義務違反者に対する措置32 排水管の不具合を理由に2年近くにわたり賃料の一部を支払わなかった賃借人に対する建物明渡請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、排水管の不具合を理由に2年近くにわたり賃料の一部を支払わなかった賃借人に対する建物明渡請求が認められた事案(東京地判令和4年1月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの専有部分である本件建物の区分所有者であり、被告会社に対して本件建物を賃貸していた原告が、被告会社による賃料の不払を理由として本件賃貸借契約を解除したと主張して、①被告会社に対し、本件賃貸借契約の終了に基づき、②本件建物を占有している被告Y1及び被告Y2に対し、区分所有権に基づき、本件建物の明渡しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告会社は、排水管の不具合に伴うユニットバス及びキッチンの排水の支障により本件建物の使用収益を妨げられるという事象が発生した令和元年7月以後、2年近くにわたり(本件訴状が送達された令和2年3月以後について見ても、1年以上にわたり)、月額7万7500円の賃料しか支払わないなどの行為を継続しており、令和元年7月分~令和3年6月分の賃料に係る未払額の合計も、112万7000円に及ぶ
他方、原告は、本件報告書において、排水管の詰まりを抜本的に解消するためには、本件建物の下階の専有部分の居室に立ち入った上で、当該専有部分と本件建物との間に存するスラブの下に配管された排水管の交換をする必要があるとされていること、当該排水管は、本件マンションに係る共用部分に属すると解されること等から、原告において本件建物に属する排水管の修繕のみを行うのではなく、本件管理組合において本件マンション全体の排水管の修繕を行うのを待つとの判断をしたものと考えられるが、この判断自体は相応の合理性を有するものということができる
また、原告は、本件建物の管理を委託している本件管理会社を通じて、本件マンション管理組合に対し、本件マンションの排水管の修繕をするよう求めており、その結果、本件管理組合の理事会によって、令和2年2月頃から、排水管の配管ルートの確認等のため、本件マンションの各専有部分への事前入室調査等が行われ、遅くとも同年12月までに、本件マンションの排水管の改修工事を行う方針が固められ、令和3年1月頃、本件マンションの住民等に対する当該改修工事の説明会が行われていることに照らすと、被告会社としては、令和2年2月頃~令和3年1月頃にかけて、本件マンション全体の排水管の修繕が進捗していることを十分認識可能であったにもかかわらず、その間、一貫して、原告に対して支払うべき月額賃料額(12万4000円)より4万6500円も少ない月額7万7500円の賃料しか支払っていない
これら諸事情に加えて、賃貸借契約において賃借人が賃貸人に対して賃料を支払う義務は、賃借人の基本的かつ重要なものであることに鑑みると、平成26年7月~令和元年7月の約5年間、ユニットバス及びキッチンの排水管の排水状況は、使用収益に関する具体的な支障が生ずる程度には至っていなかったものの、必ずしも良好ではなかったことを考慮しても、原告と被告会社の間の信頼関係は、遅くとも原告準備書面3をもって未払賃料の催告がされた令和3年6月30日までには、破壊されていたことは明らかである。
したがって、本件賃貸借契約は、原告準備書面3をもってされた解除の意思表示により、解除されたというべきである。

賃貸物件の一部に支障がある場合、賃料の一部を減額して支払うという対応が考えられますが、本件同様、債務不履行と判断される可能性がありますので、対応方法は慎重に検討しなければいけません。

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駐車場問題17 管理組合法人が、マンションの敷地に権限なくバイクを駐車していた区分所有建物の賃借人に対し、バイクの撤去等を求める訴訟を提起した際に本件訴えについての弁護士費用相当額の請求ができるか(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合法人が、マンションの敷地に権限なくバイクを駐車していた区分所有建物の賃借人に対し、バイクの撤去等を求める訴訟を提起した際に本件訴えについての弁護士費用相当額の請求ができるか(東京地判令和4年1月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、自身の所有地である本件土地につき、被告が本件バイクを駐車していた旨主張し、被告に対し、下記(3)、(4)の各請求をした事案である。
なお、原告は、本件訴え提起当初には下記(1)、(2)の請求もしていたが、これらの部分は取り下げられた。
(1)本件土地の所有権に基づく返還請求についての管理権の行使(区分所有者全員のため、区分所有法47条1項及び後記規約67条に基づき原告となる趣旨と解される。)として、本件バイクを撤去して本件土地を明け渡すことを求めた(ただし上記のとおり取下げ済み)。
(2)上記同様、妨害排除請求権についての管理権行使として、本件土地上に本件バイクを駐車させ、又は第三者をして駐車させないことを求めた(ただし上記のとおり取下げ済み)。
(3)不法行為に基づく損害賠償請求(上記同様、区分所有者全員のため原告となる趣旨と解される。)として、本件訴えについての弁護士費用相当額である33万円の支払いを求めた(ただし、規約67条4項との関係については後に説示する。)。
(4)本件バイクを駐車する態様による本件土地の不法占拠につき、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求(上記(3)と同様である。)として、本件土地の使用料相当額である前記請求2記載の損害賠償金又は利得金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、18万8627円を支払え。

