Author Archives: 栗田 勇

競業避止義務14(アフラック事件)

おはようございます。

自宅で仕事をしています。

さて、今日は、生保会社の執行役員の競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

アフラック事件(東京地裁平成22年9月30日・労判1024号86頁)

【事案の概要】

Y社は、生命及び疾病保険業を営む生命保険会社であり、アメリカ合唱国に本店を置いている。Y社は、特にがん保険及び医療保険については、保険業界内においてトップシェアを占めている。

Xは、Y社の執行役員であるが、平成22年9月末にY社を退職し、同年10月付けで、A生命に就職することが予定されている。

Xに係る執行役員契約書では、契約期間は1年間とされ、競業避止義務として、「Xは、執行役員の地位及び待遇に鑑み、在職中はもちろん本執行役員契約終了後2年間、Y社の業務と競業又は類似する業務を行う他社の役員、従業員にならないこと、及び、第三者をして競業又は類似する業務を行う他社を支援してはならないことに同意する。」旨の規定がある。

Y社は、Xに対して、A生命への就職を差し止める仮処分を申し立てた。

【裁判所の判断】

競業避止条項は有効であり、競業他社の取締役、執行役、執行役員の地位への就任、営業部門の業務への従事について差止請求を認めた。

【判例のポイント】

1 本件競業避止条項に係る合意は、不利益に対しては相当な代償措置が講じられており、A生命の取締役、執行役及び執行役員の業務並びに同社の営業部門の業務に関する競業行為をXが退職した日の翌日から1年間のみ禁止するものであると解する限りにおいて、その合理性を否定することはできず、Xの職業選択の自由を不当に害するものとまではいえないから、公序良俗に反して無効であるとは認められない。

2 競業行為の差止請求は、職業選択の自由を直接制限するものであり、退職した役員又は労働者に与える不利益が大きいことに加え、損害賠償請求のように現実の損害の発生、義務違反と損害との間の因果関係を要しないため、濫用のおそれがある。よって、競業行為の差止請求は、当該競業行為により使用者が営業上の利益を現に侵害され、又は侵害される具体的なおそれがあるときに限り、認められると解するのが相当である。

3 Xは、Y社の様々な営業上の秘密を把握している上、Y社の執行役員として、商品のマーケティング戦略を立て、企業系列の大規模な保険代理店などのマーケットに働きかけ、Y社に対抗し得る商品等の提案を行って営業活動を展開すれば、医療保険やがん保険等の商品について、Y社とA生命間のシェアを塗り替えることも可能となると考えられる。かかるシェアの奪取は、必ずしもX個人が単独で行い得るものではなく、A生命のマーケティング部門、営業管理企画部門及び戦略企画部門等の会社組織が一体となって行い得るものであるが、Xが保有するY社の営業上の秘密や保険代理店との高いレベルでの人的関係を利用した場合にはその効果が一段と発揮され、A生命がY社に対して優位な地位に立つことができる。これは、XがA生命に就職した後に新たに開発される保険商品等だけでなく、既存の保険商品等を利用又は改革し、営業活動を展開することによっても可能であるといえる。
よって、Xの競業行為によって、Y社の営業上の利益を侵害される具体的なおそれがあると一応認められる。

本件では、競業避止条項に対する代償措置として、Xに対して、5年間にわたって執行役員を務めたことによる退職金として、3000万円を超える金額が渡されています。

裁判所は、この点を重視しています。

5年間で3000万円オーバーです。 すごいですね。

また、Xが執行役員というポストにいた事実も、当然、重視されています。

もっとも、もし退職金がそれほど高額でなかったら、結論が変わっていたかもしれません。

会社としては、十分な代償措置を講じるという視点を持つとよいと思います。

なお、執行役員契約書では、競業避止期間は2年間と定められていましたが、裁判所は1年間に限定しています。

さすがに2年は長いということです。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

不当労働行為18(北海道大学事件)

おはようございます。

さて、今日は、団体交渉の打ち切りと不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

北海道大学事件(北海道労委平成23年3月11日・労判1024号97頁)

【事案の概要】

平成21年8月、人事院は国家公務員の俸給月額の0.2%引下げ、期末・勤勉手当の0.35月分引下げ、4月時点の官民較差の12月期期末手当による減額調整などを内容とする勧告を行った。

