Monthly Archives: 3月 2012

本の紹介66 ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

さて、今日は、本の紹介です。
ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)
ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)

これまで読もう読もうと思いつつ、読んでこなかった本です。

今から8年前に出版された本ですが、今読んでも、何の違和感もありません。

ポイントだけ簡単に知りたい方は、こちらをおすすめします。
ポケット図解 チャン・キムとモボルニュの「ブルー・オーシャン戦略」がわかる本―競争のない未開拓市場を創る! (Shuwasystem Business Guide Book)
ポケット図解 チャン・キムとモボルニュの「ブルー・オーシャン戦略」がわかる本―競争のない未開拓市場を創る! (Shuwasystem Business Guide Book)

こちらも読んでみましたが、よくまとまっています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

レッド・オーシャンから抜け出すためには、市場の境界を従来どおりにとらえていたのではいけない。市場の内側だけに目を奪われるのではなく、いくつもの市場を体系的に俯瞰して、ブルー・オーシャンを創造しなくてはならない。代替業界に目を向け、さまざまな戦略グループ、買い手グループ、補完製品や補完サービスを視野に入れ、機能志向から感性志向へ、感性志向から機能思考へと発想を切り替え、現在だけでなく将来にも思いを馳せるのである。すると、市場の現実を新たな視点でとらえ、ブルー・オーシャンを開拓するための貴重な知恵が浮かぶだろう。」(74頁)

いろいろなマーケティング本を読んでいるせいか、最近、あまり新鮮さを感じなくなっています(笑)

総論としては、だいたい同じようなことをいろいろな言い回しで書かれています。

そろそろ卒業しようかな、と思います。

発想自体がとてもおもしろく、いい気分転換になるので、ついついマーケティング本を読んでしまいます。

もう趣味の世界ですね。

新規プロジェクトに是非とも活かしたいと思います。

不当労働行為36(神奈川都市交通事件)

おはようございます。

さて、今日は、定年後準社員の雇止めと不当労働行為性に関する裁判例を見てみましょう。

神奈川都市交通事件(東京地裁平成23年4月18日・労判1040号69頁)

【事案の概要】

Y社は、一般常用旅客自動車運送事業等を営む会社で、神奈川県を中心に11か所の営業所を有し、従業員数は1541名であり、川崎営業所の従業員は約230名であった。

Xは、昭和61年2月、Y社に入社し、以後、タクシー乗務員として川崎営業所に勤務していた。

XらとY社との間では、事務所使用料および組合役員手当金等請求、休業補償等請求、未払賃金の支払請求、解雇された組合員の地位確認、団交におけるY社の対応についての不当労働行為救済申立等の紛争が生じ、それぞれ訴訟等に至っている。

Xは、平成14年4月、満60歳の定年に達し、その後3回契約更新されたが、16年4月、期間満了により雇止めとなった。

【裁判所の判断】

本件雇止めは、不当労働行為にあたらない

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則の規定上、満60歳の定年以降、満62歳までの雇用延長と、満62歳以降の準社員としての採用を明確に区別して規定し、満62歳以降の者を準社員として採用するに当たり、「特に会社が必要とする者及び本人の希望により会社が認めた者」について採用することがあるという以上、満62歳以降の準社員としての採否に際し、Y社に裁量権があることは明らかである

2 Y社が、満62歳に達した乗務員を準社員として採用するか否かについては、裁量権があるものの、仮にY社の裁量権行使に際して考慮した事情が、全く事実の基礎を欠くとか、考慮してはならない事情を考慮した等、与えられた裁量権の範囲を逸脱、濫用したと認められる場合には、そのような行為を行ったY社の雇止めには、不当労働行為意思を認める余地がある

3 Xを準社員として採用するか否かを決するに当たり、就業時間中の休憩取得指示違反、就業時間中の組合活動、制帽着用義務違反及びタコメーターの開閉等の事情を考慮することは、いずれも相当というべきであり、本件雇止めに至るY社の判断には、裁量権の逸脱、濫用があったとは認められない。