【判例のポイント】

1 争点(1)(被告に対する弁護士費用相当額の請求が認められるか否か)について
上記争点に関して区分所有法の規定を検討すると、同法46条2項は、「占有者は、建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。」と定めており、その趣旨は以下のようなものと解される。
すなわち、規約及び集会の決議は区分所有者相互間の事項を定めるもので、区分所有者間の団体のルールであり、本来は区分所有者以外の者である賃借人等の占有者を直接拘束するものではないと解される。
しかし、占有者は、共同生活の面からみれば区分所有関係のいわば準構成員とも言うべき立場にあり、円満な区分所有関係を確保するためには、占有者も上記のようなルールを守るよう義務付ける必要がある。
そこで、建物や敷地等の使用方法に関する限り、占有者は、賃貸人である区分所有者のみならず、区分所有者全体に対しても上記のようなルールを守る義務を負うよう定められたものと解される。また、使用方法以外の事項、例えば管理費の支払いといった点については、仮に規約や集会の決議により定められた場合であっても、占有者に対しては効力を有しないと解される。

2 原告は、本件請求(3)を不法行為に基づく損害賠償請求としているが、その具体的主張内容に照らしても、本件管理規約67条4項が被告に対して効力を有することを前提とし、同条項に基づく請求・主張をする趣旨と解するほかない。
そして、同条項の内容は、本件マンションの建物又は敷地等の使用方法そのものを定めたものではなく、管理組合法人である原告につき生じた費用の一種である弁護士費用等について、その請求可能額を定めたものである。
そうすると、前記の区分所有法46条2項の規定に当てはまるものではなく、むしろ管理費の負担方法に関する性質のものと解さざるを得ない(関連して、上記の弁護士費用等に相当する収納金は、通常の管理に要する費用に充当する旨定められているところである(本件管理規約27条、67条5項)。)。
そうすると、本件管理規約67条4項は、区分所有法46条2項に照らし、被告に対しては効力を有しないと言うべきである。
よって、原告の上記主張は前提を欠くと言わざるを得ない(このように解することによって、占有者に対する訴え提起のための弁護士費用等の回収につき支障が生じ得るとしても、上記の区分所有法の規定に照らせば、基本的には規約に拘束される区分所有者との間で解決が図られるべきものと解される。)。

3 なお、原告の請求・主張の趣旨は前記のとおりと解されるところであるが、念のため検討すると、管理組合法人と占有者との間で弁護士費用を含む損害賠償等について個別の合意が成立した場合や、具体的事実関係に応じて特に弁護士費用相当額の損害につき故意・過失等の不法行為の要件を満たす場合も、想定し得ないではないものと解される。
そして、本件においては、①被告と本件区分所有者との間の賃貸借契約において「本物件について定められた細則等がある場合、これを遵守」する旨が定められていること(7条)、②本件管理規約18条には、区分所有者が賃借人に規約等の定める事項を遵守させ、賃借人にはその旨の誓約書を原告に提出させなければならないとされていることといった点は認められる。
しかしながら、これらの規約及び契約の条項も、前記の区分所有法46条2項の規定を受けたものであって、基本的に建物等の使用方法についての規定と解される。加えて、本件記録を検討しても、被告が原告に対して上記誓約書を実際に提出した形跡は見当たらず、また被告が本件管理規約67条4項の定める弁護士費用等の負担について具体的に認識した上で承諾したような形跡も見当たらない。
そうすると、上記のような損害賠償等についての個別の合意や、特に不法行為の要件を満たしていると言うべき事実関係についても、本件では認められないと言うほかない。