X組合は、同年10月、Y大学に対して勧告に準拠した賃金の不利益変更を議題とする団交を申し入れ、3回にわたり団交が行われた。

団交において、Y大学は、勧告の内容を受け止めて賃金引下げの方針を決めたなどと説明し、X組合が代償措置をとるよう求めたところ、Y大学は、資料を配布し、X組合が代償措置として不十分であると指摘しても、最終案を示したとして団交の終了を宣言した。

【労働委員会の命令】

団交の打ち切りは、不当労働行為に該当する。

【命令のポイント】

1 Y大学が国立大学法人となった際に、職員の個別の給与額や適用される給与体系に変更はなく、また終始構造にも実質的には変更がなかったのであり、団体交渉におけるY大学の説明内容によって、Y大学が人事勧告の内容を受け止めて、職員の給与等を減額する方針を決めた理由が説明されていると認められる。

2 第2回団体交渉においては、大学が検討する代償措置について触れるだけで終了しており、第3回団体交渉において、Y大学は書面を交付して、代償措置について述べるものの、書面には項目のみ3点記載されているだけであり、団体交渉議事録等からも、その内容についての詳細な説明などはなされていないと認められる

3 本件において、Y大学が提示した代償措置は、今回の不利益変更に伴う代償措置として説明しているのであり、また、団体交渉において交渉議題としているのであるから、Y大学としてもその内容などに関して具体的に説明するなど誠実に対応することが必要である。このような観点からすると、第3回団体交渉における大学の説明内容は、不十分であると認められ、組合の主張に対する説明も不足していると認められる。

4 したがって、第3回団体交渉において、Y大学が、代償措置について説明したとして団体交渉を打ち切った行為は、不誠実な交渉態度であると言わざるを得ないばかりか、組合の運営に対する支配介入に該当し、労働組合法7条2号及び3号に該当する不当労働行為である

大学側が、団体交渉において、賃金切下げの理由については、誠実に説明していると認められています。

しかし、賃金切下げに伴う代償措置に関しては、説明が不十分であったとされました。

単に団体交渉を拒否したというのではなく、説明が不十分であったという判断です。

現場において、どの程度の説明をすれば足りるのか、判断が難しいところです。

可能な範囲で具体的に説明をする、ということしかないのではないでしょうか。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為17(間組事件)

おはようございます。

さて、今日は、団交拒否と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

間組事件(神奈川県労委平成23年3月15日・労判1024号95頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の従業員として建設現場等で就労し、退職して9年余経過した平成20年6月、悪性胸膜中皮腫と診断され、同年9月、労基署から労災の認定を受けた。

平成21年6月、アスベスト関連組合は、Y社に対してXの組合加入を通知し、同人の就労していた建設現場のアスベスト曝露の実態、本件職業病に関する謝罪と賠償等を求めて団交を申し入れた。

Y社は、Y社と組合との間に労働契約はもとより直接、間接にも使用従属関係はないしこれに類する関係がないことを指摘し、組合が団交を求める得る根拠を具体的に示すよう求めた。

その後、Y社は、組合が団交を申し入れても、同様の回答を繰り返して団交に応じていない。

【労働委員会の判断】

団交拒否は不当労働行為に該当する。

【命令のポイント】

1 Y社は、組合の要求事項のうち、本件職業病に係るXに対する謝罪と賠償については、団体交渉の機能として一般的に認められている労働条件の取引の集合化と労使の実質的対等化の機能を有するものではなく、過去に発生した事実に起因する責任の追及に他ならず、義務的団交事項に当たらないと主張する。

2 確かに、労働条件の取引の集合化及び労使の実質的対等化は団体交渉の機能として一般的に認められている機能である。しかし、個々の組合員の権利問題等について団体交渉の議題とすることは、広く見られることであり、労働条件の取引の集合化は、義務的団交事項にあたるか否かの判断において必ずしも必要な条件であるとはいえない。また、労使の実質的対等化は、会社と組合を当事者とする団体交渉が申し入れられている以上、本件についても当然に認められる機能である

3 さらに、謝罪と賠償は、過去に発生した事実に起因する責任の追及ではあるが、アスベスト健康被害による補償問題の解決に向けた一つの方策であるということができるから、使用者に処分可能な、組合員に関する災害補償の問題である。
よって、謝罪と賠償に関する事項は、義務的団交事項に当たる

