Author Archives: 栗田 勇

不当労働行為9(日本工業出版事件)

おはようございます。

さて、今日は、昇進・昇格と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

日本工業出版事件(大阪府労委平成22年11月15日・労判1016号93頁)

【事案の概要】

Y社は、従業員50名をもって技術雑誌、図書の出版を行っている会社である。

X組合の組合員中Y社の従業員は、Aのみである。

平成7年4月に営業職として入社したAは、Y社大阪営業所において、会社の発行する雑誌および書籍への広告スポンサーを獲得することや雑誌および書籍を販売する業務に従事している。

平成20年4月、Y社は、平成10年4月に入社し、大阪営業所に勤務しているBを主任に昇格させたが、Aを主任に昇格させなかった。

X組合は、Aを主任に昇格させなかったことが不当労働行為にあたると主張し争った。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない。

【命令のポイント】

1 Y社における昇格制度について、Y社は、(1)業務の必要性及び業務内容等に応じ、従業員の職務遂行の応力を基準にして、当該役職に必要な資質及び適性のある従業員の昇格を、取締役会で協議の上、決定、任命していること、(2)勤務成績、やる気、向上心、協調性、コミュニケーション能力等を総合的に勘案し、昇格を決定する能力主義で運用していること、(3)営業職の評価において、営業成績の中でもとりわけ新規受注額を最も重視して評価を行っていること、が認められ、Y社における昇格制度自体、合理性が認められる

2 Y社が営業成績の中でも特に重視して評価を行っている新規受注額においても、A組合員はB主任の約4分の1以下と、極端に低いのであるから、平成18年度及び同19年度におけるA組合員の営業成績、営業活動を通しての会社への貢献度がB主任よりも高かったということはできない

3 Y社が、組合を嫌悪した結果、会社の裁量の範囲を逸脱して、A組合員を主任に消火買うさせなかったと認めることはできず、平成20年4月に、Y社がA組合員を主任に昇格させなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いであるとはいえない。

結論は妥当であると考えます。

組合が、本件のようなケースを不当労働行為として争うのであれば、せめてAとBの営業成績が拮抗してほしいところです。

会社としては、合理的な裁量の範囲で、人事権を行使すれば足り、それ以上でもそれ以下でもありません。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為8(リコー事件)

おはようございます。

さて、今日は、定年後再雇用と不利益取扱いに関する命令を見てみましょう。

リコー事件(東京都労委平成22年12月7日・労判1018号96頁)

【事案の概要】

Y社は、事務機器の製造販売を営む会社である。

Y社は、定年退職者の再雇用に関する基準を改定することとし、労使協定を締結し、就業規則も改定した。

この再雇用基準では、(1)定年前の3年間の出勤率が平均で95%以上あること、(2)業務を遂行するうえで支障がない健康状態であると会社産業医が判断すること、(3)就業規則の「懲戒事由および区分」の各号に定められている行為によって懲戒処分を受けていないこと、あるいは服務規律違反を繰り返していないこと、(4)組織活動を円滑に遂行することができる協調性があることとされていた。

組合員であるXは、Y社の従業員であるところ、平成17年4月、配転をめぐり上司とあつれきが生じ、無断外出等を理由にけん責処分を受けた。

平成20年8月、Xは定年退職したが、Y社は、Xにけん責処分歴があることなどを理由に再雇用しなかった。

Xは、Y社がXを再雇用しなかったのは、不利益取扱いにあたると主張し争った。

【労働委員会の判断】

Xを再雇用しなかったことは不当労働行為にはあたらない。

【命令のポイント】

1 Xがけん責処分を受けたのは、同人の組合加入がY社に通知された日より半年以上前であるから、けん責処分自体が不当労働行為に当たらないことは明らかである

2 Xが平成20年8月の定年退職後、再雇用されなかったのは、再雇用基準では少なくとも懲戒処分されなかったのは、再雇用基準では少なくとも懲戒処分を受けていないことが要件となっていたのに対し、同人は平成17年11月にけん責処分を受けていたことによるものである。また、会社が懲戒処分歴のある従業員を再雇用した例はない