非常に重要な裁判例です。

賃借人(占有者)に対する訴訟提起をする場合に、管理規約に基づき、弁護士費用相当額を請求することができるかについて、区分所有法の規定からの解釈を示しています。

勘違いしやすいところですのでしっかり理解しておきましょう。

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義務違反者に対する措置31 規約に違反する区分所有者に対する訴訟係属中に規約を変更し、本件規約に違反した場合の罰金を定めた規定を設け、後訴において当該罰金合計350万円を請求することの是非(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、規約に違反する区分所有者に対する訴訟係属中に規約を変更し、本件規約に違反した場合の罰金を定めた規定を設け、後訴において当該罰金合計350万円を請求することの是非(東京地判令和4年1月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、本件マンション管理組合であり、区分所有法3条前段所定の本件マンションの区分所有者全員を構成員とする権利能力なき社団である。
本件は、原告が、本件マンションの101号室の区分所有権を共有する被告らに対し、①被告らに対して本件マンションの管理規約の違反行為の是正を求めて提起した前訴のために支出した弁護士報酬等の費用について、上記違反行為を不法行為とする損害に当たると主張して、上記費用相当額151万3236円の損害賠償金+遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、②本件規約に違反した場合の罰金を定めた規定に基づき、平成28年12月から平成30年5月までの本件規約違反を理由とする月額20万円の割合による損害金合計350万円(ただし,平成28年12月分については10万円の一部請求)の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件前訴は原告が被告らに対して本件工事の是正等を求めて提起したものであるところ、原告は、本件前訴が1審に係属している中で、本件申入れをした上、本件規定を設け、さらに、本件前訴が控訴審に係属している中で、被告らに対して本件規定に基づく罰金請求をする旨の決議をしたものである。
このような経緯や、上記質疑応答の内容等に照らせば、本件規定は、専ら被告らのみに適用されるものではないとしても、本件前訴において係争中であった被告らへの適用を念頭に置いて設けられたものであることは明らかというべきである。
このことは、本件規定が本件建物だけでなく本件マンションの102号室にも適用された事実があったとしても、左右されるものではない。
そうすると、原告は、本件工事が本件規約に違反するなどと主張してその是正等を求める本件前訴を提起し、その係属中に、被告らに適用することを念頭に置いて本件規約の違反者に月額20万円の罰金を請求できる旨の本件規定を設け、これに基づいて被告らに対して290万円ないし350万円の罰金を請求する旨の決議を行い、本件前訴の判決が確定した後、上記決議に基づくものとして本件工事が本件規約に違反することを理由に被告らに対して350万円の損害金の支払を求める本件訴訟を提起したことになる。
このような経緯に照らせば、本件規定に基づく被告らへの請求は、被告らとの間で本件前訴が係属し、本件工事が本件規約に違反するか否かが裁判の場で争われて審理されていたにもかかわらず、本件工事が本件規約に違反するという原告側の裁判上の主張を前提として多数決により一方的に本件規定を設けて被告らに対して月額20万円という多額の罰金を課すことにより、原告側の裁判上の主張に従うように裁判外で経済的圧力を掛けたものといわざるを得ない
規約違反が明白であれば、このような対応にも合理性があると考える余地はあり得るものの、本件工事が本件規約に違反するか否かについては、被告らは本件前訴において相応の根拠を示して争っていたものであって、本件前訴の1審判決や控訴審判決において被告らの言い分の一部が認められていることからしても、その違反は必ずしも明白ではなかったというべきである。
それにもかかわらず、上記決議に基づいて350万円という多額の損害金の支払請求をすることは、多数決により被告らに経済的圧力を掛けることによって、事実上、被告らが裁判において規約違反を争う機会を損なわしめるおそれがあるものというべきであって、被告らの裁判を受ける権利を実質的に侵害しかねないものとして権利の濫用に当たり許されないというべきである。
この点について、原告は、被告らが本件前訴の終了後も確定判決に従った対応をしていないことが悪質であるなどとも主張するが、この点は本件請求とは別個の問題であって、上記の認定判断を左右するものとはいえない。
したがって、争点2に関して本件規定が区分所有法に違反しないとしても、本件請求のうち本件規定に基づく350万円の罰金請求の部分には理由がない。

