賃金28(月島サマリア病院事件)

おはようございます。

さて、今日は、倒産の危機に瀕していたとまではいえない場合の退職金の減額に関する裁判例を見てみましょう。

月島サマリア病院事件(東京地裁平成13年7月17日・労判816号63頁)

【事案の概要】

Y社は、個人経営の病院である。

Xは、Y社を平成11年に自己都合退職した看護師である。

Y社は、生命保険会社との契約による企業年金と就業規則上の退職金制度を有し、後者から前者を控除した金額を支給することになっていた。

ところが、Y社は、経営状況悪化のため、退職金の算定基礎を基本給の100%から80%に引き下げ、勤続年数ごとの支給比率も削減する就業規則の変更を行った。

これにより、Xの退職金額は、674万円から359万円と47%削減された。

Xは、Y社に対し、変更前の算定方法に基づく退職金額の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 就業規則の変更に関し、変更部分の規定文言そのものを従業員に個別に周知しない限り変更の効力が生じないとするのは、労働条件の統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質に照らし相当ではなく、掲示板への掲示程度の周知であっても、変更の効力が生じたものとみることが相当である。

2 一般に、就業規則の作成及び変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に関することは、原則として許されないと解されるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないというべきである。

3 ここでいう当該条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金という労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

4 この合理性の判断要素として本件においてあらわれている事情としては、本件就業規則の変更による不利益性の程度のほか、Y社の経営状態等、代償措置の有無、従業員の側の対応が挙げられる

5 本件就業規則の変更については、その不利益性は相当程度大きいところ、Y社がこれに対する代償措置を講じた事実が認められず、かつ、従業員の対応等によって変更の合理性が基礎付けられるものではないと解される下で、本件就業規則の変更当時のY社の経営状態が、必ずしも芳しくなかったとはいえ、倒産の危機に瀕しているとまではいえないのであって、他に本件就業規則の変更の効力がXに及ぶことを根拠付ける主張、立証のない本件においては、この変更が合理的なものであると解することはできないものといわざるを得ない。

本裁判例は、とても参考になりますね。

上記判例のポイント4の判断要素のうち、代償措置と従業員側の対応について、Y社がもう少し工夫すれば、結果が変わった可能性があります。

「周知」するだけではなく、「協議」する機会を与えるべきでした。

また、Y社としては、慰労金・功労金付加の規定、10年後見直し措置を講じましたが、裁判所は、代償措置として不十分であると判断しました。

ここは、従業員の不利益の程度とのバランスが求められるところなので、本件のように、不利益が大きい場合には、相応の代償措置が求められるわけです。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金27(名古屋学院事件)

おはようございます。

さて、今日は、独自の年金制度を廃止する就業規則の変更に関する裁判例を見てみましょう。

名古屋学院事件(名古屋高裁平成7年7月19日・労判700号95頁)

【事案の概要】

Y社は、中学校と高等学校を併設する学校法人である。

Y社は、昭和34年5月、独自の年金制度を採用し、就業規則上の制度として位置付け、職員Xらは昭和42年3月以降、年金拠出金を積み立てていた。

しかし、Y社理事会は、昭和53年7月、独自の年金制度の廃止を内容とする就業規則等の変更を決議し、Xらに対し、独自の年金制度を昭和52年3月に遡って廃止する旨を通告した。

これに対し、Xらは、年金を受給しうる地位にあることの確認等を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に新たな就業規則の作成又は変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないところであるが、労働条件の集合的処理、特に統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からして、当該就業規則の作成又は変更に合理性が認められる場合には、個々の労働者に等しく適用されるものであって、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を排除することはできないものと解される。

2 そして、退職年金が、賃金や退職一時金と並んで、労働者にとって重要な権利であることは論を待つまでもなく明らかであり、しかも本件年金規程に基づく年金受給権の原資には、職員の拠出分が含まれているものである上、その支給条件は明確化されていて、功労報償的性格よりも、むしろ権利性の色彩の強いものであるといえるから、これを剥奪する結果となる就業規則等の改廃については、そのような不利益を労働者に受忍させることが許容されるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容であることが必要であるというべきである

