管理組合運営44 代表理事が自身が務める会社に対して毎月一定額の自動送金をした行為が不法行為にあたるとされた上で、当該行為が故意によるものであること等が考慮され過失相殺が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、代表理事が自身が務める会社に対して毎月一定額の自動送金をした行為が不法行為にあたるとされた上で、当該行為が故意によるものであること等が考慮され過失相殺が否定された事案(東京地判令和4年2月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合法人である原告から、原告の代表理事であった被告が代表者を務める会社に対して、毎月一定額の自動送金がされていたことについて、①上記自動送金は、被告が代表理事の立場を利用して被告の利益を図るために行ったもので不法行為に該当するなどと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、自動送金された金額(振込手数料を含む。)の合計978万8496円、弁護士費用97万8849円+遅延損害金の支払を求め、②上記自動送金は、原告との利益相反取引に該当するのに監事が原告を代表することなく行われたから、原告の代表権がない者によってされたもので無効であると主張して、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、自動送金された金額(振込手数料を含む。)の合計978万8496円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、1284万8261円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 確かに、原告の予算は、総会の承認を受けることとされていることからすれば、b社ないしc施設管理に対して、管理業務等を委託することは、総会の意思決定によるものであって、あくまでその予算の範囲内で本件自動送金の形でb社に委託料が支払われていたとみる余地がないではない。
しかしながら、総会担当理事であった被告は、認定事実のとおりの役員報酬を得ているのであって、その範囲で予定されている業務のほかに、被告がその代表者を務める会社であるb社や個人事業であるc施設管理に原告の管理業務を委託し、実際に、b社やc施設管理が業として管理業務を行っていたことを認めるに足りる的確な証拠はない

2 被告は、平成30年2月頃から、被告による業務に不信感を抱いた原告の組合員らから説明を求められるに至ったのに、具体的な説明を一切していないことからすると、被告は、本件自動送金に係る業務を行った業務報告書等は作成しておらず、原告に対して説明のできるような具体的な業務を実施しているものではないと推認されるところである。
このことは、平成30年9月の原告の総会までの間、b社やc施設管理が被告の営む会社等であることを原告の組合員のほとんどが知らなかったことからも明らかといえる。
そうすると、被告は、自らが原告の総会担当理事で、理事会や総会を取り仕切っていたことを奇貨として、自らが営むb社やc施設管理に業務委託をしたような予算上の措置を講じた上で、他の代表理事であるBに手続を手伝わせた上で、自ら又は自らが代表を務めるb社の利益を図るため、毎月b社に本件自動送金をしていたものと認めるのが相当であって、このことは、理由のない支払を原告にさせて原告の財産を不当に侵害したものと評価することができるから、被告の原告に対する不法行為に該当するというべきである。

3 被告は、仮に被告に不法行為が成立したとしても、原告が被告に管理業務を任せきりにしてきたことなどからすれば、原告側にも過失があったといえるから、過失相殺がされるべきであると主張する。
確かに、原告の理事会及び総会は、原告が取り仕切っており、他の理事や組合員は、高い関心を示していなかったことがうかがわれる。また、日常の管理業務についても、支払業務等は綜警ビルサービスに委託していたものの、管理業務全般を専門業者に委託していたわけではなかったようであり、総会担当の代表理事であった被告が日常の管理業務の一定部分を担っていた可能性は否定できない。
しかしながら、被告は、代表理事として行う業務とb社あるいはc施設管理として行う業務とを明確に区別することなく、また、b社あるいはc施設管理として行った業務を原告に説明することもなく、代表理事になった1年ほど後の平成24年12月から6年にもわたって、b社宛てに漫然と本件自動送金を行ってきたのであって、これは、被告の故意による不法行為というべきものであるから、原告側の無関心等が被告の行為を助長したことがあったとしても、それが、損害の公平な分担という観点から,原告に生じた損害を原告においても負担すべきとする事情と評価することはできない。したがって、本件において過失相殺をすることは相当でない。

原告が被告に管理業務を任せきりにしていたという事情があったとしても、被告の故意による不法行為であることを考慮し、損害の公平な分担の観点から過失相殺が否定されました。