いろいろと考えさせられる事案です。

本件原告のみに適用される規定わけではありませんが、裁判所としては、これまでの経緯や罰金の額等に鑑みて、権利濫用にあたると判断しています。

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義務違反者に対する措置30 建物のエレベーターの損壊行為を行った区分所有者に対し、本件エレベーターやマンションのスパの使用を禁止した行為が適法とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、建物のエレベーターの損壊行為を行った区分所有者に対し、本件エレベーターやマンションのスパの使用を禁止した行為が適法とされた事案(東京地判令和4年1月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、親子である原告らが、居住中の区分所有建物の管理組合である被告Y1管理組合の役員であるその余の被告らから、上記建物のエレベーターの破損に関して脅迫されるなどしたとして、被告役員らに対しては不法行為に基づき、被告管理組合に対しては民法715条に基づき、それぞれ次の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告らは、被告役員らが原告X1に対して12月16日頃に本件出来事が解決するまで本件マンションのエレベーターの使用を禁止した旨主張する。
しかし、被告管理組合は、原告X1に対し、同原告の本件エレベーター損壊行為が区分所有法6条3項及び1項違反であるとして、同法57条1項に基づき,本件出来事が解決するまで本件エレベーターの使用の停止を請求したものであり、原告X1が起こした本件出来事の内容からすれば、上記請求には根拠があるというべきであるから、これに関わった被告役員らに原告X1に対する不法行為が成立するとはいえない。

2 原告らは、被告役員らが原告X2に対して、12月16日頃、入居者が利用できる本件マンションの付属設備のスパについて、本件出来事が解決するまで利用を禁止する旨申し渡した旨主張する。
しかし、原告X2が本件マンションのスパにおいて、被告Y2に対して本件出来事につき大声で苦情を述べるなどの迷惑行為をしたことから、被告管理組合は、原告X2に対して、スパ使用細則4条1項及び2項に基づき、本件マンションのスパの使用禁止を請求したものであり、同請求には根拠があるというべきであるから、これに関わった被告役員らに原告X2に対する不法行為が成立するとはいえない。

3 原告らは、被告管理組合が、民法715条に基づき、被用者である被告役員らの原告らに対する不法行為につき使用者としての責任を負う旨主張する。
しかし、被告役員らは被告管理組合の被用者ではなく、この点を措くとしても、上記のとおり、被告役員らに原告らに対する不法行為が成立するということはできないから、原告らの上記主張は、その前提を欠き理由がない。

上記判例のポイント1、2ともに管理規約や使用細則に基づいて対応していることが重要になってきます。

また、基本的なことですが、上記判例のポイント3も押さえておきましょう。

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義務違反者に対する措置29 区分所有者がショーウィンドウ部分及び看板部分を権限なく使用していることを理由とする看板等の撤去請求が棄却された理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

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今日は、区分所有者がショーウィンドウ部分及び看板部分を権限なく使用していることを理由とする看板等の撤去請求が棄却された理由とは?(東京地判令和4年1月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合である原告が、当該建物の区分所有者である被告に対し、被告が当該建物の共用部分に該当する別紙物件目録記載の物件(ショーウインドウ)等に別紙撤去対象物目録記載の看板等を設置するなどして権原なく使用していると主張して、管理規約による共用部分の妨害排除請求権及び妨害予防請求権に基づいて、上記看板等の撤去を求めるとともに、上記物件の使用の禁止を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分は、いずれも本件マンションの外壁の外側の空間に存在し、当該空間内に設置されたガラス扉等とともにショーウインドウとして使用することや、看板をはめ込むことによって看板として使用することができる設備であることからすると、本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分は、本件マンションの建物本体である外壁の一部に該当するものと認めるには疑問が存するものの、いわゆる躯体部分の上塗り部分と同様のものであり、建物に備え付けられ、その構造上及び効用上、建物と不可分の関係にあるものとして、本件マンションの建物の附属物であると認めることができる。
そして、本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分は、本件マンションの外壁の外側に存在しており、特定の専有部分と接続していないことからすると、その位置や構造に照らし、特定の専有部分の区分所有者による排他的使用が当然に予定されているものとはいい難いから、区分所有法2条4項にいう専有部分に属しない建物の附属物に当たり、かつ、区分所有者全員の共有する共用部分に当たると認めるのが相当である。