4 以上より、Y社は、正当な理由なく団体交渉を拒否したものであるから、労組法7条2号に該当する不当労働行為が成立する

5 また、Y社が正当な理由なく団体交渉を拒否したことにより、Y社との団体交渉を実現させることができなかった組合は、その威信を傷つけられ、組合員に対する影響力が減じられて弱体化するおそれがある
以上のとおりであるから、Y社が正当な理由なく団体交渉を拒否したことは、同時に、Y社が組合の運営に対して支配介入したことになるから、労組法7条3号に該当する不当労働行為も成立する。

会社としては、「義務的団交事項」にはあたらないから、団交には応じないと主張する場合があります。

しかし、この主張する場合には、「義務的団交事項」の範囲をよく検討したほうがいいです。

なかなか厳しいわけです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為16(秋本製作所事件)

おはようございます。

さて、今日は、懲戒処分及び解雇と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

秋本製作所事件(千葉県労委平成23年3月24日・労判1024号94頁)

【事案の概要】

平成21年4月、Y社は、松戸公共職業安定所に従業員代表の記名押印のある休業協定書を添付して中小企業緊急雇用安定助成金の申請を行った。

X組合の分会長Aは、同月、千葉労働局に対して本件休業協定書の従業員代表者選出手続に不正がある旨の申告を行った。

同月、Y社は、Aに対して翌日午後1時までに本件申告を取り下げるよう業務命令を行った。しかし、Aが取り下げなかったところ、Y社は、訓戒処分に付すとともに、本件申告を取り下げるよう重ねて業務命令を行った。

しかし、Aがこれに応じなかったため、Y社は、Aに対して6月、

【労働委員会の判断】

各懲戒処分は、不当労働行為に該当する。

解雇は、不当労働行為に該当する。

【命令のポイント】

1 分会結成前及び分会結成後のこれまでの経緯からして、Y社は、Y社を批判し、公的機関を動かして法令違反を改善しようとする活動方針をとる分解を嫌悪し、とりわけ、その先頭に立つ分会長であるAに対する嫌悪感を強めていったものと推認される

2 Xの本件申告は正当な労働組合活動であったところ、Y社は分会長であるAへ合理的理由のない懲戒処分を複数回に渡り行ったが、これらの処分は会社を批判し、公的機関への通報等によって会社の法令違反を改善させる方針をとっていた分会の労働組合活動を嫌悪したY社が、分会長として中心的に活動していたAに対して行った不利益な取り扱いであるから、労組法7条1号の不当労働行為に該当するものと判断することが相当である

3 また、正当な労働組合活動を行ったことを理由として分会長に複数回に渡り懲戒処分を下すことは、分会の他組合員の活動を萎縮させ、また会社従業員が分会に加入することへの圧力となるものであるから、労組法7条3号の不当労働行為にも該当するものと判断する

4 Y社が合理的理由や相当性が十分といえない解雇をAに行ったことは、従前からY社と対立するAが、分会結成後は賃金の問題を含め分会長として活発に活動していたことを嫌悪し、同人をY社から排除することを決定的動機として行われたものと判断することが相当であり、労組法7条1号の不当労働行為に当たる

本件のような不当労働行為事案は、特に労組法に関する詳しい知識が必要とされていません。

会社の役員や現場担当者としては、組合員に対し、懲戒処分等を行う場合には、通常通り、合理的な理由が存在するかを慎重に検討すれば足りることです。

本件は、単に合理的理由なく懲戒処分や解雇をしたので、その裏返しとして、不当労働行為に該当するだけです。

普段通り、気をつければいいのです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為15(誠幸会事件)

おはようございます。

さて、今日は、配転・人事考課の低評価と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

誠幸会事件(神奈川県労委平成23年3月29日・労判1024号93頁)

【事案の概要】

Y社は、従業員役500名をもって特別養護老人ホーム等を運営している。

X組合は、平成19年12月の結成当時8名であったが、21年4月以降は分会長Aのみである。

平成21年4月、Aは、Y社と雇用期間を1年として、Y社の運営する施設、事業いずれに配属されても異議はない旨の条項を含む準職員有期雇用契約を締結した。

同年10月、Y社は、入職以来介護職として就労してきたAに対し、新設の下飯田事務所を勤務地とし、入居者やデイサービス利用者を確保するための営業を内容とする介護事業促進業務職に配置転換した。

