おはようございます。
今日は、管理組合の役員12名及び本件管理会社の従業員3名に宛てて送信したメールの内容が公然性を欠くため名誉毀損には該当しないとされた事案(東京地判令和3年9月14日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、原告が、被告Y1に対し、同被告が送信した電子メールによって原告の名誉権及び名誉感情が侵害され、また、同被告が警察に対して原告から暴力を受けたとの虚偽の通報をしたことなどにより名誉・自尊心を害され、人格権を侵害されたことにより精神的苦痛を受けたとして、不法行為による損害賠償請求として、慰謝料等合計121万6000円+遅延損害金の支払を求め、被告Y2に対し、同被告が送信した電子メールによって原告の名誉権及び名誉感情が侵害されたとして、不法行為による損害賠償請求として、慰謝料等合計60万8000円+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 ある表現が他人の社会的評価を低下させるとして名誉毀損による不法行為が成立するには、事実の摘示等の表現行為が不特定又は多数の者が知り得る状態で公然とされることが必要と解される。
これを本件についてみるに、本件メールは、いずれも、当時の本件管理組合の役員12名及び本件管理会社の従業員3名に宛てて送信されたものであり、これが閲読可能な者は特定かつ少数の者に限られている。
また、本件メールは、本件管理組合の理事会ないし本件管理会社の担当者が、原告から理事会ないし理事長たる被告Y1に対して提出されていた要望事項等に関し、B副理事長が原告と面談した際の状況も踏まえて、その対応方針等を電子メールで協議、検討していた際に被告Y1ないし同Y2から発信された電子メールの一部であり、その性質上外部へ公表することが予定されたものとはいえないこと、本件管理会社の3名の従業員がその業務の一環として受信した本件メールを不特定多数の者に漏出させることは考え難いこと、その他の12名の受信者についても、本件メールは理事会の業務の一環として受信したものであり、守秘義務を定めた本件管理組合に係る規約の存在やメールの内容及び性質等に照らし、慎重な情報管理が求められるものであること、原告が本件メールの内容を認識するに至ったのは、本件メールの受信者の一人であるCが、原告との関係が良好であったことなどからこれを原告と共有したにすぎず、本件各証拠に照らしても本件メールの内容が本件マンションの住人に広く知れ渡った様子はうかがえないことなどからすると、本件メールやその内容が上記15名から他人へと漏出して不特定多数の者に伝播する可能性は乏しいものであったということができる。
そうすると、被告らによる本件メールの送信は公然と行われたものとは認められないから、その余の点について検討するまでもなく、本件メールの送信行為につき原告の名誉を毀損する不法行為が成立する旨の原告の主張はいずれも理由がない。
2 原告は、本件メールの内容はその名誉感情を侵害するとも主張するが、仮にそのように評価し得るものだとしても、本件メールは原告に宛てられたものではなく、前記で検討したところに照らしても、本件メールによる原告の名誉感情の侵害につき、被告らに故意ないし過失があるものとは認められない。
よって、その余の点について検討するまでもなく、名誉感情の侵害を理由に被告らの不法行為責任の成立を主張する原告の主張はいずれも理由がなく採用できない。
冒頭の名誉毀損の要件について、裁判所がどのような事実に着目してあてはめをしているのかをチェックしましょう。
区分所有建物においては、本件同様の名誉毀損事案が比較的多く発生しますので、要件を認識しておくことはとても大切です。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。