有期労働契約119 雇止め後、使用者が動産の撤去等を行ったことが違法として、動産の引渡し、損害賠償請求が認容された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、雇止め後、使用者が動産の撤去等を行ったことが違法として、動産の引渡し、損害賠償請求が認容された事案を見ていきましょう。

学校法人乙ほか(損害賠償請求等)事件(大阪高裁令和5年1月26日・労経速2510号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との労働契約に基づきY社が運院するQ大学の専任講師として勤務していたXが、Y社から労働契約の期間満了による終了の通知を受け、その効力を争っていたところ、Y社らから、Xが占有使用していた研究室の占有を侵奪され、同研究室に置いていたX占有に係る動産も撤去されたとして、
(1)本件研究室を占有し上記動産を所持するY社に対し、①本件研究室の占有権に基づく占有回収として本件研究室の引渡し及び②原判決別紙動産目録記載の本件動産の占有権に基づく占有回収として本件動産の引渡しを求めるとともに、
(2)共同して上記占有侵奪行為をしたY社らに対し、上記占有侵奪行為が違法であるとして、Y2、Y3、Y4については同法709条、719条に基づき、Y2及びY3の使用者であるY社については民法715条1項に基づき、損害賠償として慰謝料100万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

原審は、XのY社に対する(1)②本件動産の引渡請求を認容するとともに、(2)損害賠償請求を慰謝料5万円+遅延損害金の支払を求める限度で認容したが、その余の請求は棄却した。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、別紙物件目録記載の建物部分を引き渡せ。

2 Y社は、Xに対し、別紙動産目録記載の動産を引き渡せ。

3 Y社らは、Xに対し、連帯して20万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xが施錠された本件研究室内に相当量の動産を保管して同室を占有していることは容易に想定されていたのであるから、その占有が労働契約に伴い開始されたものであり、仮にその契約がXの主張にかかわらず期間満了により終了したというべきであったとしても、物の所持者が明確に拒否しているにもかかわらず、その占有を奪うことが違法となり得ることは見やすい道理であり(例えば窃盗罪の保護法益は占有である。)、Xが加入していた本件組合やX代理人弁護士らからも事前に同様の警告等を受けていたことを考えれば、Y2及びY3において、弁護士であるY4と相談の上適法であるとの見解が得られたというのみでは、過失がなかったということはできない

2 Y4が、法律専門家である弁護士としてY社による違法な自力救済の実行を容易にした点につき過失があったことは明らかというべきである。なお、Y4が、Y社において本件研究室使用の必要性が高い状況にあり、自力救済も許されるとの誤った判断に至ったものであるとしても、対立するX代理人弁護士らから既に自力救済の違法性を強く警告されていた状況に照らせば、少なくとも、法的手段として、いわゆる明渡断行の仮処分命令の申立て(民事保全法23条2項)が検討対象となるべきであったと考えられるが、Y4が、Y社に対して、そのような提案をしたことがないことはもとより、検討を行ったことを窺わせる事情すらない。
したがって、Y4が、弁護士として代理人の立場で関わったにとどまるとしても、Y4もまた、本件動産の撤去行為等を幇助したものとして、民法719条2項に基づき、共同不法行為者とみなされ、他の3名と連帯してXに対する損害賠償責任を負うというべきである。

冷静に考えればわかることかと思いますが、その場の雰囲気から突発的に不適切な判断をしてしまうことは否定できません。

しっかり法的手続きをとるということが大切です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。