Category Archives: 継続雇用制度

継続雇用制度15(東京大学出版社事件)

おはようございます。

今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

東京大学出版社事件(東京地裁平成22年8月26日・労判1013号15頁)

【事案の概要】

Y社は、東京大学における研究とその成果の発表を助成し、又は民間出版社において採算上刊行を引き受けないような優良学術図書の刊行、頒布等の事業を行い学術の振興、文化の向上に寄与することを目的とする財団法人である。

Xは、Y社の従業員として、編集局に所属し、学術書・教科書等の編集に携わったが、平成21年3月31日に定年退職した。

Y社には、再雇用契約社員就業規則があり、定年退職者の再雇用の条件として、健康状態が良好であり、再雇用者として通常勤務できる意欲と能力がある者等と規定されている。

しかし、Y社では、高年法9条2項にいう「継続雇用制度の対象となる高年齢者にかかる基準を定める労使協定」は締結されていなかった。

Xは、Y社所定の手続きに従って定年後の再雇用を求めたところ、Y社は、従来のXの勤務状態からすると、誠実義務および職場規律に問題があり、再雇用として通常勤務できる能力がないとしてこれを拒否した。

Xは、本件再雇用拒否は、正当な理由を欠き無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた。

【裁判所の判断】

本件再雇用拒否は無効であるとして、再雇用契約の成立を認めた。

【判例のポイント】
1 法は、継続雇用制度の導入による高年齢者の安定した雇用の確保の促進等を目的とし、事業者が高年齢者の意欲及び能力に応じた雇用の機会の確保等に努めることを規定し、これを受けて、法附則は、事業者が具体的に定年の引上げや継続雇用制度の導入等の必要な措置を講ずることに努めることを規定していることによれば、法は、事業主に対して、高年齢者の安定的な雇用確保のため、65歳までの雇用確保措置の導入等を義務づけているものといえる。また、雇用確保措置の一つとしての継続雇用制度(法9条1項2号)の導入に当たっては、各企業の実情に応じて労使双方の工夫による柔軟な対応が取れるように、労使協定によって、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、継続雇用制度の措置を講じたものとみなす(法9条2項)とされており、翻って、かかる労使協定がない場合には、原則として、希望者全員を対象とする制度の導入が求められているものと解される

2 以上のとおり検討した法の趣旨、再雇用就業規則制定の経過及びその運用状況等にかんがみれば、同規則3条所定の要件を満たす定年退職者は、Y社との間で、同規則所定の取扱及び条件に応じた再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するものと解するのが相当であり、同規則3条所定の要件を満たす定年退職者が再雇用を希望したにもかかわらず、同定年退職者に対して再雇用拒否の意思表示をするのは、解雇権濫用法理の類推適用によって無効になるというべきであるから、当該定年退職者とY社との間においては、同定年退職者の再雇用契約の申込みに基づき、再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。

3 ・・・上記判示の事情にかんがみれば、再雇用拒否理由の事実をもってしても、Xには、職務上備えるべき身体的・技術的能力を減殺すほどの協調性又は規律性の欠如等は認められず、再雇用就業規則3条(2)所定の「能力」がないと認めることはできない。

4 以上によれば、本件再雇用拒否は、Xが再雇用就業規則3条所定の要件を満たすにもかかわらず、何らの客観的・合理的理由もなくなされたものであって、解雇権濫用法理の趣旨に照らして無効であるというべきである。そうすると、Xは、再雇用就業規則所定の取扱い及び条件に従って、Y社との間で、再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するというべきであるから、Xの再雇用契約の申込みに基づき、X・Y社間において、平成21年4月1日付けで再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。
したがって、XがY社に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることが認められる。

本件は、これまでの裁判例とは異なり、再雇用拒否に対し、解雇権濫用法理を類推適用し、継続雇用を認めました。

とうとう出ましたね。

労働者側からすれば、画期的な判例です!

