管理監督者19(デンタルリサーチ社事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

デンタルリサーチ社事件(東京地裁平成22年9月7日・労判1020号66頁)

【事案の概要】

Y社は、歯科を中心とする医療に関する情報処理サービス業および情報提供サービス業等を主要な業務とし、具体的には、歯科医として開業を検討している者に対し、人材紹介事業、不動産事業、情報誌発行事業などを行っていた。

Xは、平成9年5月にY社に雇用され、人材事業部に所属していたが、Y社が平成13年に不動産事業部を立ち上げたことに伴い、同部に移籍し部長に就任し、不動産物件の紹介、賃貸借契約書の作成・チェック、市場調査や事業計画の策定、融資手続や開設に必要な書類作成、諸手続の代行等の業務を一手に行っていた。

なお、Xが、不動産事業部の従業員の労務管理や人事考課を担当していたことはない。

Xは、平成19年7月、Y社に対し、退職願を提出した。

退職後、Xは、Y社に対し、在職中に行った時間外・休日労働につき、割増賃金および付加金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求認容。
→Xは管理監督者にはあたらない。

付加金の支払いを命じる。

【判例のポイント】

1 Xは、その労働時間の立証としてタイムカードを提出し、概ねその打刻に沿う内容の労働時間の主張をする。タイムカードの打刻により打刻時刻が機械的に印字される以上、X自身が打刻する限り、タイムカードの打刻時刻はXの出勤、退勤時刻をほぼ正確に示すものということができるから、この意味で、上記タイムカードはXの労働時間を端的に立証する信用性の高い証拠資料ということができる

2 割増賃金の基礎となる賃金から除外される賃金として「家族手当」「通勤手当」「別居手当」「子女教育手当」「住宅手当」などが定められているところ、Xに対し家族手当及び住宅手当という名目で支給されている。
これらの規定は、労働の内容、量と無関係な事情で支給される手当が割増賃金額を左右するのは不当であるとして、これを除外賃金とするとの趣旨に基づくものであることから、その名称にかかわらず実質的に判断されるべきものであり、家族手当、住宅手当と称していても、扶養家族の有無・数や、持家・賃貸の別や、住宅ローン・家賃の額に応じた金額が支給されていないような場合には、上記の立法趣旨にかんがみ除外賃金には含まれないと解するのが相当である

3 労基法41条2号の管理監督者が時間外手当等支給の対象外とされるのは、その労働者が経営者と一体的な立場において、労働時間、休日等の規制を超えて活動することを要請されてもやむを得ない重要な職務や権限を付与され、賃金等の待遇及び勤務態様の面においても、他の一般労働者に比べてその職務や権限等に見合った優遇措置が講じられている限り、厳格な労働時間等の規制を行わなくても、その保護に欠けるところはないという趣旨に出たものと考えられる。したがって、管理監督者に該当するというためには、単に管理職であるだけでは足りないことはもとより当然であって、その業務の態様、与えられた権限、待遇等を実質的にみて、上記のような労基法の趣旨が充足されるような立場であるかが検討されなければならない
Xはその権限の面でも労働時間に対する裁量という面でも管理監督者にふさわしい立場にあるということはできず、その待遇面を最大限強調しても管理監督者であることが基礎付けられるとはいえない。

4 付加金については、裁判所の裁量により支払を命じる性質のものであり、使用者側にその支払を命じることが酷である事情が存する場合にまでこれを命じることは相当ではないものの、本件においては、Y社が長年にわたって時間外手当の未払を続け、かつ、管理監督者と認識している旨述べる管理職の者以外の従業員に対しても時間外手当等を支払っていなかったことなどの本件記録上顕れた諸般の事情を考慮すれば、Y社に対しては、付加金の支払を命じるのが相当である
Y社は、XがY社の営業に関する様々なデータを持って退職したことなどにより甚大な損失を被った旨主張するが、仮にそうであったとしても、そのこと自体がY社において従業員に時間外手当を支給しなかったことを正当化するものではないから、その主張については採用することができない

いつもながら管理監督者性が否定されております。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。