Category Archives: 名誉毀損

名誉毀損23 管理組合の役員12名及び本件管理会社の従業員3名に宛てて送信したメールの内容が公然性を欠くため名誉毀損には該当しないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合の役員12名及び本件管理会社の従業員3名に宛てて送信したメールの内容が公然性を欠くため名誉毀損には該当しないとされた事案(東京地判令和3年9月14日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告Y1に対し、同被告が送信した電子メールによって原告の名誉権及び名誉感情が侵害され、また、同被告が警察に対して原告から暴力を受けたとの虚偽の通報をしたことなどにより名誉・自尊心を害され、人格権を侵害されたことにより精神的苦痛を受けたとして、不法行為による損害賠償請求として、慰謝料等合計121万6000円+遅延損害金の支払を求め、被告Y2に対し、同被告が送信した電子メールによって原告の名誉権及び名誉感情が侵害されたとして、不法行為による損害賠償請求として、慰謝料等合計60万8000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1  ある表現が他人の社会的評価を低下させるとして名誉毀損による不法行為が成立するには、事実の摘示等の表現行為が不特定又は多数の者が知り得る状態で公然とされることが必要と解される。
これを本件についてみるに、本件メールは、いずれも、当時の本件管理組合の役員12名及び本件管理会社の従業員3名に宛てて送信されたものであり、これが閲読可能な者は特定かつ少数の者に限られている
また、本件メールは、本件管理組合の理事会ないし本件管理会社の担当者が、原告から理事会ないし理事長たる被告Y1に対して提出されていた要望事項等に関し、B副理事長が原告と面談した際の状況も踏まえて、その対応方針等を電子メールで協議、検討していた際に被告Y1ないし同Y2から発信された電子メールの一部であり、その性質上外部へ公表することが予定されたものとはいえないこと、本件管理会社の3名の従業員がその業務の一環として受信した本件メールを不特定多数の者に漏出させることは考え難いこと、その他の12名の受信者についても、本件メールは理事会の業務の一環として受信したものであり、守秘義務を定めた本件管理組合に係る規約の存在やメールの内容及び性質等に照らし、慎重な情報管理が求められるものであること、原告が本件メールの内容を認識するに至ったのは、本件メールの受信者の一人であるCが、原告との関係が良好であったことなどからこれを原告と共有したにすぎず、本件各証拠に照らしても本件メールの内容が本件マンションの住人に広く知れ渡った様子はうかがえないことなどからすると、本件メールやその内容が上記15名から他人へと漏出して不特定多数の者に伝播する可能性は乏しいものであったということができる。
そうすると、被告らによる本件メールの送信は公然と行われたものとは認められないから、その余の点について検討するまでもなく、本件メールの送信行為につき原告の名誉を毀損する不法行為が成立する旨の原告の主張はいずれも理由がない。

2 原告は、本件メールの内容はその名誉感情を侵害するとも主張するが、仮にそのように評価し得るものだとしても、本件メールは原告に宛てられたものではなく、前記で検討したところに照らしても、本件メールによる原告の名誉感情の侵害につき、被告らに故意ないし過失があるものとは認められない
よって、その余の点について検討するまでもなく、名誉感情の侵害を理由に被告らの不法行為責任の成立を主張する原告の主張はいずれも理由がなく採用できない。