本件では、再雇用就業規則の解釈として、Y社において再雇用就業規則の解釈として、Y社において再雇用就業規則が制定された経緯(組合に対して、再雇用を希望する定年退職者を排除的に運用しないと説明したこと等)や、実際のY社における運用状況(これまで再雇用を拒否した例がないこと等)など固有の事情も考慮されています。

とはいえ、高年法9条の私法上の効力を認める結論となっています。

当然のことながら、Y社は、控訴しています。

高裁の判断が注目されます。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

継続雇用制度14(JALメンテナンスサービス事件)

おはようございます。

今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

JALメンテナンスサービス事件(平成22年4月13日・判時2089号154頁)

【事案の概要】

Y社は、航空機整備用工器具類の受払、貸出及び保管に関する事業等を目的とする会社であり、「JMS」と略称されることがある。

X1は、Y社に、57歳で入社し、X2は、54歳で入社し、それぞれ羽田事業所で器材サービス部器材グル―プに所属して、上記工器具類の受払、貸出等の業務を担当していた。

Y社では、従業員は、60歳(定年)までが一般職、定年後65歳までが嘱託社員、それ以上が特別嘱託社員と扱われている。

Xらは、Y社との間で、特別嘱託雇用契約を締結した。

Y社は、Xらを、特別嘱託雇用の更新をする予定はなく、契約期間満了により終了させると通告し、雇止めをした。

Xらは、特別嘱託社員についてもXらの希望に応じて雇用契約が更新されるという労使慣行が存在する、この慣行は雇用契約の内容になっていたのであり、仮にそうでなくても、Xらは雇用契約が更新されることについて合理的期待を有していたものであり、雇止めは無効であると主張した。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 労使慣行とは、労働条件等について就業規則等の成文の規範に基づかない一般的取扱い等が長い間反復・継続して行われ、それが使用者と労働者の双方に対して事実上の行為準則として機能するものをいう。
このような取扱い等が、その反復・継続によって雇用契約の内容となっているというべき場合には、その取扱い等には労働契約の効力が認められる。

2 Y社は、平成15年から17年にかけてのころ、エイジフリーの実現等を積極的に広報して就業者の上限年齢を撤廃し(再雇用期間を67歳までに限定することを見直した)、そのころ、特別嘱託社員を増員している。
しかし、従業員には、特別嘱託社員として再雇用されなかった者や、再雇用されても67歳までに退職した者も少なくないし、特別嘱託社員数は、平成18年以降減少に転じており、現在は全社で3人にすぎない。そうだとすると、時間の長短は相対的なものではあるが、3年程度の間に生じた事実によって、ただちに「一般的取扱い等が長い間反復・継続して行われた」とまで認めることはできない

3 特別嘱託社員は、60歳定年後さらに5年経過後の、原則として6か月間の有期雇用契約にすぎず、従業員には特別嘱託社員として再雇用されない者もあり、されたとしても67歳に達する前に退職した者も少なくない。
このような事実によれば、上記期待は、Xらの主観的なものにすぎず、Y社に契約更新(ないし新たな再雇用契約の締結)を事実上義務付けるような強い効果を有するものとは認められない。

この事案は、労使慣行に関する裁判例として区分すべきでしょうが、継続雇用制度のグループに入れておきます。

この裁判例では、労使慣行の存否について、上記判例のポイント1のように定義づけました。

菅野先生の基本書を参考にしたものと思われます。

労使慣行は、そう簡単には認められません。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

継続雇用制度13(NTT西日本(継続雇用制度・徳島)事件)

おはようございます。

今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

NTT西日本(継続雇用制度・徳島)事件(高松高裁平成22年3月12日・労判1007号39頁)

【事案の概要】

Y社に雇用されていたXらが、Y社において定年とされていた60歳を迎え、退職するに至ったことに関し、Y社が高年法9条1項に基づきXらの定年(60歳)後の雇用を確保すべき義務に違反して何らの措置も採らず、Xらを定年退職させたことが債務不履行または不法行為に該当するとして、Y社に対し、損害賠償等の支払いを求めた。

【判例のポイント】

1 Y社の事業構造改革に伴い導入された雇用形態・処遇選択制度につき、Y社の労働者がその選択によりY社と密接な関係を有する地域会社において年金支給開始年齢に達するまで継続して雇用されることを保障したものといえ、高年法9条1項2号所定の継続雇用制度に該当する

2 従来の定年後再雇用制度(キャリアスタッフ制度)の廃止は、定年退職者の再雇用の雇用制度の廃止であって、社員の労働条件に直接影響を及ぼすものではなく、Y社にXらを再雇用すべき義務が生じていたとも認められない。

3 上記2の点を置くとしても、本件キャリアスタッフ制度廃止は、Y社の構造改革の一環として、本件制度の導入と同時に実施されたものであって、本件制度には導入の必要性があり、また多数組合との間で合意が成立していること、本件制度においては、社員に選択の機会があり、転籍後の賃金が地場賃金の水準を下回ることはなく、激変緩和措置等も講じられ、勤務地も限定されるといった利益も存する等、不利益の程度も著しいものとはいえないことを考慮すると、キャリアスタッフ制度の廃止は合理性を有する。