2 本件マンションの建築に当たり、被告が、かつて借地上に所有していた建物の賃借人から、107号室を賃貸するとともに106号室の南側にショーウインドウを設置するよう求められたことを受け、107号室の賃借人が使用するために本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分が設置されたこと、本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分内に設置された電気設備は、107号室のために設置された分電盤から電気が供給されており、その電源スイッチも107号室の室内に存すること、本件マンションの建築後、被告が本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分を継続的に管理し、107号室とともに第三者に賃貸しており、平成20年頃に至るまで、本件マンションの区分所有者から、本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分の使用状況について異議が述べられたことはなかったことが認められる。
本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分の設置や使用に関する上記経緯を総合すると、本件マンションの建築計画の段階から、被告が取得する107号室の賃借人が使用するために本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分が設置されることが予定され、本件マンション建築時及び建築後において、被告あるいはその賃借人が本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分が管理使用することについて本件マンションの区分所有者も異議なく承認していたと認められるのであるから、本件マンションが建築された昭和56年頃、本件マンションの区分所有者全員の間において、本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分を被告が排他的に使用することができる旨のいわゆる専用使用権を設定する旨の黙示の合意が成立したものと認めるのが相当である。

本件では、①本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分が本件マンションの共用部分であるか否か、及び、②本件ショーウインドウ部分及び本件看板部分について被告が専用使用権を有するか否か、という2つの争点について判断されています。

①はさておき、被告としては②の争点について、これまでの経緯や使用実績等を詳細に主張立証したことが奏功した結果となっています。

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名誉毀損20 原告が同和であるなどと発言するなどして原告の名誉を毀損したとの主張が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、原告が同和であるなどと発言するなどして原告の名誉を毀損したとの主張が認められなかった事案(東京地判令和4年2月3日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告及び被告らは、平成31年2月当時、本件マンション管理組合の役員を務めていた。
本件は、原告が、被告らに対し、被告らが、原告が同和であるなどと発言するなどして原告の名誉を棄損したと主張して、不法行為(民法709条、719条1項)による損害賠償請求権に基づき、連帯して慰謝料及び弁護士費用相当額の合計230万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【裁判所の判断】

1 Bは、平成30年冬から平成31年2月中旬頃までは、被告らと共に、原告を本件組合の理事から退任させようとする行動に出ていたが、その後、原告と共に被告Y2の発言(明白なものは後記(2)である。)を問題視するような態度をとるようになったこと、被告Y2が同和差別主義者である旨の匿名のインターネット掲示板への投稿をした者の発信者情報は、Bの住所地に本店を置く株式会社bであり、同社の代表取締役Iは、Bと共にc株式会社の代表取締役であること、原告は、Bの娘と共に、令和元年5月31日、d株式会社の取締役に(原告は併せて代表取締役にも)就任し、同社には上記Iも取締役として在任していたことが認められる。
このように、平成31年2月中旬以降、Bが原告に接近して、被告Y2の発言を問題視するなどの行動をとり、原告とBの親族や共同経営者が共に会社の役員を務める関係にあることや、B自身が原告と現在は友人関係にある旨供述していること(証人B)に照らすと、Bの上記陳述ないし供述の信用性は慎重に検討する必要がある

2 Cは、被告Y2の上記発言を聞いたのは、不特定多数の者がいた場所ではなく、CとBの前であったという記憶である旨供述していることに照らすと、Cの供述やCがBに対して送信したメッセージから、被告Y2が原告主張に係る発言をしたと認めることはできない。
また、被告Y2は、Bとの間のメッセージのやり取りでは同和という表現を用いていたが、その一方で、被告Y1、B及びCとの間のメッセージのやり取りには、原告を本件組合の理事から退任させようとするなどの打合せをする一方で、同和という表現を用いた部分は見当たらないから、被告Y2が日常的に、同和という表現を用いていたと認めることはできず、被告Y2がBに対して送信したメッセージから、原告主張に係る被告Y2の発言を推認することはできない。
さらに、平成30年2月10日及び同月12日の飲食に同席したEは、原告主張に係る被告Y2の発言を聞いたことがないと供述する。同月10日の飲食の席には、本件組合の役員ではないEの同居人(米国籍(証人E))も出席していたことに照らすと、原告が主張しBが供述するように、原告を本件組合の理事から退任させるための相談がされ、その過程で、被告Y2が原告主張に係る発言をしたとは、にわかに認め難い。
このように、原告の主張に沿うBの陳述ないし供述を裏付けるに足りる証拠がない上、被告Y2の発言に関するBの陳述ないし供述とは食い違う供述が存在し、会合の少なくとも一部については、その出席者の状況に照らし、被告Y2が原告主張のような発言に及ぶとは認め難いことに照らすと、Bの上記陳述ないし供述は、全体としてにわかに採用できない。そして、他に、原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