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管理費・修繕積立金42 管理組合が亡区分所有者の相続人の1人に対し、未払管理費等につき、法定相続分である3分の1に相当する額の催告をしたところ、当該催告の時効中断効が、本件未払管理費等の相続債務全体に及ぶとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合が亡区分所有者の相続人の1人に対し、未払管理費等につき、法定相続分である3分の1に相当する額の催告をしたところ、当該催告の時効中断効が、本件未払管理費等の相続債務全体に及ぶとされた事案(東京地判令和4年2月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合である原告が、本件建物の共有者の一人である被告に対し、①管理費等の支払請求権に基づき、別紙滞納管理費等目録記載のとおり、平成16年11月分から令和3年9月分までの管理費、修繕積立金及び大規模修繕一時金+遅延損害金(請求の趣旨第1項)、
②管理規約に基づく弁護士費用等の支払請求権に基づき、59万9403円+遅延損害金(請求の趣旨第2項)、
③管理費及び修繕積立金の支払請求権に基づき、令和3年10月分から令和4年1月分までの合計8万0240円及び令和4年2月以降被告が本件建物の区分所有権を喪失するまで毎月6日限り各2万0060円(請求の趣旨第3項)、
④大規模修繕一時金の支払請求権に基づき、令和3年10月分から令和4年1月分までの1万8224円並びに令和6年2月まで毎月6日限り各4556円及び令和6年3月6日限り4493円(請求の趣旨第4項)の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、147万5192円+遅延損害金を支払え。
 被告は、原告に対し、28万4905円+遅延損害金を支払え。
 被告は、原告に対し、8万0240円及び令和4年2月から被告が別紙物件目録記載の物件の区分所有権を喪失するまで毎月6日限り各2万0060円を支払え。
 被告は、原告に対し、1万8224円並びに令和4年2月から令和6年2月まで毎月6日限り各4556円及び令和6年3月6日限り4493円を支払え。

【判例のポイント】

1 原告が令和3年6月5日に被告に対して本件通知書に係る催告をしたことは当事者間に争いがなく、原告が令和3年9月7日に本件訴えを提起したことは当裁判所に顕著である。
ところで、証拠によれば、本件通知書に係る催告のうち、Cが区分所有権を有していた平成16年11月分から平成28年6月分までの管理費等については、被告に対して法定相続分である3分の1に相当する額の催告をするにとどまっている
しかしながら、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件通知書は、家庭裁判所への照会を通じてD及びEの相続放棄の申述受理が判明する前に発送されたものと認められ、原告において他の相続人の相続放棄の事実を把握していたとも窺われない(なお、早期に時効中断の措置を執る必要があったことからも、家庭裁判所への照会前に本件通知書を発送したこともやむを得ないといえる。)。
また、本件通知書は、「故C氏から相続した(中略)管理費等支払債務の3分の1の金額」という表現がされており、相続債務であることが明示されていることに照らしても、債権者である原告としては、相続放棄により相続人の変動が生じているのであれば、債務者である被告の負担すべき相続債務全体について権利行使する意思があったと解することが可能である。
したがって、本件通知書による催告の時効中断効は、被告が支払義務を負う本件建物の管理費等の相続債務全体に及ぶというべきである。

2 原告は、原告訴訟代理人弁護士に対し、本件訴訟の提起及び追行を委任し、着手金18万8166円(請求金額の8%相当)及び報酬金37万6332円(認容額等の16%相当)の合計56万4498円の支払を約したことが認められる。
ところで、本件では、別紙滞納管理費等目録記載の滞納管理費等のうち番号1ないし番号139(同目録のおよそ3分の2)については、既に消滅時効期間が経過しており、本件通知書による催告以外の中断事由も窺われないことから、被告が消滅時効の援用をするか否か次第ではあるが、消滅時効期間が経過した管理費等については、請求が認容されない蓋然性が高かったといえる。
そうすると、被告の負担すべき弁護士費用としては、上記約定額の全額を負担させるのは相当とは認め難く、本件訴訟の内容及び経過等の事情を勘案すると、着手金及び報酬金を合算して25万円をもって相当と認める。

