解雇41(洋書センター事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き解雇協議条項に関する裁判例を見てみましょう。

洋書センター事件(東京高裁昭和61年5月29日・労判489号89頁)

【事案の概要】

Y社は、洋書の販売等を目的とする会社である。

Y社において、4名の従業員のうち、Xを含む3名により労働組合が結成された。

組合は、Y社との間で、「会社は運営上、機構上の諸問題、ならびに従業員の一切の労働条件の変更については、事前に、組合、当人と充分に協議し同意を得るよう努力すること」との条項を結んだ。

Y社は、入居中のビルの取り壊しによる社屋移転を組合に明らかにした。その後、Y社は、仮店舗へ移転するため営業を停止し、移転作業を始めたいと組合に申し入れたが、組合は移転による労働条件の悪化などを理由に反対し、労使の協議により移転作業は中止された。

Y社は、休憩室・女子更衣室・組合事務所として別にワンルームを借りるとの最終案を組合に提示したが、組合が拒否し、交渉は行き詰まった。

Y社は、Xらに知らせずに連休中に移転を行い、作業終了後にXらへ仮店舗に出社するよう電報で連絡した。

Xらは仮店舗での就労を命じた業務命令を拒否し、旧社屋が職場であるとして、施錠をはずして旧社屋内に入った上、社長を旧社屋に連行し、役16時間にわたって軟禁して暴行を加え、その後も業務命令を無視して旧社屋を占拠し続けた。これらのことから、Y社は、Xらを懲戒解雇とした。

Xらは、正当な理由がない懲戒解雇であり、事前協議約款が存在するにもかかわらず、Y社はXらの解雇に際して、組合および本人らと一切協議をせず、同意も得ていないから手続的に違法であり、懲戒解雇は無効であると主張した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件事前協議約款の締結に至るまでの前記経過及びその文言・趣意等に徴し、信義則に照らして考察すれば、右事前協議の対象事項には、事柄の性質上事前協議にしたしまない場合、あるいは事前協議の到底期待できない特別な事情の存する場合を除いて、従業員の解雇、処分を含むものと解するのが合理的である

2 組合の構成員は、パートタイマーを除けば、本件解雇をされたXら2名のみであり、組合の意思決定は主として右両名によって行われ、組合の利害と右両名の利害とは密接不可分であったところ、Xら両名は、本件解雇理由たる社長に対しての長時間に及ぶ軟禁、暴行傷害を実行した当の本人であるから、その後における組合闘争としての、右Xら両名らによる旧社屋の不法占拠などの事態をも併せ考えると、もはや、Y社と組合及び右Xら両名との間には、本件解雇に際して、本件事前協議約款に基づく協議を行うべき信頼関係は全く欠如しており、「労働者の責に帰すべき事由」に基づく本件解雇については、組合及び当人の同意を得ることは勿論、その協議をすること自体、到底期待し難い状況にあった、といわなければならないから、かかる特別の事情の下においては、Y社が本件事前協議約款に定められた手続を履践することなく、かつ、組合及び当人の同意を得ずに、Xらを即時解雇したからといって、それにより本件解雇を無効とすることはできない

非常に参考になる裁判例です。

本件は、例外が認められるための「特別の事情」が存在するとされた裁判例です。

あくまで例外ですので、厳格に解釈しなければいけません。

容易に「特別の事情」を認定すると、原則と例外がひっくり返ってしまいます。

とはいえ、本件については、明らかにXらはやりすぎです。

自分たちの要求が通らなかったからといって、犯罪を犯すことは許されません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇40(石原産業(ごみ収集車乗務員・解雇)事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合との事前協議条項に違反する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

石原産業(ごみ収集車乗務員・解雇)事件(大阪地裁平成22年9月24日・労判1018号87頁)

【事案の概要】

Y社は、清掃業等を目的とする会社であり、地方公共団体や事業所から受託ないし受注したごみ収集運搬業務を行っている。

Xは、平成12年、Y社に採用され、ごみ収集車の乗務員として稼働していた者である。

Xは、全日本建設運輸連帯労働組合簡裁地区生コン支部に加入した。

Y社と本件組合は、本件組合の組合員の身分・賃金・労働条件の変更については、本件組合と事前に協議し同意の上、決定する旨(本件事前協議・同意条項)を含む労働協約を締結した。