3 Y社が、昭和50年度の時点で行った本件年金制度の将来予測によれば、本件年金制度を本件年金規程のまま存続させると、Y社の経常会計から本件年金基金に毎年補填しなければならなくなることが明らかになり、しかもY社は昭和48年に学校敷地の約3分の1を売却して約20億円の債務を弁済して間もなくの時期であり、財政的な基盤が十分とはいえなかったうえ、経常会計においては消費支出超過状態が続いていたのであるから、本件年金制度につき抜本的な改革を要する状態にあったものであることを認めることができる

4 そして、本件年金制度を維持しつつ基金の健全化を図る有力な方法として、適格年金制度に準ずる制度の導入が考えられるが、・・・一時的な延命策に過ぎず、いずれは同様の問題が発生することが予測されたことが認められる。

5 右の必要性との関係から見ると、・・・本件就業規則等の改廃の内容は、Xらに不利益を与えるものであるが、他方、代償措置として退職金制度の改正、非常勤講師としての再雇用制度の新設等考慮すると、他に私学共済年金制度が存在することと相まって、Xらが定年後において、相当程度の生活を維持しうる水準の収入を得ることが可能となっていることが認められるので、その内容も相当性があるものということができる

6 Xらは、・・・いずれも20年以上の勤続となり、拠出金の拠出義務を果たしているから、本件年金規程による年金受給資格を取得したものであり、Y社は、就業規則の変更によって、この既得の権利を侵害することはできない旨主張するが、Xらが具体的に本件年金規程による年金受給権を取得したものではなく、受給資格を満たしたものに過ぎないのであるから、具体的な年金受給権の取得を前提とする右主張は採用できない。

本裁判例も、他の裁判例同様、「高度の必要性」を要求しています。

「高度の必要性」に基づいた合理的な内容であるか否かについては、(1)必要性、(2)相当性、(3)適正手続という観点から判断されています。

また、参考になるのが、上記判例のポイント6です。

拠出金の拠出義務を果たし、年金受給資格をみたした従業員であっても、具体的な年金受給権を取得したとはいえず、それゆえ、年金制度を廃止しても、具体的な権利侵害とはいえない、と判断しています。

そういうもんですかね・・・。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金26(空港環境整備協会事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職手当支給規程の変更に関する裁判例を見てみましょう。

空港環境整備協会事件(東京地裁平成6年3月31日・労判656号44頁)

【事案の概要】

Y社は、航空公害の現状調査とその対策の研究、航空公害防止のための施設、環境の整備等を事業とする財団法人である。

Xは、昭和50年、Y社に採用され、Y社の運営する航空公害研究センターの研究員として稼働し、平成2年9月に退職した。

Y社は、給与制度改正の一環として、就業規則の退職金規程を改定した。

旧規程では、月額給与にその勤続月額を乗じ、さらにその者の勤続年数に応じた割合(5%~21%)を乗じて退職金手当を算定していたが、新規程では、勤続期間を区分して、区分ごとに、当該区分に応じた割合(100%~120%)と当該区分における勤続年数及び退職時の月額給与を乗じて金額を算定し、その合計額を退職金手当額とする内容に変更した(ただし、実際には、退職加算金等も支給された)。

これに対し、Xは、旧規則の支給率に基づく退職金の支払い(支給済み退職金との差額)を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、その不利益の程度を考慮しても、なおそのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

2 Y社職員の給与については、その職務の性格からみて、公務員並みの水準に改善されることが望まれていたところ、Y社の給与制度には、退職手当の支給限度がなく、かつ支給倍率が公務員に比べて遙かに高く、その結果、給与が低いのに比べ退職手当が高く、制度としてバランスを欠き不合理であるという問題があったため、その改正が迫られていた状況にあり、このような不合理を招来する旧退職規程を改正しないまま給与改善と定年延長を併せて実施するならば、給与に一定の支給割合を乗じて算出される退職手当がますます多額になるため、その不合理性は一層助長され、本件給与制度改正の趣旨を没却する結果になることは明らかであったものということができ、本件退職規程変更は、給与制度改正の一環として、給与、諸手当等の改正と一体をなすものとして実施されたものと認めることができる