冒頭の名誉毀損の要件について、裁判所がどのような事実に着目してあてはめをしているのかをチェックしましょう。

区分所有建物においては、本件同様の名誉毀損事案が比較的多く発生しますので、要件を認識しておくことはとても大切です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損22 理事から解任することを求める文書をマンションの全居住者に配布した行為が名誉毀損にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事から解任することを求める文書をマンションの全居住者に配布した行為が名誉毀損にあたらないとされた事案(東京地判令和3年10月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、静岡県熱海市内にある本件マンション管理組合の理事であった原告が、本件マンションの居住者である被告に対し、被告が、①原告を理事から解任することを求める文書を本件マンションの全居住者に配布させたことが原告に対する名誉毀損による不法行為を構成し、また、②本件マンション管理組合の総会において、原告を理事から解任する旨の決議を不当に主導したことも原告に対する不法行為を構成するとして、上記各不法行為に基づき、損害金合計220万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件記事1が、本件マンションの大浴場の更衣室に設置されたプラスチック製の脱衣篭に関し、これを籐の脱衣篭にしてほしいとの多数の本件マンションの居住者の希望を本件理事会が拒否したとの虚偽の事実を述べることで、原告を含む本件理事会の役員が本件マンションの居住者にとって都合が悪い人物との印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させると主張する。
しかし、本件記事1は、多数の本件マンションの居住者から籐の脱衣篭にしてほしいとの意見があることなどを指摘した上で、本件理事会としてはもっと居住者の声に真摯に耳を傾ける姿勢等が求められるといった、本件理事会の在り方についての意見又は論評を表明しているものであって、原告が主張するような事実を摘示しているものとはいい難い
そして、本件理事会の役員が原告を含めて7名であったことからすれば、本件記事1を含む本件各記事は、いずれも本件理事会の理事であった原告についても述べているものとは理解し得るものの、原告を含む本件理事会の役員個人について明示的に言及しているものではなく、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば、本件記事1の意見又は論評の内容が原告の社会的評価を低下させるものとは認められない
また、①本件記事1は、本件理事会の役員の解任理由として述べられたものであり、その内容についても、人身攻撃に及ぶといった解任理由の摘示として不相当な表現を用いているものとは認められないこと、②本件記事1を含む本件各記事の配布範囲は、本件マンションの居住者に限られていること、③本件記事1を含む本件各記事が原告についても述べているものと理解することはできるものの、明示的に原告を対象とした記載とはなっていないことを総合考慮すれば、本件記事1の意見又は論評の表明は、不法行為の成立要件としての違法性を欠くものというべきである。
したがって、本件記事1について名誉毀損による不法行為は成立しない。

2 原告は、本件記事2が、禁煙を徹底させようとした本件理事会の行動に関し、それが本件マンションのイメージを低下させるという誤解を与えることで、本件マンションの居住者に対して本件理事会について悪い印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させると主張する。
しかし、本件記事2は、本件理事会による少数のクレームに対する過度の対策についての懸念といった意見又は論評を表明しているものであり、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば、本件記事2の内容が原告の社会的評価を低下させるものとは認められない
また、本件記事2についても、本件理事会の役員の解任理由として述べられたものであり、その内容も解任理由の摘示として不相当な表現を用いているものとは認められないこと、その他本件各記事について判示したところを併せ考慮すれば、本件記事2の意見又は論評の表明についても、不法行為の成立要件としての違法性を欠くものというべきである。
したがって、本件記事2について名誉毀損による不法行為は成立しない。

意見・論評が名誉毀損に該当するかについては、多分に評価的要素が含まれているため、一般の方が事前に判断することは容易なことではありません。

過去の裁判例に照らすことによって、だいたいの線引きができるようになります。

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名誉毀損21 虚偽内容の電子メール送信や文書配布により名誉や信用を毀損されたことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、虚偽内容の電子メール送信や文書配布により名誉や信用を毀損されたことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和3年11月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件本訴は、原告が、被告に対し、被告による虚偽内容の電子メール送信や文書配布により、名誉ないし信用を毀損されたなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

本件反訴は、被告が、原告に対し、原告による虚偽内容の発言等及びメール送信により、名誉を毀損され、又は名誉感情を侵害されたなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

なお、被告文書は以下のとおりである。

①被告は、令和元年10月3日、原告を含めた本件管理組合の理事会役員16名に対し、「X理事長は責任をA所長に転嫁しています。極めて卑劣な理事長です。私がB前理事長を突き飛ばしたとX理事長が断言した証拠も説明ないで無視しています。これでも当マンションの理事長と言えますか。」「理事会の会話録音を独断で文書化したり、エレベーター前の会話を独断で文書化したり、私が理事会に提出した要望書を理事会で審議しないで受理を拒絶しようとしたり、本件の通知書を独断で作成して通知する等、おおよそ理事長に相応しくない対応をしています。それでも皆さんはX理事長を擁護しますか。責任が重大になります。この独裁的な理事長を許さないでください。」と記載された電子メール(被告文書等1)を送信した。
②被告は、令和元年12月8日、原告を含む本件管理組合の理事会役員16名に対し、「組合員がいつでも閲覧できる議事録に虚偽の記載をしたことは名誉毀損の犯罪行為です。」「X理事長は区分所有法25条2項に規定している『管理者の職務に適しない理事長』です。」などと記載された文書(被告文書等2)を配布した。
③被告は、令和元年12月12日、原告を含む本件管理組合の理事会役員16名に対し、「X理事長は、不正が行われたことを全て葬ろうとしています。」などと記載された文書(被告文書等3)を配布した。
④被告は、令和元年12月30日、本件マンションの全戸に対し、「私個人を名指しでアンケートを取ったことは犯罪行為だと思います。」「今期(第13期)のX理事長と理事会の役員らも、不正の実態を承知しているにもかかわらず闇に葬ろうとしています。」「議事録に記載した説明は虚偽であることが分かりました」などと記載された文書(被告文書等4)を配布した。
⑤被告は、令和2年1月11日、本件マンションの全戸に対し、「X理事長は、私が投函した文書に反論する文書を配布しました。」と題する文書(被告文書等5)を配布した。