Xは、ごみ収集車運転中に物損事故を起こしたうえにY社に報告しなかったことを理由に解雇された。

Y社は、Xを解雇するにあたり、事前に、本件組合と協議をすることはなかった。

Xは、本件解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

本件解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、そもそも使用者の単独行為である解雇について、労働組合の同意を要する事項とするのはなじまない旨主張する。
しかし、本件事前協議・同意条項の趣旨は、Y社が本件組合に加入している従業員を解雇しようとする場合、Y社に対し、事前に本件組合との間でその同意が得られるように誠実に交渉することを義務づけることにあり、Y社が、かかる義務を十分に尽くした上で解雇を行った場合には、本件組合の同意がなかったとしても、本件事前協議・同意条項の違反にはならないと解されるから、Y社の上記主張は当たらないというべきである。

2 本件事前協議・同意条項所定の「身分の変更」は、解雇を含むものと解されるから、Y社は、本件組合に加入している従業員を解雇する場合、事前に本件組合との間でその同意が得られるように誠実に交渉しなければならない。しかるに、Y社が本件組合との間で本件解雇について事前協議を行っていないことは、当事者間に争いがない。したがって、本件解雇は、解雇手続に重大な瑕疵があるというべきであるから、労働契約法16条により無効である。

組合との事前協議条項に違反した解雇について判断されています。

特に異論はないと思います。

労働協約で決めたのであれば、それを会社が守らなければいけません。

守らないでいきなり解雇したら、当然、裁判で負けますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

継続雇用制度18(学校法人大谷学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人大谷学園事件(横浜地裁平成22年10月28日・労判1019号24頁)

【事案の概要】

Y社は、平成18年8月頃、継続雇用制度を導入する新たな就業規則を作成し、それによれば、定年退職日以降も引き続き勤務を希望し、かつ、所定の基準に該当する場合は再雇用するとした。

再雇用の対象となる基準の中には、「過去10年間に第52条に定める懲戒処分を受けていないこと」の定めがある。

Xは、定年退職が近づいた平成20年10月、組合を通じて、Y社に対し、60歳定年後の雇用延長を願い出る旨記載した個人意向調査票を提出した。

これに対し、Y社は、Xに対し、平成21年3月31日をもって定年となり、再雇用はしない旨の通知をしたため、Xは、同日、定年により退職することとなった。

Xは、Y社が導入した継続雇用制度は、高年齢者雇用安定法9条2項等に違反し無効であるとして、雇用契約上の地位確認、あるいは、雇用上の権利の侵害を理由に損害賠償を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 高年齢者雇用安定法9条1項が私法的強行性を有するか否かについて検討するに、同項の規定上、これに違反した場合に、労働基準法のような私法的効力を認める旨の明文規定も補充的効力に関する規定も存在しない。また、同項各号の措置に伴う労働契約の内容や労働条件について規定していない。むしろ、継続雇用制度について、現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度であると定義付けるだけで、制度内容を一義的に規定せず、多様な制度を含み得る内容となっており、直ちに私法上の効力を発生させるだけの具体性を備えているとは解し難い。このように、同項の規定自体、私法的強行性を認める根拠は乏しいといわなければならない。

2 しかも、高年齢者雇用安定法は、定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進、高年齢者等の再就職の促進、定年退職者その他の高年齢退職者に対する就業の機会の確保等の措置を総合的に講じ、もって高年齢者等の職業の安定をその他福祉の増進を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与することを目的とし(1条)、事業主のみならず国や地方公共団体も名宛人として、種々の施策を要求しており、社会政策誘導立法、政策実現型立法として、公法的性格を有している。そして、高年齢者雇用安定法9条1項が事業主に対する公法上の義務を課す形式をとり、義務違反に対する制裁としては、緩やかな指導、助言、勧告を規定するのみであること(10条)、高年齢者雇用安定法9条2項は、一定の場合に、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることを許容して、希望者であっても、継続雇用制度の対象としないことを容認していること、高年齢者雇用安定法8条は、平成16年法律第103号による改正後も65歳未満定年制を適法としていることを考慮すると、高年齢者雇用安定法は、65歳までの雇用確保については、その目的に反しない限り、各事業主の実情に応じた労使の工夫による柔軟な措置を許容する趣旨であると解されるのであり、高年齢者雇用安定法9条1項に、Xらが主張するような私法的強行性を認める趣旨ではないことを裏付けている