3 本件退職規程変更と給与規程改正とは不可分一体の関係にあることは前記のとおりであるから、本件退職規程変更によってY社職員の受ける不利益の程度については本件退職規程変更だけを独立に取り上げて判断するのは妥当でなく、給与制度改正の全体の中で検討すべき筋合である。

4 本件退職規程変更によりY社職員が退職時に受領する退職手当の支給倍率は低減されたとはいえ、これと一体となった給与規程改正により給与自体が従前の昇給相当分を大幅に越えて増額されたため、退職時の給与に所定の支給割合を乗じて算出される退職手当は見かけほど低下したことにはなっておらず、その一方で、賞与を含む給与の増額改善、さらには退職手当として後払いされるべき部分を給与として事前に受け取っているものと評価することができる金利相当分の利益をも合わせ考慮するならば、金額的に確定することはできないものの、本件給与制度改正によりY社職員が被る実質的な不利益は、Y社と同一歩調をとってきた財団法人航空振興財団の俸給表ないし公務員のベースアップ率を基準とする限り、僅かなものであると認めることができる。

5 改正前の給与制度には不合理な点があり、給与、退職手当を含めて勤労意欲を向上せしめるようなバランスのよい給与制度とする必要性があったこと、退職手当の算定方式については、その支給割合が極めて高水準で、しかも、支給限度がなく、公務員の退職手当より相当有利なものであったため、算定方式を従来のままにして、社会的な趨勢ともなっている定年を延長し、かつ給与も増額するとするなら、旧退職規程の不当性はさらに拡大することになるのであって、本件退職規程変更が給与改善及び定年延長の前提として必要不可欠であったことに鑑みると、本件給与制度改正の必要性が認められ、かつ、その改正された給与制度の内容自体、公務員に極力準じたものになっており、相応の社会的妥当性が存すると認められる

上記判例のポイント5は参考になりますね。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金25(松下電器産業(年金減額)事件)

こんにちは。

さて、今日は、退職年金の減額に関する裁判例を見てみましょう。

松下電器産業(年金減額)事件(大阪高裁平成18年11月28日労判930号13頁)

【事案の概要】

Y社は、1966年4月、私的な福祉年金制度を創設した。

本件年金制度は、基本年金と終身年金とを支給する。

Y社は預かり原資を他の社内資金と区別した管理・運用はせず、利息相当分と終身年金はY社自身の事業資金から支給される。

本件年金制度の根拠である年金規程には、「将来、経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった場合、あるいは法制面での規制措置により必要が生じた場合は、この規程の全般的な改定または廃止を行う」との定めがある。

Xは、退職時に本件年金の受給をY社に申し込み、本件年金規程の定めに従い、年金額、支給期間(20年間)、預かり原資、給付利率(8.5%~9.5%)、支給日等を定めた年金契約を締結した。

Y社は2002年4月、本件年金制度を現役従業員について廃止し、市場金利変動型の「キャッシュバランスプラン」を導入した。

本件改定を不服とするXらは、その違法・無効を主張し、本件改訂前の年金額と新年金額との差額分の支払等を求めて訴えを提起した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 年金規程の加入者との間の福祉年金契約の内容となるという機能との関係では、具体的な権利義務がすでに発生しているから、その不利益変更は、本来信義則に反することであり、加入者の利益を代表する組織があるわけでもない。そうであれば、年金規程を改定して加入者の権利を変更する要件としての「経済情勢・・・の変動」は、改定の必要性を実質的に基礎付ける程度に達している必要があり、改定の程度についても、変更の必要性に見合った最低限度のものであること(相当性)が求められるというべきである