【裁判所の判断】

本訴・反訴ともに棄却

【判例のポイント】

1 被告文書等1の記載内容のうち、原告ないしその行為に関して記載された内容はいずれも抽象的なものであり、全体として原告の理事長としての行為ないし振る舞いについての被告の意見ないし論評を述べるものというべきである。
そして、被告文書等1には「極めて卑劣」など、原告に対する否定的な内容もみられるものの、被告の個人的な意見等を述べるものであることに照らせば、原告の社会的評価を低下させるとまでは認められない。
また、被告文書等1の内容及び表現振り等が意見ないし論評として著しく不適切とまではいえず、意見等の表明としての域を逸脱するとまではいえない

2 被告文書等2の記載内容のうち、「組合員がいつでも閲覧できる議事録に虚偽の記載をしたことは名誉毀損の犯罪行為です。」との記載は、「D巡査部長が本件の問題を認めなければ、議事録に掲載したことは虚偽記載になります。」との記載に続くものであり、これらを全体としてみれば、議事録の記載の真偽及びこれが真実でない場合に関する被告の意見ないし評価を述べたものというべきである。また、「X理事長は区分所有法25条2項に規定している『管理者の職務に適しない理事長』です。」などの記載についても、その内容に照らし、被告の意見ないし評価を述べたものというべきである。
そして、被告文書等2には、原告の理事長としての適性等に対する否定的な内容が含まれているが、被告の個人的な意見等を述べるものであることに照らせば、原告の社会的評価を低下させるとまでは認められない。
また、被告文書等2の内容及び表現振り等が意見ないし論評として著しく不適切とまではいえず,意見等の表明としての域を逸脱するとまではいえない

いずれも上記のとおり、意見ないし論評として著しく不適切とまではいえず、意見等の表明としての域を逸脱するとまではいえないという理由で名誉毀損には該当しないとされました。

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名誉毀損20 原告が同和であるなどと発言するなどして原告の名誉を毀損したとの主張が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、原告が同和であるなどと発言するなどして原告の名誉を毀損したとの主張が認められなかった事案(東京地判令和4年2月3日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告及び被告らは、平成31年2月当時、本件マンション管理組合の役員を務めていた。
本件は、原告が、被告らに対し、被告らが、原告が同和であるなどと発言するなどして原告の名誉を棄損したと主張して、不法行為(民法709条、719条1項)による損害賠償請求権に基づき、連帯して慰謝料及び弁護士費用相当額の合計230万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【裁判所の判断】

1 Bは、平成30年冬から平成31年2月中旬頃までは、被告らと共に、原告を本件組合の理事から退任させようとする行動に出ていたが、その後、原告と共に被告Y2の発言(明白なものは後記(2)である。)を問題視するような態度をとるようになったこと、被告Y2が同和差別主義者である旨の匿名のインターネット掲示板への投稿をした者の発信者情報は、Bの住所地に本店を置く株式会社bであり、同社の代表取締役Iは、Bと共にc株式会社の代表取締役であること、原告は、Bの娘と共に、令和元年5月31日、d株式会社の取締役に(原告は併せて代表取締役にも)就任し、同社には上記Iも取締役として在任していたことが認められる。
このように、平成31年2月中旬以降、Bが原告に接近して、被告Y2の発言を問題視するなどの行動をとり、原告とBの親族や共同経営者が共に会社の役員を務める関係にあることや、B自身が原告と現在は友人関係にある旨供述していること(証人B)に照らすと、Bの上記陳述ないし供述の信用性は慎重に検討する必要がある

