おはようございます。
今日は、引抜き・競業行為に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。
海洋開発長崎元従業員事件(長崎地裁令和7年6月10日・労判1347号53頁)
【事案の概要】
本件は、浮桟橋及び漁礁の販売、設置等の海洋開発事業を営むY社が、元従業員であるXは、Y社在籍中からY社と競業する趣旨でZ社を設立した上、その退職に当たり従業員の引抜き(一斉退職)を主導し、あるいは必要な引継ぎを行わず、また、Y社の顧客等に対する信用毀損行為を行い、Y社の取引先を奪取するなどの社会的相当性を逸脱した行為を行ったと主張して、Xに対しては不法行為又は雇用契約上の付随義務ないし信義則上の義務違反に基づき、Z社に対しては不法行為又は会社法350条(類推適用)に基づき、損害賠償金合計1億1273万6384円+遅延損害金の各連帯支払を求める事案である。
【裁判例の判断】
1 Xは、Y社に対し、2197万7806円+遅延損害金を支払え。
2 Z社は、Y社に対し、Xと連帯して、1755万7846円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 Xは、在職中からY社と競業する意図で被告会社を設立するための準備行為を行い、Z社をして取引先を奪取する意図の下、積極的加害意思をもって関係先に虚偽の事実を説明するなどのY社に対する信用毀損行為を行ったばかりか、退職時期を早めて退職後直ちに設立したZ社をして現に取引先であるH社からH社案件を奪取した上、Aら4名の一斉退職を主導してY社を壊滅状況にして事業継続を困難な状況に陥れたことからすると、上記各行為は、従業員としての誠実義務に明らかに違反するもので、自由競争として許される範囲を逸脱した違法な行為であり、その背信性は著しく、原告に対する不法行為を構成すると評価すべきである。
2 Xが負担すべき損害賠償金
(ア) リリース作成及び配布に伴う費用 14万7640円
(イ) H社案件の受注機会喪失に伴う損害 268万5061円
(ウ) 原告の平成31年以降の魚礁事業の売上減少に伴う損害 1328万2785円
(エ) 財産的損害(サーバー等の持ち去り、データ消去等) 37万2320円
(オ) 無形損害 350万円
(カ) 小計 1998万7806円
3 Z社が負担すべき損害賠償金
(ア) H社案件の受注機会喪失に伴う損害 268万5061円
(イ) 原告の平成31年以降の魚礁事業の売上減少分 1328万2785円
(ウ) 小計 1596万7846円
4 弁護士費用
ア X 199万円
イ Z社 159万円
この種の紛争において、裁判所がいかに謙抑的に損害を認定するかがよくわかります(それでも他の事案と比較すると金額的には認められているほうですが)。
原告会社からすると「やられ損」という気持ちになるのではないでしょうか。
競業避止義務の考え方については顧問弁護士に相談をし、現実的な対策を講じる必要があります。