従業員に対する損害賠償請求5 労務不提供等を理由とする損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、労務不提供等を理由とする損害賠償等請求と反訴請求に関する裁判例を見てみましょう。

広告代理店A社元従業員事件(福岡高裁平成28年10月14日・労判1155号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、元従業員のXに対し、①Xの労務不提供によりY社に損害が生じた旨、②Y社が外部から請け負ってXに担当させていた業務について、Y社が支払いを受けるべき報酬の支払いをXが受けた旨を主張して、①について、債務不履行に基づく損害賠償、②について、不当利得の返還又は債務不履行に基づく損害賠償を求めるとともに、これらそれぞれについて、遅延損害金の支払いを求め(本訴)、
Xが、Y社に対し、③Y社においてXに時間外労働及び深夜労働をさせた旨、④Xの退職申出に対し、Y社が違法な態様でこれを引き止めた旨を主張して、③について、割増賃金+遅延損害金を求め、④について、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償+遅延損害金の支払いを求める(反訴)事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、5万円を支払え

Xのその余の請求を棄却

Y社の控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社代表者は、Xを雇用する使用者として、Xから自己がうつ病に罹患しておりY社での業務に耐えられないとの訴えを受けたのであるから、その詐病を疑ったとしても、Xが真にうつ病に罹患しているか、罹患しているとしてY社での業務遂行が可能なものであるかどうかなどを判断するため、Xから診断書を徴収するなどして、これを慎重に確認した上で、仮にXがうつ病に罹患していたことが確認された場合には、その病状を悪化させないよう退職時期に配慮するなどの対応をとるべき雇用契約上の義務(安全配慮義務)を負っていたというべきである。
しかるに、Y社代表者は、これらの措置を何らとることがないまま、Xの退職の申出をかたくなに拒んで後任者への引継ぎがすむまでY社での業務を継続するよう執拗に要請し、なおかつ脅迫文言と受け取られても仕方がない発言に及んでXの意思決定を拘束し、その結果、Xの申出とは真逆の内容が記載された本件誓約書に署名押印させたものというべきである。
したがって、Xが本件誓約書に署名押印するに当たり、物理的強制があったとまでは認められないとしても、Xに対する3月末日限りでの退職申出に対し、後任者が採用され同人に対する引継ぎがされるまで退職を認めないとのY社代表者の措置及びこれに至る経緯は、うつ病であるとの申出をした者に対する説得の態様、時間、方法等に照らし社会的相当性を逸脱するものと評価するほかなく、使用者としての安全配慮義務に反する違法なものと評価せざるを得ない。
・・・もっとも、その慰謝料額については、Xは、上記のとおり社会保険労務士と相談して上記誓約書には従う必要がないとのアドバイスを受けたこともあって、その後週末を挟んで3月17日(月曜日)から同月19日(水曜日)まで出勤したものの、病状の悪化により同月20日(木曜日)以降は欠勤した上、同月22日(土曜日)にはY社事務所に合い鍵を使って立ち入り、本件業務に関するデータをY社に無断で持ち出したこと、XがY社にうつ病のため就労が困難であるなどと記載された診断書を送付したのは同月24日になってからであること、その他本件に表れた諸般の事情を考慮すると、5万円が相当である。

2 付加金について検討するに、付加金支払義務は、裁判所がその支払を命じ、その判決の確定によって初めて発生する義務であって、口頭弁論終結前に未払割増賃金支払義務が消滅したときは付加金支払義務が発生する余地がないと解される。
本件においては、上記未払割増賃金支払義務はXのした相殺の意思表示により消滅しているから、Y社が付加金支払義務を負うと解する余地はない(もっとも、このことを度外視すれば、Y社は、恒常的に時間外労働に対する割増賃金の支払を怠っており、Y社代表者もこれに対し特に問題を感じている様子がうかがえないことやその他本件に現われた諸般の事情を考慮すれば、上記以外の理由によってY社が付加金支払義務を免れると解すべき特段の事情はないというべきである)。

上記判例のポイント1の太字部分は、是非参考にしてください。

上記判例のポイント2の付加金に関してですが、括弧内の内容は蛇足ですかね。

日々の労務管理は顧問弁護士に相談しつつ、慎重に対応しましょう。