証人と原告との関係等から供述の信用性を認めず、請求を棄却した事案です。

解釈に依拠する部分が多いので、裁判官により判断が分かれる可能性があります。

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大規模修繕・建替え2 マンションの大規模修繕工事の際にアスベスト含有調査及びその飛散防止措置を実施することなく工事を行ったことによる慰謝料請求(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの大規模修繕工事の際にアスベスト含有調査及びその飛散防止措置を実施することなく工事を行ったことによる慰謝料請求(東京地判令和4年2月8日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの居室の区分所有者から同居室を賃借した原告が、同マンションの大規模修繕工事の施工業者である被告T社及び同マンション管理組合である被告組合に対して、被告らの以下の行為から各損害が発生したと主張して、共同不法行為を理由とする損害賠償請求権に基づき、連帯して、551万6000円+遅延損害金の支払を求める事案である。
① 被告らが、アスベスト含有調査及びその飛散防止措置を実施することなく上記工事を行ったことによって生じた精神的苦痛に対する慰謝料300万円
② 被告らが、原告に損害を与えることを目的として、共謀して、被告T社が、上記工事の施主である被告組合に対し、原告がバルコニー間の隔板を外すことを拒んだために発生した工事遅延に伴う追加工事費用として不当に高額な費用を請求し、被告組合が同費用を原告の賃貸人(上記居室の区分所有者)に求償したことによって生じた、同賃貸人から原告に対する明渡請求訴訟の提起による精神的苦痛に対する慰謝料及び同訴訟において原告が支払った金銭等合計251万6000円

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件工事についてみると、バルコニー間の隔板に係る工事の内容は、ゴミ・砂じん・油脂等の付着物を除去するために、ワイヤーブラシ・サンドペーパー等の手工具で既存塗装面の下地を処理する(乾燥した清浄な面にすること)ものであって、表面の塗膜が粉状になることはあり得るものの、隔板の基材までは剥離しないものであることが認められ、そうすると、隔板について、粉じんが出る可能性のある剥がし作業といえるような作業(アスベストを含有している層に到達するまで研磨する、隔板を粉砕するなど)がされたと認めることはできない。
したがって、バルコニー間の隔板の塗装又は取り外し工事によって原告の身体及び生命が危険にさらされるほどのアスベストの飛散があったことを前提とする原告の主張は採用することができない。

2 原告の主張は、要するに、バルコニー床面の長尺シート(下地調整材を含む。)にアスベストが含有されているかについて事前の調査が行われなかった結果、アスベストが含まれているかもしれず、工事によってそれが飛散して自身の身体又は生命が危険にさらされるかもしれないといった不安(危惧)を覚えたというものである。
しかしながら、上記のような不安感(危惧感)は、極めて抽象的かつ曖昧なものにすぎず、直ちに損害賠償を請求し得るほどに十分に強固な利益と解することは到底できないのであって、仮に原告が上記のような不安感を抱いたとしても、権利又は法律上の利益の侵害があり、損害が発生したと評価することはできない。

上記判例のポイント2は、個々人の不安感については理解できるところですが、法的保護に値する利益とまではいえないという判断です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損19 原告らが怪文書投函事件の実行者である旨を指摘する行為は、原告らの社会的評価を低下させる行為といえるが、真実性・公共性・公益性が認められるため違法性が阻却されるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、原告らが怪文書投函事件の実行者である旨を指摘する行為は、原告らの社会的評価を低下させる行為といえるが、真実性・公共性・公益性が認められるため違法性が阻却されるとされた事案(東京地判令和4年2月9日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合の理事又は理事であった原告らが、理事である被告Y1、被告Y2及び被告Y3、本件マンションの管理会社の担当社員である被告Y5並びに本件マンションの区分所有者の妻である被告Y4に対し、被告Y1らが、本件マンション内で起きた怪文書投函事件の犯人が原告らであると印象付けるような発言をしたり、被告Y5がそのような記載のある文書を配布したりするなどして原告らの名誉を棄損したことや、被告Y4が本件マンションの規約に反する犬を飼育し、原告X1に恐怖感を与えたことなど、別紙2の番号欄1ないし11記載の各請求対象行為欄及び具体的内容欄記載の不法行為を行ったとして、損害の賠償+遅延損害金の支払及び名誉回復措置として本件マンションの全区分所有者に対する謝罪文の配布と主要な日刊新聞に対する別紙1記載の謝罪広告の掲載を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件怪文書の内容は、本件管理組合の理事の活動に対して、私物化であるとして強い口調で非難し、議案の否決を扇動するものであって、作成名義人は「aマンション正常化推進委員会」と記載されているものの、匿名の書面である。
このような内容の書面を、本来部外者が立ち入りできない場所に立ち入って投函する行為は、本件マンション内の平穏を乱す行為であって、本件マンションの住民の中には、投函者に対し非難の目を向ける者も相応にいるのではないかと考えられ、その意味で、原告らが怪文書投函事件の実行者である旨を指摘する行為は、原告らの社会的評価を低下させる行為であるといえる。