3 以上のように、高年齢者雇用安定法9条1項の規定自体からも、同条の全体構造からも、Xが主張するような同項の私法的強行性を肯定する解釈は成立しない。

結論としては、これまでの多くの裁判例と同じです。

特徴的なのは、理由を具体的に述べている点ですね。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

労災43(富士通事件)

おはようございます

今日は、午前中は、裁判が1件入っているだけです。

午後は、掛川に移動し、離婚調停をし、夕方、事務所で1件打合せです

夜は、中・高の同級生であり、現在、税理士をしているH君と会食です

学生時代の友人と一緒に仕事ができるのは、本当に嬉しいことです。

多くの仲間が各方面でがんばっているので、僕も負けてられません

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、いじめによる精神障害罹患に関する裁判例を見てみましょう。

富士通事件(大阪地裁平成22年6月23日・労判1019号75頁)

【事案の概要】

Xは、大学卒業後、Y社に入社した。

Xの職務内容は、主にパソコン操作の講師等を行う業務に従事し、顧客先に訪問してパソコン操作の講習を行うほか、社内でのインストラクター業務にも従事してきた。

Xは、自己の仕事の幅を広げようと考えて営業部の部内勉強会に参加した際、部内の全員が参加していたのに、同僚の女性社員から「あなたが参加して何の意味があるの」等と文句を言われた。

京都国際会議場で開催された会場の受付を担当した際、同じく受付支援にきていた京都支社の社員から悪口を言われたり、いやがらせをされる等のいじめにあった。

社内の女性社員らの間で、Xに対する陰口がIPメッセンジャーを利用して行き交い、同社員らはメッセージ授受の直後にお互いに目配せをして冷笑するなどしたことから、Xは、上記IPメッセンジャーによる女性社員ら間の悪口について認識していた。

Xは、Y社を休職し、病院を受診して自律神経失調症との診断を受け、精神科の専門医から「不安障害、うつ状態」との診断を受けた。

Xは、平成17年6月、「休職期間満了により、解雇する」旨の辞令を受けた。

【裁判所の判断】

京都下労働基準監督署長がした療養補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。
→業務起因性肯定。

【判例のポイント】

1 業務と精神障害の発症・増悪との間に相当因果関係が認められるための要件であるが、「ストレス-脆弱性」理論を踏まえると、ストレスと個体側の反応性、脆弱性を総合考慮し、業務による心理的負荷が社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重であるといえることが必要とするのが相当である。

2 そこで、如何なる場合に業務と精神障害の発症・増悪との間で相当因果関係が認められるかであるが、今日の精神医学において広く受け入れられている「ストレス-脆弱性」理論に依拠して判断するのが相当であるところ、この理論を踏まえると、業務と疾病との間の相当因果関係は、ストレスと個体側の反応性、脆弱性とを総合的に考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合には業務に内在又は随伴する危険が現実化したものとして認められるのに対し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であると認められない場合は、精神障害は業務以外の心理的負荷又は個体側要因に起因するものといわざるを得ないから、それを否定することとなる。