本件は、NTTの構造改革の一環として実施された転籍および定年後の再雇用制度が、高年法9条1項2号の継続雇用制度に該当するか、従来の定年後再雇用制度の廃止が就業規則の不利益変更にあたるか等が争点となっています。

Xらの請求は、いずれも棄却されました。

本件と関連する事件としては、NTT西日本(高齢者雇用・第1)事件NTT東日本事件などがあります。

やはり、この分野は、なかなか従業員にとって厳しい判断がされています。

いずれ流れが変わるときがくると思いますが・・・。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

継続雇用制度12(協和出版販売事件)

おはようございます。

今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

協和出版販売事件(東京高裁平成19年10月30日・労判963号54頁)

【事案の概要】

Y社は、書籍の取次業務を業とする会社である。

Y社は、従来55歳定年としてきたが、平成10年5月移行、改正後の高齢者雇用安定法の施行に伴い、60歳定年とし、併せて55歳に達した翌日から嘱託社員としてそれまでの従業員賃金とは別の給与体系とした。

Xは、Y社の従業員である。

Xは、就業規則の変更による55歳到達以降の大幅な給与減額は、就業規則の不利益変更にあたり無効であると主張し、本来支給されるべき賃金額と実際に支給された賃金額との間の差額等を請求した。

【裁判所の判断】

請求棄却(一審も同様)

【判例のポイント】

1 本件就業規則の変更は、定年を延長する面でも、55歳から60歳までの賃金の面でも、退職金の面でも、従業員に不利益に変更された点はなく、就業規則を不利益に変更したものということはできない。
→最高裁における就業規則の不利益変更に関する判断基準によって、変更の法的効力を判断すべき場合ではない。

2 就業規則が、使用者と労働者との間の労働関係を規律する法的規範性を有するための要件としての合理的な労働条件を定めていることは、単に、法令または労働協約に反しない(労基法92条1項)というだけではなく、当該使用者と労働者の置かれた具体的な状況の中で、労働契約を規律する雇用関係についての私法秩序に適合している労働条件を定めていることをいうものと解するのが相当である

3 高齢者雇用安定法では、定年延長後の雇用条件について、延長前の定年直前の待遇と同一にすることは定められておらず、賃金等の労働条件については、基本的に当事者の自治に委ねる趣旨であったと認められるが、同法に従って延長された定年までの労働条件が、具体的状況に照らして極めて苛酷なもので、労働者に同法の定める定年まで勤務する意思を削がせ、現実には多数の者が退職する等、高年齢者者の雇用の確保と促進という同法の目的に反するものであってはならないことも、雇用関係についての私法秩序に含まれる。 

本裁判例は、本件就業規則の変更は不利益変更にあたらず、就業規則不利益変更法理の適用もないと判断しています。

これに対し、第四銀行事件(最二小判平成9年2月28日・労判710号12頁)は、年間賃金の減額を伴う55歳から60歳への定年延長を定めた就業規則の変更は、既得の権利を消滅、減少させるというものではないが、実質的にみて労働条件を不利益に変更するに等しいとし、就業規則不利益変更法理を適用しています

この点については、また別の機会に検討してみたいと思います。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

継続雇用制度11(宇宙航空研究開発機構事件)

おはようございます。

さて、今日は、継続雇用制度に関する興味深い裁判例を見てみましょう。

宇宙航空研究開発機構事件(東京地裁平成19年8月8日・労判952号90頁)

【事案の概要】

Yは、宇宙航空分野における研究開発の事業を営む独立行政法人である。

Yには、定年退職者等を招聘職員として再雇用する制度がある。

Xは、Yの従業員として「宇宙オープンシステムの研究開発」に従事してきた。

Xは、平成17年2月、満60歳に達し、同年3月31日をもって定年退職した。

Yは、同年2月28日、Xに対し、再雇用の要件である「従前の勤務成績が良好な者」を満たさないことを理由に、定年退職後の再雇用をしない旨通告した。

Xは、「Yにおいて、定年退職後、特別の結核事由のない限り、本人が希望すれば従前と同一の条件を持って再雇用するという労働慣行があるにもかかわらず、再雇用されなかったのは不当である」として、地位確認等を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却。

