Category Archives: 有期労働契約

有期労働契約116 有期雇用契約満了に伴い、新時給単価による無期契約が時給単価の変更について保留付きで締結された結果、旧単価適用の有期契約の更新が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、有期雇用契約満了に伴い、新時給単価による無期契約が時給単価の変更について保留付きで締結された結果、旧単価適用の有期契約の更新が否定された事案を見てきましょう。

アンスティチュ・フランセ日本事件(東京地裁令和4年2月25日・労経速2487号24頁)

【事案の概要】

本件は、フランス語の語学学校を運営するY社の従業員(非常勤講師)であるXらが、Y社に対し、それぞれ、旧時給表に基づく報酬を受けるべく雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め(請求1)、X1が、Y社に対し、雇用契約に基づき、平成30年4月支払分から令和2年8月分までの旧時給表に基づき算出される未払分合計181万5717円+遅延損害金の支払(請求2)、X2が、Y社に対し、雇用契約に基づき、平成30年4月分から令和2年8月分までの報酬の未払分合計112万2990円+遅延損害金の支払(請求3)、Xが、Y社に対し、雇用契約に基づき、平成31年4月分から令和2年8月分までの報酬の未払分合計109万3266円+遅延損害金の支払(請求4)、同契約上の割り当てられた講座の時間数が所定の時間を下回る場合の補償金の支払に係る合意に基づき、平成30年及び令和元年の補償金合計177万7945年+遅延損害金の支払(請求5)をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X3に対し、99万2938円+遅延損害金を支払え

Xらのその余の請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 民法629条1項は、期間の定めのある雇用契約について、期間満了後も労働者が引き続きその労働に従事し、使用者がこれを知りながら異議を述べない場合に、労働者と使用者の従前の雇用関係が事実上継続していることをもって従前と同一の条件で雇用契約が更新されたものと推定する趣旨の規定である。
しかしながら、そもそも、Y社は、本件旧各契約の期間満了後の平成30年4月1日以後のXらの報酬を新時給表に基づき算出して支払っていた上、同日以後に行われた本件組合とY社の間の団体交渉でもY社が旧時給表を適用することについて一貫して明示に異議を述べていたのであるから、Y社が、本件旧各契約について、契約期間満了後もXらが引き続きその労働に従事することを知りながら異議を述べなかったということはできない
したがって、本件旧核契約が民法629条1項により更新されたということはできない

2 Xらの行為は、その後の団体交渉の経過に照らしても、Y社による本件新無期契約の締結の申込みに対し、Xらがその重要部分である賃金の定めについて異議をとどめた上で承諾したものとして、Xらが、同申込みを拒絶するとともに、期間の定めがなく、かつ、旧時給表が適用される雇用契約の新たな申込みをしたものとみなすのが相当である(民法528条)。
そして、労契法19条の更新とは、期間の定めのある雇用契約と次の期間の定めがある雇用契約が接続した雇用契約の再締結を意味するところ、以上のようなXらの新たな申込みは、期間の定めがある雇用契約の申込みではなく、期間の定めがない雇用契約の申込みであるから、同条にいう更新の申込みには当たらないというべきである
なお、労契法19条の更新の申込みについては、使用者の雇止めに対する何らかの反対の意思表示が使用者に伝わることをもって足りると解されるものの、Xらによる申込みの内容としては、本件新無期契約と本件新有期契約の選択肢がある中であえて本件新無期契約を選択し、契約期間については受け入れるとした上で、新時給表の適用についてのみ異議をとどめていること、当時、本件組合としても旧時給表の適用がある期間の定めのない雇用契約を希望していたことからしても、期間の定めがある契約の更新の申込みの意思があったとはおよそ認められない
そうすると、本件旧各契約の更新については、Xらが、労契法19条の「有期労働契約の更新の申込み」をしたとは認められない。

労契法19条と民法における雇用に関する規定についての解釈が展開されています。

あまりお目にかからない争い方ですので、しっかりと押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。

有期労働契約115 雇止め法理の適用が否定され、雇止めが有効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、雇止め法理の適用が否定され、雇止めが有効と判断された事案を見ていきましょう。

