Monthly Archives: 1月 2024

労働災害116 上司や同僚から叱責等をされた後の自傷行為による負傷の業務起因性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上司や同僚からの叱責等をされた後の自傷行為による負傷の業務起因性が否定された事案を見ていきましょう。

国・柏労基署長事件(東京地裁令和5年2月20日・労経速2528号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において稼働していたXが、社用車の駐車の仕方について、上司ら3名から指摘、追及を受けていた際、自らの頭部を本件会社の事務所の床に複数回打ち付け、頭部打撲を負ったところ、上記負傷は業務上の災害であると主張して、所轄労働基準監督署長である柏労働基準監督署長に対し、労災保険法の規定に基づく療養補償給付の請求をしたが、本件処分行政庁がこれを支給しない旨の処分をしたことから、上記処分が違法であると主張して、その取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件自傷行為は、社用車の駐車方法に関して、Xが、本件会社の事務所内で上司や同僚2名から詰問や叱責をされた際に行われたものであるから、それらの詰問や叱責は、業務に関して行われたというべきであるし、本件自傷行為があった日以前から、本件会社の従業員らによるXに対する厳しい叱責等は繰り返し行われており、社用車の駐車方法についても、いわば濡れ衣を着せられて詰問・叱責されていたことが認められる。
しかしながら、社用車の駐車方法に関して口頭で叱責等を受けることは、たとえ、それが事実誤認に基づくものであったとしても、何らかの身体的な負傷を伴うような危険を内在する行為であるとは通常認められないところ、本件自傷行為に至る経緯をみても、同僚2名による叱責は2分程度のものであった上、Xに対し、何らかの傷害を負う危険性のある行為をするよう強要した様子は何ら窺えない
しかるに、Xは、突然、四つん這いになって、声を上げながら、本件会社の事業所の床に複数回に渡り、自らの頭部を打ち付けるという本件自傷行為に及んでいるのであり、Xにおいて、そのような行為を行えば、通常、頭部打撲との傷害を負う可能性があることは、十分認識していたというべきであるから、その結果についても認容しながら本件自傷行為に及んだと認められる。
そうすると、本件自傷行為は、業務上の必要性がないのに、傷害を負う可能性があることを認識し、その結果を認容しながらX自らの意思で行ったというべきであるから、同行為によって本件負傷が生じたとしても、それは、業務に内在し、通常随伴する危険が現実化したものであるとは認められない

詰問・叱責自体は不適切であったとしても、有形力の行使はなく、また、自傷行為を強要したこともないため、業務起因性が否定されました。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2064 人と比べないで生きていけ#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から8年前に紹介した本ですが、再度読み返してみました。

帯には「君には人を羨んでいる時間はない。」「本当に好きなことをやっている人は、比べない。」と書かれています。

他人のことを気にしているうちに人生は終わってしまいます。

ジカンガモッタイナイ

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

どうせなら、噂する側よりも噂される側のほうがずっといい。比較する傍観者より、比較される主人公として人生を熱く生きよう。」(35頁)

とにかく傍観者や批評家からは距離を置くようにしています。

一緒にいても時間だけが無益に過ぎていくからです。

他人の噂話をしてみたところで、また、他人の失敗を喜んだところで、自分の成長・成功には何の影響もありません。

労働者性53 友人の依頼で、荷物の搬入・搬出作業等を行った者の労働者性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、友人の依頼で、荷物の搬入・搬出作業等を行った者の労働者性が否定された事案を見ていきましょう。

国・春日部労基署長事件(東京地裁令和5年2月16日・労経速2528号34頁)

