おはようございます。
今日は、外壁のタイルの浮き等について不法行為に基づく損害賠償請求が棄却された事案(東京地判平成29年2月24日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、本件マンションにつき、区分所有法の管理者である原告が、その施工者である被告において、建物の基本的な安全性が欠けることのないよう配慮すべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、本件マンションの共用部分である外壁にタイルの浮きなど建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵を生じさせたため、その各区分所有者が被告に対し不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金を有すると主張し、区分所有法26条4項に基づき、訴訟担当者として、被告に対し、各区分所有者の有する損害賠償金合計9170万2501円(本件マンション外壁の補修費用相当額等)+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 建物の建築に携わる施工者は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負い、施工者がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負い、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵とは、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合もこれに該当すると解すべきである(最高裁平成19年7月6日第二小法廷判決、最高裁平成23年7月21日第一小法廷判決)。
2 まず、外壁診断調査報告書、関係写真台帳及び弁論の全趣旨(本件意見書の内容を含む)によれば、前記外壁診断調査によって指摘された535枚のタイルの浮きのうち、300枚は犬走り・地盤に接している部分であることから、東北地方太平洋沖地震による振動変異がこの取合い部分で大きくなったことが原因で生じたと認められる。
次に、弁論の全趣旨によれば、タイルは経年劣化により浮きが生じるため、外壁タイル張り仕上げの建物の修繕計画は、5年間で3%のタイルが浮くことを想定し、作成されることが多いことが認められる。
これに加えて、本件マンションの竣工から前記外壁診断調査まで約3年9か月であることによれば、同調査時において、2.4%程度のタイルが浮いていても標準と認められる。そして、報告書によれば、本件マンションのタイルは、枚数が67万1240枚、面積が3356.2m2であることが認められるので、前記300枚を含めても、同調査時の本件マンションのタイルの浮き率は0.1%に満たないことが認められる。
さらに、関係写真台帳及び弁論の全趣旨によれば、①タイルのクラック(ひび割れ)がタイル表面にも発生していることから、タイルとコンクリート下地の接着が十分で、コンクリートに発生したクラックがタイル表面に顕在化していること、②クラックはその幅を指標として補修の要否を判断され、0.3mm未満のクラックは、補修を必要とする瑕疵が存することが低いとされていることを認めることができる。そして、外壁診断調査報告書では、0.3mm未満だが要補修とするクラックのあるタイルを3766枚とするが、これらを要補修とする根拠は明らかではない。
もっとも、これらを含めてもそのタイルの割合は0.6%程度であり、これを除けば0.3mm以上のクラックは277枚であるため、補修を要するタイルの割合は0.04%程度である。
よって、本件マンションのタイルの浮き及びクラックは、経年劣化の範囲内と認められ、本件マンションに建物の基本的な安全性を損なう瑕疵があると認めることはできない。
建築瑕疵の事案において、不法行為に基づく損害賠償請求が認められるためには、判例のポイント1のように要件が非常に厳しいです。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。