2 年金規程23条1項の「経済情勢」には費用負担者であるY社の状況を含むと解すべきところ、1996年4月の本件協定締結以降の諸事情によれば、本件改定当時、Y社の業績は本件改定当時の予測を著しく下回って悪化しており、本件年金制度の従前通りの維持は困難と推認されること、2002年4月1日以後の退職者に対する本件年金制度の廃止によって、世代を異にする従業員間の公平の維持という本件年金制度の前提が失われたこと、本件年金制度を含む高いコストを製品価格に転嫁しているとの批判があったことに照らすと、Y社の総資産がなお大きいことなどを考慮しても、おおむね平成8年以降の経済状況からみて、本件改定当時、規程23条1項にいう「経済情勢に大幅な変動があった場合」との要件に該当すると解することができ、本件年金制度の給付利率を一律2%引き下げる必要性があったとも認められる

3 本件改定後の給付利率は、原資である退職金を他の方法で運用するよりもかなり有利な水準であること、年金額の減額幅の大きさを考慮してもXらの生活が本件改定によってきわめて深刻な影響を受けるとまではいい難いこと、Y社が周知や経過措置の追加を行ったことにより、加入者総数に対する本件改定についての賛成者の割合は最終的には約95%になったことを総合的に考慮すれば、本件改定は、Xらの退職後の生活の安定を図るという本件年金制度の目的を害する程度のものとまではいえず、Y社は、本件改定の実施に先立ち、不利益を受けることになる加入者に対し、予め、給付利率の引下げの趣旨やその内容等を説明し、意見を聴取する等して相当な手続を経ているから、本件改定については、相当性もあったと認められる

本件裁判例は、年金制度の不利益変更について、必要性と内容の相当性を考慮して、変更の合理性を判断しています。

変更の必要性の判断で、裁判例が考慮するのは、企業の経営状況、企業年金の財政負担と将来見通し、企業の経営改善策、経営改善策に伴う従業員・取引先・株主の負担、退職金・企業年金制度の見通し状況等です。

このほか、本裁判例では、現役従業員との不公平にも着目しています。

変更内容の相当性については、制度目的や受給者の期待度との関係で減額の程度、受給者の生活への影響の程度、改定後の給付利率の水準、受給者の大多数の同意などを考慮しています。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金24(小田急電鉄(退職金請求)事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職金の減額に関する裁判例を見てみましょう。

小田急電鉄(退職金請求)事件(東京高裁平成15年12月11日・労判867号5頁)

【事案の概要】

Y社は、鉄道事業等を主たる業務とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、退職までの間、普段はまじめに勤務してきた。

Xは、京王井の頭線において、電車で痴漢行為を行い、警察に逮捕勾留され、20万円の罰金刑が言い渡されていた。

Y社は、昇給停止、および降格の処分を行った。

Xは、後日、JR高崎線の電車において、痴漢行為を行い、逮捕勾留され、起訴された。

Xは、勾留中、Y社の従業員らの面会を受け、その際、痴漢行為を認め、Y社が用意した自認書に署名指印して交付した。

Y社は、「業務の内外を問わず、犯罪行為を行ったとき」に該当するとしてXを懲戒解雇するとともに、「懲戒解雇により退職するもの、または在職中懲戒解雇に該当する行為があって、処分決定以前に退職するものには、原則として、退職金は支給しない」と定める退職金支給規則4条にもとづき退職金を支給しなかった。

Xは、退職金全額の支払いを求めた提訴した。

【裁判所の判断】

退職金支給基準の3割を認容

【判例のポイント】

1 退職金の支給制限規定は、一方で、退職金が功労報償的な性格を有することに由来するものである。しかし、他方、退職金は、賃金の後払い的な性格を有し、従業員の退職後の生活保障という意味合いをも有するものである。ことに、本件のように、退職金支給規則に基づき、給与及び勤続年数を基準として、支給条件が明確に規定されている場合には、その退職金は、賃金の後払い的な意味合いが強い。

2 そして、その場合、従業員は、そのような退職金の受給を見込んで、それを前提にローンによる住宅の取得等の生活設計を立てている場合も多いと考えられる。それは必ずしも不合理な期待とはいえないのであるから、そのような期待を剥奪するには、相当の合理的理由が必要とされる。