3 Xに対するB等同僚の女性社員のいじめやいやがらせであるが、個人が個別に行ったものではなく、集団でなされたものであって、しかも、かなりの長期間、継続してなされたものであり、その態様もはなはな陰湿であった。以上のような事実を踏まえると、Xに対するいじめやいやがらせはいわゆる職場内のトラブルという類型に属する事実ではあるが、その陰湿さ及び執拗さの程度において、常軌を逸した悪質なひどいいじめ、いやがらせともいうべきものであって、それによってXが受けた心理的負荷の程度は強度であるといわざるをえない。しかも、Xに対するいじめやいやがらせについて、Y社の上司らは気づいた部分について何らかの対応を採ったわけでもなく、また、Xからその相談を受けた以降も何らかの防止策を採ったわけでもない。Xは、意を決して上司等と相談した後もY社による何らの対応ないしXに対する支援策が採られなかったため失望感を深めたことが窺われる

社内におけるいじめ、いやがらせは、一般的に立証が難しいです。

今回は、IPメッセンジャーの履歴が残っていました。

勤務時間中に何をやっているんですかね・・・。

よほど暇なんでしょうかね。

Xが会社に対し、別途、損害賠償請求をする可能性もあります。

会社としては、社員間のいじめや理不尽ないやがらせに目を光らせなければいけません。

また、当事者から相談があった場合には、迅速に適切な対応をとる必要があります。

この裁判例を教訓にしてください。

会社の社会的評価を著しく低下させることになります。

会社にとって、優秀な社員を失うことほど大きな損失はありません。

解雇39(メッセ事件)

おはようございます

さて、今日は、経歴詐称を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

メッセ事件(東京地裁平成22年11月10日・労判1019号13頁)

【事案の概要】

Y社は、労働者派遣事業を目的とする会社である。

Xは、Y社との間で、雇用期間を1年とする雇用契約を締結し、平成20年5月からY社において就労し始めた。

Y社は、アメリカで経営コンサルタントをしていたとする略歴書を信用してXを採用した。しかし、当時のY社の代表取締役Y1は、本件雇用契約締結後、Xが会議において他の従業員に対し強く意見を述べた際、その発言内容が理解しがたかったことなど、Xの態度や発言等から、Xが従前経営コンサルタントをしていたとの経歴に疑問を感じるようになった。

そこで、Y1は、インターネットでXの氏名を検索したところ、食品菓子販売大手のA社の役員を中傷するファックスを流したために、平成16年6月、自称経営コンサルタントX容疑者を逮捕した、などと記載された記事を発見した。

Y1は、平成20年5月、Xに対し、本件記事記載の人物がX本人かを確認したところ、Xは、これを認め謝罪するとともに自身は無罪であると主張した。

Y1は、Xの経歴詐称は、本件雇用契約締結の動機づけを覆すものであるからXを解雇しようと考えたが、Xが円満に退職することを望み、30万円を一括して支払うことを条件にXに対して退職勧奨をしたが、Xは退職条件について記載した書面の交付を求め続けた。

そこで、Y社は、Xを懲戒解雇した。

Xは、本件懲戒解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるといえることからすると、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項や、これに加え、企業秩序の維持に関係する事項について必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うものというべきである。したがって、労働者が前記義務に違反し、「重要な経歴をいつわり採用された場合」、当該労働者を懲戒解雇する旨定めた本件就業規則の規定は合理的であるといえる。

2 Xは、信用毀損被告事件で起訴されたことはないから、同起訴を理由としてした本件解雇は無効である旨主張する。
確かに、本件解雇通知書には、信用毀損罪で起訴された旨記載されていることが認められる。しかし、本件解雇の事由に該当するXの所為は、本件服役等の期間中について、渡米して経営コンサルタント業務に従事していた旨及び「賞罰なし」との虚偽の記載をした本件履歴書を提出したことであるところ、当該事実について、本件解雇通知書の記載内容に誤りはない。さらに付言すると、本件前科の罪名は名誉毀損罪であり、信用毀損罪による未決勾留中に求令状起訴されたことからすると、被疑事実と本件前科の犯罪事実は、同一の社会的事象について法的評価が変更されたものと推認され、犯状は異なるものではないから、前記罪名が異なることによって、経歴詐称の程度、悪質性等が左右されるものでもないといえる。