催告の時効中断効が及ぶ範囲に関する上記判例のポイント1の解釈は是非押さえておきましょう。

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名誉毀損17 理事が理事長について「手の付けられない傍若無人ぶり」、「理事長の蛮行」、「指揮官の私物化強権体質」、「強権支配」、「業者との癒着構造」等と記載したビラをマンションの全住戸に配布したにもかかわらず名誉毀損にはあたらないとされた理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事が理事長について「手の付けられない傍若無人ぶり」、「理事長の蛮行」、「指揮官の私物化強権体質」、「強権支配」、「業者との癒着構造」等と記載したビラをマンションの全住戸に配布したにもかかわらず名誉毀損にはあたらないとされた理由とは?(東京地判令和4年2月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの全住戸に配布された合計3通のビラに関し、同マンション管理組合の理事長を務めていた原告が、本件各ビラはいずれも本件組合の理事を務めていた被告らが配布したものであり、これによって原告の名誉が毀損されたと主張し、被告らに対し、民法719条1項に基づき、慰謝料と弁護士費用の合計220万円+遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、民法723条に基づき、名誉回復措置として本件マンションの掲示板への謝罪文の掲示を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告と被告Y1及び被告Y3は、本件組合の第38期理事会が進めていた本件大規模修繕工事の計画内容に反対し、理事長や理事会に対して批判的なビラを作成して本件マンションの全住戸に配布するなどしていたが、やがて原告と被告Y1及び被告Y3の反対方針にずれが生じ、ともに本件組合の第39期理事になった後は、互いに批判的な内容のビラを作成して本件マンションの全住戸に配布するようになっていたこと、とりわけ被告Y1や被告Y3は、第39期理事会で決まったことに反対する旨の被告ら名義のビラを作成して全戸配布していたこと、そのため、令和2年7月頃には、被告らのビラ配布行為に批判的な本件マンションの住民が現れ(署名入りの者だけでも48名)、同年12月頃には、本件組合の理事に対して被告らがビラを全住戸に配布することにうんざりする旨訴えていた住民がおり、そのことが定例理事会で話題になったこと、以上の事実が認定できる。

2 そうすると、同年11月6日頃に原告が本件排水管工事を早急に実施することを内容とするビラを本件マンションの全戸に配布したことに対し、これを批判する被告ら名義の同月13日付の本件ビラ1、同年12月4日付本件ビラ2及び同月11日付本件ビラ3が本件マンションの全住戸に配布され、本件各ビラに、本件排水管工事に関する記載のほかに、原告について「手の付けられない傍若無人ぶり」、「指揮官の強引さと横暴ぶりには唖然とせざるを得ません」、「理事長の蛮行」、「指揮官の私物化強権体質」、「理事長の専横」、「強権支配」、「業者との癒着構造」、「業者と理事会幹部の危なっかしい癒着構造」、「管理会社と次期幹部が仕組んだ総会議決の転覆不正契約」などの記載があったとしても、本件各ビラを受け取った本件マンションの住民は、被告らが様々な理由にかこつけて本件組合の理事長である原告の理事会運営等に対して従前と同様の批判を繰り返しているとの印象を抱くにとどまるといえるから、本件各ビラによって改めて原告の社会的評価が低下したということはできない
また、仮に本件各ビラが本件マンションの住民以外の者に拡散されたとしても、本件各ビラの体裁からして、それを読んだ者は「本件組合内部の本件大規模修繕工事に関する意見の対立から本件組合の理事会による運営方針等に反目する被告らが理事会を批判するために理事長である原告をあしざまに言っているのであろう」という程度の印象を抱くにすぎないといえるから、本件各ビラによって原告の社会的評価が低下したということはできない。
したがって、本件各ビラの一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とした場合、本件各ビラの意味内容が原告の社会的評価を低下させるものということはできず、本件各ビラの配布行為が原告に対する名誉毀損に当たるとはいえない。