学校法人沖縄科学技術大学院大学学園事件(那覇地裁令和4年3月23日・労経速2486号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社との間で有期雇用契約を締結し、1度の更新を経たものの、Y社から平成31年3月31日の雇用期間満了をもって雇止めをされたところ、本件雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないなどと主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件雇止め後の賃金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社ではXの業務に限らず、原則として常勤職員を抑制し、任期制職員が採用されていることはY社の財源が国費による補助金に依存していることに伴う人事上の制約に基づくものとして、やむを得ない側面があるものといえる。
また、本件労働契約が看護師としての一定の経験を有する者という特定のスキルの所持者を対象とするものであり、その賃金が年俸450万円(月額37万5000円)とXの経験・スキルに相応する金額といえることからすると、本件労働契約は、その業務が常用性を有していたとしても、Y社が雇用形態として有期雇用を選択したことに合理性を欠くとはいえない。

2 Y社のクリニックは、平成29年7月末日付けで医師不在のために閉院となり、その後、令和元年6月3日には再開したものの、再開後は予約制とされ、開院時間についても、従前の週16時間が週10時間に変更された。XはY社のクリニックの職員として雇用されたため、雇用期間中にクリニックの運営状況が縮小方向に変化したことは、契約更新時にXの雇用を継続しない合理的な理由となり得るものといえる。

3 本件労働契約においては、1回の更新がされたのみであり、かつその労働機関も通算で2年5か月にとどまり、更新後の期間はわずか5か月であり、多数回の更新や長期間の雇用継続があったとはいえず、更新回数・通算労働期間の観点からは、Xにおいて本件労働契約の更新に対する合理的な期待が生ずるものとはいえない。

上記判例のポイント1のとおり、常用性は肯定されたものの、有期雇用の選択や待遇の合理性から原告の更新に対する合理的期待を否定しました。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

有期労働契約114 中途採用者に対する当初の短期間での雇用契約が試用期間ではないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、中途採用者に対する当初の短期間での雇用契約が試用期間ではないとされた事案を見ていきましょう。

電通オンデマンドグラフィック事件(東京地裁令和2年6月23日・労経速2485号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結して就労していたXが、契約期間満了を理由に雇止めされたところ、主位的には、Y社との間で締結していた労働契約は有期労働契約ではなく、試用期間付無期労働契約であるから、期間満了により終了することはないと主張し、予備的には、仮に有期労働契約であるとしても、Y社による雇止めは客観的合理的理由を欠き、社会通念上の相当性もなく無効であると主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成31年4月から本判決確定の日までの賃金(月額22万4000円)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、被告のB取締役が採用面接の際に原告に説明したように、本件労働契約の期間は「社員試用期間」であり、「業務内容や社風などを双方で確認する」ための期間であるから、その性質は試用期間であり、本件労働契約は解約権留保付きの無期労働契約であると解されるべきであると主張する。
しかしながら、法律上、有期労働契約の利用目的に特別な限定は設けられておらず、労働者の能力や適性を判断するために有期労働契約を利用することもできると解される。
特に、本件のような中途採用の場合には、即戦力となる労働者を求めていることが少なくなく、即戦力となることを確認できた者との間でのみ正社員としての労働契約を締結するための手段として、有期労働契約を利用することには相応の合理的理由があると認められる。
したがって、労働契約において期間を定めた目的が労働者の能力や適性の見極めにあったとしても、それだけでは当該期間が契約期間なのか、試用期間なのかを決めることはできないというべきである。
期間の定めのある労働契約が締結された場合に、その期間が存続期間なのか、それとも試用期間であるかは、契約当事者において当該期間の満了により当該労働契約が当然に終了する旨の合意をしていたか否かにより決せられるというべきである。
これを本件についてみるに、XとY社は、本件労働契約においてXの地位を6か月間の期間の定めのある有期契約社員と定めていることや、本件有期契約社員規則2条が有期契約社員の労働契約において定められる期間は「契約期間」であると明記し、同規則3条が原則として「契約期間満了時には当然にその契約は終了する。」、例外的に契約が更新される場合であっても、その回数は1回に、その期間は6か月以内に限られ、「この場合も、継続的な雇用ではない。」と明確に定めていることに照らすと、原告と被告は、本件労働契約を締結するに当たり、期間の満了により本件労働契約が当然に終了することを明確に合意していたと認められる。