Y社は、Aに対し、平成21年7月に同年上期の、12月に同年下期の期末手当の人事考課の評価を低くし、それぞれ19年同期より10万円減じて支給した。

Xは、本件配転及び人事考課の低評価は不当労働行為であると主張し争った。

【労働委員会の判断】

配転・人事考課ともに不当労働行為に該当する

【命令のポイント】

1 Y社が21年度人事考課において、A分会長をD評価としたことに対し、県央ユニオンらは上記評価の撤回を要求をしていること、また、同人が上記評価の撤回を実現するために横浜西労基署へ労働基準法違反の申告をしていること、同署の労働基準監督官からY社に労働基準法に抵触するおそれがある旨の説明があった直後にY社が21年10月配置転換を表明し、更に従わなければ解雇するという警告を発していることからすると、Y社が県央ユニオンらの組合活動とAを快く思っていなかったことが窺われる

2 Y社は、A分会長が就労時間外に使用者の施設外で労働条件等に関するビラを配布したことや労働条件の遵守に係る理事長の態度を批判したことを評価の対象としており、本来職務遂行能力や就業時間中における勤務態度、仕事に対する姿勢等を対象に実施すべき人事考課において上記のごとき組合活動を対象とすることは、制度の運用上、適正なものとはいえない

3 本件各配置転換及び本件各人事考課は、A分会長の正当な組合活動を理由に同人に対して不利益な取扱いを行ったものとして不当労働行為性が推認されるところ、上記取扱いに合理性は認められず、また、分会の運営に影響を及ぼす支配介入でもあることから、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断する

結論は妥当だと考えます。

Y社が配転を行った時期が、労基署への申告と近接していたことが認定に影響を与えています。

また、人事考課の根拠についても、参考になります。

顧問弁護士に一言相談があれば、「社長、それは不当労働行為と認定される可能性が高いですよ」とアドバイスできたと思いますが。

労災45(メディスコーポレーション事件)

おはようございます

土曜日、日曜日は、朝から晩まで、事務所に缶詰状態でした。

HPの作成→訴状・準備書面の作成→筋トレを疲れ果てるまで回転させていました

栗坊photo 034おかげで筋肉痛です

事務所の中に、筋トレ道具があります。

税理士K山先生もたまにうちの事務所で筋トレをしています。

仕事は体力です。 まじめにそう思います。

体力がなければ、いい仕事なんてできっこないと本気で思っています。

肉体的にも精神的にも強くなりたいです。

強くなって、依頼者や事務所スタッフを守りたいです。

今日は、午前中、静岡新聞の担当者と打合せが入っています。

午後は、建築紛争の裁判の打合せです。

夕方から、月1恒例のK・mix Radio the Boom!です。

ずみさんのアドリブがこわい・・・

その後、その足で、不動産会社D社に移動し、不動産セミナーです。

今日の担当は、僕です。 お題は、

貸家の老朽化に伴う立退き・建替えの上手な対処法

です。

今日も一日がんばります!!
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さて、今日は、過労自殺と安全配慮義務に関する裁判例を見てみましょう。

メディスコーポレーション事件(前橋地裁平成22年10月29日・労判1024号61頁)

【事案の概要】

Y社は、介護付き有料老人ホームの運営等を営む会社である。

Aは、Y社の代表取締役である。

Xは、大学卒業後、信用金庫で勤務後、平成14年10月にY社に入社し、平成16年8月当時には、財務経理部長の職にあった。

Aが、Y社に入社した頃、Y社では、株式上場を計画していたことから、Aは管理本部の株式店頭公開準備室課長に就任した。

平成16年度に入ってからは、6施設の新規開業等、Aの担当する業務の負担は増加していた。

Xは、平成16年8月、道路上の車内において自殺を図り死亡した。

Xの自殺前6か月間の時間外労働時間は、概ね月100時間を超えており、長いときには月228時間に達していた。

Xの相続人である妻、子らは、Y社及びY社代表取締役Aを相手とし、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

Y社に対する請求は認容(合計約6500万円)

Aに対する請求は棄却

【判例のポイント】

1 うつ病の発症原因について、今日の精神医学及び心理学等においては、「ストレス-脆弱性」理論に依拠することが適当であると考えられている。すなわち、環境からくるストレスと個体側の反応性及び脆弱性との関係で、精神的破綻が生じるかどうかが決まり、ストレスが非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても破綻が生じる。したがって、業務と本件うつ病との間の相当因果関係の有無の判断に当たっては、業務による心理的負荷、業務以外の心理的負荷及び個体側要因を総合考慮して判断するのが相当である。