2 Cは、被告Y2の上記発言を聞いたのは、不特定多数の者がいた場所ではなく、CとBの前であったという記憶である旨供述していることに照らすと、Cの供述やCがBに対して送信したメッセージから、被告Y2が原告主張に係る発言をしたと認めることはできない。
また、被告Y2は、Bとの間のメッセージのやり取りでは同和という表現を用いていたが、その一方で、被告Y1、B及びCとの間のメッセージのやり取りには、原告を本件組合の理事から退任させようとするなどの打合せをする一方で、同和という表現を用いた部分は見当たらないから、被告Y2が日常的に、同和という表現を用いていたと認めることはできず、被告Y2がBに対して送信したメッセージから、原告主張に係る被告Y2の発言を推認することはできない。
さらに、平成30年2月10日及び同月12日の飲食に同席したEは、原告主張に係る被告Y2の発言を聞いたことがないと供述する。同月10日の飲食の席には、本件組合の役員ではないEの同居人(米国籍(証人E))も出席していたことに照らすと、原告が主張しBが供述するように、原告を本件組合の理事から退任させるための相談がされ、その過程で、被告Y2が原告主張に係る発言をしたとは、にわかに認め難い。
このように、原告の主張に沿うBの陳述ないし供述を裏付けるに足りる証拠がない上、被告Y2の発言に関するBの陳述ないし供述とは食い違う供述が存在し、会合の少なくとも一部については、その出席者の状況に照らし、被告Y2が原告主張のような発言に及ぶとは認め難いことに照らすと、Bの上記陳述ないし供述は、全体としてにわかに採用できない。そして、他に、原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

証人と原告との関係等から供述の信用性を認めず、請求を棄却した事案です。

解釈に依拠する部分が多いので、裁判官により判断が分かれる可能性があります。

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名誉毀損19 原告らが怪文書投函事件の実行者である旨を指摘する行為は、原告らの社会的評価を低下させる行為といえるが、真実性・公共性・公益性が認められるため違法性が阻却されるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、原告らが怪文書投函事件の実行者である旨を指摘する行為は、原告らの社会的評価を低下させる行為といえるが、真実性・公共性・公益性が認められるため違法性が阻却されるとされた事案(東京地判令和4年2月9日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合の理事又は理事であった原告らが、理事である被告Y1、被告Y2及び被告Y3、本件マンションの管理会社の担当社員である被告Y5並びに本件マンションの区分所有者の妻である被告Y4に対し、被告Y1らが、本件マンション内で起きた怪文書投函事件の犯人が原告らであると印象付けるような発言をしたり、被告Y5がそのような記載のある文書を配布したりするなどして原告らの名誉を棄損したことや、被告Y4が本件マンションの規約に反する犬を飼育し、原告X1に恐怖感を与えたことなど、別紙2の番号欄1ないし11記載の各請求対象行為欄及び具体的内容欄記載の不法行為を行ったとして、損害の賠償+遅延損害金の支払及び名誉回復措置として本件マンションの全区分所有者に対する謝罪文の配布と主要な日刊新聞に対する別紙1記載の謝罪広告の掲載を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件怪文書の内容は、本件管理組合の理事の活動に対して、私物化であるとして強い口調で非難し、議案の否決を扇動するものであって、作成名義人は「aマンション正常化推進委員会」と記載されているものの、匿名の書面である。
このような内容の書面を、本来部外者が立ち入りできない場所に立ち入って投函する行為は、本件マンション内の平穏を乱す行為であって、本件マンションの住民の中には、投函者に対し非難の目を向ける者も相応にいるのではないかと考えられ、その意味で、原告らが怪文書投函事件の実行者である旨を指摘する行為は、原告らの社会的評価を低下させる行為であるといえる。

2 ・・・以上の認定によれば、被告Y1及び被告Y5において、怪文書投函事件の実行者が原告らである旨の理事会での発言や、これを理由の一つとする原告X2の理事の解任議案が記載された本件招集通知の発送、被告Y1による原告X2の解任決議案の上程、説明及び進行において原告らが怪文書投函事件の実行者である旨の説明は、いずれも真実であると認めることができる
そして、本件怪文書の投函行為が、前述のとおり、本件マンション内の平穏を乱す行為であることからすると、被告Y1及び被告Y5の行為は、いずれも公共の利害にかかわる事実の公表であって,もっぱら公益を目的とする行為であると認められる。