【判例のポイント】

1 Yにおいては、再雇用を拒否している実績があること、本件再雇用制度の趣旨、独立行政法人であるYの置かれている立場から、希望者全員を従前と同一の条件で再雇用する意思を予め一般的に表示しているとは考え難い。

2 ただし、Xは、当然に再雇用されるものと思い込んでいて、再就職活動をしないまま定年退職の直前を迎え、わずか1か月前に再雇用しない旨の通告を受けたものあって、定年退職後の再就職に差し支えたことが窺えるから、高年齢者雇用安定法等の趣旨に鑑みれば、もっと事前に予告する等の配慮が望まれる

再雇用の要件を満たさないことが明らかになった時点で、できるだけ早めに従業員に伝える方が、再就職活動はしやすくなります。

結論に影響はありませんが、もう少し配慮が必要であったという判断です。

ちなみに、裁判所が、Xのことを以下のように評価しています。

Xは、本件証拠調べの経緯からも明らかなとおり、やや人の話を聴かず、その結果思い込みの強い傾向が窺え、これがYにおける研究内容に関する自己主張の強さ、固さにも表れているところと解される。この点が是正されない限り、招聘職員として再雇用したとしても、Yが期待する業務推進は期待できないのであるから、Yにおいて、人事考課結果を踏まえ、Xを招聘職員として再雇用しない旨判断したことはやむを得ない判断であったものと思料する。

本人尋問でのXの様子が垣間見えます。

Xの代理人としては、まさかこのような評価をされるとは思っていなかったのではないでしょうか・・・。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

継続雇用制度10(日本ニューホランド事件)

おはようございます。

今日は、久しぶりに継続雇用制度に関する裁判例を見ていきましょう。

日本ニューホランド事件(札幌地裁平成22年3月30日判決・労判1007号26頁)

【事案の概要】

Y社は、農業用機械器具の販売および輸出入業務等を目的とする会社である。

Y社は、平成18年4月、定年退職者の再雇用制度を設けた。

Xは、Y社の従業員であり、平成20年9月に定年(60歳)退職した。

Y社には、Xを中央執行委員長とするA組合(Y社と対立路線を歩む)と、多数派組合のB組合(Y社と協調路線を歩む)があり、両組合は、別個に、Y社と団体交渉を行ったり、労働協約を締結していた。

Xは、Y社に対し、再雇用を希望すると申し出たが、Y社は再雇用できないと通知した。

Y社がXの再雇用を拒否した理由は、以下の3点。
(1)本件再雇用制度は、B組合と合意のうえ、所定の手続を経て実施しているが、A組合およびXは、本件再雇用制度に反対している

(2)本件再雇用制度は、就業規則の変更によって設けられたものであるが、A組合およびXはこの就業規則の変更は不利益変更であり無効であるとして同規則の有効性を争い、裁判所も同規則はA組合およびXには適用されない旨判示している(*1)から、本件再雇用制度はXに適用されない
(*1)なお、XらA組合に所属する従業員は、この就業規則の変更について、同規則の効力を争う訴訟を提起し、勝訴している。

(3)仮に本件再雇用制度がXに適用されるとしても、Xは、本件規程の再雇用可否の判断基準のいずれにも該当しないから、再雇用の対象とならない

Xは、本件再雇用拒否は、A組合を敵視していたY社が、Xに報復するために行ったもので、権利の濫用または不当労働行為に該当し無効であり、仮にXとY社の間に再雇用契約が成立したとは認められないとしても、本件再雇用拒否は債務不履行(再雇用義務の不履行)または不法行為に該当するなどと主張し、第1次的請求として雇用契約上の権利を有することの確認ならびに未払賃金の支払いを、第2次的請求として損害賠償等の支払いを、それぞれ求めた

【裁判所の判断】

1)本件再雇用制度はXに適用されるか?

本件再雇用制度は、Y社の全従業員に対して適用される。

2)適用される場合、本件再雇用拒否は権利の濫用または不当労働行為に該当して無効か?

権利の濫用に該当する。

しかし、再雇用契約が成立したと認めることはできない。

3)本件再雇用拒否は債務不履行または不法行為に該当するか?

不法行為に該当する。

4)Xの損害額は?