【事案の概要】

Xは、労働者としてコミックマーケットにおける同人誌販売のため荷物を運搬した際に急性腰痛症を発症したと主張して、春日部労働基準監督署長に対し、労災保険法に基づき、休業補償給付の支給を請求したところ、処分行政庁は、原告は労働基準法及び労災保険法上の労働者には該当しないとして、令和2年8月6日付けで休業補償給付を支給しない旨の処分をした。
本件は、Xが、Yに対し、本件処分に違法があるとして、その取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XとBは、専門学校時代の同級生であり、本件コミックマーケット開催当時は友人関係にあったこと、Xが過去にコミックマーケットに自ら販売者として参加していた際には、Bと相互に商品販売の手伝いをする関係にあったこと、Xが、コミックマーケットの販売者としての参加をやめ、Bの依頼を受けてBの商品販売のための荷物の搬入・搬出、ブース設営・片付け及び販売補助等の作業を行うようになった後も、Bは、Xに対し、上記各作業の対価として金銭を交付したことはなく、当日のXの朝食、昼食及び夕食の代金を負担したにすぎず、その金額も2000円程度であったことからすれば、Xは、Bとの間の友人関係に基づき、Bの商品販売の手伝いをし、Bは、その謝礼として当日のXの食事代を負担していたものと認められ、食事代の負担ゆえにBから依頼されたことをXが断れない関係にあったとは認め難い。
また、BからXに対するブース設営依頼のメッセージは「会場前で下ろすから、先に行って設営しておいてください。よろしくお願いします。」といった丁寧な言葉遣いのものであって、ブース設営の見本についてのやりとりにおいても、BがXに作業を強制する趣旨の伝達をした事実はなく、当日にXがBに依頼されて行った作業(荷物の搬入・搬出、ブース設営・片付け及び販売補助等)は、作業負荷が強いものではなく作業密度も低いものであったことからしても、Xが、Bから食事代を負担してもらうがゆえに、Bの依頼を断れずに上記各作業を行ったとは認め難い。

労働者性に関する判断要素に添って事実認定がされています。

裁判所がどの事実を拾い、どのように評価しているかを見ると勉強になります。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、判断に悩まれる場合には、事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

 

本の紹介2063 君の眠れる才能を呼び覚ます50の習慣#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から8年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

帯には「きれいごとは終わりにしよう」と書かれています。

どれだけ理想を唱えるかではなく、どれだけ行動に移せるかが大切です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

年収の2割を自分磨きに投資していると、1年後にはステージが変わることに気づかされるはずだ。」(80頁)

お小遣い制ではとてもできません(笑)

それはさておき、自己投資にどれだけの時間とお金をかけてきたかは、40歳にもなれば如実にわかります。

特にビジネス面においては、多くの場合、それまでに時間とお金を何に使ってきたかの結晶が今の自分の商品価値に反映されます。

その積み重ねが今の自分を作り上げているわけですから、特に社会人になってからの10年、20年の間の積み重ねは、人生をほとんど決定づけてしまうくらい大きな差となります。

すべては日々の積み重ねの結果なのです。

セクハラ・パワハラ80 産後休暇明けの週勤務日数について、産前勤務より少ない日数を提案したことが、いわゆるマタニティーハラスメントに該当しないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、産後休暇明けの週勤務日数について、産前勤務より少ない日数を提案したことが、いわゆるマタニティーハラスメントに該当しないとされた事案について見ていきましょう。

A市事件(宮崎地裁令和5年7月12日・労経速2528号26頁)

【事案の概要】

本件は、医師であるXが、勤務していたB病院を運営するY市に対し、Xが産休から復帰する直前に次年度の勤務日を週5日から週1日に減らす変更を告げられたことによりXの抱える精神疾患が悪化したなどとして、国家賠償法1条に基づく損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 B病院は、令和3年4月以降も会計年度任用職員として雇用することを前提として、週1日(水曜日)の勤務を提案した。この提案は、Xが精神障害の影響によって睡眠が十分にとれず、B病院から至近の官舎からの出勤でも勤務開始時刻等に配慮が必要であったところ、産休明けは育児の負担が重なるうえ、A市外からの通勤が予定されており、更なる配慮が必要であると思われたことからされたもので、育児をしながらの遠距離通勤での勤務に慣れていけば勤務日を増やす余地があるものであった。

