものということはできない

3 Y社が名誉毀損行為として主張するXの本件記者会見上の発言そのものは、本件雇止めに関して、X・Y社間で紛争が生じ、そのための交渉を踏まえた、本件本訴におけるXの立場から見た意見表明にとどまるものであって、Y社側としても、これに対し、本件雇止めは正当なものであったと反論すれば足りる程度のものであったというべきである。
そして、新型コロナウィルス感染症拡大に関連する雇止めは社会的関心事であり、そのような社会的関心事に関して本件本訴を提起したことを述べ、これと併せてXの立場を説明するため、本件記者会見を開いたことについては、本件記者会見上の発言が人身攻撃に及ぶようなものではなかったなど自らの意見表明の域を逸脱したとはいうことができない本件においては、表現の自由の尊重が社会の根幹を構成することに照らし、違法な無形的利益の侵害行為であるということはできない。

リストラとしての雇止めの有効性がどのような要素を考慮して判断されているかについて、とても参考になります。

また、上記判例のポイント3のように、提訴前の記者会見は、反訴の形で損害賠償請求の対象となり得ますので、ご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。