3 本件要望書の内容は、原告X2が不必要に威圧的な行為を行う者であるとの印象を与える者であることを示すものといえ、原告X2の社会的評価を低下させるものといえる。
一方、本件要望書中には、原告X1についての言及もあるものの、原告X1が被告Y4とその愛犬をジロジロと見ているといったことや、原告X1と原告X2が知り合いであることを示している程度であって、原告X1の社会的評価を低下させる記載であるということはできない。
そして、本件要望書は、原告X2が本件管理組合の理事であることから、本件管理組合の理事としてふさわしくないとの要望を伝える趣旨のものであって、本件マンションの居住者から、本件管理組合に対する要望行為として相当な行為であるというべきであって、これに伴い理事の社会的評価にかかわる事項が記載されることもやむを得ないものといえ、原告X2の受忍限度を超える表現であるということはできないから、違法性を有しないというべきである。

このような事案においては、まずは名誉毀損の要件事実をしっかり押さえておくことがとても重要です。

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名誉毀損18 名誉を毀損する内容の書面内に口外をしないように求める文面が記載されているだけでは伝播可能性は否定されないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、名誉を毀損する内容の書面内に口外をしないように求める文面が記載されているだけでは伝播可能性は否定されないとされた事案(東京地判令和4年2月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告が原告について虚偽の事実を記載した文書をマンション内の77戸の郵便ポストに投函したことにより名誉を毀損され、精神的苦痛を被ったと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料150万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、15万円を支払え。

【判例のポイント】

1 本件表現は、原告について、「二重人格の障害者です」、「彼女の解離性同一性障害(は)……ほぼ、間違いないと思います。」と述べるものであるから、それが記載された本件文書を本件マンションの約15戸に配布することは、原告の社会的評価を低下させ、名誉を毀損するものであり、不法行為に該当することは明らかである。
これに対し、被告は、本件文書は、特定かつ少数、すなわち、本件マンションの約15戸の本件組合の役員経験者等に限定して配布されたものであること、本件文書には内容を口外しないように求める旨の記載があることから、本件文書の配布により原告の社会的評価は低下しないと主張する。
しかし、本件マンションの約15戸もの世帯に対する本件文書の配布が、「少数」の者に対する文書の配布であるとはいえない。
また、その点を措いてみても、本件文書内に口外をしないよう求める旨を記載していることのみをもって本件表現が伝播する可能性は否定されないから、本件文書の配布によって原告の社会提起評価が低下する危険性があることは否定できない。

2 被告は、本件文書の配布は、本件組合の理事長としての地位を有しない原告が、理事長としての権限を行使して本件組合等に財産的損害を与えるのを防ぐ目的でやむを得ずしたものであり、正当防衛が成立すると主張する
しかし、仮に、本件組合等に財産的損害を与えるのを防ぐ目的で文書を配布するのであれば、原告が本件組合の理事長の地位を有しないことなどを記載すれば足り、原告の名誉を毀損する内容の本件表現を記載する必要性はいささかも認められない
したがって、本件文書の配布について、やむを得ずした行為として正当防衛が認められる余地はなく、被告の上記主張は採用することができない。

口外をしないように求める旨を記載しているだけでは伝播可能性は否定されませんのでご注意ください。

また、本件の事情を見る限り、正当防衛の主張が通らないことは言うまでもありません。

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名誉毀損17 理事が理事長について「手の付けられない傍若無人ぶり」、「理事長の蛮行」、「指揮官の私物化強権体質」、「強権支配」、「業者との癒着構造」等と記載したビラをマンションの全住戸に配布したにもかかわらず名誉毀損にはあたらないとされた理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事が理事長について「手の付けられない傍若無人ぶり」、「理事長の蛮行」、「指揮官の私物化強権体質」、「強権支配」、「業者との癒着構造」等と記載したビラをマンションの全住戸に配布したにもかかわらず名誉毀損にはあたらないとされた理由とは?(東京地判令和4年2月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの全住戸に配布された合計3通のビラに関し、同マンション管理組合の理事長を務めていた原告が、本件各ビラはいずれも本件組合の理事を務めていた被告らが配布したものであり、これによって原告の名誉が毀損されたと主張し、被告らに対し、民法719条1項に基づき、慰謝料と弁護士費用の合計220万円+遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、民法723条に基づき、名誉回復措置として本件マンションの掲示板への謝罪文の掲示を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告と被告Y1及び被告Y3は、本件組合の第38期理事会が進めていた本件大規模修繕工事の計画内容に反対し、理事長や理事会に対して批判的なビラを作成して本件マンションの全住戸に配布するなどしていたが、やがて原告と被告Y1及び被告Y3の反対方針にずれが生じ、ともに本件組合の第39期理事になった後は、互いに批判的な内容のビラを作成して本件マンションの全住戸に配布するようになっていたこと、とりわけ被告Y1や被告Y3は、第39期理事会で決まったことに反対する旨の被告ら名義のビラを作成して全戸配布していたこと、そのため、令和2年7月頃には、被告らのビラ配布行為に批判的な本件マンションの住民が現れ(署名入りの者だけでも48名)、同年12月頃には、本件組合の理事に対して被告らがビラを全住戸に配布することにうんざりする旨訴えていた住民がおり、そのことが定例理事会で話題になったこと、以上の事実が認定できる。

