おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。
今日は、賃金額等を記した雇用契約書などの書面作成に応じなかった会社が、従業員に自宅待機命令後の出社命令違反などがあったとして行った解雇が無効と判断された事案について見ていきましょう。
Y社事件(東京地裁令和7年4月30日・労経速2596号32頁)
【事案の概要】
本件は、令和3年10月にY社と労働契約を締結し、理容師として稼働していたXが、Y社に対し、上記労働契約における月毎の賃金額は35万円であり、同年10月分につき9460円、同年11月分につき2万円が未払となっていると主張して、労働契約に基づき、同年10月分の未払賃金として9460円及び同年11月分の未払賃金として1万8280円+遅延損害金、Y社による自宅待機命令により労務を提供することができなかったと主張して、民法536条2項に基づき、上記自宅待機命令期間中の未払賃金として11万7894円+遅延損害金、上記労働契約では交通費を支払う旨の合意がされていたと主張して、労働契約に基づき、交通費として2万8160円+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社による令和4年3月23日付けの解雇が不法行為を構成し、逸失利益として210万円、慰謝料として50万円の合計260万円の各損害を被ったと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、260万円+遅延損害金の各支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
Y社は、Xに対し、154万5634円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 本件自宅待機命令は、令和3年12月23日にXの施術内容について客が苦情を述べたことを契機として発せられたものであるが、同日以前にXが客から苦情を受けたとはうかがわれない。そして、Xに限らず、Y社の従業員において客から施術内容について苦情を受けることはあり、これまでX以外に無期限の自宅待機を命ぜられた者はいないことを踏まえれば、単発の上記出来事を契機に、本件自宅待機命令を発し、期限を定めずにXを就労させないこととする合理的な理由及び必要性があったと認めることはできない。
そうであるとすれば、本件自宅待機命令はY社の業務上の都合により発せられたものというべきであり、Xは、これによって労務を提供することができなかったのであるから、民法536条2項により、これに対応する期間である令和3年12月23日から令和4年2月6日までの期間につき賃金請求権を有することとなる。
2 確かに、〈1〉Xは、令和4年2月に発せられた本件出勤命令に応ぜず、それ以後、労務の提供をしていない。そこで検討するに、本件雇用契約における賃金額については、原告が令和3年10月に被告で就労を開始した当初の頃から当事者間に認識の相違があり、Xは、本件雇用契約に係る労働条件を書面にするよう求め続け、このことは、Y社においても本件雇用契約に関するトラブルとして認識されていた。そうであるからこそ、Xは、同年12月にされた本件自宅待機命令が解除され、改めて本件出勤命令に応ずるに当たっても、本件雇用契約に係る労働条件を書面により明示するよう求めていたのであるが、Y社は、これに応じなかった。
使用者は、法令上、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金等の労働条件を書面等により明示しなければならず(労基法15条・同施行規則5条)、その趣旨は、労働条件をめぐる紛争を回避することを含むものと解されるところ、上記のとおり、Xの就労中に労働条件である賃金額をめぐって既に紛争が生じていた。そうであるとすれば、Xが本件出勤命令に応じ、改めて被告での就労を開始するに当たって、労働条件を明示した書面の交付を求めたことは、上記法令の趣旨に沿うものであり、正当な要求であるといわざるを得ない。他方で、本件記録を精査しても、Y社が上記書面を実際に何らか準備したともうかがわれず、Xが本件出勤命令の前から継続して上記要求をしていたことを踏まえると、Y社がこれに応じなかったことに合理的な理由はうかがわれない。
3 本件解雇は無効であり、使用者は、法令上、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金等の労働条件を書面等により明示しなければならないとされているところ、Y社は、Xから労働条件を明示した書面の作成を繰り返し求められ、この点について令和4年3月16日頃には労基署より是正勧告を受けるに至っているにもかかわらず、これに対応しないままだったのであるから、漫然と本件解雇に及んだといわざるを得ない。したがって、本件解雇は不法行為を構成するというべきである。
そして、Xは、本件解雇により、Y社において就労する機会を喪失しているところ、本件解雇後にX自身がそれにより被った損害を回復するために行った各種手続の利用状況、就職活動の状況や現に再就職に至った時期等に照らし、本件解雇によって生じた逸失利益としては、140万円(=35万円/月×4か月)と認めるのが相当である。
Y社が頑なに労働条件に関する書面の作成を拒否した結果、上記のような結論となりました。
賃金の支払いをせず、無期限の自宅待機命令が有効とされることはありません。
仮に賃金を支払っていたとしても、違法と判断されることもありますのでご注意ください。
日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。