3 したがって、他の特段の事情がない限り、Xが再雇用されなかったことをもって、組合員であることを理由に差別した不当労働行為であると認めることはできない。

結論は妥当だと思います。

継続雇用制度について、不当労働行為という視点から争われたもので、参考になりますが、事案としては、不当労働行為にあたるようなケースではありません。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為7(戸田工業事件)

おはようございます。

さて、今日は、労働協約の解約と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

戸田工業事件(山口県労委平成22年12月9日・労判1018号94頁)

【事案の概要】

Y社は、従業員約400名をもって機能性顔料事業等を営んでいる会社である。

Y社は、昭和49年、X組合との間で「社会保険料の労使負担割合を35対65とする内容の労働協約」
を締結し、労使折半を超えて社会保険料の15%をY社が補助する取扱いを全従業員に適用してきた。

平成21年3月、Y社は、X組合に対し、業績悪化を理由に本件補助を廃止し、労使負担割合を法定どおりの折半とする(手取給与は月平均1万5000円減)旨および代替措置として賞与に年間0.4か月を上乗せする(手取給与は月平均1万1000円減)旨提案した。

その後の交渉の中で、Y社は、廃止時期を先送りし、家族手当1000円の増額および保険手当(本件補助の25%相当額)の新設という代替措置(手取給与は月平均1万円減)を提案した。

これに対し、X組合は、本件補助の廃止提案の撤回を求め、本件補助の代償としては100%の別手当を要求して対立した。

その後、Y社は、給与規定の改定により本件補助の廃止を実施しようとしたところ、X組合から労働協約に違反する給与規定の改定は許されないと指摘されたことを受けて、労働協約の解約を予告した。

【労働委員会の判断】

労働協約の解約は不当労働行為にあたらない。

【命令のポイント】

1 Y社が平成21年3月に本件補助の廃止提案をした背景には、・・・平成20年度下期以降、会社の業績が急激に悪化したことに伴い、諸施策を実施していたこと、また、一般正規従業員を除いた、定年後再雇用社員、役員、執行役員及び管理職については、平成18年度以降、順次、本件補助を先行廃止していたという客観的事実が認められる

2 これらの事実からすると、経営状況の悪化に伴い、経営改善に向けた諸施策を実施して、さらなる労務費の適正化に努めていた会社が、一般正規従業員の本件補助の廃止提案をしたことには、それ相当の必要性があったと認められる。

3 Y社は、一連の労使協議の中で、順次、譲歩案を提示していったことが認められる。これに対してX組合は、本件補助の100%を別手当で支給することを求め続けたのであり、X組合が譲歩案を検討することについて言及したとはいえ、譲歩案を提示した事実はない

4 Y社は、本件労働協約の解約に先立って、社会保険事務所及び協会けんぽの担当者から、本件補助は法の趣旨に反するもので好ましくないという改善指導を重ねて受けていた。Y社はそれを是正すべく、平成21年10月から、本件補助の廃止及び会社提案による代償措置の運用を開始することを目的として、就業規則変更の手続きに移行したものであるが、その時点で、X組合の意見書により本件労働協約の存在を認識したのであるから、労働組合法第15条第3項及び第4項の規定に従ってその是正を急いだとの事情は理解できる

5 以上のとおり、Y社による本件労働協約の解約自体は、直接支配介入行為に該当するものとすることはできず、Y社が支配介入を行ったとするX組合の主張は採用できない。したがって、Y社の対応は、不当労働行為には該当しない。

妥当な結論だと思います。

会社が、代償措置として、かなりの譲歩案を提示している一方で、組合側が譲歩の姿勢をほとんど示していないことから、このような結論になりました。

なお、労働組合法15条3項、4項は以下のような規定です。

労働組合法15条(労働協約の期間)
3項 有効期間の定がない労働協約は、当事者の一方が、署名し、又は記名押印した文書によって相手方に予告して、解約することができる。一定の期間の経過後も期限を定めず効力を存続する旨の定があるものについて、その期間の経過後も、同様とする。

4項 前項の予告は、解約しようとする日の少くとも90日前にしなければならない。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為6(小堀不動産管理事件)

おはようございます。

さて、今日は、廃業後の別会社への雇用約束と不当労働行為に関する裁判例を見てみましょう。

小堀不動産管理事件(滋賀県労委平成23年1月28日・労判1020号93頁)