2 ・・・以上の認定によれば、被告Y1及び被告Y5において、怪文書投函事件の実行者が原告らである旨の理事会での発言や、これを理由の一つとする原告X2の理事の解任議案が記載された本件招集通知の発送、被告Y1による原告X2の解任決議案の上程、説明及び進行において原告らが怪文書投函事件の実行者である旨の説明は、いずれも真実であると認めることができる
そして、本件怪文書の投函行為が、前述のとおり、本件マンション内の平穏を乱す行為であることからすると、被告Y1及び被告Y5の行為は、いずれも公共の利害にかかわる事実の公表であって,もっぱら公益を目的とする行為であると認められる。

3 本件要望書の内容は、原告X2が不必要に威圧的な行為を行う者であるとの印象を与える者であることを示すものといえ、原告X2の社会的評価を低下させるものといえる。
一方、本件要望書中には、原告X1についての言及もあるものの、原告X1が被告Y4とその愛犬をジロジロと見ているといったことや、原告X1と原告X2が知り合いであることを示している程度であって、原告X1の社会的評価を低下させる記載であるということはできない。
そして、本件要望書は、原告X2が本件管理組合の理事であることから、本件管理組合の理事としてふさわしくないとの要望を伝える趣旨のものであって、本件マンションの居住者から、本件管理組合に対する要望行為として相当な行為であるというべきであって、これに伴い理事の社会的評価にかかわる事項が記載されることもやむを得ないものといえ、原告X2の受忍限度を超える表現であるということはできないから、違法性を有しないというべきである。

このような事案においては、まずは名誉毀損の要件事実をしっかり押さえておくことがとても重要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損18 名誉を毀損する内容の書面内に口外をしないように求める文面が記載されているだけでは伝播可能性は否定されないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、名誉を毀損する内容の書面内に口外をしないように求める文面が記載されているだけでは伝播可能性は否定されないとされた事案(東京地判令和4年2月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告が原告について虚偽の事実を記載した文書をマンション内の77戸の郵便ポストに投函したことにより名誉を毀損され、精神的苦痛を被ったと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料150万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、15万円を支払え。

【判例のポイント】

1 本件表現は、原告について、「二重人格の障害者です」、「彼女の解離性同一性障害(は)……ほぼ、間違いないと思います。」と述べるものであるから、それが記載された本件文書を本件マンションの約15戸に配布することは、原告の社会的評価を低下させ、名誉を毀損するものであり、不法行為に該当することは明らかである。
これに対し、被告は、本件文書は、特定かつ少数、すなわち、本件マンションの約15戸の本件組合の役員経験者等に限定して配布されたものであること、本件文書には内容を口外しないように求める旨の記載があることから、本件文書の配布により原告の社会的評価は低下しないと主張する。
しかし、本件マンションの約15戸もの世帯に対する本件文書の配布が、「少数」の者に対する文書の配布であるとはいえない。
また、その点を措いてみても、本件文書内に口外をしないよう求める旨を記載していることのみをもって本件表現が伝播する可能性は否定されないから、本件文書の配布によって原告の社会提起評価が低下する危険性があることは否定できない。

2 被告は、本件文書の配布は、本件組合の理事長としての地位を有しない原告が、理事長としての権限を行使して本件組合等に財産的損害を与えるのを防ぐ目的でやむを得ずしたものであり、正当防衛が成立すると主張する
しかし、仮に、本件組合等に財産的損害を与えるのを防ぐ目的で文書を配布するのであれば、原告が本件組合の理事長の地位を有しないことなどを記載すれば足り、原告の名誉を毀損する内容の本件表現を記載する必要性はいささかも認められない
したがって、本件文書の配布について、やむを得ずした行為として正当防衛が認められる余地はなく、被告の上記主張は採用することができない。

口外をしないように求める旨を記載しているだけでは伝播可能性は否定されませんのでご注意ください。

また、本件の事情を見る限り、正当防衛の主張が通らないことは言うまでもありません。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

