労働者性45 元代表取締役が労災保険法上の労働者にあたるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元代表取締役が労災保険法上の労働者にあたるとされた事案を見ていきましょう。

国・八代労働基準監督署長事件(熊本地裁令和3年11月17日・労経速2473号29頁)

【事案の概要】

Xは、平成31年1月28日、a社が運営する本件工場において、廃タイヤ・廃プラスチック破砕機のメンテナンス業務に従事中の事故により、左肘関節開放性脱臼骨折等の傷害を負った。

本件は、Xが、上記傷害は労働者の負傷に該当するとして、八代労働基準監督署長に対し労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付の申請をしたところ、八代労働基準監督署長が令和元年6月12日付け及び同月17日付けでこれらを不支給とする決定をしたことが違法であると主張して、本件各処分の取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

労災不支給決定を取り消す。

【判例のポイント】

1 Xがa社の代表取締役を退任した後(本件事故当時)、本件工場に所属する従業員はXを含めて7名であり、工場長(リサイクル部の責任者)はFが務め、副責任者3名とともに本件工場の管理を行っており、Xは本件工場に所属する平社員3名のうちの1人として、Fから毎日朝礼時にその日の作業内容について指示を受け、本件工場内で重機を使用した廃タイヤの片付け作業を行い、Fから個別の指示を受けることもあった一方、Xが他の従業員に指示を出すことはなくなっていたものであり、a社の代表取締役を退任したXが以前の地位を理由にFや本件工場の副責任者から受けた業務上の指示を無視したり拒否したりした事実の存在は窺われない
また、本件工場の業務は顧客等から回収した廃タイヤを処理して製紙工場等への販売用チップに再資源化する業務であり、そのために毎月約150トンもの多量の廃タイヤが本件工場に搬入されていたこと、本件工場の業務量は年間を通じて落ち着いており、基本的にXを含む平社員の従業員の残業はなかったことからすれば、Xは本件工場の平社員として毎日継続的に発生する廃タイヤの処理業務を現場の責任者であるFの指示の下に淡々と行っていたにすぎず、X自身による業務量の調整はされていなかったことが推認されることに加え、Xが代表取締役退任後にその旨をa社の取引先等に通知した上で、専ら本件工場内で就労するようになり、外出をするときには工場長のFに報告し許可を得ていたことを併せ考慮すると、a社とXとの間で労働条件通知書や労働者名簿等が作成されていなかったことや本件事故後にXが雇用保険の被保険者であるとの確認を得られなかったことを踏まえても、Xは、使用者であるa社(直接的には本件工場の責任者であるF)から具体的な業務遂行についての指揮監督を受け、それに従って指示された業務を行っていたというべきであり、Xがその業務に対し諾否の自由を有していたものとは認められない

2 Xは、a社の代表取締役を退任した後、毎日、自宅から約6km離れた場所に所在する本件工場に通勤し、同工場の責任者であるFの指揮監督下に就業規則で定められた稼働時間(午前8時から午後5時までの時間帯)の間、本件工場内で廃タイヤの片付け作業を行っており、本件工場での業務を中断して外出することはほとんどなく、仮に外出する場合には責任者であるFにあらかじめ報告を行う必要があったことに照らすと、a社によりXの業務時間及び業務場所は管理されており、Xはa社における就労のために時間的場所的拘束を受けていたものと認められる。

3 Xが、a社の代表取締役退任の前後を通じて(本件事故発生時まで)本件工場内で重機を使用した廃タイヤの処理作業を行っていたことからすれば、Xのa社における業務(労務)の円滑な遂行がXよりも経験年数の少ない従業員により行うことが可能であったとは考え難いし、少なくともXの従事していた作業を他の者に代わって行わせることが容易であったことを窺わせる事情は認められない。

4 Xは、本件事故当時、a社から本件工場に所属する従業員として毎月基本給20万円の支給を受け、当該基本給から社会保険料の控除及び源泉徴収をされた後の金銭を受領していたことに照らすと、当時Xがa社から支給を受けていた基本給は、Xの本件工場における一定時間の労務の提供への対価たる賃金として支払われていたものと認められる。

5 本件事故の発生当時、Xがa社以外の会社で勤務して報酬を得ていたことはなく、個人的な事業(副業)も行っていなかったこと、Xが本件工場で廃タイヤの処理作業に使用していた重機や工具は、a社の所有物であり、X個人が所有するものはなかったことに加え、Xがa社の代表取締役退任後(本件事故発生の1年以上前)に約14年間加入していた労働者災害補償保険の特別加入者から脱退したことを照らすと、Xのa社における勤務には専従性が認められる一方、Xに事業者性は認められないというべきである。

肩書や役職等の形式面に囚われずに、働き方の実質を具体的に主張することが求められます。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。