不当労働行為34(日本鋳鍛鋼事件)

おはようございます。

さて、今日は、労組法上の使用者概念に関する命令を見てみましょう。

日本鋳鍛鋼事件(福岡県労委平成23年11月15日・労判1038号95頁)

【事案の概要】

A社からY社に派遣され、平成21年1月から3か月ごとに契約を更新して、会社総務部で就労してきたXは、Y社に直接雇用される正社員化を打診されたこともあったが、平成22年3月末、Y社における就労を終了した。

Y社で就労していた際の時間外労働などに疑問を抱いたXは、組合に加入した。

組合は、Y社に対して、平成22年6月、10月、12月にそれぞれXの正社員化に関する問題およびXの時間外労働に伴う賃金問題等労働時間に関する問題を議題とする団交を申し入れた。

Y社は、「Xとは雇用関係にないので団交に応じない」旨電話で通知し、団交に応じなかった。

【労働委員会の命令】

未払賃金等労働関係の清算については、Y社は労組法上の使用者にあたる

Xの正社員化に関する事項については、Y社は労組法上の使用者にはあたらない

未払賃金等労働時間管理に関する事項について、Y社が団交に応じないことは不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 使用者とは、一般的には労働契約上の雇用主をいうものであるが、労組法7条に定める不当労働行為制度の趣旨に鑑みれば、同条にいう「使用者」については、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて事故の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の「使用者」にあたると解すべきである(朝日放送事件最高裁判決)。

2 たとえ派遣就労が終了した後であっても、未払賃金の存否等労働関係の清算を巡る何らかの問題がなお残存しており、派遣先事業主が当該問題を解決しうる立場にあると解されるときには、なお当該派遣先事業主は労組法上の使用者に当たることがあると考えられる。
しかしながら、本件のような派遣先事業主における派遣社員の正社員化(派遣社員の直接雇用を意味する)の問題とは、本来、派遣社員の雇用主である派遣元が決定する性質のものではないのは自明であるから、これについて「雇用主と・・・同視できる」かという判断基準を用いるのは適切でない

3 正社員化について派遣労働者と派遣先会社との間で明確な合意があるなどの事情がある場合も、近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存するということができる。本件においては、・・・XとY社との間に、正社員として雇用するとの明確な合意があったとはいえない。

4 申立人は、XとY社との間に黙示の労働契約が締結されていたと主張する。しかし、Xは、本来の労働者派遣の枠組内でY社に就労していたにすぎず、例えば、派遣元事業主の存在が形骸化していたり、派遣元事業主と労働者との間の労働契約が無効となるような重大な派遣法違反が存在していたり、Xの賃金等を実質的にY社が支払っていたなどの特段の事情は認められないことからすれば、XとY社との間に黙示の労働契約が成立していたとはいいがたい

このケースは、重要な判断がてんこもりですね。

しかも、2つの団交事項で、結論が分かれており、比較しやすいです。

司法試験の問題にちょうどいいですね。

派遣先会社であっても、労組法上の使用者にあたることがあるので、気をつけましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。