2 B病院では医師が不足しており、Xが産休に入った直後に別の医師を採用したことによってXが余剰人員となったということではない。また、Xが雇用されてから産休に入るまでの間、Xの抱える精神障害等を踏まえて種々の勤務条件の配慮がなされており、妊娠や出産を理由としてXを勤務条件で不利益に取り扱う意図があったとは認めがたい
前記提案の週1日の勤務では、Xが居住するZ市における保育所利用のための基準要件の一部を満たさないことになるが、B病院において、当該基準を把握していたとは認められないし、当該基準を一時的に満たさない場合において、直ちに入園許可が取り消されなくなるかどうかも定かではない。また、Xが当該要件を満たす働き方を希望した場合に、B病院がこれを受け入れなかったとも認定できない。

本件のような事案においては、多くの場合、「マタハラ」との関係で腫れ物に触るような対応を余儀なくされていることと思います。

本件では上記判例のポイント2のような事情が認定されたことから違法とは判断されませんでした。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

本の紹介2062 人生の9割は出逢いで決まる#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から8年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

より正確には、可塑性のある人生の早い段階で、誰に出逢い、誰の影響を受けたかによって決まると言っていいでしょう。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・それよりもあなたの得意分野で5年間猛烈に努力することだ。得意分野で5年間猛烈に努力すれば、たとえ成功者になれなくても、今いる場所で輝くことができる。今いる場所で輝くことができれば、成功者は必ず一目置いてくれる。」(56頁)

特に経験が浅いうちは、一点突破がおすすめです。

手を広げず、狭い分野をひたすら掘り下げる。

その狭い分野で旗を立てることができれば、みんなが注目してくれます。

この分野ではこの人だとお呼びがかかるまで辛抱強く努力を積み重ねるのです。

配転・出向・転籍54 職務限定合意が否定され、配転命令が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、職務限定合意が否定され、配転命令が有効とされた事案を見ていきましょう。

東京女子医科大学事件(東京地裁令和5年2月16日・労経速2529号21頁)

【事案の概要】

本件は、学校法人であるY社との間で労働契約を締結したXが、Y社がXに対してした各配転における内分泌内科学講座の教授・講座主任から内科学口座高血圧学分野の教授・基幹分野長とする旨の配転に及びY社が設置する東京女子医科大学病院における高血圧・内分泌内科の診療部長から高血圧内科の診療部長とする旨の配転の命令がいずれも無効であると主張して、Y社に対し、本件各配転先の職位として各勤務する義務がないことの確認を求めるとともに、本件配転命令1が不法行為であり、本件配転命令を決定、執行するに当たり、Y社の役員であるA及びBに悪意又は重過失があったなどと主張して、Y社に対しては民法709条に基づき、A及びBに対しては私立学校法44条の3第1項に基づき、連帯して慰謝料等330万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1Xの採用の経緯等に照らすと、Xは、Y社において、高血圧と内分泌疾患の双方に専門的知見を有する医師として採用され、その職務内容としても、当初から、そのいずれも対象とすることが予定されていたというべきである。そうすると、Xの職務の専門性から従前の職務と全く関連しない職務へと一方的に変更されないことは格別、従前の職務と密接に関連し、あるいはその一部となる職務については、一切の変更や限定が許さない旨の職務限定合意があったとは認められない。また、本件各配転命令はいずれも、Xの職務内容を、高血圧と内分泌疾患の双方を対象とする従前の職務内容からその一部へと限定するものにすぎないから、XとY社間の職務限定合意に反しないというべきである。

2 高血圧については、日本高血圧学会において学術集会等が開催されるとともに、高血圧専門医制度が設けられていることが認められ、他大学において内分泌内科学分野とは別に高血圧学分野を設置した例はないが、他大学との差別化を図り、既存の講座体系をより高度に専門化する必要があり、そうした観点から、本件大学において高血圧学分野を設置することにおよそ合理性がないとはいえない。また、Xは高血圧と内分泌疾患の双方に専門的知見を有する医師として採用され、雇用契約上も、元々高血圧について相応に研究、診療等に従事することが求められていた。そうすると、本件大学及び本件病院において、高血圧に特化した分野又は診療科を設け、これにXを配転することは、Y社の合理的運営に寄与するものであり、業務上の必要性があったといえる。

職種限定の合意の有無、配転命令の有効性のいずれについても常識的な判断だと思います。

これらの争点について裁判所がどのような点に着目して判断しているのかをしっかりと理解しておく必要があります。

微妙な事案において、配転命令を行う場合には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

本の紹介2061 私たちの人生の目的は終わりなき成長である#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から8年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