一見すると名誉毀損に当たることは明らかなようにも見えますが、上記判例のポイント1のような事情から、社会的評価を低下させるものとはいえないと判断しています。

このような判断もあり得るのだと知っておくことが大切です。

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漏水事故18 大規模修繕工事により発生した専有部分の漏水被害に関し、施工会社の損害賠償債務について460万5000円を超えて存在しないことの確認請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、大規模修繕工事により発生した専有部分の漏水被害に関し、施工会社の損害賠償債務について460万5000円を超えて存在しないことの確認請求が認められた事案(東京地判令和4年2月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告が居住する専有部分を含むマンション(10階建て)の大規模修繕工事を施工した原告会社が、本件工事中に発生した被告専有部分の漏水被害に関し、被告に対し、上記漏水被害による不法行為に基づく損害賠償債務が460万5000円を超えて存在しないことの確認を求め、本件マンション管理組合である原告管理組合が、被告に対し、上記漏水被害による損害賠償債務が存在しないことの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告は、原告管理組合が、本件漏水被害が確認された時点で、直ちに漏水調査・工事を手配して原因究明及び被害軽減を図る当然の対応をしていれば、本件漏水被害を軽減することができた可能性が高いことから、原告管理組合も、原告会社と連帯して損害賠償責任を負う旨主張する。
しかしながら、本件漏水被害は、本件工事を施工した原告会社の施工不備によることが明らかである。
R社が本件漏水被害について調査及び補修工事を行ったのは、令和2年3月頃から同年5月頃にかけてであることが認められ、本件漏水被害が確認された令和元年5月21日から相当期間経過した後に調査等が行われたものであるが、本件全証拠によっても、この間に、原告管理組合について、不法行為と評価されるほどの何らかの注意義務違反があったことを基礎づける事実は認められないし、これにより本件漏水被害が拡大したと認めることもできない。
以上によれば、原告管理組合が、被告に対し、本件漏水被害に関して損害賠償債務を負うとはいえない。

2 本件工事により、被告専有部分の洋室、リビングダイニングキッチン(寝室を含む。)の天井及び壁面部分に漏水被害が生じたものと認められる。これら以外の箇所について、現在も補修を要する漏水被害が生じたことを認めるに足りる的確な証拠は存しない。
そして、専門委員の意見書では、上記の漏水被害の補修のためには、各部分のクロスの張替え及び漏水により変形した下地の石膏ボードの交換工事を行うことが必要かつ相当であり、その補修費用は、諸経費を含め、118万7037円が相当である旨の意見が述べられているところ、その信用性に疑問を抱かせる事情は何ら窺われない。
補修工事の内容及び被告専有部分の広さ等に鑑みると、同工事の期間中、仮住まいをすることが必要かつ相当ということはできるが、その費用を考慮しても、本件漏水被害と相当因果関係のある損害が460万5000円を超えないことは明らかである。
以上に対し、被告は、本件漏水被害に起因する修繕工事の見積書を根拠に、本件漏水被害の修繕工事費用は、888万2500円が相当である旨主張する。
しかしながら、S社による見積書は、被告専有部分の「リフォーム工事」についての見積書であり、その内容にも、浴室、キッチン撤去、洗面台、トイレ、給湯器、収納建具等の撤去、天井、床等の解体、コンパクトキッチンやユニットバス、洗面化粧台の設置等を含む給排水設備、電気工事等が含まれており、前記で認定した本件漏水被害が生じた範囲に照らしても、本件漏水被害の修繕のために必要な範囲を超えた工事についての見積りであることが明らかである。
また、M社による見積書及びT社による見積書についても、その内容に照らし、前記と同様、本件漏水被害の修繕のために必要な範囲を超えた工事についての見積りであることが明らかである。

漏水事故等による修繕工事費用について、複数の異なる見積書が証拠として提出されることは珍しくありませんが、本件では、専門委員が入っているため、裁判所としては専門員の意見書のベースに損害額を認定しています。

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管理会社等との紛争44 管理会社の誤った説明により室内の水道管から給水されないことに対して専有部分の水道管交換という不要な修繕工事をしたことを理由とする損害賠償請求が棄却された理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理会社の誤った説明により室内の水道管から給水されないことに対して専有部分の水道管交換という不要な修繕工事をしたことを理由とする損害賠償請求が棄却された理由とは?(東京地裁令和4年3月3日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である控訴人が、同マンションの管理会社である被控訴人の誤った説明により、室内の水道管から給水されないことに対して専有部分の水道管交換という不要な修繕工事をしたことによって不要な費用を負担させられたとして、被控訴人に対し、不法行為又は上記マンション管理組合と被控訴人との間の管理委託契約上の善管注意義務違反に基づき、損害賠償として10万円の支払を求めた事案である。