【事案の概要】

Y社は、平成21年3月当時、従業員3名をもって不動産の仲介および管理を行っていた。

Xは、平成16年2月にY社に採用され、平成19年4月、管理職ユニオン・関西(組合員約350名)に加入した。

平成21年1月、Y社の専務は、全従業員に対して会社を廃業すると告げ、全従業員に3月31日をもって解雇する旨通知し、同日、全従業員を解雇し、その後まもなく事業を廃止、解散登記をした。

なお、同年3月、Y社の専務は、従業員から「会社がつぶれたらどうなるのか」と尋ねられて、「Z社(Y社の社長が代表取締役をしているマンションの管理運営を行っている株式会社)で雇ってもらえるように社長に言うてみる」旨回答したが、その後、Z社での雇用は、社長の了解が得られなかったと伝えた。

労働組合は、経営悪化を理由に会社を廃業し、これに伴って組合員であるXを解雇したことが不当労働行為にあたると主張した。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない。

【命令のポイント】

1 Y社と申立組合とがさほど険悪な関係にもなっていない状況で、申立組合を排除するため、あるいはXが組合員であることを嫌悪してこれを排除するため、Y社が廃業という究極の手段を取ろうとすることは考えられない

2 専務が従業員らにZ社での雇用の話をしたとしても、同社の社長の承認がないままに明確な雇用の約束をしたとは考えられず、せいぜいが同社での雇用についての検討をする程度での話があったと認めるのが相当であり、それも結局は社長の同意が得られずに、Xを含めて従業員全員が解雇されて、同社に雇用はされなかったのであるから、Xが不利益取扱を受けたということはできず、さらにこれだけでY社の申立組合あるいは組合員排除の意思を推認することもできない

結論は妥当だと思います。

この事案で、不当労働行為に当たると判断することはかなり無理があります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為5(萬世閣事件)

おはようございます。

さて、今日は、不当労働行為に関する救済命令を見てみましょう。

萬世閣事件(北海道労委平成23年1月14日・労判1020号94頁)

【事案の概要】

Y社は、洞爺湖萬世閣、登別萬世閣等のホテルを経営しており、その従業員は544名である。

平成20年12月、Y社の従業員らは、X組合の結成大会を開催し、Aを執行委員長に選出した。

Aは、登別萬世閣の調理長を補佐する顧問職を命じられていた。

X組合はY社に団体交渉を申し入れた。

Y社は、登別萬世閣において就業規則変更のための従業員代表者選出手続の社員集会を開催した。

集会後、Y社が代表者から意見聴取を行っていたところ、Aが「ちゃんと確かめないでサインをしないのはいいのか」などと発言したため、Y社常務は、「意見があるなら、さっき質疑応答の機会に言えばよかったのではないか」と述べ、Y社社長は、「どのように思おうと自由であるが、正式な手続を踏んでいるのだから、手続を妨害するんじゃない」と発言した。

平成21年4月、Y社は、Aに対して、「顧問職というのは社長との信頼関係の上に成り立っているわけで、今、社長解任を訴えているAさんとはこの信頼関係が成り立たない。故に顧問職を解任します」と通告した。

【労働委員会の判断】

Aを調理長顧問解任により降格したことは不当労働行為にあたる。

社長らのAに対する発言は不当労働行為にあたらない。

【命令のポイント】

1 Y社側の発言が行われたのが、労働組合結成から間もない時期であるという状況を考慮しても、常務、社長の発言それ自体を、組合への威嚇ないし組合蔑視の発言と認めることはできず、法第7条第3号の不当労働行為には該当しない。

2 Aの顧問職は、直接的な人事権を持たず経営上の機密を扱うものでもないから、組合に加入して、組合活動を行うこと自体は、顧問職の立場と矛盾しない。したがって、組合対策をすべきところを行わなかったから信頼関係が破壊されたとするY社の主張は理由にならない

3 以上からすると、降格には相当な理由が認められず、会社の組合嫌悪の意思も顕著であり、Aが組合の執行委員長である立場に鑑みると、Aの降格は、法第7条第1号の組合活動を故とする不利益取扱いに当たり、同時に法第7条第3号の組合への支配介入に当たる。

妥当な結論だと思います。

法的な対策が必要なところを感情的な対策をとってしまったために、このような結論になってしまったのだと思います。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為4(日本レストランシステム(団交)事件)