2 そうすると、同年11月6日頃に原告が本件排水管工事を早急に実施することを内容とするビラを本件マンションの全戸に配布したことに対し、これを批判する被告ら名義の同月13日付の本件ビラ1、同年12月4日付本件ビラ2及び同月11日付本件ビラ3が本件マンションの全住戸に配布され、本件各ビラに、本件排水管工事に関する記載のほかに、原告について「手の付けられない傍若無人ぶり」、「指揮官の強引さと横暴ぶりには唖然とせざるを得ません」、「理事長の蛮行」、「指揮官の私物化強権体質」、「理事長の専横」、「強権支配」、「業者との癒着構造」、「業者と理事会幹部の危なっかしい癒着構造」、「管理会社と次期幹部が仕組んだ総会議決の転覆不正契約」などの記載があったとしても、本件各ビラを受け取った本件マンションの住民は、被告らが様々な理由にかこつけて本件組合の理事長である原告の理事会運営等に対して従前と同様の批判を繰り返しているとの印象を抱くにとどまるといえるから、本件各ビラによって改めて原告の社会的評価が低下したということはできない
また、仮に本件各ビラが本件マンションの住民以外の者に拡散されたとしても、本件各ビラの体裁からして、それを読んだ者は「本件組合内部の本件大規模修繕工事に関する意見の対立から本件組合の理事会による運営方針等に反目する被告らが理事会を批判するために理事長である原告をあしざまに言っているのであろう」という程度の印象を抱くにすぎないといえるから、本件各ビラによって原告の社会的評価が低下したということはできない。
したがって、本件各ビラの一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とした場合、本件各ビラの意味内容が原告の社会的評価を低下させるものということはできず、本件各ビラの配布行為が原告に対する名誉毀損に当たるとはいえない。

一見すると名誉毀損に当たることは明らかなようにも見えますが、上記判例のポイント1のような事情から、社会的評価を低下させるものとはいえないと判断しています。

このような判断もあり得るのだと知っておくことが大切です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損16 管理規約に違反して民泊行為を行っている旨が記載された招集通知の発送が名誉毀損にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理規約に違反して民泊行為を行っている旨が記載された招集通知の発送が不法行為にあたらないとされた事案(東京地判令和4年3月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らが、専有部分を区分所有するマンションに関し、被告は、虚偽の内容が記載された上記マンションの管理規約に基づく招集通知を上記マンション管理組合の全組合員すなわち上記マンションの区分所有者全員に発送するという不法行為に及んだとして、被告に対し、原告会社の信用、名誉毀損等による損害金合計400万円+遅延損害金の支払、原告X1の信用、名誉毀損による慰謝料100万円+遅延損害金の支払、別紙謝罪文の掲示及び上記全組合員に対する送付を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 区分所有法30条1項は、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、規約で定めることができる旨を規定している。
規約は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によって設定されるものであり(同法31条1項)、区分所有者によって構成される集会(同法38条参照)の意思決定によるものといえることから、その効力は区分所有者全員に及ぶものと解される。
同法46条は、1項において、規約の効力は区分所有者の特定承継人に対しても及ぶ旨を、2項において、占有者は、建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約に基づいて負う義務と同一の義務を負う旨をそれぞれ規定しており、いずれの規定も規約の効力が区分所有者に及ぶことすなわち区分所有者は規約に従う義務を負うことを当然の前提としているものということができる。
原告らはいずれも本件マンションの区分所有者であるから、本件マンションの規約である本件管理規約に従う義務を負う
そして、本件管理規約第12条2項において「区分所有者は、原則としてその専有部分を特定たると不特定たるとを問わず、また多数たると少数たるとを問わず、他の第三者の一時的宿泊に供する等(会員制リゾート施設、ペンションの経営等)営業行為を行ってはならない。ただし、附属規程第9条(6)に基づき、届け出を行った上、理事会の許可を受ければこの限りではない。」と規定しており(以下「本件規定」という。)、いわゆる民泊行為が本件規定によって原則的に禁止されていることは明らかである。
原告らは、本件マンションにおいて民泊行為に及んでいるところ、証拠上、この民泊行為について、本件規定ただし書所定の本件理事会の許可を得ていることは、認められない
したがって、原告らの民泊行為は、本件管理規約に反するものといえ、その旨を記載した本件招集通知は、虚偽の内容を記載したものではない
以上によれば、原告ら主張に係る不法行為は、前提を欠き、成立しない。