3 退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに、それが業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど・・・強度な背信性を有することが必要である。このような事情がないにもかかわらず、会社と直接関係のない非違行為を理由に、退職金の全額を不支給とすることは、経済的にみて過酷な処分というべきであり、不利益処分一般に要求される比例原則にも反する

4 退職金が功労報償的な性格を有するものであること、そして、その支給の可否については、会社の側に一定の合理的な裁量の余地があると考えられることからすれば、当該職務外の非違行為が・・・強度な背信性を有するとまではいえない場合であっても、・・・当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じ、退職金のうち、一定割合を支給すべきものである。本件条項は、このような趣旨を定めたものと解すべきであり、その限度で、合理性を持つと考えられる。

5 本件では、相当強度な背信性を持つ行為であるとまではいえないが、他方、職務外の行為であるとはいえ、会社および従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでいるY社にとって相当の不信行為であることは否定できない。本件については、本来支給されるべき退職金のうち、一定割合での支給が認められるべきであり、その具体的割合については、本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、また、Xの過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去のY社における割合的な支給事例等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割が相当である

退職金の減額については、その是非及び程度の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

有期労働契約18(学校法人加茂暁星学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、高校非常勤講師の雇止めに関する裁判例について見てみましょう。

学校法人加茂暁星学園事件(新潟地裁平成22年12月22日・労判1020号14頁)

【事案の概要】

Xらは、Y高校の非常勤講師として期間を約1年間とする有期雇用契約を毎年更新してきた。

Xらの勤務年数は、それぞれ25年間と17年間であった。

Y高校は、平成19年2月、Xらに対し、「平成19年度の雇用に関しては学級減等のため、理科の非常勤講師時数は0時間となります」「あなたの雇用は平成19年3月25日までとなりますのでお知らせ致します。」旨の内容を記載した内容証明郵便を郵送した。

Xらは、本件雇止めは不当であると主張し争った。

【裁判所の判断】

本件雇止めは無効

【判例のポイント】

1 期間の定めのある雇用契約であっても、期間満了ごとに当然更新され、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にある場合には、期間満了を理由とする雇止めの意思表示は実質において解雇の意思表示に当たり、その実質に鑑み、その効力の判断に当たっては、解雇に関する法理を類推適用すべきであり、また、労働者が契約の更新、継続を当然のこととして期待、信頼してきたという相互関係のもとに雇用契約が存続、維持されてきた場合には、そのような契約当事者間における信義則を媒介として、期間満了後の更新拒絶(雇止め)について、解雇に関する法理を類推適用すべきであると解される。

2 整理解雇とは、使用者が経営不振の打開や経営合理化を進めるために、余剰人員削減を目的として行う解雇をいうところ、Xらの雇止めにおいて、Xらに非違行為等の落ち度は全くないのであって、Y学校も使用者側の経営事情等により生じた非常勤講師数削減の必要性に基づく雇止めであること自体は否定していない以上、Xらの雇止めは使用者が経営合理化を進めるために余剰人員削減を目的として行った雇止めであるとみることが相当である。
したがって、Xらが主張するとおり、Xらの雇止めには整理解雇の法理を類推適用すべきと解する。すなわち、Xらの雇止めの「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」の有無は、(1)人員削減の必要性、(2)雇止め回避努力、(3)人選の合理性、(4)手続の相当性の4つの事情の総合考慮によって判断するのが相当であると解する。

3 もっとも、非常勤講師は、Y学校との間の契約関係の存続の要否・程度に、専任教員とはおのずから差異があるといわざるを得ないので、Xらの雇止めが解雇権の濫用に当たるか否かを判断するに際しても、専任教員の解雇の場合に比べて緩和して解釈されるべきであり、それまで雇用していたXらを雇止めにする必要がないのに、Xらに対して恣意的に雇用契約を終了させようとしたなど、その裁量の範囲を逸脱したと認められるような事情のないかぎり、「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が存在するといえ、解雇権の濫用に当たると認めることはできない