損害額は500万円、弁護士費用は50万円

【判例のポイント】

1 1)について

本件再雇用制度は、Y社の全従業員にとって有利な制度であることが明らかであること等からすれば、当然に(Xを含む)Y社の全従業員に対して適用される。

2 2)について

再雇用契約は、Y社を定年退職した従業員がY社と新たに締結する雇用契約であり、雇用契約において賃金の額は契約の本質的要素であるから、再雇用契約においても当然に賃金の額が定まっていなければならず、賃金の額が定まっていない再雇用契約の成立は法律上考えられない。

そして、Y社は、Xとの再雇用契約締結を拒否しており、再雇用契約における賃金の額について何らの意思表示もしていないのであって、仮に本件再雇用拒否が無効であるとしても、XとY社の間で締結される再雇用契約における賃金の額が不明である以上、XとY社との間に再雇用契約が成立したと認めることはできない。

3 3)について

本件再雇用拒否はそれまでY社と対立路線を歩んできたXに対いて不利益を与えることを目的としてなされたものと強く推認され、そのような目的でなされた本件再雇用拒否は権利の濫用に該当し、かつ不法行為にも該当する。

この判決でも、やはり再雇用契約の成立が否定されています。

ただ、このケースでは、裁判所は、再雇用拒否の権利濫用性を認め、不法行為に基づく損害賠償請求を認めています。

損害額は、500万円です。

これは、再雇用拒否の違法性の程度、再雇用契約が締結された可能性の程度、再雇用契約が締結された場合にXが取得できたと推認される経済的利益の額およびその額を取得することができなくなったことによるXの精神的苦痛の程度等を総合考慮して判断されました(民訴法248条参照)。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

継続雇用制度9(NTT東日本事件)

おはようございます。

NTT東日本事件(東京地裁平成21年11月16日判決・判時2080号131頁)

【判例のポイント】

1 高年齢者雇用安定法9条1項に私法的強行性はない。

2 同法9条2項の継続雇用制度は、65歳までの安定した雇用機会の確保という同法の目的に反しない限り、各事業主がその実情に応じ、同一事業主に限らず、同一企業グループ内での継続雇用を図ることを含む多様かつ柔軟な措置を講ずることを許容していると解すべきであり、その場合の賃金、労働時間等の労働条件についても、労働者の希望や事業主の実情等を踏まえた多様な雇用形態を容認していると解するのが相当である。

というわけで、これまでの下級審判決と同じです。

確かに、法律の解釈からすると、普通にいけばこのような判断になると思います。

この点に関し、大阪市立大学名誉教授西谷敏先生は、以下のように述べています

「高年齢者の雇用を実効的に保障するために、高年法そのものの改正も必要である。
 まず何よりも必要なのは、高年法9条1項に違反した場合の法律効果を明記することである。使用者が9条1項に定めるいずれの措置もとらない場合には、65歳定年制をもうけたものとされるべきである。また、継続雇用制度における選択基準が違法である場合や、継続雇用が不当に拒否された場合に、労働者が労働契約上の地位確認を請求しうることが明記されるべきである。これらのことは、現行法の解釈としても認められると考えるが、それを否定する裁判例が多い状況下で、そのことを明文化することに大きな意味がある。」(季刊・労働者の権利285号13頁)

個人的には、現行法の解釈としては難しいと思います。

立法的に解決すべきだという点は、賛成です。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

継続雇用制度8(ブックローン事件)

おはようございます。

今日取り上げるのは、ブックローン事件(東京地裁平成22年2月10日判決・労判1002号20頁)です。

この事件は、直接的には、不当労働行為性が問題となっているケースです。

【事案の概要】

会社は、60歳を定年とし、継続雇用制度を採用していた。

会社には、3つの労働組合があり、いずれも過半数組合ではない(つまり、組合はいずれも労使協定の締結資格がない)。

そこで、会社は、過半数代表との間で、労使協定を締結し、選定基準を設けた。

継続雇用の具体的な手続きとしては、従業員は、定年到達日の3か月前までに継続雇用希望の申込みを行い、会社と協議すると流れ。

ここからが問題。

組合の1つが、会社に対し、度々、継続雇用制度を交渉課題として団体交渉を申し入れたが、会社は、一度もこれに応じなかった。

会社の言い分は、次のとおり。
「組合には、継続雇用に関する労使協定の締結資格がないから、団体交渉をしても無意味である」

また、組合員の1人は、会社の継続雇用制度に異議があるとして、継続雇用希望の申込みをしなかったため、この従業員は、定年退職となった。

①組合は、会社の団交拒否は、労組法7条2号の不当労働行為にあたる、
②定年退職となった従業員は、会社が継続雇用の措置をとらなかったことが同法1号または3号の不当労働行為にあたる、
として、大阪府労委に救済申立てをした。

