おはようございます。
今日も一日がんばります!!
さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。
新日本科学事件(大阪地裁平成15年1月22日・労判846号39頁)
【事案の概要】
Y社は、医薬、農薬、食品、化粧品などの開発研究のための薬理試験、一般毒性試験などの実施を業とする会社で、製薬会社等から医薬品等の開発業務を受託する開発業務受託機関(CRO)として医薬品等の治験を行っている。
Xは、薬科大学を卒業し、薬剤師の資格取得後いくつかの製薬会社に勤務し、その後、Y社に入社したが、入社後2年弱で退職した。
Xは、Y社入社時には、競業避止義務の契約書および誓約書を、退職時には、同内容の合意書を提出した。
内容は、退職後1年以内は、Y社およびY社グループと競業関係にある会社に就職せず、これに反した場合は損害賠償義務を負うというものであった。
なお、Xには、Y社から秘密保持手当として月額4000円が支給されていた。
Xは、Y社を退職した翌日、Y社と同業のA社に入社し、新薬の開発に関する治験の実施およびモニタリング業務に従事するようになった。
Y社は、X及びA社に対し、競業行為の中止を求める内容証明郵便を送付した。
Xは、本件の競業避止義務に関する合意は、公序良俗に反して無効であるとして裁判を起こした。
【裁判所の判断】
本件の競業避止義務に関する合意は、公序良俗に反し無効である。
【判例のポイント】
1 従業員の退職後の競業避止義務を定める特約は従業員の再就職を妨げその生計の手段を制限してその生活を困難にするおそれがあるとともに、職業選択の自由に制約を課すものであるところ、一般に労働者はその立場上使用者の要求を受け入れてこのような特約を締結せざるを得ない状況にあることにかんがみると、このような特約は、これによって守られるべき使用者の利益、これによって生じる従業員の不利益の内容及び程度並びに代償措置の有無及びその内容等を総合考慮し、その制限が必要か合理的な範囲を超える場合には、公序良俗に反し無効であると解するのが相当である。
2 Xが従事した治験の実施に関するノウハウについては、CROによって手続が異なるということはなく、また、Y社独自のノウハウといえるものはなかった。
3 XはY社に入社したばかりで、新GCP(厚労省令の「医薬品臨床試験の実施基準」)に従った治験手続に参加した経験はなく、それぞれの治験薬ないし治験手続についてのすべての知識やノウハウを得ることができる地位にあったとはいえず、秘密保持義務と競業避止義務とを課すことにより担保する必要性は低い。
4 Xは、大学卒業以降Y社を退職するまでの約17年5カ月間の職業生活のうち12年近くの期間にわたって新薬の臨床開発業務に従事し、治験のモニター業務を行ってきたことに照らすと、Xの再就職を著しく妨げるものである。
5 Xが受ける不利益が、競業避止義務によって守ろうとするY社の利益よりも極めて大きく、Xには在職中月額4000円の秘密保持手当が支払われていただけで退職金その他の代償措置は何らとられていない。
6 これらの事情に鑑みると、XがY社を退職する際にした競業避止義務に関する合意は、競業回避義務の期間が1年間にとどまることを考慮しても、その制限は必要かつ合理的な範囲を超えるものであり、公序良俗に反して無効である。
妥当な結論だと思います。
総合考慮により、結論が決まるので、会社としては、「競業避止義務違反だから損害賠償請求」という形式的な判断は避けなければいけません。
競業避止義務違反に関する裁判の場合、「会社独自のノウハウや企業秘密の存否」については会社・従業員ともに十分に検討する必要があります。
競業避止義務を課す必要性に大きく関わってきます。
なお、このケースは、XがY社に対し、競業避止義務不存在確認請求をしたものです。
確認の利益の有無について争点となったのですが、この点について裁判所は以下のとおり判断しました。
Y社は、Xに対して未だ損害賠償を請求しておらず、また請求する予定もないから本件の訴えには確認の利益はないと主張するが、Y社はXおよびA社い対し競業行為の中止を求めたこと、および本件において「請求棄却の判決を求めるとともに、将来、本件訴訟の対象となっている損害賠償義務の存在を前提としてXにその履行を求める可能性があることを示唆しているから、本件の訴えには確認の利益がある。
訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。