4 非常勤講師の雇止めの場合に要求される「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が、専任教員の解雇の場合に比べて緩和して解釈されるべきことからすれば、雇止め回避努力として、Y学校において希望退職者募集等の具体的な措置をとることまでは必要なかったというべきである。
しかしながら、Y学校がXらを雇止めするに当たって、財政上の理由からして非常勤講師の人件費をどれだけ削る必要があるか等についておよそ検討したとは認められないことからすれば、Y学校が、非常勤講師の大量雇止め以外に財政状況改善手段を検討したという事情は認められない。また、その他Xらの雇止めに際し、何らかの回避措置がとられたことを認めるに足りる証拠はない。
以上からすれば、Y学校において、何らかの雇止め回避努力をしたとは到底認められない。


期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態にある期間の定めのある雇用契約の雇止めの意思表示は、実質的には解雇の意思表示にあたります。

そのため、解雇権濫用法理が類推適用されます。

整理解雇の場合と同じように、手順をしっかり踏まないと、このような結果になります。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

管理監督者19(デンタルリサーチ社事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

デンタルリサーチ社事件(東京地裁平成22年9月7日・労判1020号66頁)

【事案の概要】

Y社は、歯科を中心とする医療に関する情報処理サービス業および情報提供サービス業等を主要な業務とし、具体的には、歯科医として開業を検討している者に対し、人材紹介事業、不動産事業、情報誌発行事業などを行っていた。

Xは、平成9年5月にY社に雇用され、人材事業部に所属していたが、Y社が平成13年に不動産事業部を立ち上げたことに伴い、同部に移籍し部長に就任し、不動産物件の紹介、賃貸借契約書の作成・チェック、市場調査や事業計画の策定、融資手続や開設に必要な書類作成、諸手続の代行等の業務を一手に行っていた。

なお、Xが、不動産事業部の従業員の労務管理や人事考課を担当していたことはない。

Xは、平成19年7月、Y社に対し、退職願を提出した。

退職後、Xは、Y社に対し、在職中に行った時間外・休日労働につき、割増賃金および付加金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求認容。
→Xは管理監督者にはあたらない。

付加金の支払いを命じる。

【判例のポイント】

1 Xは、その労働時間の立証としてタイムカードを提出し、概ねその打刻に沿う内容の労働時間の主張をする。タイムカードの打刻により打刻時刻が機械的に印字される以上、X自身が打刻する限り、タイムカードの打刻時刻はXの出勤、退勤時刻をほぼ正確に示すものということができるから、この意味で、上記タイムカードはXの労働時間を端的に立証する信用性の高い証拠資料ということができる

2 割増賃金の基礎となる賃金から除外される賃金として「家族手当」「通勤手当」「別居手当」「子女教育手当」「住宅手当」などが定められているところ、Xに対し家族手当及び住宅手当という名目で支給されている。
これらの規定は、労働の内容、量と無関係な事情で支給される手当が割増賃金額を左右するのは不当であるとして、これを除外賃金とするとの趣旨に基づくものであることから、その名称にかかわらず実質的に判断されるべきものであり、家族手当、住宅手当と称していても、扶養家族の有無・数や、持家・賃貸の別や、住宅ローン・家賃の額に応じた金額が支給されていないような場合には、上記の立法趣旨にかんがみ除外賃金には含まれないと解するのが相当である

3 労基法41条2号の管理監督者が時間外手当等支給の対象外とされるのは、その労働者が経営者と一体的な立場において、労働時間、休日等の規制を超えて活動することを要請されてもやむを得ない重要な職務や権限を付与され、賃金等の待遇及び勤務態様の面においても、他の一般労働者に比べてその職務や権限等に見合った優遇措置が講じられている限り、厳格な労働時間等の規制を行わなくても、その保護に欠けるところはないという趣旨に出たものと考えられる。したがって、管理監督者に該当するというためには、単に管理職であるだけでは足りないことはもとより当然であって、その業務の態様、与えられた権限、待遇等を実質的にみて、上記のような労基法の趣旨が充足されるような立場であるかが検討されなければならない
Xはその権限の面でも労働時間に対する裁量という面でも管理監督者にふさわしい立場にあるということはできず、その待遇面を最大限強調しても管理監督者であることが基礎付けられるとはいえない。