おはようございます。

さて、今日は、団交拒否と損害賠償に関する裁判例を見てみましょう。

日本レストランシステム(団交)事件(大阪地裁平成22年10月28日・労判1021号90頁)

【事案の概要】

Y社は、各種レストランチェーン店の経営を業とする会社であり、従業員数は社員1000名、アルバイト従業員は約5000名である。

Xは、主として近畿2府4県において、セメント、生コン産業、トラック輸送その他の一般業種で働く労働者により組織される労働組合であり、その組合員数は約1800名である。

Xは、平成20年12月22日、Y社に対し、団体交渉を開催するよう求めた。

Y社は、同月24日、「団体交渉に応じる義務はない」と述べ、団体交渉を拒否した。

Xは、平成21年1月8日、労働委員会に対して、不当労働行為救済を申し立て、Y社に対して団体交渉応諾およびポスト・ノーティスを求めた。

労働委員会は、Y社の団交拒否を不当労働行為であると認めた。

Y社は、初審命令を不服として、中央労働委員会に対し再審査を申し立てた。

中央労働委員会は、再審査申立を棄却した。

その後、Y社は、Xに対し、再審査命令において命じられたとおりの内容の文書を交付した。

Xは、Y社に対し、団結権及び団体交渉権を侵害されたとして、損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

本件団交拒否は、不法行為をあたり、20万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Y社は社員約1000名、アルバイト従業員約5000名を抱え、レストランチェーンを手広く経営し、専門の人事部署を有する企業であり、本件団交申入れに対して速やかに対応できない事情は全く窺われない

2 Y社は、本件団交申入れに対し、当初からこれを拒否する姿勢を明確にしていた

3 Y社は、本件団交申入れにおいて示されたXからの要求事項につき、回答書において「義務のない要求事項」と述べるものの、回答書あるいはその後の電話におけるやりとりにおいて、Xに対し要求内容に関する確認を行ったり、要求事項に対する会社としての見解を公式・非公式に示すなどの措置を全くとっていない

4 Xが労働委員会に救済申立てをした後、Y社はXに対して団体交渉には応じるような素振りを見せるようにはなったが、Xの複数回にわたる団体交渉開催要請に対し、個別事項以外の交渉には応じられないとか大阪へは行けない等と述べ、速やかに団体交渉に応じようとはしなかった。

5 これらの事実によれば、本件団交申入れに対するY社の一連の対応は、Xの団体交渉権ないし団結権を不当に軽視するものとして、Xに対する不法行為を構成するというべきである

6 本件団交申入れに対するY社の不法行為によって、Xには労働組合としての団体交渉権を否定されたことによる社会的評価の低下による無形損害が発生したところ、Xの損害については、Y社が、Xによる救済申立後にようやく団体交渉に応じ、協定書の締結にまで至ったことや、Y社からの団交拒否が労働委員会において不当労働行為であると認定されたことを誠実に受け止める旨の文書の交付を受けたことにより相当程度回復されたというべきである

たいした理由もないのに、団交拒否するとこのようなことになります。

会社の対応のまずさが随所に出ています。

会社としては、団体交渉をなめてはいけません。 気をつけましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

賃金31(芝電化事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職事由による減額支給率の適否と退職金規程の不利益変更に関する裁判例を見てみましょう。

芝電化事件(東京地裁平成22年6月25日・労判1016号46頁)

【事案の概要】

Y社は、プラスチック金型等の設計・製作等を営む会社である。

X1は、昭和56年からY社の正社員として勤務してきた。

X2は、平成15年からY社との間で期間の定めのない雇用契約を締結していた者である。

Y社は、平成12年頃より経営状況が悪化し、人員削減を講じる必要が生じた。

Y社は、Xらに対し、退職の協力要請を行い、Xらは、最終的に、本要請に応じた。

Y社は、X1に対し、退職金と貸付金とを相殺することを申し出たが、Y社の示した退職金額が自主退職によるものとして計算されていたことから、Xは納得がいかず、この申し出を断った。