3 労働者が雇用契約の締結に際し、経歴について真実を告知していたならば、使用者は当該雇用契約を締結しなかったであろうと客観的に認められるような場合には、経歴詐称それ自体が、使用者と労働者との信頼関係を破壊するものであるといえることからすると、前記のような場合には、具体的な財産的損害の発生やその蓋然性がなくとも、「重要な経歴をいつわり採用された場合」に該当するというべきである

4 Xは、Y社に対し、本件服役等について秘匿したのみならず、その間、渡米して経営コンサルティング業務に従事していたと自己の労働力の評価を高める虚偽の経歴を記載した本件略歴書及び本件履歴書を提出したことが認められ、その態様は悪質であるといえる。また、Y社は、本件服役等の事実が発覚した後、Xに対し、弁解の機会を与え、さらに、30万円の支払を提示して自主退職の機会も与えたことが認められ、本件解雇に至るまでに相当な手続を履践したといえる。これに対し、Xは、本件前科について無罪である旨主張しながら、その根拠となる資料をY社に提示することを拒否し、また、Y社からの退職勧奨に対し、退職条件について協議するでもなく、退職条件を記載した文書の送付に拘泥するなど、経歴詐称発覚後のXの対応も、Y社との信頼関係を破壊するに足りるものであったといえる。

本件は、本人訴訟のようです。控訴はしていません。

本件事実を見る限り、悪質性が極めて高いので、懲戒解雇は相当であると考えます。

インターネットで情報が半永久的に残ってしまい、それを誰でも簡単に確認できてしまう現代特有の問題ですね。

本件裁判例では、冒頭で、労働者が負うべき真実告知義務の範囲について判断しています。

典型的には、学歴、職歴、前科、年齢などの詐称が問題となります。

それ以外の事項について、詐称があった場合、懲戒処分の対象となるか否かは、ケースバイケースです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

職場のメンタルヘルス対策ガイドブック

おはようございます。

さて、今日は、愛知県から出されたメンタルヘルスのガイドブックを紹介します。

職場のメンタルヘルス対策ガイドブック(PDF)

特に内容として新しいものではありませんが、見やすくまとまっています。

是非、参考にしてくださいませ。

メンタルヘルス対策については、顧問弁護士に相談をしながら、1つ1つ丁寧に進めましょう。

解雇38(小野リース事件)

おはようございます。

さて、今日は、幹部従業員に対する勤務態度・飲酒癖を理由とする解雇に関する最高裁判例を見てみましょう。

小野リース事件(最高裁平成22年5月25日・労判1018号5頁)

【事案の概要】

Y社は、建設機械器具の賃貸等を業とする会社である。

Xは、Y社に雇用され、営業部次長、営業部長を務めた上、平成19年5月には、統括事業部長を兼務する取締役に就任した。

Xは、Y社に雇用された当時から、糖尿病に罹患していて、アルコールの分解能力が健康な人より低く、医師から飲酒を控えるように指導されていたにもかかわらず飲酒を続けていた。そのため、Xは、酒に酔った状態で出勤したり、勤務時間中に居眠りをしたり、同行訪問、社外での打合せ等と称し、嫌がる部下を連れて温泉施設で昼間から飲酒をしたり、取引先の担当者も同席する展示会の会場でろれつが回らなくなるほど酔ってしまったりすることがあった。

Xの勤務態度や飲酒癖について、従業員や取引先からY社に対し苦情が寄せられていたが、Y社の社長は、Xに対し、飲酒を控えるよう注意し、居眠りをしていたときには社長室で寝るように言ったことはあるが、それ以上に勤務態度や飲酒癖を改めるよう注意や指導をしたことはなかった。

Xは、19年6月、取引先の担当者と打合せをする予定があったのに出勤しなかった。

社長は、Xに代わって取引先の担当者と打合せをしたが、その後、取引先の紹介元であり、Y社の大口取引先でもある会社の代表者から、Xを解雇するよう求められた。Xは、同日の夜、社長と電話で話をした際、酒に酔った状態で「(自分を)辞めさせたらどうですか。」と述べた。