4 付加金については、裁判所の裁量により支払を命じる性質のものであり、使用者側にその支払を命じることが酷である事情が存する場合にまでこれを命じることは相当ではないものの、本件においては、Y社が長年にわたって時間外手当の未払を続け、かつ、管理監督者と認識している旨述べる管理職の者以外の従業員に対しても時間外手当等を支払っていなかったことなどの本件記録上顕れた諸般の事情を考慮すれば、Y社に対しては、付加金の支払を命じるのが相当である
Y社は、XがY社の営業に関する様々なデータを持って退職したことなどにより甚大な損失を被った旨主張するが、仮にそうであったとしても、そのこと自体がY社において従業員に時間外手当を支給しなかったことを正当化するものではないから、その主張については採用することができない

いつもながら管理監督者性が否定されております。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

配転・出向・転籍6(芝実工業事件)

おはようございます。

今日も配転に関する裁判例を見てみましょう。

芝実工業事件(平成7年6月23日・大阪地裁平成7年6月23日)

【事案の概要】

Y社は、自動車、農機具、工作機械部品用のコントロールケーブル等の製造を業とする会社である。

Xらは、Y社の従業員であり、入社後一貫してY社大阪事業所において勤務し、ケーブル製造の業務に従事してきた。

Y社は、Xらに対し、文書で平成7年5月から、本社工場に勤務せよとの配転命令を行った。

Xらは、本件配転命令は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

本件配転は無効

【判例のポイント】

1 使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものであるが、労働契約等により労使間で就労場所が特定されている場合には、その変更には、従業員の同意を必要とする
また、使用者は、労働者に対する指揮命令権に基づき配転命令をすることができるとしてもこれを濫用することが許されないことはいうまでもなく、当該配転命令につき業務上の必要性が存在しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機、目的をもってなされたものであるとき、若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど特段の事情の存する場合は権利濫用として無効になるというべきである。

2 Y社は、平成5年3月付、本件組合との間で、大阪事業所の縮小に伴い、同事業所を縮小して存続させて、当時大阪事業所に勤務するXらを含む4名の従業員が定年退職するまで存続させることを合意する旨の協定をしており、Y社は、Xらの同意がないかぎり、就労場所を変更することはできない

3 Y社において経営の合理化による収益性を高めることは企業として当然考慮すべき事項ではあるが、そのことから直ちに、Xらの同意及び本件組合の事前協議のなされていない本件配転命令を適法にするものではない。

とても興味深い裁判例です。

経営の合理化を進める必要がある場合であっても、勤務場所の限定がされている場合には、当然には、配置転換をすることはできない、というものです。

とはいえ、合意が得られない場合も考えられます。

この場合には、合意を得ようと真摯に努力したことが裁判所の判断に影響を及ぼすことになるのでしょう。

プロセスが非常に重要になってくるわけです。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍5(古賀タクシー事件)

おはようございます。

今日も、昨日に引き続き、配転に関する裁判例を見てみましょう。

古賀タクシー事件(福岡地裁平成11年3月24日)

【事案の概要】

Y社は、タクシー運送事業を営む会社である。

Xは、Y社に採用された従業員で、タクシー乗務員としてY社に勤務していた。

Y社は、平成7年7月、Xに対し、Xの同意を得ることなく従来のタクシー乗務員から営業係(営業補助)への配転命令をした。

Xは、本件配転命令が無効であるとして、命令後から旧職務に復帰するまでの期間の賃金を請求した。

【裁判所の判断】

本件配転は無効

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則には、「会社は業務の必要により、従業員に職務、職種、勤務地等の異動、又は出向を命ずることがある。この場合、正当な理由なくこれを拒否することはできない。」と規定されている。
Y社は、この規定を根拠に、労働者の同意なく配置転換ができると主張するが、この規定は、一般的に使用者が労働者に対し、配置転換を命ずる根拠となるものであるが、職種を限定された労働者を同意なく自由に配置転換することができる根拠となるものとは解されず、Y社の主張は採用できない。