継続雇用に関し、会社側に裁量を認め、裁量権を逸脱していないかを判断しています。

行政事件のような発想ですね。

採用の可否について、会社側が判断要素としたものはすべて不当労働行為に該当しないとし、裁量権の逸脱・濫用はないと結論づけています。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介65 「自分ごと」だと人は動く(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
「自分ごと」だと人は動く
「自分ごと」だと人は動く

この本は、とても示唆に富んでいます。

サブタイトルは、「情報がスルーされる時代のマーケティング」です。

情報が溢れている社会で、コミュニケーションを成功させるカギは「自分ごと」なのだそうです。

言わんとしていることは、わかります。

さて、この本を「自分ごと」として捉え、どうやって具体化していこうかと考えてしまいます。

この本には、「自分ごと」に実現方法や成功例が掲っていますので、とても参考になります。

この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

情報溢れる世の中では、『ちゃんとした候補者のちゃんとした情報』はスルーされがち。生活者は普通の、言い換えればどこか既観感のある情報に目をやる暇を持ち合わせていないのです。少々厳しめの言い方をすれば、普通の情報は価値が低いのです。」(137頁)

キッカケこそが非常に大切。少々乱暴ですけど、伝えたいことをきれいにまとめよう、なんて考えてはいけません。完全ではない、突っ込みどころが目立つ情報の方がいいのです。」(137頁)

確かにそうですよね。

町中には広告がいたるところにあります。

当然、目には入っていますが、自分に関係がない広告は、ほんの少し見て、スルーしています。

本や雑誌も同じです。

1頁目から最後のページまで一字一句熟読することはまれです。

自分が興味を持つテーマは熟読しますが、そのほかは、流し読みです。

このことは、企業が、商品やサービスの差別化を図る際、顧客がたいして関心のないところで差別化を図っても、「自分ごと」として捉えないため、結局、スルーされてしまいます。

非常に示唆に富んでいますね。

また、このことは、マーケティングの分野に限らず、他のことでも同じことが言えますね。

例えば、セミナーを行う際、いかに受講者に「自分ごと」として捉えてもらえるか、が非常に重要になってきます。

「なんか重要、重要って言っているけど、うちの会社では関係ないな」と思った時点で、講師がいくら熱弁を振るっても、完全にスルーされてしまいます。

「他人ごと」ではなく、「自分ごと」であることをいかに認識してもらえるか、これからじっくり考えていこうと思います。

不当労働行為35(郵便事業(河内長野支店)事件)

おはようございます
写真 12-03-26 20 17 30←昨夜は、パワーをつけるために、焼き肉を食べに「文田商店」に行ってきました。

ノンアルコールです。1時間1本勝負。

とても混んでいました。繁盛しているお店に行くと、その秘訣を探りたくなります。

安くておいしかったです。

今日は、午前中、破産の新規相談が入っています。

お昼に、新しく顧問契約を締結していただくR社に行ってきます

午後は、打合せが3件入っています。

今日も一日がんばります!!

blogram投票ボタン にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ←ぽち。

さて、今日は団交応諾義務に関する命令を見てみましょう。

郵便事業(河内長野支店)事件(大阪府労委平成23年11月18日・労判1038号93頁)

【事案の概要】

Y社の河内長野支店の従業員10名が組織する組合は、社員に対する営業目標の設定に関して平成21年6月、同年11月、同年12月にそれぞれY社と交渉を行った。

平成22年2月、組合は、改めて社員に対する営業目標の設定に関して団交を申し入れた。

河内長野支店業務企画室長Eは、「支部交渉」の対象事項は、会社と組合の上部団体である郵政ユニオン間で19年9月に締結された「労使関係に関する協約」およびその付属覚書に定められた項目に限定されている旨を述べて、団交に応じられないと回答した。