原審は、控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 被控訴人は、控訴人に対し、被控訴人の担当者及び提携業者による本件部屋の現地調査によっては給水されない原因を特定できず、詳細な調査を行っていないため原因を断定できない旨を伝え、また、控訴人が依頼する業者が工事を行う場合も、事前に現地確認をしてもらう必要があることや、工事の結果、共用部分に問題がある場合もあり得ることを伝えている
これらの事情に照らせば、控訴人は、被控訴人から専有部分の給水管の工事を行った場合にも改善しない可能性があることを告知されながら、自らの判断でクラシアンに対して給水管の工事を依頼したものであって、その費用は控訴人自らが負担すべきである
結果として共用部分の水道管に原因があったものといえるが、控訴人が被控訴人に水圧の低下を連絡した時点において、問題が指摘されていたのは本件部屋の台所部分にすぎず、被控訴人の担当者が現地確認を行った際にも本件部屋のトイレの水圧に不具合は見当たらなかったことからすると、被控訴人として共用部分に不具合があることを積極的に疑うべき事情があったとはいえず、被控訴人が提携業者に対して再調査を提案すべき注意義務を負っていたとは認められない
さらに、被控訴人が控訴人に対して上記のとおり原因が不明であることや本件部屋の給水管の交換工事をしても解消しない可能性があることを伝達していることなどからすれば、本件マンションの管理義務上の過失があったとも認められない
他に被控訴人が控訴人に対する関係で善管注意義務に違反したことを認めるに足りる証拠はない。

善管注意義務違反は、結果責任ではありませんので、しかるべき手続に基づき判断し、合理的な対応をした場合には義務違反とはなりません。

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管理組合運営43 理事に対して支給する交通費が最短経路におけるものでなくてもOKとされた理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事に対して支給する交通費が最短経路におけるものでなくてもOKとされた理由とは?(東京地判令和4年3月11日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合法人である控訴人が、その理事を務めていた被控訴人に対し、主位的に、控訴人内部で定められた支給要件を満たさない交通費実費相当額が被控訴人に支給されたとして、不当利得返還請求権に基づき、利得金131万6080円+遅延損害金の支払を求め、予備的に、被控訴人は、控訴人に対する委任契約上の善管注意義務に違反し、あえて不合理な通勤経路を選択することにより交通費実費の支給を受けて控訴人に損害を与えたとして、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、交通費実費支給額131万6080円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、控訴人の請求をいずれも棄却した。そこで、これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 本件基準は、理事に対して支給する交通費の定めについて、「往復の交通費が3000円を超える場合には5000円を限度に別途実費全額を支給する」とするのみで、理事が利用する経路が最短経路であることを要件として求めていない
そうすると、被控訴人が往復交通費3000円以上を要する経路を現に利用し、支給された交通費の実費が上限5000円の範囲内に収まっている以上、控訴人が受領した交通費の実費は、本件基準に基づいて給付されたものであるといえるから、法律上の原因があるというべきである。
この点について、控訴人は、控訴人自身が管理費を原資として運営されるものであり、また、本件基準が公平性・透明性を確保する趣旨で設けられたものであるなどとして、本件基準においては、理事の利用経路が最短経路であることは当然の前提とされており、その限度でしか交通費は支給されない旨主張する。
しかし、交通費の実費を支給する要件として最短経路の利用を求めるのであれば、そのように重要で、かつ、容易に定めることができる要件は、明記されるべきであるし、また、通常は基準として実際に明記されているものであるが、本件基準にはそのような記載はない。
また、本件基準は、従前の取扱いで定められていなかった支給される交通費の実費上限額を新たに定める一方で、実際に理事が利用した経路の妥当性等を検証する事務手続(どの機関が、どのような方法で検証するのか等)については特に定めていないのであって、最短経路の利用を求めていることをうかがわせる内容ともなっていない。
そうすると、本件基準は、各理事が申告し実際に利用した経路に基づき、上限額の範囲内で交通費の実費を支給することとしたものと解するのが自然であって、利用経路は最短経路でなければならないという明示されていない付加的な要件が別途本件基準に課せられていると解することはできない(なお、このように解したとしても、本件基準において支給されるのは交通費の実費であるから、理事が利用もしていない経路に基づく交通費を請求することは防止することができるし、また、支給される交通費の上限額が定められていることから、控訴人又は組合員の資産に不測の損害を生じることはない。)。
したがって、控訴人の主張は採用することができない。