自分の「成長」を意識して、日々生活している人がどれほどいるでしょうか。

ただでさえ忙しい毎日の中で、いかに5年後、10年後の準備を組み入れるかがとっても大切です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

安請け合いしていると、自分にとって本当に幸せなことを逃してしまう。安請け合いを断ち切れるかどうかは、次のステージに進むためのチェックリストだ。・・・成長を妨げていた犯人は、幸せを感じないことに費やす時間だったのだ。」(122~123頁)

安請け合いをしていると、あっという間にパンクするのが世の常です。

それでは時間がいくらあっても足りません。

こうなると本来時間を掛けるべきことに時間を掛けられなくなってしまいます。

意識をしなければあっという間にこうなってしまいます。

いかに準備をするための時間を確保し続けるか。

そのためには、何をやるかよりも何をやらないかがとっても重要です。

これが成長し続けるためのポイントです。

従業員に対する損害賠償請求12 十分な秘密管理措置を講じていたとは認められず、不正競争防止法上の営業秘密該当性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 本年もよろしくお願いいたします。

さて、今日は、十分な秘密管理措置を講じていたとは認められず、不正競争防止法上の営業秘密該当性が否定された事案を見ていきましょう。

Z営業秘密侵害罪被告事件(札幌高裁令和5年3月17日・労経速2529号7頁)

【事案の概要】

本件は、自動車部品の仕入れ及び販売等を業とするH社の従業員として、同社から同社の営業秘密である同社の販売先、販売商品、販売金額等の履歴が記載された得意先電子元帳を示されていた被告人Aが、①Iと共謀の上、不正の利益を得る目的で、令和2年10月27日、被告人Aが同社の前記得意先電子元帳を管理する同社サーバコンピュータにアクセスし、同得意先電子元帳の、得意先A社及び仕入先B社に係る本件情報①を記録したファイルをH社から貸与されていたパーソナルコンピュータに保存し、その複製を作成する方法で同社の営業秘密を領得し、②被告人Bと共謀の上、不正の利益を得る目的で、同月28日、被告人Aが同社の前記サーバコンピュータにアクセスし、同得意先電子元帳の、得意先C社に係る本件情報②を表示し、SNSアプリケーションソフトLINEの画像キャプチャ機能を利用して本件情報②を画像ファイルとして記録してその複製を作成する方法でH社の営業秘密を領得したという事案である。

原判決は、いずれの事案についても有罪と認め、被告人両名をいずれも罰金30万円に処した。

【裁判所の判断】

原判決を破棄する。

被告人両名は、いずれも無罪。

【判例のポイント】

1 本件方法を含む得意先電子元帳に記録されている情報に接する従業員において、H社が該当情報をその他の秘密とはされない情報と区別し、特に秘密として管理しようとする意思を有していることを明確に認識できるほど、客観的な徴表があると認めることはできず、パーツマンにアクセスする際に、IDやパスワード等を入力するなどの手順を要するということのみでは、H社が十分な秘密管理措置を講じていたと認めることはできないというべきである。

2 原判決は、得意先電子元帳内の情報をテキスト形式で出力しようとした際に警告画面が表示されることも、H社の秘密管理意思の現れであるとしている。しかしながら、警告文の主語は、「株式会社K社が提供するデータの利用範囲は」となっており、第三者への情報提供等の制限の対象は、パーツマンを提供するK社のファイルレイアウト等の秘密情報と解するのが文面上自然で、文末も「第三者へのデータ提供等は『契約違反』に該当します。」となっており、ここでいう「契約」は、K社とH社との間の契約を指すとみるのが自然である。したがって、前記警告画面の警告文の趣旨は、K社のファイルレイアウトなどの秘密情報を保持するものと解されるから、これがH社自身の秘密管理意思の現れとみることはできない。

本件は刑事事件における高裁判例ですが、民事においても参考になります。

営業秘密の3要件(特に秘密管理性)についてはしっかりと確認をし、実務に反映させましょう。

不正競争防止法については、日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。