2 確かに、Xが正社員として雇用されることを希望して、Y社と本件労働契約を締結したことは認められる。
しかしながら、その一方で、Xは、B取締役から、本件労働契約が6か月間の期間の定めのある有期契約社員を採用するものであり、その期間は延長されることがあるものの、最長で6か月(通算で1年間)に限られると説明されたことや、Cから採用条件の説明を受けた際、「2.雇用形態 有期契約社員」、「3.契約期間 2018年4月1日から2018年9月30日まで(6ヵ月)」などと記載された本件採用条件承諾書1を交付され、これに基づいて説明を受けた上、Xにおいてこれを持ち帰って自ら改めてその内容を確認・検討する機会を得た上で、これに署名して提出し、その際、その記載内容について特段の疑問を呈することもしなかったことに照らすと、本件労働契約の期間満了後に改めて正社員として採用されるチャンスはあると思ってはいたものの、本件労働契約がその期間の満了により当然に終了すること自体は十分に認識していたというべきである。
このことは、Xが、平成30年3月14日の面談の翌日にB取締役に宛てたメールにおいて、「御社では将来的に正社員として働くチャンスがあると思い面接させて頂きました。」と述べていることからもうかがうことができる。

結論部分のみを捉えて、安易に真似をするのはやめましょう。

しっかりと事案を読むと、そう簡単に試用期間目的で有期雇用契約とすることが広く認められているわけではないことがわかります。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

有期労働契約113 1度も更新されていない場合の雇止めが有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、1度も更新されていない場合の雇止めが有効とされた事案について見ていきましょう。

アクティオ事件(横浜地裁川崎支部令和3年12月21日・労判ジャーナル122号30頁)

【事案の概要】

本件は、川崎市市民ミュージアムの指定管理者であるY社が、市民ミュージアムの副館長であったY社の元従業員Xを雇止めしたことについて、XがY社に対し、労働契約法19条2号を根拠に雇止めの無効を主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xとの本件雇用契約は一度も更新された実績がなく、Xの雇用期間もわずか1年間であって短期間にとどまっており、X以外の学芸員ら市民ミュージアム従業員との関係で雇用契約が反復更新されていた実績がない以上、Xにおいて本件雇用契約も更新されるとの合理的期待が生じる状況だったとは認められず、そして、本件雇用契約において、雇用期間の更新可否の判断基準として、「勤務成績、態度」、「能力」が明記されているのであるから、これについて問題がある場合には雇用契約が更新されない可能性があることはXにおいて十分認識可能だったといえるところ、Xは、館長から①の問題(館長に事前に報告もなく他で講演することが問題となっている旨)を指摘され、また、②の問題(市民ミュージアム及び川崎市も巻き込んで市民ミュージアムに対する信頼を失墜させる大変な問題になっている旨の指摘)のように市民ミュージアムに対する信頼を失墜させる大変な問題であるといった強い非難を受けたのであるから、Xが本件雇用契約は当然に更新されるといった期待を抱く状況にはなかったというべきであるから、Xにおいて本件雇用契約が更新されることを期待していたとしても、その期待には合理的な理由があるものとは認められず、労働契約法19条2号の要件に該当しない。

特に目新しい判断ではありません。

更新回数が少ないことや他の同種従業員の実績等から更新への合理的期待が否定されています。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

有期労働契約112 有期雇用契約に変更のあった医師の雇止めの有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、有期雇用契約に変更のあった医師の雇止めの有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

医療法人社団悠翔会事件(東京地裁令和3年3月31日・労判1256号63頁)