常識的な感覚でいえば、控訴人の主張は十分理解できるところですが、裁判所が述べているとおり、「最短経路の利用を求めるのであれば、そのような規定を設けていくべきでしょ」ということです。

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管理会社等との紛争43 管理費に関するマンション販売会社担当者の説明内容が誤っていたことを理由とする債務不履行又は不法行為に基づく300万円超の損害賠償請求の帰趨は?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費に関するマンション販売会社担当者の説明内容が誤っていたことを理由とする債務不履行又は不法行為に基づく300万円超の損害賠償請求の帰趨は?(東京地判令和4年3月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、①本件契約の締結に際し、被告担当者が本件マンションの月額管理費について実際の額よりも低額である旨誤った説明をしたため、当該説明された月額管理費において本件契約が成立したというべきであるから債務不履行がある、②仮に説明された月額管理費において本件契約が成立していないとしても、月額管理費につき誤った説明をした点につき不法行為が成立するなどと主張して、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償金315万8100円(実際の管理費と説明を受けた管理費の差額(月額3190円)に本件マンションの推定耐用年数である82.5年(990か月)を乗じた額)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、25万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 原告は、本件契約は、被告担当者の説明内容及び重要事項に関する説明内容のとおり、管理費がインターネット等使用料を含めて月額2万8100円との内容で成立している旨主張する。
しかしながら、本件契約は売買契約であるから、被告が負う主たる債務は、本件居室の区分所有権を原告に取得させた上で登記を移転し、本件居室を引き渡すことに尽きるというべきである。
また、本件契約に係る売買契約書には管理費やインターネット等使用料の記載は見当たらない
そもそも本件マンションの管理費は、入居者(区分所有権者)が管理組合に対して負担すべき費用であり、その額等は管理規約の設定を通じて管理組合(区分所有権者)により定められるものであって、本件マンションの売主(分譲主)である被告において決定権限を有する事項ではない
そうすると、本件契約において管理費の額について被告が何らかの債務を負担することは想定されていないというべきである。
以上によれば、インターネット等使用料を含めた管理費が月額2万8100円との内容で本件契約が成立したということはできず、当該内容の債務を被告が負うとは認められないし、本件記載の内容に従って被告が本件マンションの管理業務及びインターネット等接続サービスを自ら提供し、又は第三者をして提供させる義務を負うとも認められない

2 ①被告担当者は、原告がモデルルームを訪れた際、本件資料に基づいて原告に本件居室の管理費について説明したが、その額に誤りがあったこと、②本件契約の締結に際し、重要事項として本件居室の管理費の額について説明がなされたが、重要事項説明書には管理費の具体的な額について記載はなく、管理規約等を用いて管理費の額が説明されることもなかったこと、③原告は、本件居室の管理費が、本件資料に記載されたとおり、インターネット等使用料を含めて月額2万8100円であるとの誤信したまま本件契約を締結したことが認められる。
以上によれば、本件居室の購入を希望する原告に対し、管理費等の額について誤った説明がなされ、原告がその旨誤信したにも関わらず、これを被告において適切に解消しないまま本件契約が締結されたというべきである。かかる一連の対応は、上記信義則上の義務に反するものと認められ、当該義務違反は原告に対する不法行為を構成するものというべきである。

