退職勧奨19 使用者が承諾した後のため、従業員の退職の意思表示の撤回はできないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、録音の証拠能力を肯定し、従業員の退職の意思表示の撤回はできないとされた事案を見ていきましょう。

公益財団法人東京税務協会事件(東京地裁令和3年9月16日・労経速2468号43頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間の労働契約に基づき被控訴人に使用されていた控訴人が、被控訴人に対してした退職の意思表示が撤回、無効又は取消しにより効力を有しないと主張して、Y社に対し、①本件労働契約に基づき、未払賃金25万6000円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②労基法114条、26条に基づく付加金25万6000円+遅延損害金の支払を求め、また、Y社の被用者がXに対して退職強要等のパワーハラスメントに及んだと主張して、Y社に対し、③不法行為(使用者責任)に基づき、慰謝料30万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原判決が控訴人の請求をいずれも棄却したところ、これを不服とする控訴人が控訴した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労働者による退職の意思表示は、これに対し使用者が承諾の意思表示をした後は、もはや撤回することができないものと解される。
これを本件についてみると、Y社においては、幹部職員及び専門職員以外の職員(臨時職員として採用されたXもこれに当たるものと認められる。)の退職については事務局長が決定権限を有するところ、本件退職意思表示について、Y社の事務局長が、4月12日、これを受理して控訴人の退職を承認する旨の決定をしたものと認められる。
そうすると、同日の時点で、Y社は、本件退職意思表示に対し承諾の意思表示をしたものというべきであるから(改正前民法526条1項参照)、その後になされた本件撤回通知により本件退職意思表示を撤回することはできない。

2 Xは、乙第6号証(事業所面談における会話の録音反訳書面及び録音体)について、Xの許可なく録音されたものでありプライバシーを侵害するなどと主張し、違法収集証拠として証拠の排除を求めるものと解される。
そこで検討すると、民事訴訟法が証拠能力(ある文書や人物等が判決のための証拠となり得るか否か)に関して何ら規定していない以上、原則として証拠能力に制限はなく、当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて採集されたものである場合に限り、その証拠能力を否定すべきである。
これを本件についてみると、乙第6号証は、E所長が事業所面談においてXとの会話を録音し、これを反訳したものと認められるところ、当該証拠について控訴人が主張するところは、要するに控訴人の知らないところでその発言が録音されたというものであって、これを前提としても、当該録音が著しく反社会的な手段を用いてなされたとはいえないから、乙第6号証の証拠能力を肯定すべきである。

本件を通じて、民事訴訟における無断録音の証拠能力に関する考え方を押さえておきましょう。

退職勧奨の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。