【事案の概要】

本件は、医療法人社団であるY社に雇用されていた医師であるXが、Y社に対し、主位的に、XとY社との間の雇用契約は期間の定めのない雇用契約であるから、Y社が同雇用契約を終了させたことは解雇であり、同解雇は解雇権を濫用したものとして無効であると主張し、予備的に、XとY社との間の雇用契約が有期雇用契約であるとしても、労働契約法19条により、同雇用契約は更新されていると主張し、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、Xは、Y社の実態を知らされることなく雇用契約を締結したため、医師としての良心に従って職務を行うことができず、正当な業務を行う機会を奪われたこと、医師として十分な労務を提供する環境が損なわれたことなどにより、精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為責任又は債務不履行責任に基づき、慰謝料及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XとY社は、Xが独立開業するまでの間の雇用契約の締結に向けた交渉をしており、本件受傷後も、Y社はXが平成28年3月からaクリニックに勤務することを望んでいたこと、XとY社が協議した結果、Xは、同月は、週4日の半日勤務とし、同年4月以降の勤務については、同年3月の勤務状況を踏まえて相談することになり、本件雇用契約が締結されたこと、本件内定同意書及び本件雇用契約書には、「契約期間を1か月単位で更新」との記載があることが認められる。
これらの事情を考慮すると、Y社は、本件受傷後も、Xが独立するまでの1年程度の間、Xの症状を踏まえながら、本件雇用契約を1か月単位で更新していくことを想定しており、Xもそのような認識であったということができるから、Xには、本件雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったということはできる。

2 Xは、専門医、指導医等の資格を有する医師として、半日勤務で日給5万円という待遇で中途採用されており、高い資質や能力が期待されていたこと、更新の上限は、独立開業するまでの約1年間と考えられていたこと、本件受傷後、Xには、病状悪化による緊急受診や入院加療を理由に、訪問診療に従事できなくなるおそれがあり、Xの症状を踏まえながら、1か月単位で契約の更新を検討するものとされていたこと、実際に契約が更新されたのは1回であることが認められる。これらの事情を考慮すると、Xの本件雇用契約の更新に対する合理的期待の程度は、高いものとはいえない
そして、Xの担当する訪問診療は、通常、2週間に1回の割合で実施されており、その前提で薬も処方されており、施設の看護師等の勤務予定も訪問診療日を踏まえて調整していることから、訪問時には、患者や施設に次回の診療日を伝える必要があるところ、Xは、4月勤務表で勤務日とされた日に、自らの通院を理由に勤務しなかったり、F氏に対し、自らの通院後でなければ予定を立てることができないとの理由で、5月の勤務日を伝えなかったというのであるから、このようなXの対応は、Y社や訪問先の施設の業務に支障を及ぼす不適切なものであったということができる。
また、Xが、患者本人や家族からの希望聴取や十分な説明を行わないまま、治療方針を決定又は変更したことが原因で、患者の入所する施設から被告に対して相談や苦情が複数寄せられたことが認められる。このようなXの対応は、Y社の考える在宅医療の理念とは相容れないものであるが、患者や施設は、Y社の理念に基づく訪問診療を期待して、Y社に訪問診療を依頼していることからすると、このようなXの患者等への対応は、Y社の勤務医としては、評価することのできない対応であったといわざるを得ない。
さらに、Xは、平成28年3月25日、Y社から4月分雇用契約書を交付されたが、同年4月27日の時点においても、これをY社に提出していなかったというのであるから、このようなXの対応は、本件雇用契約の更新手続に協力的ではなかったということができる。
以上のとおり、Xの本件雇用契約の更新に対する合理的期待の程度が高いとはいえない中で、Xの勤務状況や患者等への対応に問題が見られ、契約更新手続に対しても非協力的であったことからすると、Y社において、これらの事情を考慮した上で、本件雇用契約を更新しないと判断したことは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる。

有期雇用契約であっても、本件のように丁寧に雇止めの合理的理由を主張立証しなければいけません。

どれだけ裏付けをとれるかによって裁判所の判断が大きく変わりますので、日頃の準備がとても大切なのです。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

有期労働契約111 更新上限規定に基づく雇止めが無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、1年の有期雇用契約を相当回数更新してきた職員への5年の更新上限規定に基づく雇止めが無効とされた事案を見ていきましょう。

