Daily Archives: 2021年12月1日

解雇354 解雇前の出勤停止期間につき賃金支払義務が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、懲戒解雇を有効としつつ、解雇前の出勤停止期間につき賃金支払義務が認められた事案を見てみましょう。

JTB事件(東京地裁令和3年4月13日・労経速2457号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結していたXが、出張旅費や会議打合費、交際費を不正受給したことを理由に懲戒解雇されたことについて、懲戒解雇は解雇理由の一部を欠く上、不正受給額が高額でないことなどに照らすと、上記懲戒解雇は社会通念上相当とはいえず解雇権を濫用したものとして無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成31年2月分から同年4月分までの未払賃金として81万8320円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

Y社はXに対し、81万8320円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件における経費の不正受給行為の悪質さの程度や、XがこれによってQやY社の秩序に与えた悪影響の程度に照らすと、諭旨退職に応じるか否かを決断するために与えられた猶予期間が数日しかなく、退職金の額も告げられなかったからといって、適正手続に反するということはできない。

2 本件出勤停止命令は、本件就業規則118条に基づき、本件における経費の不正受給の調査やこれに関する懲戒審査の円滑な遂行のために業務命令として出されたものであって、懲戒処分ではないし、これに引き続いてされた賃金の一部不払いも、正当な理由が認められない賃金の不払いであって問題はあるものの、懲戒処分としてされたものではない。したがって、本件懲戒解雇は、実質的にも二重処罰に当たるものではない。

3 Y社は、給与未払について、Xが長期間・多数回に及ぶ不正受給を行っており、その態様等も考慮すると出勤させた場合には証拠隠滅のおそれがあったことから、出勤させなかったものであり、Y社によって労務の提供を拒んだことについて「債権者の責に帰すべき事由」(民法536Ⅱ)があるとはいえず、Y社には本件出勤停止命令以後の賃金の支払義務はないと主張する。
しかしながら、本件の不正受給に係るゴルフの相手方や、不正受給に当たって飲食等の相手方と偽って申請された者は、Q外の者であり、XがQに出勤したとしても、自宅待機の場合に比べて、口裏合わせ等の証拠隠滅等のおそれが高まるとは考え難い。本件で、Xの出勤を禁止しなければならない差し迫った合理的な理由があったとまでは認め難いといわざるを得ない。
本件出勤停止命令は、本件不正受給の調査やこれに関する懲戒審査の円滑な遂行、職場秩序維持の観点から執られたものではあるものの、なおY社の業務上の都合によって命じられたものというべきであり、Y社は、本件出勤停止命令後も賃金支払義務を免れないというべきである。

上記判例のポイント3は悩ましいですね。

本件事案において、自宅待機命令が明らかに不当であると現場で判断するのは極めて困難であると思います。

とはいえ、裁判所の判断は理解できるところですので、参考にしてください。

解雇をする上で必要なプロセスについては、事前に必ず顧問弁護士に相談するようにしましょう。