解雇64(みくに工業事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

みくに工業事件(長野地裁諏訪支部平成23年9月29日・労判1038号5頁)

【事案の概要】

Y社は、工作機械類の製造および販売等を目的とする会社である(従業員数211名)。

Xは、平成10年2月、Y社のパート社員として雇用され、12年6月、準社員となった。

Y社における準社員とは、Xのこのようにパート社員から昇格するものであった。

Y社は、平成21年3月頃、希望退職者を募集し、同年8月、30名の希望退職者が確保された。

Xはこの希望退職者募集の対象に含まれていなかったが、Y社はXを退職勧告の対象とし、4回の面接が行われたが、Xは、雇用の継続を希望した。

そこで、Y社は、Xの配転について検討し、Xに配転先の候補を伝えたが、Xは納得できないと回答した。

その後、Y社は、Xを解雇する旨の意思表示をした。

Xは、本件解雇が整理解雇の要件を満たしておらず無効であると主張した。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、いわゆる整理解雇に該当するところ、整理解雇は、労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇であって、その有。効性については、厳格に判断するのが相当である。そして、整理解雇の有効性の判断に当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性及び手続の相当性という4要素を考慮するのが相当であり、以下のような観点から本件解雇の有効性について検討する。

2 正規社員や準社員から派遣社員等への従業員の入替えについては、会社として長期的にかかる構造転換の方針をとることそのものは、経営合理化の観点からみて理解できないではないが、本件解雇を有効たらしめるための要素としての人員削減の必要性の有無という観点からみた場合、かかる実態を安易に容認することはできない。

3 Y社が、Y社においては客観的にXの受入れが可能であり、かつ、Xにおいても受諾する可能性があるIK製造部におけるA勤務のみの条件提示を、これが可能であるにもかかわらずしていないことは、提示すればXの解雇を回避することができる可能性がある提案の不行使に当たるものと評価せざるを得ず、これによれば、Y社による本件解雇を回避するための努力の履行が十分でなかったものと認めるのが相当である。

4 Y社における準社員という地位は、パートタイマー、アルバイト、臨時工、期間工、請負社員、派遣社員、嘱託社員など終身雇用の保証がなく、仕事量の多寡に応じて雇用され、雇用調整が容易な労働者とは、正規社員と同じ終身雇用制の下で雇用されているという点で本質的に異なり、会社との結び付きの面でも、正規社員と全く同一ではないもののこれに準じた密接な関係にあるものと解され、解雇の相当性判断に際しては、正規社員と同様に判断するのが相当である。したがって、Xが準社員であったことを、Xを解雇の対象者として選定した事情として合理的なものと認めることはできない

5 使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職について利益(中間利益)を得たときは、使用者は、当該労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり中間利益の額を賃金額から控除することができるが、上記賃金額のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当である。したがって、使用者が労働者に対して負う解雇期間中の賃金支払債務の額のうち平均賃金額の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきである(最高裁昭和37年7月20日判決)。

この裁判例も4要素で判断しています。 最近、4要件で判断している裁判例がとても少ないですね。

もともと解雇権濫用法理は総合判断ですから、整理解雇だけ要件と考える理由はないので、それはそれでいいと思いますが。

さて、今回のケースでも、整理解雇は無効と判断されています。

判決の理由を読むと、会社側は、それなりの解雇回避措置を講じていますが、やはり有効とはなりませんでした。

会社側からすると、本当に整理解雇を適切に行うのは難しいと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。