賃金269 夜勤時間帯における割増賃金算定の基礎単価が夜勤手当がベースとなるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、夜勤時間帯における割増賃金算定の基礎単価が夜勤手当がベースとなるとされた事案について見ていきましょう。

社会福祉法人A事件(千葉地裁令和5年6月9日・労経速2527号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として勤務していたXが、Y社に対し、労働基準法37条の割増賃金請求権に基づき、①平成31年(令和元年)2月から令和2年11月までの夜勤時間帯の就労に係る未払割増賃金合計312万9684円+遅延損害金の支払を求め、②労基法114条所定の付加金312万9684円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、69万5625円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 労基法37条の割増賃金は、「通常の労働時間又は労働日の賃金」を基礎にして計算されるところ、本件雇用契約においては、基本給のほかに、1日当たり6000円の「夜勤手当」が支給されていたほか、基本給の6%に相当する夜間支援手当が支給されていたことが認められ、これによれば、本件雇用契約においては、夜勤時間帯については実労働が1時間以内であったときは夜勤手当以外の賃金を支給しないことが就業規則及び給与規程の定めにより労働契約の内容となっていたものと認められる。そして、このように1回の泊まり勤務についての賃金が夜勤手当であるとされていたことに照らすと、夜勤手当の6000円は、夜勤時間帯から休憩時間1時間を控除した8時間の労働の対価として支出されることになるので、その間の労働に係る割増賃金を計算するときには、夜勤手当の支給額として約定された6000円が基礎となるものと解される。
したがって、Y社における夜勤時間帯の割増賃金算定の基礎となる賃金単価は、750円であると認めるのが相当である。

2 これに対しXは、Xの勤務は、泊まり勤務の後に午前10時まで勤務することを基本としていたが、Xが更に続けて勤務したときは、その超過時間数に応じ、給与明細書に記載された時間数に応じた「時間外手当」が支給され、その時間数及び額によれば、Xの割増賃金算定の基礎となる賃金単価は、そのときの基本給の額に応じて1528円、1540円又は1560円となると主張する。
しかしながら、夜勤時間帯が全体として労働時間に該当するとしても、労働密度の程度にかかわらず、日中勤務と同じ賃金単価で計算することが妥当であるとは解されない

3 なお、最低賃金に係る法規制は全ての労働時間に対し時間当たりの最低賃金額以上の賃金を支払うことを義務付けるものではないから、泊まり勤務に係る単位時間当たりの賃金額が最低賃金を下回るとしても、直ちに泊まり勤務の賃金額に係る合意の効力が否定されるものとは解されない

本件紛争は、「夜勤手当」という名称の紛らわしさが原因となっていることは明らかです。

また、上記判例のポイント3は、誤解しがちな点ですので、しっかりと押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。