Daily Archives: 2016年12月5日

労働災害89 歓送迎会後の任意の送迎中の事故死を業務災害に当たるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、歓送迎会後の任意の送迎中の事故死を業務上の事由による災害に当たるとした最高裁判例を見てみましょう。

行橋労働基準監督署長事件(最高裁平成28年7月8日・労経速2290号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していた労働者であるXが交通事故により死亡したことに関し、その妻が、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、行橋労働基準監督署長から、Xの死亡は業務上の事由によるものに当たらないとして、これらを支給しない旨の決定を受けたため、その取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。

行橋労働基準監督署長が上告人に対して平成24年2月29日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の決定を取り消す。

【判例のポイント】

1 Xが本件資料の作成業務の途中で本件歓送迎会に参加して再び本件工場に戻ることになったのは、本件会社の社長業務を代行していたE部長から、本件歓送迎会への参加を個別に打診された際に、本件資料の提出期限が翌日に迫っていることを理由に断ったにもかかわらず、「今日が最後だから」などとして、本件歓送迎会に参加してほしい旨の強い意向を示される一方で、本件資料の提出期限を延期するなどの措置は執られず、むしろ本件歓送迎会の終了後には本件資料の作成業務にE部長も加わる旨を伝えられたためであったというのである

そうすると、Xは、E部長の上記意向等により本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、その結果、本件歓送迎会の終了後に当該業務を再開するために本件工場に戻ることを余儀なくされたものというべきであり、このことは、本件会社からみると、Xに対し、職務上、上記の一連の行動をとることを要請していたものということができる。

2 そして、上記の経過でXが途中参加した本件歓送迎会は、従業員7名の本件会社において、本件親会社の中国における子会社から本件会社の事業との関連で中国人研修生を定期的に受け入れるに当たり、本件会社の社長業務を代行していたE部長の発案により、中国人研修生と従業員との親睦を図る目的で開催されてきたものであり、E部長の意向により当時の従業員7名及び本件研修生らの全員が参加し、その費用が本件会社の経費から支払われ、特に本件研修生らについては、本件アパート及び本件飲食店間の送迎が本件会社の所有に係る自動車によって行われていたというのである。

そうすると、本件歓送迎会は、研修の目的を達成するために本件会社において企画された行事の一環であると評価することができ、中国人研修生と従業員との親睦を図ることにより、本件会社及び本件親会社と上記子会社との関係の強化等に寄与するものであり、本件会社の事業活動に密接に関連して行われたものというべきである。

3 また、Xは、本件資料の作成業務を再開するため本件車両を運転して本件工場に戻る際、併せて本件研修生らを本件アパートまで送っていたところ、もともと本件研修生らを本件アパートまで送ることは、本件歓送迎会の開催に当たり、E部長により行われることが予定されていたものであり、本件工場と本件アパートの位置関係に照らし、本件飲食店から本件工場へ戻る経路から大きく逸脱するものではないことにも鑑みれば、XがE部長に代わってこれを行ったことは、本件会社から要請されていた一連の行動の範囲内のものであったということができる。

4 以上の諸事情を総合すれば、Xは、本件会社により、その事業活動に密接に関連するものである本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、本件工場における自己の業務を一時中断してこれに途中参加することになり、本件歓送迎会の終了後に当該業務を再開するため本件車両を運転して本件工場に戻るに当たり、併せてE部長に代わり本件研修生らを本件アパートまで送っていた際に本件事故に遭ったものということができるから、本件歓送迎会が事業場外で開催され、アルコール飲料も供されたものであり、本件研修生らを本件アパートまで送ることがE部長らの明示的な指示を受けてされたものとはうかがわれないこと等を考慮しても、Xは、本件事故の際、なお本件会社の支配下にあったというべきである。
また、本件事故によるXの死亡と上記の運転行為との間に相当因果関係の存在を肯定することができることも明らかである。
以上によれば,本件事故によるXの死亡は,労働者災害補償保険法1条,12条の8第2項,労働基準法79条,80条所定の業務上の事由による災害に当たるというべきである。

ぎりぎりのところでなんとか最高裁によって救済されました。

上告をあきらめていれば、この結果には至りませんでした。

あきらめたらそこで終わりです。