2 Y社は、使用者としてXを業務に従事させていたところ、本件自殺前には、Xの時間外労働時間が、6か月という長期間にわたって、平均約100時間以上もの極めて長時間に及んでいたのであるから、Xが過剰な時間外労働をすることを余儀なくされ、その健康状態を悪化させることがないように注意すべき義務があったというべきである。
また、Xは、上記過剰な時間外労働時間に加え、Y社の資金繰りの調整等を担当したことにより、心理的負担の増加要因が発生していたにもかかわらず、Y社は、Xの実際の業務の負担や職場環境などに配慮することなく、その状態を漫然と放置していたのであるから、このようなY社の行為は、上記注意義務に違反するものである。

3 Y社は、毎年定期的に健康診断を実施しているところ、Xが自殺する直前の健康診断においては、Xの健康状態は良好であり、業務態度及びその言動を見ても、Xの精神状態に変調はなかったのであるから、Xの自殺について予見可能性はなかったと主張する。
しかし、長時間労働の継続などにより疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者に心身の健康を損なうおそれがあることは、広く知られているところであり、うつ病の発症及びこれによる自殺はその一態様である。そうすると、使用者としては、上記のような結果を生む原因となる危険な状態の発生自体を回避する必要があるというべきであり、事前に使用者側が、当該労働者の具体的な健康状態の悪化を認識することが困難であったとしても、これだけで予見可能性がなかったとはいえないのであるから、使用者において、当該労働者の健康状態の悪化を現に認識していなかったとしても、当該労働者の就労環境等に照らして、当該労働者の健康状態が悪化するおそれがあることを容易に認識し得たというような場合には、結果の予見可能性があったと解するのが相当である

4 これを本件についてみるに、Y社が本件自殺までにXの具体的な健康状態の悪化を認識し、これに対応することが容易でなかったとしても、(1)Y社の副社長がXの疲れた様子を認識していたこと、(2)Xの時間外労働時間が6か月という長時間にわたって約100時間を超えており、Xは、支援体制が採られないまま、過度の肉体的・心理的負担を伴う勤務状態において稼働していたこと、(3)Y社は、平成15年7月に、桐生労働基準監督署の労働基準監督官から「過重労働による健康障害防止について」という指導勧告を受けていたことに照らすと、Y社において、上記勤務状態がXの健康状態の悪化を招くことは容易に認識し得たといわざるを得ない。
したがって、Y社には、結果の予見可能性があったものというべきである

5 Aは、平成16年当時、Y社の代表取締役であった者であるが、代表取締役の下に副社長を配置し、その下に管理本部を含む6つの部署を配置し、Xの直属の上司は当時CであったなどのY社

解雇47(十和田運輸事件)

おはようございます。

さて、今日は、兼業禁止規定に違反した場合の懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

十和田運輸事件(東京地裁平成13年6月5日・労経速1779号3頁)

【事案の概要】

Y社は、貨物運送等を業とする会社である。

Xらは、Y社の従業員である。

Xらは、勤務時間中に、荷物積込み等のアルバイト行為を行ったことを理由に、Y社から懲戒解雇された。

Xらは、本件解雇は無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

普通解雇としても無効

【判例のポイント】

1 Y社は、設立時以降本件各解雇に至るまで、従業員に対し、本件就業規則がY社の就業規則であることを周知したことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、・・・懲戒解雇は、原則として就業規則等の規定を前提として初めてこれを行うことができると解されることに照らせば、Y社は、本件各解雇当時、従業員を懲戒解雇することはできなかったというべきである。
よって、本件解雇は、懲戒解雇として無効である。

2 懲戒解雇以外の類型による解雇(普通解雇)が懲戒解雇よりも労働者にとって有利であると考えられる場合もある(一般にはそのような場合が多いものと考えられる)から、懲戒解雇の意思表示を普通解雇の意思表示に転換したものとみることが必ずしも不相当であるとまではいえないものと解される。もとより、この場合であっても、使用者が懲戒解雇に固執しないとの限定が付される必要があるが、本件において、Y社が懲戒解雇に固執しないことは明らかであるから、本件各解雇の意思表示は普通解雇の意思表示とみることができる余地もあるというべきである

