同一労働同一賃金26 定年後再雇用者の基本給・手当・賞与にかかる労契法20条違反の有無(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年後再雇用者の基本給・手当・賞与にかかる労契法20条違反の有無に関する裁判例を見ていきましょう。

名古屋自動車学校(再雇用)事件(最高裁令和5年7月20日・労判1292号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を定年退職した後に、Y社と期間の定めのある労働契約を締結して勤務していたXらが、Y社と期間の定めのない労働契約を締結している労働者との間における基本給、賞与等の相違は労働契約法20条に違反するものであったと主張して、Y社に対し、不法行為等に基づき、上記相違に係る差額について損害賠償等を求める事案である。

【裁判所の判断】

原判決中、Xらの基本給及び賞与に係る損害賠償請求に関するY社敗訴部分を破棄する。

前項の部分につき、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す

【判例のポイント】

1 管理職以外の正職員のうち所定の資格の取得から1年以上勤務した者の基本給の額について、勤続年数による差異が大きいとまではいえないことからすると、正職員の基本給は、勤続年数に応じて額が定められる勤続給としての性質のみを有するということはできず、職務の内容に応じて額が定められる職務給としての性質をも有するものとみる余地がある。
他方で、正職員については、長期雇用を前提として、役職に就き、昇進することが想定されていたところ、一部の正職員には役付手当が別途支給されていたものの、その支給額は明らかでないこと、正職員の基本給には功績給も含まれていることなどに照らすと、その基本給は、職務遂行能力に応じて額が定められる職能給としての性質を有するものとみる余地もある。そして、前記事実関係からは、正職員に対して、上記のように様々な性質を有する可能性がある基本給を支給することとされた目的を確定することもできない。
また、嘱託職員は定年退職後再雇用された者であって、役職に就くことが想定されていないことに加え、その基本給が正職員の基本給とは異なる基準の下で支給され、被上告人らの嘱託職員としての基本給が勤続年数に応じて増額されることもなかったこと等からすると、嘱託職員の基本給は、正職員の基本給とは異なる性質や支給の目的を有するものとみるべきである。
しかるに、原審は、正職員の基本給につき、一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から年功的性格を有するものであったとするにとどまり、他の性質の有無及び内容並びに支給の目的を検討せず、また、嘱託職員の基本給についても、その性質及び支給の目的を何ら検討していない
また、労使交渉に関する事情を労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮するに当たっては、労働条件に係る合意の有無や内容といった労使交渉の結果のみならず、その具体的な経緯をも勘案すべきものと解される
Y社は、X1及びその所属する労働組合との間で、嘱託職員としての賃金を含む労働条件の見直しについて労使交渉を行っていたところ、原審は、上記労使交渉につき、その結果に着目するにとどまり、上記見直しの要求等に対するY社の回答やこれに対する上記労働組合等の反応の有無及び内容といった具体的な経緯を勘案していない
以上によれば、正職員と嘱託職員であるXらとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。 

最高裁の判断として実務に与える影響はとても大きいです。

正社員と嘱託社員との労働条件の格差について、名古屋高裁の判断が待たれます。

とはいえ、前回も書きましたが、労働力不足が今後ますます深刻化する中で、はたしてこのような「格差」をどこまで許容し続けるのかは、法律論とは別に考える必要があろうかと思います。

同一労働同一賃金の問題は判断が非常に悩ましいので、顧問弁護士に相談して対応するようにしてください。