説明義務違反を理由に慰謝料25万円が認められました。

本件は、本人訴訟のため、弁護士費用はかかりませんが、仮に代理人を立てた場合には赤字になってしまうような結果です。

説明義務違反による慰謝料の金額は、どの事案でもそれほど高額になりませんので注意が必要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損16 管理規約に違反して民泊行為を行っている旨が記載された招集通知の発送が名誉毀損にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理規約に違反して民泊行為を行っている旨が記載された招集通知の発送が不法行為にあたらないとされた事案(東京地判令和4年3月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らが、専有部分を区分所有するマンションに関し、被告は、虚偽の内容が記載された上記マンションの管理規約に基づく招集通知を上記マンション管理組合の全組合員すなわち上記マンションの区分所有者全員に発送するという不法行為に及んだとして、被告に対し、原告会社の信用、名誉毀損等による損害金合計400万円+遅延損害金の支払、原告X1の信用、名誉毀損による慰謝料100万円+遅延損害金の支払、別紙謝罪文の掲示及び上記全組合員に対する送付を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 区分所有法30条1項は、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、規約で定めることができる旨を規定している。
規約は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によって設定されるものであり(同法31条1項)、区分所有者によって構成される集会(同法38条参照)の意思決定によるものといえることから、その効力は区分所有者全員に及ぶものと解される。
同法46条は、1項において、規約の効力は区分所有者の特定承継人に対しても及ぶ旨を、2項において、占有者は、建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約に基づいて負う義務と同一の義務を負う旨をそれぞれ規定しており、いずれの規定も規約の効力が区分所有者に及ぶことすなわち区分所有者は規約に従う義務を負うことを当然の前提としているものということができる。
原告らはいずれも本件マンションの区分所有者であるから、本件マンションの規約である本件管理規約に従う義務を負う
そして、本件管理規約第12条2項において「区分所有者は、原則としてその専有部分を特定たると不特定たるとを問わず、また多数たると少数たるとを問わず、他の第三者の一時的宿泊に供する等(会員制リゾート施設、ペンションの経営等)営業行為を行ってはならない。ただし、附属規程第9条(6)に基づき、届け出を行った上、理事会の許可を受ければこの限りではない。」と規定しており(以下「本件規定」という。)、いわゆる民泊行為が本件規定によって原則的に禁止されていることは明らかである。
原告らは、本件マンションにおいて民泊行為に及んでいるところ、証拠上、この民泊行為について、本件規定ただし書所定の本件理事会の許可を得ていることは、認められない
したがって、原告らの民泊行為は、本件管理規約に反するものといえ、その旨を記載した本件招集通知は、虚偽の内容を記載したものではない
以上によれば、原告ら主張に係る不法行為は、前提を欠き、成立しない。

民泊関連の事案では、本件同様、管理規約に定められた手続を経ているかどうかが主たる争点となります。

区分所有に関する紛争においては、裁判所は、管理規約の内容を極めて重視する傾向にありますのでご注意ください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置28 管理組合法人から民泊営業を妨害されたことを理由とする損害賠償請求が棄却された理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合法人から民泊営業を妨害されたことを理由とする損害賠償請求が棄却された理由とは?(東京地判令和4年3月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は,原告らが、被告らから、①原告X1の営む本件マンションの一部である本件居室における住宅宿泊事業及び原告会社の営む住宅宿泊管理業を妨害されるとともに、②原告らの取引先及び本件居室の区分所有者に原告らを法令違反扱いかつ違法民泊運営者であるとする通知書を送付され、原告X1の名誉及び信用を毀損されたとして、不法行為に基づき、原告X1において損害賠償金219万3000円、原告会社において損害賠償金27万円の各支払を求めるとともに、営業権又は不法行為に基づき、被告による妨害行為の差止めを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告X1は、本件届出をしているものの、本件居室において適法に住宅宿泊事業を実施することができないのであるから、被告が本件管理会社に対して、本件規約上、本件マンションにおいては住宅宿泊事業の実施が許容されていないという被告の見解を本件マンションの区分所有者らに説明するよう求めたことにより、本件管理会社が本件居室における原告X1の住宅宿泊事業の利用者に対する本件各業務の提供を拒否したからといって(さらに言えば、仮に、被告の指示により、本件居室における原告X1の住宅宿泊事業の利用者に対する本件各業務の提供を拒否したとしても)、原告らの営業権を侵害するものと認めることはできず、原告らに対する不法行為を構成するものと認めることもできない。