民泊関連の事案では、本件同様、管理規約に定められた手続を経ているかどうかが主たる争点となります。

区分所有に関する紛争においては、裁判所は、管理規約の内容を極めて重視する傾向にありますのでご注意ください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損15 管理組合の理事長の名誉を毀損する内容を記載した文書を配布した行為が名誉毀損にはあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合の理事長の名誉を毀損する内容を記載した文書を配布した行為が名誉毀損にはあたらないとされた事案(札幌地判平成28年10月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者によって組織される管理組合の理事長の地位にある原告が、本件マンションの区分所有者である被告らに対し、同人らが本件マンションの区分所有者のうち原告を除く全員に対し、原告の名誉を毀損する内容が記載された文書を送付又は配布したとして、不法行為に基づき、慰謝料500万円及び遅延損害金の支払を求めるとともに、本件マンション内に謝罪文を掲示すること及び全区分所有者に通知文を送付することを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 文書の意味内容が他人の評価を低下させるものであるかどうかは、当該文書を読む対象者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものであるところ、本件各記載は、いずれも原告が理事長を務める本件組合が、原告の夫が代表を務めるa社に対し、本件マンションの工事を直接又は間接的に発注したことが、違法行為(犯罪行為)とみられる利益相反行為に当たる旨を指摘する内容であり、本件各文書が配布された本件マンションの区分所有者からみて、本件組合の理事長である原告の評価を低下させるものといえることから、被告らが本件各文書を配布したことは、原告の名誉を毀損する行為といえる。

2 ところで、事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最判昭和41年6月23日第1小法廷判決、最判昭和58年10月20日)。
一方、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合には、上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠くものというべきであり、仮に上記意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、事実を摘示しての名誉毀損における場合と対比すると、行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解するのが相当である(最判平成元年12月21日、最判平成9年9月9日)。
上記のとおり、問題とされている表現が、事実を摘示するものであるのか、意見ないし論評の表明であるかによって、名誉毀損に係る不法行為責任の成否に関する要件が異なるため、当該表現がいずれの範ちゅうに属するかを判別することが必要となるが、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に属するというべきである。

3 本件各記載は、要するに原告が理事長を務める本件組合が、原告の夫が代表を務めるa社に対し、直接又は間接的に本件マンションに関する工事を発注したことが、利益相反取引として違法行為又は違法行為の疑いがある旨を指摘するものであり、このうち利益相反取引として違法行為又は違法行為の疑いがあるとの点については、法的な見解を表明するものであって、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に対する特定の事項に当たらないことは明らかである。
したがって、・・・本件各記載は、上記で判示した意見ないし論評の表明に当たると解するのが相当である。
 
4 本件文書1は、その表題や全体の記載内容に照らし、本件マンションの区分所有者に対して、現在の本件組合の運営に関する問題点を指摘し、総会への出席を求めるものであり、また、本件文書2についても、その表題や全体の記載内容に照らし、本件マンションの区分所有者に対して、総会後に開催された説明会を含むこれまでの事実経過を報告し、本件組合役員の早期解任を訴えるものであると認められ、いずれも本件マンションの区分所有者全体の利害に関する本件組合の運営改善及び管理費等の保全を図る目的で配布されたものであり、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認められる。
そして、a社による本件マンションに関する工事の受注については、当事者間に争いがないことから、本件各記載の前提となる事実の重要部分について真実と認められる。
加えて、上記のとおり、本件各文書は本件組合の運営改善及び管理等の保全を図る目的で配布されたものであり、その表現をみても、安易に断定することなく、「疑いも有る」、「可能性がある」、「考えられる」等の記載がされるなど、一定の配慮がされており、上記目的を離れて原告個人を誹謗中傷したり、人格を攻撃するような内容の記載はないことから、いまだ意見ないし論評の域を逸脱しているとは認められない。
以上によれば、本件各記載は意見ないし論評の表明として違法性を阻却されることから、不法行為に該当しない。