同年3月、組合が再度団交を申し入れたところ、E室長は、会社が管理者用に作成した内部資料の「コミュニケションルール」を読み上げて、これまでの交渉は団交ではなく、支部労使委員会であった旨や支部交渉、支部労使委員会の対象事項についての説明を行い、今回の要求は団交事項でないと説明した。

【労働委員会の判断】

Y社の団交拒否は不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 ・・・確かに、組合も上部団体に相談を行わず、会社の主張の根拠を十分理解しようとせず、また、上部団体の協約を十分理解しようとせず、また、上部団体の協約を無視するような態度を見せるなど、問題とすべき点もあるが、このような膨大で複雑な内容の労働協約等を郵政ユニオンの下部組織である組合に当然理解しておくものとするのは無理があり、むしろ、会社はそれまで支部交渉と労使委員会の区分に言及することなく交渉に応じておきながら、突然方針を変更して団交には応じられないと主張しているのだから、組合に対して労働協約等を示して、なぜ支部交渉の対象事項には当たらないと考えられるのかについて、十分な説明をし、理解を求める必要があったということができる。したがって、そのような説明を行わずに、ただ団交は行えないとのみ主張する会社の対応は、正当な理由なく団交を拒否しているものといわざるを得ない

会社側の説明不十分であると判断されています。

組合側にも問題があったことは認めつつも、だからといって、会社が団交を拒否する正当な理由とはならないという判断です。

団体交渉のやり方については、正解というものがありませんが、個人的には、会社としては義務的団交事項をあまり狭く解さずに、ある程度の幅をもって団体交渉に応じるほうがよいのではないかと考えています。

グレーな場合には、交渉に応じる、というスタンスがよいのではないかと思っています。

本の紹介64 プランB 破壊的イノベーションの戦略(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

さて、今日は、本の紹介です。
プランB 破壊的イノベーションの戦略
プランB 破壊的イノベーションの戦略

「プランB」・・・? 題名だけ見てもなんのことだかわかりません。

帯にはこのように書いてあります。

アマゾンも最初の9年は大赤字! グーグルも売上げはゼロ!! 最強ビジネスは全てプランAの失敗から始まった

文脈から、なんとなく言いたいことがわかりますね。

当初予定していたのが「プランA」。

プランAがうまくいかなくて、修正を加えたのが「プランB」。

といった意味ですかね。

いろいろな例が出てきますが、いずれも素直に「へえ~」と感心します。

現在の大成功は、最初から予定していたものとは少し違うんだね、という感じです。

心構えの点で勉強になります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

アマゾンがフォーチュン500にのしあがったのは、実はイノベーションよりも試行錯誤のおかげがはるかに大きい。アマゾンこそはまさに、最先端のインターネット企業が-意外にも-ゆっくりと成功することもあるのだ、ということを示している。その秘訣は、無数の小さな歩みを押し進めることだ-そして踏みはずしたときには素早く学ぶことだ。」(325~326頁)

プランB、とはいうものの、本書に出てくるほとんどの事例は、まったくちがう分野に進出したり当初とは業態をガラリと変えたり、といった性質のものではない。当初の路線に磨きをかけたり、マイナーチェンジをしたり、というものがほとんどだ。」(373頁)

イノベーションを否定するものではありませんが、当初の路線に、何度もマイナーチェンジを繰り返すことがとても大事なようです。

もう1つ。

9年くらいうまくいかなくても、投げ出さないことが大切なようですね(笑)

私自身、「少しずつ進化させていく」という気持ちを持っています。

私の事務所のコンセプトである「新しい弁護士のかたち」を実現するために、毎日、少しずつ事務所のサービスを向上させています。

事務所のホームページを少しずつ更新しているのも、その一貫です。

今も、水面下で複数のプロジェクトが、少しずつ動いています。

当然のことながら、現在進行中の事件の処理が最重要ですから、新しいプロジェクトを進めるのには、時間がかかりますね。

有期労働契約26(エヌ・ティ・ティ・コムチェオ事件)

おはようございます。 

さて、今日は期間雇用の営業社員に対する雇止めの成否に関する裁判例を見てみましょう。

エヌ・ティ・ティ・コムチェオ事件(大阪地裁平成23年9月29日・労判1038号27頁)