府労委は、①については不当労働行為と認めたが、②については認めなかった。

その後、当事者双方から再審査の申立てがされたが、中労委は、いずれも棄却した。

そのため、当事者双方が中労委命令の取消しを求め、提訴した。

【裁判所の判断】

①は、不当労働行為にあたる。

②は、不当労働行為にあたらない。

【判例のポイント】

1 ①について
 会社が組合との間で、継続雇用に関する労使協定などや就業規則における継続雇用規定に定める基準よりも組合員にとって有利な基準を労働協約で別個に定めることは何ら妨げないのであるから、組合に労使協定の締結資格がないことが、団交拒否の正当な理由とはならない。

2 ②について
 従業員は、継続雇用規定に基づく継続雇用希望の申込みをしなかった結果、定年退職となったものであるから、会社が継続雇用しなかったことは不当労働行為にはあたらない。

以下、感想。
①については、会社側が労働組合法、高年齢者雇用安定法の解釈を誤ったと言わざるを得ません。

②については、上記事実関係からすれば、裁判所の判断は妥当。

この従業員が継続雇用制度に異議がありつつも、継続雇用希望の申込みをしていたとしたら、どうなっていたか?

できることならば、申込みだけはしておいてほしかったところ。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

継続雇用制度7(過半数代表の適格性・選出方法)

おはようございます。

今日は、労使協定の当事者についての話です。

労使協定の一般的な話ですので、継続雇用制度に限った話ではありません。

労使協定の労働者側当事者は、

1 「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合

2 1のような労働組合がない場合は、「当該事業場の労働者の過半数を代表する者」です。

労働組合が優先される理由は、労働組合の方が過半数代表よりも、労働者の利益をより有効に代表するであろうという判断によります。

なお、1の「労働者の過半数を組織する労働組合」とは、当該事業場を単位に組織された労働組合(事業所別組合)や当該事業所における支部組織である必要はありません。企業全体を単位とする企業別労働組合や企業外の単一組合であっても構いません。

では、2の過半数代表の適格性・選出方法ですが、この点については、労働基準法施行規則が平成10年に改正されており、同規則6条の2第1項は、過半数代表者について、以下の2点を要求しています。

①「法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと

②「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること

トーコロ事件(最二小判平成13年6月22日労判808号11頁)は、労基法上のいわゆる三六協定の締結をめぐり、親睦団体の代表者が自動的に過半数代表になることはできないと判示しています。

労基法施行規則との関係でいえば、②の要件をみたしていませんよ、ということです。

過半数代表と労使協定を結ぶ場合には、上記①、②をみたしているかに注意しましょう。

へたしたら労使協定そのものが無効になってしまいます。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

継続雇用制度6(京濱交通事件)

おはようございます。

継続雇用制度に関し、問題となった事件をもう1つ紹介します。

京濱交通事件(横浜地裁川崎支部平成22年2月25日判決・労判1002号7頁)です。

【事案の概要】

会社(タクシー会社)は、で、定年を60歳とし、再雇用制度を採用していた。

従業員は、タクシー乗務員として勤務していたが、会社の就業規則に定める再雇用基準を満たしていないことを理由とする再雇用を拒否された。

会社の各事業所のいずれにも労働者の過半数で組織する労働組合はなかった。

継続雇用制度の導入にあたり、労働者の過半数を代表する者は選出されておらず、会社が労働者側に対し、労働者の過半数代表者を選出するように要請したこともなかった。

会社は、「複数の労働組合の全組合員数の過半数との間で協定を結べば労使協定として有効に成立する」という労使慣行に則って協定を結んだと主張した。

再雇用を拒否された従業員は、再雇用拒否が無効であるなどと主張して、会社に対し、労働契約上の地位確認等を求めた。

【裁判所の判断】

請求認容(確定)

【判例のポイント】

1 会社には、労働者の過半数で組織する労働組合がなかった以上、高年齢者雇用安定法9条2項により継続雇用制度の導入措置を講じたとみなされるためには、各事業所ごとに全労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)との書面による協定により制度対象者の基準を定めて制度導入することが必要である。

2 会社において過半数代表者は選出されておらず、会社がなした労働者の過半数に満たない複数の労働組合との労使協定をもって制度導入に当たっての労使慣行として有効であるとはいえず、同法9条2項の要件を満たしていない。

結局、文言解釈をしたということです。
会社側代理人としても、なかなか厳しいところだったと思います。

過半数代表の適格性・選出方法についての問題は、最高裁判例(トーコロ事件)があります。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。