3 Xらの本件アルバイト行為の頻度については、Y社設立後いずれも年間1、2回程度これを行っていたことの限りで認められることになる。
Y社は、本件ノートを入手し、Xらが本件アルバイト行為を頻繁に行っていたと認識した後に、Xらに対してその事実関係を確認することなく本件各解雇に至っていることをも併せ考えれば、本件各解雇は、十分な根拠に基づいて行われた解雇ではないといわざるを得ない

4 さらに、Xらが行った本件アルバイト行為の回数が上記の程度の限りで認められるにすぎないことからすると、Xらのこのような行為によってY社の業務に具体的に支障を来したことはなかったことXらは自らのこのような行為について許可、あるいは少なくとも黙認しているとの認識を有していたことが認められるから、Xらが職務専念義務に違反し、あるいは、Y社との間の信頼関係を破壊したとまでいうことはできない
以上の次第であって、本件各解雇を普通解雇としてみた場合であっても、本件各解雇は解雇権の濫用に当たり、無効である。
 

昨日も書きましたが、就業規則に形式的に違反しているからといって、簡単に懲戒処分にすると、このような結果になります。

会社としては、就業規則の規定の趣旨を実質的に判断した上で、処分の当否を検討しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労働者性3(INAXメンテナンス事件)

おはようございます。

今日は、労働組合法上の労働者概念に関する判例を見てみましょう。

INAXメンテナンス事件(最高裁平成23年4月12日・裁時1529号4頁)

【事案の概要】

Y社は、親会社が製造したトイレ、浴室、洗面台、台所等に係る住宅設備機器の修理補修などを主たる事業とする会社である。

X組合は、主に運輸業に従事する労働者によって組織された労働組合である。

X組合Z支部は、Y社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する者(カスタマーエンジニアCEと称されていた)によって組織された下部組織である。

X組合は、Y社に対し、CEの労働組合加入通知書とともに、不当労働行為を行わないこと等を要求する書面を提出した。

これに対し、Y社は、X組合に対し、CEは独立した個人事業主であり労働組合法上の労働者に当たらないとして団体交渉に応ずる義務はない旨回答した。

【裁判所の判断】

労組法上の労働者にあたる

【判例のポイント】

1 Y社の従業員のうち、主たる業務である親会社の住宅設備機器に係る修理補修業務に現実に行う可能性がある者はごく一部であって、主として約590名いるCEをライセンス制度やランキング制度の下で管理し、全国の担当地域に配置を割り振って日常的な修理補修等の業務に対応させていたものである上、・・・CEは、Y社の上記業務の遂行に不可欠な労働力として、その恒常的な確保のためにY社の組織に組み入れられていたものと見るのが相当である

2 CEの報酬は、CEがY社による個別の業務委託に応じて修理補修等を行った場合に、Y社が商品や修理内容に従ってあらかじめ決定した顧客等に対する請求金額に、当該CEにつきXが決定した級ごとに定められた一定率を乗じ、これに時間外手当等に相当する金額を加算する方法で支払われていたのであるから、労務の提供の対価としての性質を有するものということができる

3 Y社から修理補修等の依頼を受けた場合、CEは業務を直ちに遂行するものとされ、原則的な依頼方法である修理依頼データの送信を受けた場合にCEが承諾拒否通知を行う割合は1%弱であったというのであって、業務委託契約の存続期間は1年間でY社に異議があれば更新されないものとされていた。

4 以上の諸事情を総合考慮すれば、CEは、Y社との関係において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当である。

最高裁判例です。

高裁の判断を覆し、労働者性を認めました。

本件最高裁は、一般論としての判断を示していませんが、以下の事情を重視しています。

(1)事業の遂行に不可欠な労働力として、その恒常的な確保のためにY社の組織に組み入れられていたこと

(2)契約内容が一方的に決定されていたこと

(3)報酬が労務の提供の対価としての性質を有すること

(4)各当事者の認識や契約の実際の運用において基本的に個別の修理補修等の依頼に応ずべき関係にあったこと

(5)指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務の提供を行っており、場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたこと

契約形態という形式ではなく、実質的関係を重視した判断です。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

解雇46(K社事件)

おはようございます。

さて、今日は、懲戒解雇と相当性の原則に関する裁判例を見てみましょう。

K社事件(東京地裁平成21年6月16日・労判991号55頁)