駐車場問題16 駐車場の湿度を常時70%以下とする義務があるにもかかわらず、湿度90%の状態にすることにより車両に大量のカビを発生させたことを理由とする管理組合に対する損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、駐車場の湿度を常時70%以下とする義務があるにもかかわらず、湿度90%の状態にすることにより車両に大量のカビを発生させたことを理由とする管理組合に対する損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和4年2月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、①被告管理組合との間で本件車両について駐車場契約を締結した原告X1が、被告管理組合に対し、本件駐車場の相対湿度を常時70%以下とする義務があるにもかかわらず、湿度90%で、本件車両の仮置き場の鉄板の下に水が溜まっている状態にして駐車場の管理を怠ったため本件車両に大量のカビを発生させたと主張して、債務不履行に基づく損害賠償請求により、修理費用、車両保管費用、駐車場料金、弁護士費用の損害合計231万2392円+遅延損害金の支払を、
②本件車両の所有者である原告X2が、被告らに対し、上記義務を怠ったことが不法行為に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)により、修理費用、車両保管費用、弁護士費用の損害合計225万4876円+遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、
③原告らが被告らに対し、車両保管費用(日額3300円)を将来に渡り請求する必要があると主張して、前記②と同じ不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)により、本件提訴日の翌日である令和2年3月24日から本件車両の修理が終了してその保管が終了するまで日額3300円の割合による車両保管費用の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件駐車場契約の法的性質が民法上の賃貸借契約であることは当事者間に争いがないところ、賃貸人は、契約内容に従った使用収益に適した状態において目的物を賃借人に引き渡す義務だけでなく、引渡し後も、かかる使用収益をさせることに努めるべき義務をも負担するものと解される(民法601条参照)。
そうすると、本件駐車場内の駐車車両にカビが生えるような湿度の状態を継続しこれを放置することは、かかる賃貸人の義務に違反する余地があり、原告らの主張はかかる趣旨を含むものと善解し得る。

2 本件駐車場は地下2階に位置し、東京都における平均湿度(外気)は令和元年6月が81%、同年7月が89%で、令和2年8月の本件駐車場内の湿度が午後5時から6時の間で72%から85%であったことからすると、令和元年6月から同年7月頃の本件駐車場内の湿度は梅雨時のため元々高めであったものと推察される。
しかしながら、・・・本件車両と同一区画に停めていた原告X2所有の他の3台の車両やその他の契約者車両(本件駐車場全体で100台前後の車両があった)にカビが発生していないこと、本来、車両の維持管理は所有者が行うべきことであり、特に本件駐車場は地下2階に位置し、梅雨時は元々湿度が高くなるのであるから、まずは原告X2が定期的に車両を外気にさらすなどしてその維持管理に努めるべきことを併せ考慮すると、被告管理組合がカビの生えるような高湿度の状態を放置し、本件駐車場について使用収益に適した状態で原告らに使用収益させることに努めるべき義務を怠ったとまではいえない。

3 本件駐車場内に停めていた車両のうちカビが発生したのは本件車両のみであったことに加えて、前記前提事実及び認定事実によれば、本件車両が平成9年登録の中古車両で、長期間の使用によりハンドル等の手が触れる部分に手垢や油脂等が付着していたとしても何ら不思議ではないこと、原告X2は、平成31年1月25日以降、車検切れのため本件車両を外に出して運転することができず、本件車両を外気にさらしていなかったことが認められる。
そして、原告X2が、令和元年8月2日、アルコールで一旦拭き取ったカビが同月14日に再度生えてきたことからすると、カビの胞子等がハンドルの奥まで入り込んでいたことがうかがわれ、更に、ハンドルの写真について、カビが見えないところから写真の状態になるまで半年以上を要する可能性が指摘されている。
これらの事情を総合すると、本件カビの発生は、本件駐車場内の湿度が本件工事の影響により一時上昇したことが一因となった可能性はあるものの、そもそも原告らによる本件車両の維持管理方法に問題があったというべきであり、本件工事が開始された令和元年6月10日よりも前から又はこれと同じ頃から本件工事とは無関係に本件カビの発生が始まっており、それが梅雨時で目に見える状態にまで増殖した可能性が高いというべきである。
そうすると、仮に被告管理組合に前記義務違反があったとしても、本件工事以前から又はこれと無関係に本件カビが発生していたことが否定できない以上、義務違反と本件カビの発生との間に相当因果関係があるとは認められない

管理組合の善管注意義務違反の有無という観点と相当因果関係の有無という観点の両方からアプローチしています。

特に相当因果関係に関する解釈の展開は、とても参考になるので確認しておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。