賃金137 就業規則変更に伴う賃金・退職金減額と合理性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、新人事制度導入に伴う就業規則の変更と退職金減額の成否に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人早稲田大阪学園事件(大阪地裁平成28年10月25日・労判1155号21頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の教職員であったXらが、新人事制度が施行され就業規則(各種規則等を含む。)が変更されたことで退職金が減額となったが、同変更がXらを拘束しないとして、変更前の規則に基づく退職金と既払退職金との差額及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 就業規則の変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、労働条件の集団的処理、特にその統一的、画一的決定を建前とする就業規則の性質上、当該条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解され(最高裁大法廷昭和43年12月25日判決・民集22巻13号3459頁参照)、当該変更が合理的なものであるとは、当該変更が、その必要性及び内容の両面からみて、これによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2075頁参照)。

2 以上からすれば、Y社の経営状況は非常に悪化していたといわざるを得ず、経営状態が改善されなければ最悪の場合には解散をも視野に入れざるを得ないこととなる(実際、平成24年4月12日の団体交渉では解散の話にも言及がなされている。)。
解散や整理解雇は、従業員に大きな影響を及ぼすものであることから、その前段階として回避努力を行うことが必要となるところ、既に説示したとおり、生徒数等に鑑みれば、収入が劇的に増加(回復)することは見込めないという状況下においては、支出を削減するという方法によるしかないこととなる。
Y社は、役員数の減少、役員報酬の減額、定期昇給の停止、手当の削減、希望退職の募集等の措置を講じていたものではあるが、前記のとおり、人件費の支出が大きな割合を占めるというY社の性質からすれば、経営状態を改善するためには、上記の各措置のような一時的な対策のみでは効果は限定的であるといわざるを得ず、賃金体系(退職金を含む。)を抜本的に改革するほかなかったといわざるを得ない
そうすると、本件変更には、労働者の退職金等という重要な権利に不利益を及ぼすこととなってもやむを得ない高度の必要性があったと認められる。

3 これらの事情に加えて、Y社が、本件組合に対し、財政状況が悪化しており、放置すれば財政破綻を来すおそれがあることについては少なくとも本件変更の約7年2か月前から説明していることや、本件変更の約11か月前である平成24年6月1日付けで人事制度改革に関する個別相談窓口を設けるなどしていたことをも併せ考慮すれば、Y社は、本件組合あるいは教職員に対し、少なくとも、突如として本件変更の必要性があることを説明したものではなく、以前から、複数回にわたって新人事制度導入の必要性やその内容について説明を行っていたと評価することができ、6期連続赤字という経営状態であっても、直ちに昇給を停止するなどの措置を講じるのではなく、従前の給与規則に基づいて賃金の支払を継続してきたものである。
また、本件変更に係る説明に際しても、本件組合からの要求を受けて資料を開示するなどしていたほか、本件組合との交渉においても、新人事制度が所与のものであって、変更の余地がないというような強硬な態度をとることなく、平成24年度の賞与の支給、昇給の延伸及び激変緩和措置等に関する本件組合の要求を受けて、従前提案していた制度から変更するなど、柔軟な対応をとっていたと評価することができる。
そうすると、全体として、Y社の本件組合あるいは教職員に対する説明の内容・態度は適切なものであったと評価することができ、平成24年4月12日の団体交渉において、書記長が、「平成25年度の改革は考えていただいて結構」、「財政再建策やって頂いて結構」と述べるに至っているのも、その表れと評価することができる。
以上を総合考慮すると、本件変更については、これにより被るXらの不利益は大きいものではあるが、他方で、変更を行うべき高度の必要性が認められ、変更後の内容も相当であり、本件組合等との交渉・説明も行われてきており、その態度も誠実なものであるといえることなどからすれば、本件変更は合理的なものであると認められる。

労働条件の不利益変更のうち、賃金や退職金の減額する場合には、上記のとおり、より一層高度の必要性が求められます。

本件は有効と判断された例ですが、ご覧のとおり、もはやぎりぎりの状態の中で気が遠くなるような準備が必要とされます。

そう簡単にはいかないことは明らかです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。