2 そこで、Xの職務が限定されたものであるかについて検討する。
Y社がXを本採用するに当たっては作成された契約書には不動文字で、表題として「労働契約書(乗務員)」、業務内容として「一般乗用旅客自動車運送事業用自動車の運転と付随する業務」と記載されていることが認められる。この契約書の文言によれば、採用時に右文言によらないt区別な合意がない限り、本件労働契約においてはXの職種は「一般乗用旅客自動車運送事業用自動車の運転と付随する業務」に限定されていたものと解するのが相当である。
前記認定のとおり、営業補助の職務はタクシー乗務員の職務とは別の職務と解すべきであるから、本件の配置転換は職務の限定を越えるものであり、労働者の同意なく一方的に使用者が配置転換を命ずることはできないものである。

3 もっとも、労働契約において職務の限定が認められる場合でも、労働者に配置転換を命じることに強い合理性が認められ、労働者が配置転換に同意しないことが同意権の濫用と認められる場合は、労働者の同意がなくても、配転命令が許される場合がありうると解される。

4 Y社に(1)ジャンボタクシーの運行増加、(2)営業係の不足、(3)乗務員の過剰という事情があったことが認められる。しかしながら、Xの意思を無視してまで、配置転換を強行するほどの必要性や、営業補助にX以外の余人をもっては代え難いという職務の特殊性はなく、本件命令に強い合理性があるとは認められない部長はXに対し賃金体系が異なるのにその十分な説明もしていないし、Xが妻と相談するから待ってくれと言っているのに、翌日から担当車を取り上げて、タクシー乗務を禁止していることが認められるが、この対応は性急であり、労使関係の信義則に反するといえるものである
以上のとおり、本件には労働者に配置転換を命じることに強い合理性が認められるべき事情はなく、労働者が配置転換に同意しないことが同意権の濫用とはならないというべきである。

本件裁判例では、職種が限定されている場合の配転命令には、「強い合理性」が要求されています。

会社側に広い裁量を認めていません。

また、この裁判例の特徴は、配転命令をする際の手続きを非常に重視している点です。

最高裁の3要件とは異なった視点です。

この裁判例を一般化することは難しいと思いますが、参考にはなります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍4(東京サレジオ学園事件)

おはようございます。

今日は、配置転換に関する裁判例を見てみましょう。

東京サレジオ学園事件(東京地裁八王子支部平成15年3月24日)

【事案の概要】

Y社は、養護施設の設置経営を目的とする社会福祉法人である。

Xは、Y社に雇用され、Y社が設置経営する児童福祉施設において児童指導員として18年間勤務していた。

Xは、平成11年4月、Y社から、厨房で勤務する調理員への配転を命じられた。

Xは、本件配転命令は無効であることを主張して、その撤回を求めた。

【裁判所の判断】

本件配転命令は無効

【判例のポイント】

1 使用者が労働者に対して配転を命ずる場合であっても、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても当該配転命令が他の不法な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情が存するときには、当該配転命令は権利の濫用として無効となると解するのが相当である。

2 Y社は、Xが児童指導員としての適格性を欠いているから本件配転命令につき業務上の必要性があったと主張しているが、前記のとおり、Xの児童指導員としての適性の欠如を窺わせるような具体的事実が存在するとは認められないから、結局のところ、本件配転命令は上記必要性が存しないものであったといわざるを得ない

3 本件配転命令は、業務上の必要性を欠いている上、現場での経験をもとに信念を通そうとするXを短絡的に児童養護の現場から排除する目的でなされたものと解されるのであって、配転命令権の濫用にあたるといわざるを得ない。 

配転命令が権利濫用にあたり無効とされた裁判例です。

配転命令は、会社に広い裁量が認められているので、無効とされた裁判例を検討すると大変勉強になります。

本件で、Y社は、Xの児童指導員としての適性の欠如を示す事実をいくつも主張していますが、いずれも配転を認めるだけの業務上の必要性を基礎づけるものではありませんでした。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。