Xは、その後、産別労組を通じて、退職金を支払うよう求めたが、Y社は、退職金規程はすでに廃止されていることを理由に請求を拒絶した。

Y社は、Xらの退職はY社の退職金規程にいう自己都合による場合の退職金支給基準率を適用すべきである、X2は、退職金の支給がない「パートタイマー」であった、退職金規程は、平成12年に減額変更の改訂がなされ、平成19年に廃止されたと主張し、争った。

【裁判所の判断】

会社都合の場合の退職金支給基準率が適用されるべきである。

X2の退職金請求も認容。

退職金規程の改訂は無効

【判例のポイント】

1 Xらの本件退職の申出それ自体は、飽くまでも任意退職の意思表示という形式でもってされており、本件退職金規程2条3号にいう「解雇」には当たらないようにもみえる。
しかし、そもそも本件退職金規程2条3号の趣旨は、従業員の退職理由が専ら会社経営上の必要性(すなわち経営の簡素化、事業の縮小、不況による経営の悪化等による人員削減の必要性)に基因する場合には、これに理解、協力を示した従業員に対し退職金支給基準率の倍増という一種のインセンティブを付与し、その目的の達成(余剰人員の解消等)を容易なものにしようとする点にあるものと解される

2 そうだとすると同条3号にいう「やむを得ない業務上の都合による解雇」とは、一般に上記のような会社経営上の必要性に基づく解雇のことをいうにしても、これに限定されるものではなく、会社経営上の必要性(余剰人員の解消等)から従業員が任意退職を余儀なくされたような場合についても、上記「解雇」に準じ同上3号が適用されるものと解するのが相当である

3 本件退職金規程1条2項ただし書は、本件退職金規程の適用排除という重大な効果をもたらす例外規定である。したがって、同項ただし書にいう「パートタイマー」の意義については、同じく退職金規程の適用が排除される「勤続年数2年未満の者」「日雇その他の臨時職員」との関係も考慮に入れつつ、その意味内容を厳格に解すべきである
そうだとすると、同項ただし書にいう「パートタイマー」とは、単に正規従業員(正社員)と格差のある待遇を受けている従業員一般を指すものではなく、飽くまで当該雇用契約上、当該企業において正規(フルタイム)の所定労働時間(日数)よりも少ない時間(日数)で働くことが予定された、本来的な意味におけるパートタイマー労働者をいうものと解するのが相当である(パートタイマー労働者の本来的な定義につき菅野和夫「労働法」(第9版)195頁参照)。

4 そこで以上の解釈を前提に検討するに、本件全証拠を子細に検討しても、Y社がX2との雇用契約の締結に当たって、上記のような意味におけるパートタイマーとしてX2を雇い入れたと認めるに足る的確な証拠は見当たらない。

5 本件改訂退職金規程については蒲田工場(事業場)の労働者であるXらに対し当該内容を知りうる状態で置かれていたことを認めるに足る的確な証拠は見当たらず、結局、本件改訂退職金規程への改訂変更は、周知性の要件に欠けるものといわざるを得ない。

6 本件改訂退職金規程は、・・・Xら労働者に対して重大な経済的不利益を生じさせるものである上、その変更後の規定は、いささか強引かつ恣意的なものであるばかりか、既発生の退職金の額を大きく減殺させるものであり社会的相当性の点でも疑義があるといわざるを得ない。

7 Y社が廃止されたものと主張する退職金に関する規定は、飽くまで本件改訂退職金規程であって、本件退職金規程ではない。したがって、本件退職金規程の廃止がXらとの関係で全部抗弁となり得るためには、その前提としてXらの退職金請求の根拠である本件退職金規程2条が、本件改訂退職金規程によって有効に改訂変更され、その効力が本件改訂退職金規程に引き継がれていることが必要であると解される。なぜなら本件改訂退職金規程への改訂変更の効力がXらに及ばないのであれば、本件退職金規程の廃止が就業規則の不利益変更として有効であったとしても、その効力は遡って本件退職金規程2条の効力まで失効させるものではないからである。

8 本件改訂退職金規程への改訂変更は、周知性の要件だけでなく合理性の要件も欠いており、その効力はXらに対して及ばないのであるから、本件改訂退職金規程を対象とする本件退職金規程の廃止によって、本件退職金規程の効力が遡って失効するものとは解されない。

本裁判例は、全面的に従業員側が勝訴しています。

実質論と形式論のせめぎ合いがよくわかります。

勉強の題材としてとてもいい判例です。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

労災44(川崎重工業事件)