社長は、Xの上記発言を退職の申し出ととらえ、退職を承認した。

Y社は、Xが自主的に退職願を提出しなかったため、Xを解雇した。

Xは、本件解雇は、違法であるとして、損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

請求棄却

【事案の概要】

1 本件解雇の時点において、幹部従業員であるXにみられた本件欠勤を含むこれらの勤務態度の問題点は、Y社の正常な職場機能、秩序を乱す程度のものであり、Xが自ら勤務態度を改める見込みも乏しかったとみるのが相当であるから、Xに本件規定に定める解雇事由に該当する事情があることは明らかであった。

2 そうすると、Y社がXに対し、本件欠勤を契機として本件解雇をしたことはやむを得なかったものというべきであり、懲戒処分などの解雇以外の方法を採ることなくされたとしても、本件解雇が著しく相当性を欠き、Y社に対する不法行為を構成するものということはできない。

最高裁の判断は妥当であると考えます。

ちなみに、一審、二審ともに、Xの勤務態度は普通解雇事由に該当するが、Y社が解雇理由となり得ることを警告したり、そのことを理由とする懲戒処分をすることで改善が図れるか見極めることをすべきであったにもかかわらず、これらの手段を講じることなく本件解雇をしたことから、相当性を欠くと判断し、不法行為と認めました。

できることなら、下級審が示しているような手続をとるべきだったと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

賃金23(学校法人実務学園ほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、年俸制の内容の相当性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人実務学園ほか事件(千葉地裁平成20年5月21日・労判967号19頁)

【事案の概要】

Y社は、私立学校法に基づいて設立された学校法人である。

Xは、Y社に採用され、建築実務専門学校に教員として配属され、東京校の教員として勤務している。

Y社は、就業規則を変更し、Xらの給与を年俸制とした。

Xは、給与体系の変更(成果主義型の賃金制度の導入)は、本件就業規則の不利益変更にあたり、合理性がなく無効であるとして、差額分の賃金を請求した。

【裁判所の判断】

請求一部認容

【判例のポイント】

1 労働基準法上、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、法定の事項について就業規則を作成し、・・・これを労働者へ周知させる義務があり、就業規則を変更する場合も同様である(同法89条、90条、106条)。
しかし、就業規則に法的規範として関係者に対する拘束力を生じさせるためには、適用を受ける労働者にその内容を周知させる手続が採られていることが絶対的要件と解すべきであるが、労働者代表の意見聴取や労基署長への届出義務は、就業規則の内容を整備させるとともに行政の監督を容易にしようとするものと解されるから、上記拘束力を生じさせるための要件ではないものと解するのが相当である。また、上記効力発生要件としての労働者への周知の方法については、法定のものに限定されず、実質的に周知されれば足りると解すべきである

2 平成14年規定は、給与を基本給、能力給、実績給の3種に分け、毎年4月1日にこれを見直すこととし、成果主義型の賃金制度を導入した形になってはいるが、基本給につき、その者の学歴、経歴、職務の内容及び責任の度合に基づいて理事長が決定するものとされているものの、能力給、実績給については何らの定めも置かず、その後の平成15年規定及ぶ平成16年規定において、能力給につき、その者の担当業務、業務遂行の難易度に基づいて理事長が決定する旨、実績給につき、前年の実績・学園への貢献度に基づいて理事長が決定する旨の定めが置かれたものの、これら規定はいずれも抽象的なものに止まり、これら3種の給与ついて具体的な決定基準、ランクやそれに対応する具体的金額等を定めた下位規定も存在しない。このような定めは、使用者が従業員の賃金を恣意的に変更・決定することが可能とするものといえる
・・・このような給与決定方法を可能とするような平成14年規定及び平成16年規定は、その内容において相当なものと評価することはできない。

3 消滅時効の援用が権利濫用となり得るのは、債務者がその態度・言動により債務の弁済が確実になされるであろうとの信頼を惹起させ、債権者に時効中断の措置を採ることを怠らせた後、時効期間が経過するや態度を変えて時効を援用するなど、例外的な事情が認められる場合に限られると解されるところ、関係各証拠によっても、本件においてそのような例外的な事情の存在を認めることはできない。