【事案の概要】

Y社は、NTTコミュニケーションズ株式会社の100%子会社で労働者派遣事業の他、インターネット検定の運営や電気通信サービスに関する販売受託等を行っている。

Xは、平成13年4月から、A社との間で期間3か月の労働契約を締結・更新していた。

14年5月、A社の会社分割により同社の業務を引き継いだB社にXとの労働契約も引き継がれ、以降、期間3ヵ月の労働契約を17回更新した。

平成18年7月、B社がCに吸収合併され、それに伴ってXの労働契約もC社に承継された。

同年9月以降、XはC社との間で労働契約を締結し、以降10回更新された。

その間、19年12月時点でC社とXは労働者派遣契約を締結し、20年1月からY社勤務後の就労場所と同じ勤務地で勤務した。

Xは、21年1月、C社から同年3月末をもって派遣契約を終了する旨の告知を受けた。

Y社は、平成21年2月、Xを含むC社の従業員に対し契約社員の募集を行った。XはC社の同僚とともにこれに応募し、同年4月からY社との間で期間6ヵ月の有期契約を締結し、同年10月に22年3月末まで更新された。

平成21年4月以降、Xは、データ入力の遅れや行動計画表の未提出があった。また、同年11月、Y社はXの旅費の不正請求や不要な時間外勤務の疑いを持ち、Xの行動を監視したところ、Xの報告に不備があり、報告どおりに取引先を訪れていないことが判明した。

Xは、平成22年2月、同年3月末の契約満了後の更新はしない旨の説明を受け、退職予告通知書、雇止め理由説明書の交付を受けた。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

未払賃金額は、雇止め前の賃金額を基礎にし、インセンティブ給を3分の1として算出した額の1ヶ月当たりの平均額を、雇止め後の賃金月額とするのが相当である

【判例のポイント】

1 確かに、Y社は、Xとの間で本件労働契約を締結したのち、1回、労働契約を更新し、同更新時、事前に、Xに対して更新意思の確認をしている上、更新後の雇用契約書も取り交わしている。
しかし、Xが従事していた業務内容は、コミュニケーションズの商品であるフリーダイヤルやナビダイヤルの営業で恒常的な業務であって、Y社自身もX採用時、Xの関西以前での業務経験を踏まえて採用していること、X更新も同労働契約が更新されるとの認識を持っていたこと、同更新時取り交わした契約書のうち、X保持分については作成日付も抜け、Xの記名捺印もなく厳格になされたことが窺えないことがある。以上の事実を踏まえると、Xは、本件雇止め当時、同労働契約が更新されるとの合理的期待を有していたことが推認され、同認定を覆すに足りる証拠はない。
そうすると、Xに対する本件雇止めには解雇権濫用法理が類推適用されるとするのが相当である。

2 Xに対して一定の責任を問う余地は十分あるが、本件雇止めが正当化されるまでの事由があるか、疑問といわざるを得ず、その他、同雇止めを正当化させるに足る事由があると認めるに足る証拠はない。
そうすると、本件雇止めは、濫用があり無効といわざるを得ない。

3 本件雇止めが無効とすると、原則として、期間を含めて同雇止め時までの労働条件で更新されたと解するのが相当である。
Xが、労働契約の更新が認められて平成22年4月以降勤務を継続したとしても、同更新時の新たな契約によって上記改正されたインセンティブ給制度の適用を受けるため、同更新後受給できるインセンティブ給は同改正後のインセンティブ給制度の範囲内であるというべきである

本件では、裁判所は、雇止めの合理性を判断するにあたり、データ入力の送れや個人行動計画表の未提出、虚偽報告と旅費の不正請求を認定しつつも、個人成績に特段問題があるとは認められないこと、顧客から一定の評価を受けていること、旅費の不正請求が認められるものの、その不正受領額は2190円であること、データ入力ではY社から指導を受けているものの、処分までは受けていないことを指摘し、雇止めは濫用であると判断しています。