おはようございます

昨日は、すごい雨でしたね

島田の裁判所から車で帰る途中、前がほとんど見えず、怖かったです

今日は、午前中は、顧問先でK・MIXラジオの打合せです

午後は、簡裁で、民事調停1件、裁判1件、他の事務所で裁判の打合せが1件という流れです。

というわけで、あまり事務所におりません。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、精神疾患・自殺と労災に関する裁判例を見てみましょう。

川崎重工業事件(神戸地裁平成22年9月3日・労判1021号70頁)

【事案の概要】

Y社は、従前より、鉄道車両の製造の受注はしていたが、鉄道車両のみならず、電力設備、車両整備基地、軌道設備、通信・案内設備、信号・保安設備及び総合管理室等を一体とした鉄道システムを受注・納入する事業を行うことを目的として、平成9年1月、同事業の準備のため、交通システム推進部が東京本社に設置された。

Xは、昭和46年、Y社に入社し、その後、プラントビジネスセンター産機プラント部輸送空港システムグループ等で勤務した。

Xは、平成12年12月、医師の診察を受け、うつ病の診断を受けた。

Xは、その後も治療を受けながら職務を遂行していたが、平成14年5月、自宅で自殺した。

Xの妻は、Xの自殺は、過重な業務に起因するうつ病によるものであると主張した。

【裁判所の判断】

神戸東労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働基準法及び労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の死亡について行われるが、業務上死亡した場合とは、労働者が業務に起因して死亡した場合をいい、業務と死亡との間に相当因果関係があることが必要であると解される。
また、労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度業務に内在する各種の危険が現実化して労働者が死亡した場合に、使用者等に過失がなくとも、その危険を負担して損失の補填の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものであるから、上記にいう、業務と死亡との相当因果関係の有無は、その死亡が当該業務に内在する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって決せられるべきである。

2 そして、同法による労働災害補償制度が使用者等の過失の有無を問わず、業務に内在する危険が現実化したことにより、当該労働者に生じた損害を一定の範囲で填補するという危険責任の法理に依拠したものであること、また、うつ病をはじめとする精神障害の発症については、単一の病因ではなく、素因、環境因の複数の病因が関与すると考えられていること、さらに、精神障害の病因としては、個体側の要因としてのストレス半の反応性、脆弱性等もあり得ることからすれば、上記相当因果関係があるというためには、これらの要因を総合考慮した上で、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、当該災害の発生が業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したことによるものとして、これを肯定できると解すべきである。

3 業務に内在する危険性の判断については、上記の危険責任の法理にかんがみれば、当該労働者と同種の平均的な労働者、すなわち、何らかの個体側の脆弱性を有しながらも、当該労働者と職種、職場における立場、経験等の点で同種の者であって、特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準とすべきである。

4 このような平均的労働者にとって、当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発症させる程度に危険度を有しており、他方で、特段の業務以外の心理的負荷及び個体側の要因のない場合には、精神障害の発症は、まさに業務に内在する危険が現実化したものであるといえ、業務と精神障害発症及び死亡との間に相当因果関係が認められると解するのが相当である。

5 被告は、うつ病発症後の業務上の負荷については、業務起因性の判断に用いるべきではないと主張する。また、判断指針及び改正判断指針も、概ね精神障害の発症前6か月間の業務による心理的負荷について検討するとし、精神障害の発症後、自殺に至るまでの間における業務による心理的負荷を考慮していない。
しかし、例えば、業務上の負荷によりうつ病等の精神障害を発症した者が、まだ完全に行為選択能力や自殺を思いとどまる抑制力を失っていない状態において、改めて、社会通念上、平均的労働者がうつ病を発症する程度の心理的負荷を受けた結果、希死念慮を生じ、自殺を行う場合があり、そのような場合には、相当因果関係を認めるのがむしろ合理的であるといえる。そうすると、精神障害の発症後においては、業務上の負荷を、その程度にかかわらず業務起因性の判断の際の考慮要素としてはならないとする被告の主張は、採用することができない

