Daily Archives: 2010年10月8日

労働時間10(事業場外みなし労働時間制その6)

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間制に関する珍しい裁判例を見てみましょう。

日本インシュアランスサービス事件(東京地裁平成21年2月16日・労判983号51頁)

【事案の概要】

Y社は、生命保険会社が行う各種の確認業務を受託する会社である。

Xらは、Y社の従業員として、保険に関する各種確認業務を行っている。

Xらは、Y社から宅急便やメール等で送付される確認業務に関する資料を自宅で受領し、指定された確認項目に従い、自宅から確認先等(保険契約者等)を訪問して事実関係の確認を行い、結果を確認報告書にまとめてY社に郵送やメール等で送付する態様で、自宅を起点に直行・直帰で業務従事しており、情報共有等の目的で原則月1度出社するほかは、Xらが出社することはなかった

Xらの確認業務の遂行については、報告期限は定められていたが、労働時間配分、業務処理の優先順位付け等の作業の段取りは各従業員の裁量に委ねられ、Y社が個別具体的な指示を行うことはなかった

Y社の就業規則では、日曜日が「休日」と定められていた。また、Y社では、事業場外みなし労働時間制が採用されている

Y社は、休日労働に対する割増賃金について、一定の算定方法に基づいて支払ってきた。

Xらは、休日労働について、実労働時間に応じて割増賃金を支払うべきである等と主張し、休日労働手当等の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却(控訴)

【判例のポイント】

1 Y社の従業員の業務執行の態様は、その労働のほとんど全部が使用者の管理下で行われるものではなく、本質的にXらの裁量に委ねられたものである。したがって、本件における雇用契約では、使用者が労働時間を厳密に管理することになじみにくい。

2 本件では、休日労働のあり方も、平日のそれと本質的な差異はないのであるから、休日労働の時間の算定も、平日同様、みなし労働時間制によることが、その業務執行の態様に本質的に適っている
ただ、休日は、「「所定労働時間」や「通常所定労働時間」(労基法38条の2第1項)といったものが存在しないので、みなすべき労働時間が存在せず、これによることができないということすぎない。平日の労働にみなし労働時間制が採用されている場合でも、休日労働は実労働時間によらねばならないという格別の要請が労基法上存在するとは解されない

3 Xらの業務執行の態様からすれば、一定の算定方法に基づき、概括的に休日労働の時間を算定することについても合理性が存する。
この算定方法についての定めは、休日労働に対する時間外手当を支払うという法的な権利の存在を前提とし、それをどのように算定するか、という技術的・細目的な事柄に属するものであり、本質的に使用者に制定する権限があり、その裁量に委ねられている
→この定めについては、恣意にわたるような定め方や、時間外手当請求権を実質的に無意味としかねないような裁量権の逸脱が存するか否かに限って審査すべきである
→裁量権の逸脱があるとまではいえない。

事業場外みなし労働時間制の適用を肯定した裁判例です。

私の知る限り、肯定したのは、この裁判例が初めてです。

また、この裁判例は、平日の労働に事業場外みなし労働時間制の適用がある場合、休日労働についても同制度の適用があると判断しています。

ここからが問題です。

休日には、「所定労働時間」が設定されていないため、どのように労働時間をみなすのかが問題となります。

事業場外みなし労働時間制の適用を肯定する裁判例がなかったので、これまであまり問題とならなかった点です。

この裁判例では、使用者が概括的にみなすことを原則として許容し、裁量権の逸脱の有無に限り審査するという方法をとっています。

平日の所定労働時間とみなす方法でもよい気がしますが・・・。

この事件は控訴されていますので、高裁がどのような判断をするのか楽しみです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。