放送大学学園事件(徳島地裁令和3年10月25日・労経速2472号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で契約期間を平成29年4月1日から同30年3月31日とする期間の定めのある労働契約を締結したXが、同年4月1日からの契約更新の申込みをしたにもかかわらず、Y社から、これを拒絶されたことに関し、上記労働契約には、労経速19条各号の事由があり、同拒絶が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとも認められないから、上記労働契約は、同条により、同日以降、更新されたものとみなされ、同31年4月1日からは、同法18条により、期間の定めのない労働契約に転換したと主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記労働契約が更新されたとみなされる同30年4月1日以降の賃金に関し、民法536条2項に基づき、同年5月から、毎月17日限り、未払賃金10万9620円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 本件雇止めは、本件上限規定を根拠にされたものであるところ、本件上限規定は、平成24年法律第56号による労契法の改正(平成25年4月1日施行)への対応として定められたものであると認められる。
ところで、上記改正後の労契法18条は、雇用関係上労働者を不安定な立場に立たせる有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、安定的な雇用である無期労働契約に移行させることで雇用の安定を図ることを目的とするものであるが、本件上限規定に係る本件決定は、上記労契法改正をきっかけとして、無期労働契約への転換が生じた場合に被告の財政状況がひっ迫するということを主な理由として、主に人件費の削減や人材活用を中心とした総合的な経営判断に基づき、更新上限期間を5年と定めたと説明されるにとどまり、Y社における有期労働契約の在り方やその必要性、本件決定がされるまでに相当回数にわたって契約更新されて今後の更新に対する合理的な期待が既に生じていた時間雇用職員の取扱いに関して具体的に検討された形跡はない。
そうすると、本件上限規定は、少なくとも、本件決定がされた平成25年当時、Y社との間で長期間にわたり有期労働契約を更新し続けてきた原告との関係では、有期労働契約から無期労働契約への転換の機会を奪うものであって、労契法18条の趣旨・目的を潜脱する目的があったと評価されてもやむを得ず、このような本件上限規定を根拠とする本件雇止めに、客観的に合理的な理由があるとは認め難く、社会通念上の相当性を欠くものと認められる。

2 以上に対し、Y社は、本件雇止めの時点におけるY社の経営状態等からすると、本件雇止めには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上の相当性もある旨主張し、人件費削減計画、図書室業務の減少計画などの経営上の必要性を指摘する。
しかし、Y社が、本件雇止めに合わせて、平成30年1月頃から、Xの後任者を公募し、現に後任者を雇い入れていることからすると、同年3月の時点において、本件雇止めをせざるを得ない経営状態であったとは到底認められない
また、被告が特に指摘するのは、Xが有期労働契約から無期労働契約へ転換してしまうことによる経済的負担であり、このことが、平成24年法律第56号により改正された労契法18条の趣旨・目的に照らし、その改正及び施行時点において既に相当回数にわたり有期労働契約を更新してきた原告を雇止めすることができる理由とはならないことは、上記のとおりである。
以上によれば、本件雇止めは、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上の相当性があるとは認められない。

上記判例のポイント1で述べられている無期転換を認めると会社の財政状況が逼迫するという主張は、実はほとんど根拠がありません。

無期転換後の労働条件は、正社員のそれと同一にする必要まではありませんし、労働契約の解消の面でもそれほど大きな違いはありません(有期雇用なら簡単に解雇・雇止めができるというのは完全に誤解です。)。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

 

有期労働契約110 無期転換直前の雇止めの適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、無期転換直前の雇止めの適法性に関する裁判例を見てみましょう。

日本通運(川崎・雇止め)事件(横浜地裁川崎支部令和3年3月30日・労判1255号76頁)