4 本件誓約書は、その作成の経緯及び内容からしてもXの意に反して作成されたことが明らかである上、賞与の返還や翌年度の雇用契約の辞退という、本来Xに義務なき事項まで誓約させる不当な内容のものである。そして、Y社が平成16年度に支給したXの賞与が予定された額の2分の1にとどまった事実も考え合わせると、Aは、本件誓約書をXに手書きさせることによって、Xに屈辱感を与えるとともに、併せて平成16年度におけるXの年収をさらに減額させることを意図し、かつこれらを通じてXに自主退職を余儀なくさせる状況を作り出すことも意図したものと推認される。Aのこの行為は、Xの人格権を侵害する違法な行為として不法行為に該当するというべきである

ポイントは、上記判例のポイント2です。

成果主義型の賃金体型を採用する際、あまりにも恣意的な判断基準の場合、相当性を否定される可能性があります。

いろいろな裁判例を検討してみると、つくづく賃金制度は難しいですね。

どのような賃金体系を採用するのがいいのか、答えが見つかりません。

その分、大変興味深い分野です。

賃金制度の変更については、必ず事前に顧問弁護士に相談して、慎重に対応しましょう。

賃金22(淀川海運事件)

おはようございます。

さて、今日は、時間外労働手当の算定基礎からの除外ないし減額が問題となった裁判例を見てみましょう。

淀川海運事件(東京地裁平成21年3月16日・労判988号66頁)

【事案の概要】

Y社は、自動車運送事業等を主たる目的とする会社である。

Xらは、いずれもY社に期間の定めなく雇用され、トレーラーの運転手等として、稼働してきた。Xらはいずれも組合員である。

Y社は、組合は、皆勤手当と無事故手当を廃止し、代わりに2カ月ごとに査定の上、2カ月ごとに支給される精皆勤報奨金・無事故報奨金を設けることを内容とする協定を締結した。

【裁判所の判断】

各手当を廃止して報奨金とした制度変更は無効。

【判例のポイント】

1 労基則21条は、・・・「別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」を掲げる。ここにいう「臨時に支払われた賃金」とは、臨時的、突発的事由に基づいて支払われるもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に稀に発生するものをいう(昭和22年9月13日発基第17号)と解される。上記規則12条に列挙されたものは、労基法の強硬法規的性格からいって、限定列挙又はそれに近いものと考えられる。したがって、ここに列挙された手当以外の費目は、基本的に時間外手当の算定の基礎となるものというべきである。そして、算定の基礎となるか否かは、手当の名称にかかわらず、その実質によって判断されるべきである

2 平成19年7月以前に、前記皆勤手当、無事故手当、住宅手当及び乗車手当が、運転手である各従業員に一律支給されていたものであることは、争いのない事実である。したがって、これら手当のうち皆勤手当及び無事故手当は、基本給と同様な賃金の一部であるということができ、これを時間外手当の算定の基礎から除外して計算して時間外手当を支給する行為は、労基法37条4項及び同項施行規則21条に違反するというべきである

3 一般的に、各種手当のうち、毎月支給していたものを、評価の期間を変更してそれ以上の期間で評価し、支給することは許されないものではないと考えられる。しかしながら、本件においては、Y社が皆勤手当と無事故手当を時間外手当算定の基礎から除外したことはXらが労基署に申告したことから、Y社は労基署から是正勧告を受け、そのような中で、これら各手当を廃止し、2か月ごとに査定の上、2か月ごとに支給される精皆勤報奨金・無事故報奨金の制度に変え・・・。もともとそれまで1か月単位で評価していたものを2か月単位にすることの合理的な理由は、証拠によっても、明らかでない。しかも、それまでの皆勤手当と無事故手当は、一律支給で賃金の一部を構成していたのであるから、このようなものを廃止して報奨金の制度に変えることについてはなおさら慎重であるべきである。その上、Y社代表者本人によれば、現在でも1か月ごとに査定しているというのであるから、実態にどの程度変更があるのか疑問なしとしない。とすれば、このような事実関係の下においては、上記制度変更は、労基法37条を潜脱するためのものと解するのが相当であり、脱法行為として無効というべきである

