Daily Archives: 2016年10月14日

労働災害87 労時間労働を理由とする従業員の自殺について使用者の安全配慮義務違反が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、従業員の自殺につき安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が認められなかった事案を見てみましょう。

ヤマダ電機事件(前橋地裁高崎支部平成28年5月19日・労経速2285号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として勤務していた亡Xが平成19年9月19日に自殺をしたことについて、同人の相続人である原告らが、亡Xの自殺はY社における長時間にわたる時間外労働や過度な業務の負担によりうつ病に罹患したためのものであると主張して、安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく損害賠償として、原告1に対し8620万4734円、原告2及び原告3に対しそれぞれ1736万7455円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・亡Xの業務上の負荷について、軽かったということはできず、一定の負荷が生じていたことは否定できない。
しかしながら、原告らが主張するような、亡Xが月100時間を超える時間外労働をしていたという事実が認められないのは前記のとおりであって、長時間労働と精神疾患の発症との明確な関連性はまだ十分には示されていないとの医学的知見に照らせば、亡Xの時間外労働時間が死亡直近の1か月でおおよそ94時間30分、死亡直近の1週間でおおよそ39時間55分に及んでいる点のみをもって、亡Xが極めて強い業務上の負荷を受けていたと直ちに評することはできない。 

2 亡Xの業務上の負荷については、フロアー長への昇格や短期間での労働時間の増加により、一定程度の心理的負荷が生じていたということは否定できないが、他方、開店準備作業に大幅な遅れが生じていたとは認められないこと、作業期間中の亡Xの具体的業務について、特段の負荷が生じる内容であるとは認められず、本件過誤についても強い心理的負担を生じるものとはいえないこと、Y社の支援・協力体制に不備があったとはいえない上、店舗内の人間関係についても特段問題はなかったことなどからすれば、亡Xについて、精神障害を発症させるほどの強い業務上の負荷が生じていたとはいえないというべきである。

3 ・・・以上の点を考慮すると、亡Xが9月15日の時点で重症うつ病エピソードを発症していたとの労災医員意見書は採用することはできず、その他、亡Xが上記精神障害を発症していたことを認めるに足る証拠はない。
そうすると、本件においては、亡Xが自殺をした動機や原因については結局のところ不明であるといわざるを得ないが、その交際関係など他に了解可能な動機がある可能性は否定できず、また、平成11年に警察庁が公表した自殺の動機に関する統計資料において、「不詳」とされているものが約7パーセント存在することも考慮すれば、亡Xが自殺した点のみをもって、何らかの精神障害を発症していたとみることもできない。

長時間労働等を理由として労災認定されているにもかかわらず、使用者が安全配慮義務違反を認めなかった裁判例です。

労働者側としては油断ならない判断です。

使用者側としては、労災認定がされていても訴訟では異なる事実認定がなされる可能性があることを理解し、先入観を持たずに主張立証をしなければなりません。