本件は、Y社との間で期間の定めのある雇用契約(最初の雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはない旨の条項が付されていた。)を締結し、4回目の契約更新を経て勤務していたXが、Y社に対し、Y社が当初の雇用契約から5年の期間満了に当たる平成30年6月30日付けでXを雇止めしたことについて、①上記条項は労働契約法18条の無期転換申込権を回避しようとするもので無効であり、Xには雇用継続の合理的期待があった、②同雇止めには客観的合理性、社会通念上の相当性が認められないなどと主張し、Y社による雇止めは許されないものであるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同契約に基づく賃金請求権に基づき、上記雇止め後である同年8月25日から毎月25日限り月額賃金26万9497円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件においては、通常は労働者において未だ更新に対する合理的期待が形成される以前である本件雇用契約締結当初から更新上限があることが明確に示され、Xもそれを認識の上本件雇用契約を締結しており、その後も更新に係る条件には特段の変更もなく更新が重ねられ、4回目の更新時に、当初から更新上限として予定されたとおりに更新をしないものとされている
また、Xの業務はある程度長期的な継続は見込まれるものであるとしても、b配送センターの事業内容や従前の経営状況に加え、Xの担当業務の内容や本件雇用契約上の更新の判断基準等に照らせば、Xの業務は、顧客の事情により業務量の減少・契約終了があることが想定されていたこと、Xの業務内容自体は高度なものではなく代替可能であったことからすれば、恒常的とまではいえないものであった。
加えて、b配送センターにおいて就労していた他の有期雇用労働者はXとは契約条件の異なる者らであった。その他、Y社横浜支店において不更新条項が約定どおりに運用されていない実情はうかがわれない
このような状況の下では、Xに、本件雇用契約締結から雇用期間が満了した平成30年6月30日までの間に、更新に対する合理的な期待を生じさせる事情があったとは認め難い

2 労働契約法18条は、有期契約の利用自体は許容しつつ、5年を超えたときに有期雇用契約を無期雇用契約へ移行させることで有期契約の濫用的利用を抑制し、もって労働者の雇用の安定を図る趣旨の規定である。このような趣旨に照らすと、使用者が5年を超えて労働者を雇用する意図がない場合に、当初から更新上限を定めることが直ちに違法に当たるものではない。
5年到来の直前に、有期契約労働者を使用する経営理念を示さないまま、次期更新時で雇止めをするような、無期転換阻止のみを狙ったものとしかいい難い不自然な態様で行われる雇止めが行われた場合であれば格別、有期雇用の管理に関し、労働協約には至らずとも労使協議を経た一定の社内ルールを定めて、これに従って契約締結当初より5年を超えないことを契約条件としている本件雇用契約について、労働契約法18条の潜脱に当たるとはいえない
したがって、同法の潜脱を前提とする公序良俗違反の原告の上記主張は理由がない。

雇用契約締結当初から更新回数の上限を設定し、かつ、例外的な運用をしていない場合には、本裁判例のように雇止めは有効と判断されます。

契約更新の途中でこれをやると逆の結論になりますので注意しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

有期労働契約109 雇止めが不法行為に該当するとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、雇止めが不法行為に該当するとされた事案を見ていきましょう。

社会福祉法人特別区人事・厚生事務組合社会福祉事業団事件(東京地裁令和3年5月26日・労経速2465号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのある雇用契約を締結していたXが、Y社による違法無効な雇止めにより精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料300万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、50万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件雇止めは無効であるところ、無効な雇止めが直ちに不法行為に該当するとはいえないが、本件雇止めについては、契約更新に対する合理的期待は高かったというべきであり、雇止めの態様を見ても、Y社は、Xに本件雇止めの理由として看護師の過員という明らかに合理性のない理由を告げた後、Xに書面の交付を求められるや、雇止めの理由について「事業団の運営事業の経営状況により判断する。」という本件規則上の根拠条文を掲記するのみで具体的な理由が記載されていない文書を交付するという不誠実な対応に終始しているのであるから、本件雇止めは不法行為に該当するというべきである。
そして、相当期間Y社に貢献してきたXが本件雇止めにより精神的苦痛を被ったことは明らかであり、Xが、本件雇止めの無効及び雇用継続を前提とする賃金請求や、逸失利益として賃金相当額の損害賠償請求を行っていないという事情に照らすと、本件においては精神的苦痛に対する慰謝料の支払を命ずるのが相当であり、その額は、これまで検討してきた事情のほか、不法行為後の事情としてY社がXから本件雇止めが無効である旨の通知を受けるや早期に復職の提案をしてXの心情に配慮したことなど本件によって認められる諸般の事情を総合的に考慮すると、50万円と認めるのが相当である。