こういうケースは、よくありますね。

従業員側としても、全く落ち度がないわけではない場合であっても、解雇や雇止めの効力が否定されることはよくあります。

結局、総合判断なので、解雇や雇止めをする時点で、間違いなく有効になるとか無効になるという判断はほとんど不可能だと思います。

会社としては、「できるだけ慎重に行う」というのが限界だと思います。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

本の紹介63 ぶれない経営(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、本の紹介です。
ぶれない経営―ブランドを育てた8人のトップが語る
ぶれない経営―ブランドを育てた8人のトップが語る

博報堂ブランドコンサルティング社長の本です。

ジャパネットたかたの高田社長、星野リゾートの星野社長など8人の経営者の体験談や考えが書かれています。

こういう本を読むときには、いかに自分の業界に引きつけられるか、が大切です。

イマジネーションが鍵となります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

2009年、うちの病院は債務超過が消える予定です。そうなったら医療のクオリティを上げるための投資を新たにしていきます。医療機関の社会貢献とは、何よりこの地域の人たちに貢献することです。そして職員にもフィードバックすることによって社会に貢献していきます。
でも得た利益は次の夢を実現するために投資するので、たぶんいつまで経っても私たち兄弟はお金に縁がないと思います(笑)。でも、儲けることに価値を持ってしまったら、もう病院なんてやめたほうがいいんじゃないかな。能動的にチャレンジしているからこの仕事に取り組めるのです。私たちはそう思っています。
」(120頁)

これは、亀田総合病院院長亀田信介医師の言葉です。

亀田総合病院のHPを見てみましたが、すばらしいHPですね。

仕事に対する情熱を感じます。

異業種のHPを見ると、大変勉強になります。

亀田先生が「得た利益は次の夢を実現するために投資する」という考え方にとても共感します。

自分の収入を増やす目的で仕事をしていると、このような発想は出てきません。

仕事が好きな人はみんなこういう考えを持っているのではないでしょうか。

少しでもいいサービスを顧客に提供したいと考えるからこそ、会社や従業員に投資するわけです。

私自身、亀田先生が仰るとおり、この気持ちがなくなってきたら、もう弁護士なんてやめたほうがいいんじゃないかな、と思います。

少しでも自分の事務所をよくしたい、顧客に対して、今まで以上によいサービスを提供したいという気持ちがなくなったら、引退しますよ。

賃金43(十象舎事件)

おはようございます。

さて、今日は、編集プロダクション社員の時間外割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

十象舎事件(東京地裁平成23年9月9日・労判1038号53頁)

【事案の概要】

Y社は、各種書籍・雑誌の企画・編集を行う編集プロダクションである。

Xは、Y社の元従業員で、平成19年7月から22年7月までY社との間で雇用契約関係にあった。

Xは、分冊百科シリーズの編集・制作を担当するとともに、ライターに記事の執筆を依頼したり、自ら記事を執筆する等の業務を行っていた。

Xの所定労働時間は、午前10時30分から午後7時30分であったが、全体として仕事量が多く、所定の出退社時刻を守っていたのでは、担当の業務を終えることは不可能であった。

一方、Y社は、締切りまでに良い仕事さえすれば勤務時間の使い方は自由で構わないとの考えから、従業員の出退社管理に全くといっていいほど関心がなく就業規則はもとよりタイムカードや出社簿等も全く存在しなかった。

そこで、Xは、Y社において全く出退社管理等が行われていないことに疑問を持ち、将来の残業代請求を視野に入れ、平成20年1月から、毎日、自らの出退社時刻を分単位まで手帳に記録するようになったが、それだけでは証拠としての客観性にかけると考え、出退社時ごとに、パソコンのソフト(Light Way)を立ち上げたうえ、各出退社時刻を打刻し、パソコンのフォルダ内に保存する方法を用いた。