【事案の概要】

Y社は、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ等の広告代理業務等を目的とする会社である。

Xは、昭和44年4月、Y社に入社し、正社員として主に営業に従事していたが、定年を迎え、その後、再雇用され、就労を続けた。

Xは、平成19年2月、飲食店において、Y社専務から退職した先輩の近況を聞かされていたが、突然、「そんなことはどうでもいい!馬鹿やろう!俺の退職金を払え。退職金を払えばいつでも辞めてやる!」と怒鳴り出した。

そこで、Y社専務がXに対し、「今の暴言は取り消せ」と言ったところ、Xはいきなり立ち上がり、これに危険を感じて自らも立ち上がった専務に対し、その左頬などを右手拳で少なくとも3回殴った上、その襟首をつかんで、「馬鹿やろう!馬鹿やろう!」と繰り返し怒鳴った。

専務は、これらのXの言動に加え、営業社員としての勤務状況、勤務成績が極端に悪く、架空売上書類を作成して売上げをごまかす繰り返しであったことをも照らし合わせ、Xが社員として不適格であると認め、その場で懲戒解雇を言い渡した。

Xは、本件懲戒解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【事案の概要】

1 Xの言動は、もともとY社が他の者との合意払いが滞っている退職慰労金の分割払いを怠っていたことに原因があり、しかも、Xが憤慨し、不適切な発言に至った発端は、朝日生命から振り込まれた本件預入金の性質に関する専務の独自の見解に基づく回答の内容にあること、さらに、Xが暴行に及んだといっても、それ以前に最初に暴行に及んだのは専務であるから、Xの言動には酌むべき点が多々あるといわなければならない
加えて、Xによる上記言動は、飲食店における私的な飲食という、業務の遂行を離れた場面でされたものであり、しかも、その言動の態様に照らすと、Xはもちろん、専務も酔余の状況にあったことがうかがわれる

2 そうすると、Xによる上司である専務への言動が企業秩序を乱すべきものであり、Y社の就業規則が定める懲戒事由に当たるというべき余地があるとしても、また、Xの過去の業務の遂行に必ずしも芳しくない面があったことをいかに考慮しても、このような言動をもって、Y社の就業規則77条が定める戒告から解雇に至る8種類の懲戒処分のうち、最も重いいわば極刑である懲戒解雇に処すべきものとすることは、いかにも重きに失するといわざるを得ない

3 したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件懲戒解雇は、懲戒権を濫用するものであり、無効である。

4 本件懲戒解雇は無効であり、また、Y社においては、就業規則に規定はないが、従業員の賞罰に関して賞罰委員会の制度が存するにもかかわらず、その手続を経ないまま専務が本件懲戒解雇を言い渡したことは、不法行為を構成すると言わざるを得ない。そして、当該不法行為の違法性の程度に加え、XとY社との間の再雇用契約が期間を1年とする雇用契約であるものの、その更新へのXの期待が法的保護に値するものであったこと、それにもかかわらず、Xは、本件懲戒解雇を受けたことにより、Y社において就労する意思を失った結果、1か月分の賃金請求が認められるにとどまること等本件に現れた一切の事情を考慮すると、Xが本件懲戒解雇によって被った精神的苦痛を慰謝すべき額は60万円とすることが相当である。
懲戒処分の相当性の原則に反するということで無効と判断されました。

また、適正手続違反を理由に、損害賠償請求を認めています。

なかなか厳しいです。

会社としては、感情だけで懲戒解雇すると、裁判になったときにしんどいです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

賃金32(医療法人大寿会(割増賃金)事件)

おはようございます。

さて、今日は、看護師、介護職員らの時間外労働と割増賃金に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人大寿会(割増賃金)事件(大阪地裁平成22年7月15日・労判1023号70頁)

【事案の概要】

Y社は、病院と老健施設を設置運営する医療法人である。

Xらは、看護師、看護助手、清掃職員、介護職員およびデイケア職員である。

Y社では、病院に勤務する職員用に、病院地下1階のエレベーター脇にタイムレコーダーを設置しており、老健施設に勤務する職員用に老健施設1階の老健食堂入口付近にタイムレコーダーを設置しているが、老健施設に勤務する職員も更衣室で着替えることになっている。