区分所有建物においては、本件同様の名誉毀損事案が発生することが珍しくありません。

本裁判例では、名誉毀損に関する考え方が非常にわかりやすく記載されているので、是非、参考にしてください。

書面等を配布する際に、どのような点に注意すべきかがよくわかります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損14 区分所有者兼防火防災管理者である原告に対する名誉毀損行為により慰謝料150万円の支払が命じられた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者兼防火防災管理者である原告に対する名誉毀損行為により慰謝料150万円の支払が命じられた事案(東京地判平成28年11月9日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者であり、同マンションの防火防災管理者である原告が、耐震及び設備改修に関する集会を開催した際に参考資料として参加者に配布した同マンションの建替計画案をきっかけとして、同マンションの居住者の1人である被告が、同マンションの複数名の居住者や原告の勤務先会社、同マンション管理組合が相談していたマンション管理士・行政書士に対して送付した手紙により、原告の社会的評価を著しく低下させ、その名誉権を侵害したと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償+遅延損害金の支払を求めるとともに、人格権(名誉権)に基づく将来の名誉毀損行為の差止めを求め、また、民法723条に基づく名誉回復措置として謝罪文の交付を求めている事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、150万円+遅延損害金を支払え。

 被告は、原告の名誉を毀損する内容を含む文書、図画又は電子メールの配布、送付又は送信をしてはならない。

【判例のポイント】

1 被告は、本件手紙の送付行為は、本件マンションの住民の負担軽減という公益目的に出たものであると主張している。
しかし、本件手紙は、全体の論調としても、本件マンションの区分所有者の中で被告の意見への賛同者を募るための社会的に容認された行為としての相当性を明らかに超えた、邪推に基づく原告に対する誹謗中傷となっていること、管理組合の総会等における正常な議論ではなく、実力で原告の行動を阻止しようとすべく、F管理士や警察署に対処を相談・要請するにとどまらず、真相究明という名の下に、原告の勤務先や国会議員まで巻き込んで原告に対して圧力をかけようとする節が窺われるなど、常軌を逸したものとなっており、原告に対する過度の敵対意識も表れていることに照らすと、本件手紙の送付行為が、専ら公益を図る目的に出たものであると評価することはできない。
よって、本件手紙の送付行為につき、違法性の阻却を認めることはできない。

2 これによる損害額は、①従前の原告と被告との関係、②被告が本件手紙の送付行為に及んだ経緯や動機、③本件手紙の表現ぶりやその真実性の検証の程度、④本件手紙の送付行為の範囲、⑤本件手紙の送付行為の頻度ないし時期、⑥原告が被った社会生活上の不利益の程度、⑦その後の被告の態度等を総合勘案して決すべきである。
・・・以上の諸事情を総合考慮すると、本件における原告の精神的苦痛を慰謝するには、本件手紙の送付行為がいわゆる非マスメディア型の名誉毀損行為であって実際の伝播の程度がさほど高くないことや、被告が本件手紙の送付行為に及んだ当初の目的を考慮してもなお、やや高額の慰謝料が相当というべきであり、本件については150万円をもって被告の違法行為と相当因果関係を有するものと認めるのが相当である。

3  民法723条が、損害賠償のほかに回復処分を規定した趣旨は、その処分により、加害者に対して制裁を加えたり、また、加害者に謝罪等をさせることによって被害者に主観的な満足を与えたりするためではなく、金銭による損害賠償のみでは填補され得ない、毀損された被害者の人格的価値に対する社会的、客観的な評価自体を回復することを可能ならしめるためである。
そうすると、同条に基づき、被告に対して原告への謝罪文の交付を請求することは、その低下した社会的評価を対外的に回復する処分にはあたらないので、認めることができない(原告が関係者に対して本件の顛末を説明するに際しては、本判決の写しを用いてこれを説明することで足りる。)。

同種の名誉毀損事案と比較しますと、かなり高額な慰謝料が認められています。

区分所有建物における紛争として名誉毀損事案は決して珍しくないので、過去の裁判例をチェックするととても参考になると思います。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。