解雇や雇止め事案で、地位確認+バックペイという構成ではなく、慰謝料一本ということはあまりありませんが、本件では、慰謝料のみ請求したため、結果としては、このような少額の支払を命じられています。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

有期労働契約108 有期雇用契約途中の解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、有期雇用契約途中の解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ローデンストック・ジャパン事件(東京地裁令和3年7月28日・労判ジャーナル117号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で有期雇用契約を締結していたXが、Y社に対し、Y社による有期雇用期間途中の解雇は無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、雇用契約に基づく未払賃金等の支払を求めたほか、Y社による違法、無効な解雇により精神的苦痛を受けたとして、不法行為に基づき、慰謝料200万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、C社長から令和元年7月23日付けメールのようなメールを送信しないよう業務命令を受けていたにもかかわらず、自己の考えに固執して故意に複数回にわたってこれに反する行為に及んでおり、Y社の管理部長としての資質を欠くものといわざるを得ず、Xには就業規則所定の解雇事由に該当すると認められ、また、XはY社との間で期間を5年間とする定年後再雇用契約を締結しており、本件解雇の時点で2年6か月以上の雇用期間を残していたため、Y社は、他部署への配置転換や雇用期間の満了まで賃金を受領しつつ自宅待機とするという雇用の継続を前提とした提案をしたが、Xがこれに応じないばかりか、その後、Y社がXに対して自宅待機命令を発し、その間も賃金の支払を継続することにしたにもかかわらず、それでもなおXは業務命令に反して同年9月6日付けメールを送信したため、Y社はこれ以上Xの雇用を継続することはできないとして本件解雇に踏み切っており、このような点に照らせば、Y社としてXの雇用の継続のために可能な限りの努力をしたにもかかわらず、Xを解雇せざるを得なかったといえるから、労働契約法17条所定の「やむを得ない事由」があったというべきであるから、本件解雇は有効である。

雇用期間満了までお金あげるから会社に来なくていいとまで言われております。

有期雇用契約ですので、無期雇用契約に比べると解雇のハードルが高いですが、それでもここまでの事情があれば、裁判所もさすがに解雇を有効と判断してくれます。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

 

有期労働契約107 定年後再雇用時の労働契約更新と労契法19条2号(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年後暫定的な労働条件で1年再雇用後、契約更新時に新条件の合意の不成立による雇止めを無効とした裁判例を見ていきましょう。

Y社事件(広島高裁令和2年12月25日・労経速2462号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、Y社がXとの間の雇用契約を終了させたのは解雇に当たり、同解雇には正当な理由がないとして、①XがY社との間の雇用契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、②(ア)主位的に、判決言渡しの日まで毎月10日限り1か月31万1554円の割合による給与の支払を、(イ)予備的に、上記の雇用契約上の地位にあることの確認と判決言渡しの日まで毎月10日限り1か月19万9000円の割合による給与の支払を求めた事案である。

原審は、Xの上記①及び②(イ)の請求を一部認容し、XがY社との間で労働契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに、Y社に対し、657万1072円等をXに支払うよう命じ、その余の請求をいずれも棄却した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】(原審判断)

1 確かに年齢を重ねることで、一定の年齢からは能力が落ちるにも関わらず、長期間勤務することで、給与は上昇するのみである場合もまま見られ、定年退職後の再雇用においては、定年退職時の給与を基礎として、減額した給与での契約とするというのは一定の合理性があるといえるが、そもそも、本件継続雇用契約の時点でXの定年退職時の給与の6割程度の給与としているもので、本件提案は、その給与をさらに減額するというもので、許されるべきではないし、上記の事情による勤務条件の変更と勤務場所の変更はなんら関連性はなく、定年退職後の再雇用ということで、変更できる条件とはいえないとするのが相当である。

定年退職後、嘱託社員になる際に、正社員の給与から大幅に減額される取扱いについても、同一労働同一賃金との関係では当然に許されるものではありませんが、それはさておくとしても、本件のように、契約更新の際、賃金減額を許容する理屈は存在しません。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。