解雇41(洋書センター事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き解雇協議条項に関する裁判例を見てみましょう。

洋書センター事件(東京高裁昭和61年5月29日・労判489号89頁)

【事案の概要】

Y社は、洋書の販売等を目的とする会社である。

Y社において、4名の従業員のうち、Xを含む3名により労働組合が結成された。

組合は、Y社との間で、「会社は運営上、機構上の諸問題、ならびに従業員の一切の労働条件の変更については、事前に、組合、当人と充分に協議し同意を得るよう努力すること」との条項を結んだ。

Y社は、入居中のビルの取り壊しによる社屋移転を組合に明らかにした。その後、Y社は、仮店舗へ移転するため営業を停止し、移転作業を始めたいと組合に申し入れたが、組合は移転による労働条件の悪化などを理由に反対し、労使の協議により移転作業は中止された。

Y社は、休憩室・女子更衣室・組合事務所として別にワンルームを借りるとの最終案を組合に提示したが、組合が拒否し、交渉は行き詰まった。

Y社は、Xらに知らせずに連休中に移転を行い、作業終了後にXらへ仮店舗に出社するよう電報で連絡した。

Xらは仮店舗での就労を命じた業務命令を拒否し、旧社屋が職場であるとして、施錠をはずして旧社屋内に入った上、社長を旧社屋に連行し、役16時間にわたって軟禁して暴行を加え、その後も業務命令を無視して旧社屋を占拠し続けた。これらのことから、Y社は、Xらを懲戒解雇とした。

Xらは、正当な理由がない懲戒解雇であり、事前協議約款が存在するにもかかわらず、Y社はXらの解雇に際して、組合および本人らと一切協議をせず、同意も得ていないから手続的に違法であり、懲戒解雇は無効であると主張した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件事前協議約款の締結に至るまでの前記経過及びその文言・趣意等に徴し、信義則に照らして考察すれば、右事前協議の対象事項には、事柄の性質上事前協議にしたしまない場合、あるいは事前協議の到底期待できない特別な事情の存する場合を除いて、従業員の解雇、処分を含むものと解するのが合理的である

2 組合の構成員は、パートタイマーを除けば、本件解雇をされたXら2名のみであり、組合の意思決定は主として右両名によって行われ、組合の利害と右両名の利害とは密接不可分であったところ、Xら両名は、本件解雇理由たる社長に対しての長時間に及ぶ軟禁、暴行傷害を実行した当の本人であるから、その後における組合闘争としての、右Xら両名らによる旧社屋の不法占拠などの事態をも併せ考えると、もはや、Y社と組合及び右Xら両名との間には、本件解雇に際して、本件事前協議約款に基づく協議を行うべき信頼関係は全く欠如しており、「労働者の責に帰すべき事由」に基づく本件解雇については、組合及び当人の同意を得ることは勿論、その協議をすること自体、到底期待し難い状況にあった、といわなければならないから、かかる特別の事情の下においては、Y社が本件事前協議約款に定められた手続を履践することなく、かつ、組合及び当人の同意を得ずに、Xらを即時解雇したからといって、それにより本件解雇を無効とすることはできない

非常に参考になる裁判例です。

本件は、例外が認められるための「特別の事情」が存在するとされた裁判例です。

あくまで例外ですので、厳格に解釈しなければいけません。

容易に「特別の事情」を認定すると、原則と例外がひっくり返ってしまいます。

とはいえ、本件については、明らかにXらはやりすぎです。

自分たちの要求が通らなかったからといって、犯罪を犯すことは許されません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。