6 平成12年7月、韓国案件を担当するようになった後のXの心理的負荷は非常に大きなものであったと認められ、その平均的負荷の強度は、判断指針によれば「Ⅱ」と評価されるが、Y社から嘱望されて再入社し厚遇を受けている以上、それに見合う実績を上げることを自他ともに期待されていたXが、失敗が許されないというだけでなく、失敗すればY社における自らの存在価値も問われかねないことが予想され、他方で、当該業務の内容は、Xが過去にY社で経験してきた製鉄関連業務とは全く異なり、ギャップを生じていたこと等からすれば、Xの負担していた業務量そのものが恒常的な長時間労働をするようなものではなかったとしても、上記の事情は、平均的な労働者にとって同様の立場に置かれた場合には心理的負荷の強度の修正要素となるというべきであり、「Ⅲ」に修正されるべきである

上記判例のポイント5は、参考になります。

また、業務起因性の判断にあたり、見落としがちな事実をしっかり拾えるか、その事実を適切に評価できるかにより、結果が変わってくるのがよくわかります。

労働時間21(レイズ事件)

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

レイズ事件(東京地裁平成22年10月27日・労判1021号39頁)

【事案の概要】

Y社は、不動産業を営む会社である。

Xは、Y社に採用され、その後、解雇された。解雇時は、営業本部長の地位にあった。

Xは、解雇後、Y社に対し、時間外・休日労働にかかる未払賃金の支払いを求めた。

これに対し、Y社は、Xが管理監督者にあたること、事業場外みなし制度が適用されることなどを主張し、争った。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を否定

【判例のポイント】

1 本件みなし制度は、事業場外における労働について、使用者による直接的な指揮監督が及ばず、労働時間の把握が困難であり、労働時間の算定に支障が生じる場合があることから、労働時間の算定に支障が生じる場合があることから、便宜的な労働時間の算定方法を創設(許容)したものであると解される。そして、使用者は、本来、労働時間を把握・算定すべき義務を負っているのであるから、本件みなし制度が適用されるためには、例えば、使用者が通常合理的に期待できる方法を尽くすこともせずに、労働時間を把握・算定できないと認識するだけでは足りず具体的事情において、社会通念上、労働時間を算定し難い場合であるといえることを要するというべきである

2 また、労働基準法は、事業場外労働の性質にかんがみて、本件みなし制度によって、使用者が労働時間を把握・算定する義務を一部免除したものにすぎないのであるから、本件みなし制度の適用結果(みなし労働時間)が、現実の労働時間と大きく乖離しないことを予定(想定)しているものと解される。したがって、例えば、ある業務の遂行に通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合であるにもかかわらず(本来、労働基準法38条の2第1項但書が適用されるべき場合であるにもかかわらず)、労働基準法38条の2第1項本文の「通常所定労働時間」働いたものとみなされるなどと主張して、時間外労働を問題としないなどということは、本末転倒であるというべきである

3 Xが従事した業務の一部又は全部が事業場外労働(いわゆる営業活動)であったことは認められるものの、Xは、原則として、Y社に出社してから営業活動を行うのが通常であって、出退勤においてタイムカードを打刻しており、営業活動についても訪問先や帰社予定時刻等をY社に報告し、営業活動中もその状況を携帯電話等によって報告していたという事情にかんがみると、Xの業務について、社会通念上、労働時間を算定し難い場合であるとは認められない
また、Xは、営業活動を終えてY社に帰社した後においても、残務整理やチラシ作成等の業務を行うなどしており、タイムカードによって把握される始業時間・終業時間による限り、所定労働時間(8時間)を超えて勤務することが恒常的であったと認められるところ、このような事実関係において、本件みなし制度を適用し、所定労働時間以上の労働実態を当然に賃金算定の対象としないことは、本件みなし制度の趣旨にも反するというべきである。

4 Y社は、Xに対し、時間外労働や休日労働を命じていない旨主張し、これに沿った証拠もある。しかしながら、Xらが出社時及び退社時にタイムカードを打刻していたことは明らかであり、そうである以上、Y社がXら勤務実態を把握していたこともまた明らかというべきである。そして、Y社は、従業員の労働管理の責任を負う使用者として、仮にXらが業務指示に反する形で勤務していたならば、その旨注意ないし指導すべきであるが、そのような事情はうかがわれないこと、Xらの時間外労働及び休日労働は恒常的なものであったと解されることをも併せ考えると、Xらは、少なくともY社による黙示の指示に基づいて業務(時間外労働及び休日労働)に従事していたものと解される。