【裁判所の判断】

Xがパソコンソフトに保存・記録していた時刻を、割増賃金請求にかかる期間内のXの出退社時刻に当たると判断

深夜の一部を除き、労基法上の労働時間に当たると判断

付加金として30万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 「労基法上の労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうものと解されるところ(最高裁平成12年3月9日判決)、その判断は、(1)当該業務の提供行為の有無、(2)労働契約上の義務付けの有無、(3)義務付けに伴う場所的・時間的拘束性(労務の提供が一定の場所で行うことを余儀なくされ、かつ時間を自由に利用できない状態)の有無・程度を総合考慮した上、社会通念に照らし、客観的にみて、当該労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かという観点から行われるべきものである

2 ・・・そもそも、Y社が上記のような勤務形態を採用した趣旨は従業員の作業効率を高め、より高い創造性を発揮させることにあり、こうした意図に照らすならば、Y社において、上記のような作業効率(集中力)はもとより仕事に対する創造性も著しく低下するはずの時間帯における、(完全)徹夜勤務まで容認していたものとは考え難く、少なくとも上記時間帯cのうち午前2時以降については、仮に何らかの業務が行われていたとしても、それは、いわゆる「許可・黙認のない持ち帰り残業」に類する性質のものということができる
そうだとするとY社の上記時間帯(午前2時以降)の行為は、特段の事情(残業指示の形跡等)が認められない限り、Y社の指揮命令下に置かれていたと評価することはできないものと解されるところ、Y社代表者とXとの間に上記のような特段の事情を基礎付ける事実関係を認めるに足る的確な証拠はない。
以上によると上記時間帯cは、午前零時から同2時までに限り「労基法上の労働時間」に該当するものというべきである。

労基法上の労働時間該当性の問題は、指揮命令下と評価できるかにより判断されます。

残業代請求事件ではよく問題となる論点です。

日頃から顧問弁護士に相談することがとても大切ですね。

本の紹介62 コトラーのマーケティング思考法(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

さて、今日は本の紹介です。
コトラーのマーケティング思考法
コトラーのマーケティング思考法

大好きなコトラーさんの本です。 非常にいい本です。

題名のとおり、マーケティングの思考方法について、説明してくれています。

僕みたいな素人が読んでも、わかりやすいです。 

以前、「コトラーのマーケティング・コンセプト」を紹介しました。

今回の本のキーワードは、「ラテラル・マーケティング」「ラテラル・シンキング」です。

ラテラルとは、「水平の」という意味です。 反対語が「バーティカル」(垂直の)ですね。

「ラテラル・マーケティング」は、「ブルー・オーシャン戦略」と同じようなものだと思います。

市場をひたすら垂直方向に細分化していくだけではなく、これまで存在しなかった新しいカテゴリーやマーケットを創出するということです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

ラテラル・マーケティングの基本はギャップを生み出すことである。ギャップがなければ、ラテラル・マーケティングは不可能だ。水平移動を実施したにもかかわらずギャップが生じないとすれば、ラテラル・マーケティングではなくバーティカル・マーケティングを実践している可能性が高い。
ギャップとは、2つの要素間に飛躍があるときに生じるものである。したがって、ギャップを生み出す方法はただ1つ、一時的に論理的思考をやめることだ。
」(125頁)

・・・これらの技法を用いることで、意識的に論理的思考を排除することができる。
●代用する
●逆転する
●結合する
●強調する
●除去する
●並べ替える
」(125~126頁)

これは、ラテラル・マーケティングの思考法そのものです。

どんな本を読んでもそうですが、ここまでは、いいんです。

大切なのはここから。

いかに自分のこととして、具体的に考えることができるか、です。

実践できるのは、1%くらいの方だと思います。

弁護士業界で、ドラッカーさんやコトラーさんが言っていることを具体化すると、例えばこうなりますよ、という本を書いたら、売れるかな?