Xらは、Y社に対し、時間外労働の割増賃金を請求した。

【裁判所の判断】

時間外労働の割増賃金を認めた。

付加金の支払いも命じた。

【判例のポイント】

1 (1)Xらはいずれも、出勤後、着替えた後にタイムカードの出勤打刻をし、終業後、着替える前にタイムカードの打刻をしていたものであること、(2)平成19年12月ことまでの間、Y社においては、始業時間や終業時間の合図等があるわけではなく、それぞれの職員が自らの判断で業務に取り掛かり、業務を終了していたこと、(3)Y社が平成18年9月よりも前に作成した業務マニュアルにおいては、所定始業時間よりも前に業務を開始することを前提とする記載があり、同月より後にY社が作成した業務スケジュールについても、所定始業時間よりも前に行うべき業務が記載されていたり、所定勤務時間と符合しないスケジュールが記載されていたものであること、(4)夜勤の看護師及び介護職員は日勤者から引継ぎを受ける必要があり、逆に日勤の看護師及び介護職員は夜勤者から引継ぎを受ける必要があるが、就業規則上、この引継ぎ又はミーティングのための時間が特に設けられていたわけではなく、所定時間外で行う必要があったこと、(5)この引継ぎ又はミーティング以外にも、看護師は患者の尿の処理や検温のため、看護助手は食事の準備のため、介護職員はベッドメイクやゴミ収集等のため、デイケア職員は名札を机に並べる等の作業のため、清掃作業員は入浴の準備のため、それぞれ所定時間よりも前から業務に就くことがあったし、所定勤務時間内に業務が終了せずに所定終業時間を超えて勤務することもあったこと、(6)Xらはいずれも、通勤バスを利用している者ではなく、勤務が終了したにもかかわらずY社のの施設内にとどまっている必要がある者ではないこと、(7)Y社自身、労基署に対する是正報告書において、一定の時間外労働があったことを前提とする残業代の再計算を行う旨を明らかにし、実際に、Xら各自に対して自らの再計算に基づき残業代を支払ったことが認められる。

2 以上の事実を前提とすると、Xらについては、タイムカードの出勤打刻後、退出打刻までの間、休憩時間を除くほかY社の業務に従事していたと認めるのが相当である。したがって、Xらの労働時間は、タイムカードの打刻時刻を基準として認定するのが相当であり、出勤打刻時から所定始業時間までの間及び所定終業時間から退勤打刻時まではそれぞれ時間外労働として割増賃金支払の対象となると解される

3 Y社を既に退職したX1は、Y社に対し、未払の割増賃金に対する退職日の翌日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律6条1項及び同法施行令所定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を求めているところ、Y社は、同条2項に定める事由があると主張して、同条1項の遅延利息の適用を争っている。
しかしながら、同条6条2項において同条1項の遅延利息の適用の例外とされているのは、賃金の支払の遅滞が「天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものである場合」であるところ、かかる規定の文言及び同法が賃金の支払の確保措置を通じて労働者の生活の安定に資することを目的としていること(同法1条参照)に照らすならば
同法施行規則6条にいう「合理的な理由により、裁判所(中略)で争っていること」とは、単に事業主が裁判所において退職労働者の賃金請求を争っているというのでは足りず、事業主の賃金支払拒絶が天災地変と同視し得るような合理的かつやむを得ない事由に基づくものと認められた場合に限られると解するべきである

4 本件において、Y社のX1に対する賃金支払拒絶に上記のような合理的かつやむを得ない事由があるものとは本件全証拠によっても認めることができない。
したがって、X1は、Y社に対し、年14.6%の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。

5 Y社は、労基署の指導がなされるまで、Xらに対する時間外労働に対する割増賃金の支払を全くしていなかったものであるところ、その後独自の計算に基づく低額の金員の支払はしたものの、本件訴訟が提起された後においても、Xらの時間外労働の事実自体を争い、裁判所の和解勧告にも応じようとせず、未払の時間外割増手当を支払う姿勢が全く見られない。このような本件の事案に照らすと、本件においては、Y社に対し、労基法114条に基づき付加金の支払を命ずることとするのが相当である

上記判例のポイント1のような状況は、
本件の病院に限った話ではないと思います。

これまでのいくつかの病院の労働時間に関する裁判例を見てきましたが、どこも同じような問題を抱えています。

裁判所としては、このような判断をすることになります。

病院が、現実に、法律や裁判例で要求されている厳密な労働時間管理ができるか、考えなければいけません。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。