本裁判例でも、事業場外みなし労働時間制の適用を否定しました。

会社としては、慣れないものに手を出して、やけどしないように注意しましょう。

また、時間外労働や休日労働について、会社の「黙示の指示」という認定をされています。

明示的な業務命令をしていなくとも、黙認していると、このような認定をされる場合がありますので、注意しましょう。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

管理監督者20(レイズ事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

レイズ事件(東京地裁平成22年10月27日・労判1021号39頁)

【事案の概要】

Y社は、不動産業を営む会社である。

Xは、Y社に採用され、その後、解雇された。解雇時は、営業本部長の地位にあった。

Xは、解雇後、Y社に対し、時間外・休日労働にかかる未払賃金の支払いを求めた。

これに対し、Y社は、Xが管理監督者にあたること、事業場外みなし制度が適用されることなどを主張し、争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定

事業場外みなし制度の適用も否定

【判例のポイント】

1 労働基準法41条は、同条2号に掲げる「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)には、労働時間、休憩、休日に関する労働基準法の規定を適用しない旨を定めているところ、その趣旨は、同法の定める労働時間規制を超えて活動することが、その重要な職務と責任から求められる者であり、かつ、その職務内容(権限・責任)や現実の勤務態様等に照らし、労働時間規制を除外しても、同法1条の基本理念や同法37条の趣旨に反するような事態が避けられる(労働者保護に欠けることにはならない)ということにあり、行政通達が、管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にある者をいい、その名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであるなどとしているのも、前記趣旨に沿ったものと解される。

2 そして、同通達の内容をも踏まえると、管理監督者に該当するかどうかについては、(1)その職務内容、権限及び責任が、どのように企業の事業経営に関与するものであるのか(例えば、その職務内容が、ある部門全体の統括的なものであるかなど)、(2)企業の労務管理にどのように関与しているのか(例えば、部下に対する労務管理上の決定等について一定の裁量権を有していたり、部下の人事考課、機密事項等に接したりしているかなど)、(3)その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか(例えば、出退勤を規制しておらず、自ら決定し得る権限があるかなど)、(4)管理職手当等の特別手当が支給されており、管理監督者にふさわしい待遇がされているか(例えば、同手当の金額が想定できる時間外労働に対する手当と遜色がないものであるかなど)といった視点から、個別具体的な検討を行い、これら事情を総合考慮して判断するのが相当である。

3 Xは、Y社において「営業本部長」という肩書は有しているものの、その業務内容は、基本的には営業活動であり、(宅地建物取引主任者の資格を活用する点、より重い営業ノルマ等を課されている点は別論として)他の一般社員(営業担当社員)と異なるところはなかったものと解される。

4 Xは、原則として、午前9時前後にはY社に出社して、タイムカードに打刻し、Y社を退社する際もタイムカードに打刻していたこと、Y社は週休2日制であるにもかかわらず、Xが週2日の休日を取得することはあまりなかったことが認められ、Xは勤務時間(出退勤)について自由裁量はなかったものと強く推認されるといわざるを得ない。

5 Xが部下の査定に実質的に関与していたと認めることはできない

6 Y社は、Xに支給されている報奨金等の多寡をも問題としているが、報奨金は、基本的には、従業員の立場等とは関係なく、契約を成立させた事実に対して支給されるものであり、その多寡が直ちに管理監督者性を基礎付けるものであるとは解し難い。

本裁判例では、管理監督者性の問題のほかに、事業場外みなし労働時間制の適用の有無についても争点となっています。

この点は、また別の機会に検討します。

管理監督者性の問題で、会社側の主張が通ることはほとんどありません。

理由は簡単です。

基準が厳しいことと、会社が、都合よく管理監督者と認定しすぎていることです。

裁判所の示す基準をすべてみたす管理職は、ほとんど存在しないと思います。

会社としては、この問題を放置しておくと、本裁判例のように、いつか時間外・休日労働の未払賃金を請求されたときに、多額の出費をしなければなりません。

このあたりは、実質的な損得の判断が求められています。

「訴訟リスク」「敗訴リスク」を実質的に判断しましょう。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。