2 原告らは、被告が、本件各居室の区分所有者であるB及びシェア社に対して本件通知書を送付して、法の根拠なく原告らを法令違反扱いするとともに、違法民泊運営者呼ばわりし、原告X1の名誉及び信用を毀損した旨主張する。
しかし、原告らの主張によっても、本件通知書により、いかなる事実ないし意見論評が摘示されているというのか必ずしも明らかにされていないところ、本件通知書には、仮に原告会社が本件マンションの本件各居室において住宅宿泊事業を実施した場合、消防法上の適合通知書を取得していないことなどから違法民泊となる可能性がある旨記載されるにとどまり、原告X1を直接の対象としたものとはいえず、原告X1の名誉や信用に直接関わるものと認めることはできない。
この点を措くとしても、原告X1が消防法令適合通知書を取得しないまま本件マンションの本件各居室において住宅宿泊事業を実施することは消防法17条1項に違反するから、上記記載は真実である。
また、本件通知書の記載内容からすれば、被告は、原告会社が本件各居室において住宅宿泊事業を実施しようとしていることについて、本件各居室の区分所有者らに対し、注意を喚起する目的で、本件通知書を送付したものと認められるから、上記記載による事実の摘示は、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的で行われたものと認めることができる。
したがって、被告が本件各居室の区分所有者らに対して本件通知書を送付したことが、原告X1に対する不法行為を構成すると認めることはできず、原告らの上記主張は理由がない。

本件では、消防法により、スプリンクラー設備の設置が義務付けられているため、現状では新たに消防法令適合通知書が交付されることはないという事情がありました。

そのため、管理組合法人が民泊営業を禁止したとしても、営業権侵害とはならないと判断されました。

また、名誉毀損に関する判断(判例のポイント2)についても参考になりますのでしっかり押さえておきましょう。

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管理組合運営42 管理組合が自治会に加入し、管理費から自治会費を支払う旨の管理規約を定めることはできる?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合が自治会に加入し、管理費から自治会費を支払う旨の管理規約を定めることはできる?(東京地判令和4年7月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である原告が、原告が加入する区分所有法上の管理組合である被告に対し、以下の(1)から(3)までの請求をする事案である。
(1) 管理組合である被告が自治会に団体として加入し、管理費から自治会費を支払う旨の管理規約及び被告が自治会を脱退する場合には全体総会の特別決議を経る旨の管理規約がいずれも無効であることの確認請求
(2) 被告が令和2年4月26日及び令和3年4月25日に開催した各定期総会において、管理費から自治会費を支払う内容の予算案を承認した各決議がいずれも無効であることの確認請求
(3) 原告が被告に支払った管理費のうち、原告が自治会を退会した日以降に被告が支払った自治会費相当額5199円について不当利得に基づく返還請求

【裁判所の請求】

請求棄却

【判例のポイント】

1 団地管理組合は、当該団地内の土地、附属施設及び専有部分のある建物(以下「建物等」という)の管理を目的として当該団地内に存在する区分所有建物の区分所有者が当然に加入する強制加入団体であり(区分所有法65条)、その規約において、建物等の管理又は使用に関する事項を定めることができる(区分所有法66条、68条1項、30条1項。)。
ここにいう「管理」とは、建物等を維持していくために必要かつ有益な事項をいうものと解され、建物等の管理又は使用に関わりのない事項は、規約として定めても効力を生じないものと解される。
団地管理組合も団体の一種であるから、その活動の一環として、他の団体に団体として加入すること自体は否定されないものと解されるところ、他の団体への加入について規約で定める場合、上記のとおり規約において定めることができるのは建物等の管理又は使用に関する事項に限られ、また、「管理」とは建物等を維持していくために必要かつ有益な事項を指すと解されることからすると、当該団体へ加入することが建物等の管理又は使用に関する事項に該当し、建物等を維持していくために必要かつ有益であることを要することとなる。
そこで、本件自治会への加入が建物等の管理に該当し、建物等を維持していくために必要かつ有益といえる関係があるか否かについて検討する。

2 本件自治会は、被告が管理する建物等の対象範囲と活動地域が一致し、本件自治会の基本方針に本件各マンションの生活環境の改善・向上のための活動が含まれ、本件自治会は本件各マンションに係る防災・防犯・清掃活動、本件各マンションの価値の維持・向上に資する近傍の美化活動・住環境改善活動を行っていることからすると、本件自治会は、被告の建物等の管理に含まれる活動を基本方針とし、実際にも本件各マンションの建物等を維持していくために必要かつ有益な活動を行う団体であるといえる。
したがって、本件自治会に加入することを被告の規約に定めることは、建物等の管理に関する規約として被告の目的の範囲内ということができる。

上記判例のポイント1の最後に記載されている規範を押さえておきましょう。

そして、本件では、自治会への加入を規約で定めることも有効と判断されています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。