時間があれば、書いてみたいです。 今、やったら、自殺行為ですので、やめときます。

解雇65(ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパン事件)

おはようございます。 

さて、今日は、業績悪化等を理由とする退職勧奨と解雇の相当性に関する裁判例を見てみましょう。

ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパン事件(東京地裁平成23年9月21日・労判1038号39頁)

【事案の概要】

Y社は、アメリカ合衆国を本拠とし、世界的に広告事業を展開するJWTワールドワイドの日本法人である。

Xの職務内容は、広告表現の企画と制作を担当するクリエイティブ部門において、クリエイターを統括するチームリーダーであった。

Y社は、平成18年3月、Xに対し、Y社の業績悪化およびXの勤務成績不良を理由として退職勧奨をし、同年7月頃からXを仕事から外した。

Xは、東京地裁に対し、Y社を相手方として、労働審判、仮処分、本案訴訟を申し立て、Xの請求を全て認める旨の判決を得た。

Y社は、その後も、Xに対し退職勧奨を行ったが、Xは、退職勧奨には応じられない旨を回答した。

Y社は、平成21年10月、Xに対し、解雇する旨の通知をした。

【裁判所の判断】

解雇は無効

慰謝料として30万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 被告は、あくまで、人的理由と経済的理由が競合した普通解雇であり、仮に、本件が整理解雇と呼ばれる類型に該当する事案であるとしても、いわゆる「整理解雇の4要件(要素)」を本件に適用するのは相当でないと主張している。
当裁判所としては、整理解雇とその他の普通解雇とでは、相当程度性質が異なり、その判断要素ないし判断基準も異なる以上、基本的には本件解雇の有効性を立証すべき責任を有する被告の主張の力点の置き方を尊重することとし、まずは一般的な普通解雇の成否を検討することとし、整理解雇については予備的な主張と位置づけるのが適切であると思料する。なお、整理解雇の判断に及んだ場合の判断枠組みとしては、いわゆる要素説の観点から検討するのが相当であり、被告が指摘する事案の特殊性については、この判断枠組み自体を否定するほどの事情とはなりえず、あくまで諸要素の検討において考慮する余地があるにとどまるというべきである

2 Y社は、X側に対し、Y社の経営状況や本件退職勧奨の理由につき、一応の説明をしていることが認められるが、このうち、経営状況の説明については、本件訴訟において書証として提出された以上の説明はしていないものと推認される。また、Y社は、前件訴訟により、Xに関する雇用契約上の地位確認等につきほぼ全部敗訴の判決が確定したにもかかわらず、その後も約2年間にわたってXの出勤を許さず、したがって何ら成果を挙げる機会も与えられないまま、再び退職勧奨をするに至ったことが認められるのであり、これは、解雇の相当性に大きな疑問を生ぜしめる事情というべきである。

3 一方、整理解雇についてみると、・・・人員削減の必要性については、・・・こうした事情からは、本件解雇が、企業の収益性を回復すべく、組織再編等に伴う企業の合理的運営上の必要性から実施された人員削減策であるということはできるが、それを超えて、Y社の経営状況が客観的に高度の経営危機下にあることや、さらにY社が倒産の危機に瀕していることを認めるには足りない
また、解雇回避措置の相当性については、人員削減の必要性につき、企業の合理的運営上の必要性という程度にとどまるものと認定せざるを得ない以上、相当高度な解雇回避措置が実施されていなければならないと言うべきところ、本件で実施されたと評価できる解雇回避措置は、希望退職者を募集したことに加えて、せいぜい不利益緩和措置としての退職条件の提示を行ったという程度であって、甚だ不十分といわざるを得ない。
さらに、手続的相当性についても、必ずしも十分ではなく、また、本件解雇に至るまでの紛争の経緯については、本来、前件判決後にXを実際にY社で勤務させるなどして、X・Y社間の関係を一旦は原状に戻すという手続を踏むことが求められていたというべきであり、広い意味においては、これも本件解雇に至る手続的相当性を揺るがす大きな事情と評価するのが相当である。
結局、以上の要素を総合考慮すると、本件解雇は、整理解雇としても有効であるとは認められない。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。