裁判所から、時間外労働手当の算定基礎から除外することが目的であると判断されてしまいました。

法律の条文には抵触しませんが、裁判所は、法の潜脱、脱法行為は許してくれません。

気になるのが、上記判例のポイント3の冒頭部分です。

「一般的に、各種手当のうち、毎月支給していたものを、評価の期間を変更してそれ以上の期間で評価し、支給することは許されないものではないと考えられる」

ということは、本件でY社がやろうとしていたことが絶対に許されないというわけではなさそうです。

・・・脱法行為ではないんですかね。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金21(福岡雙葉学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、人事院勧告に基づく期末手当引下げに関する最高裁判例を見てみましょう。

福岡雙葉学園事件(最高裁平成19年12月18日・労判951号5頁)

【事案の概要】

学校法人であるY社の就業規則には、「職員の給与ならびにその支給の方法については、給与規程によりこれを定める」との規定があり、これを受けた給与規程には、「期末勤勉手当は、6月30日、12月10日および3月15日にそれぞれ在職する職員に対して、その都度理事会が定める金額を支給する」との規定がある。

平成14年8月に発表された同年度の人事院勧告は、月例給を2.03%、期末勤務手当を0.05ヶ月引き下げる旨を勧告した。

Y社は、理事会において、同勧告に準拠して給与規程を改定し、職員の月例給を引き下げることを決定するとともに、同年度期末勤勉手当の支給額について、調整するとの決定をした。

これに対し、Y社の教職員であるXらは、Y社に対し、本件各期末勤勉手当の残額等の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社の期末勤勉手当の支給については、具体的な支給額又はその算定方法の定めがないのであるから、前年度の支給実績を下回らない期末勤勉手当を支給する旨の労使慣行が存したなどの事情がない限り、期末勤勉手当の請求権は、理事会が支給すべき金額を定めることにより初めて具体的権利として発生する。

2 本件における12月期の期末勤勉手当の支給額については、各年度とも、5月理事会における議決で、算定基礎額及び乗率が一定決定されたものの、人事院勧告を受けて11月理事会で正式に決定する旨の留保が付されたというのであるから、本件各期末勤勉手当の請求権は、11月理事会の決定により初めて具体的権利として発生したものと解されるので、給与の引下げを内容とする人事院勧告を受け、本件各期末勤勉手当において本件調整をする旨の11月理事会の決定が、既に発生した具体的権利を処分し又は変更するものということはできない。

3 仮に、5月理事会において議決された本件各期末勤勉手当の支給額算定方法の定めが、Y社の就業規則の一部を成す給与規程の内容となったものと解し、11月理事会の決定がXらの労働条件を不利益に変更するものであると解する余地があるとしても、Y社においては、長年にわたり、人事院勧告に倣って毎年給与規程を増額改定し、それまでの給与増額相当分を別途支給する措置を採ってきたというのであって、増額の場合にのみ遡及的な調整が行われ、減額の場合にこれが許容されないとするのでは衡平を失するから、11月理事会の決定は合理性を有する。

国家公務員についての人事院勧告は、年度途中になされることが多いですが、近年の人事院勧告においては、給与等の引下げを勧告する例がみられるようになっており、これを受けて、勧告前に支払った金額に相当する額を減額したのと同様の結果となるように期末手当等において調整する場合があります。

そして、同勧告は、私立学校や社会福祉法人などにおける賃金等の決定においても準拠されることがあるため、このような調整措置が労働契約上どのように評価されるかという問題が生じます。

本件最高裁判例は、上記のとおり、給与引下げを内容とする勧告に基づき期末手当等により調整を図る措置を適法としました。

本件と同様の賃金システムを採用している会社としては、参考になる判例だと思います。

個人的には、結論はさておき、最高裁のとっている理屈がいまいちしっくりきません。

就業規則の不利益変更の問題とのバランスがとれているのでしょうか。

期末勤勉手当を賞与ではなく、あくまで給与として取り扱う以上、同手当について、完全に理事会の裁量とするのは、腑に落ちません。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。