Daily Archives: 2010年10月24日

競業避止義務6(アサヒプリテック事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見ていきます。

アサヒプリテック事件(福岡地裁平成19年10月5日・労判956号91頁)

【事案の概要】

Y社は、歯科用合金スクラップ、電子材料、宝飾製造業からの排出屑を買い取り、貴金属の回収をするリサイクル業及び産業廃棄物の無害化処理等の環境保全事業を主たる目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員である。

Y社の就業規則には、退職後2年以内の競業避止義務に関する規定がある。

Xは、Y社入社時、退職後3年以内の競業避止義務に関する誓約書を提出した。

Xは、Y社退職後、個人で、歯科医院等から排出される歯科用合金スクラップの買取業を始めた。

Y社は、Xに対し、誓約書に基づく合意及び就業規則の競業避止条項に基づき、上記買取りの禁止及び債務不履行に基づく損害賠償を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却。

【判例のポイント】

1 退職後一定期間は使用者である会社と競業行為をしない旨の入社時における特約や就業規則の効力は、一般に経済的弱者の立場にある従業員の生計の方法を閉ざし、その生存を脅かすおそれがあるとともに、職業選択や営業の自由を侵害することになるから、上記特約や就業規則において競業避止条項を設ける合理的事情がない限りは、職業選択や営業の自由に対する侵害として、公序良俗に反し、無効となるいうべきである。
したがって、従業員が、雇用期間中、種々の経験により、多くの知識・技能を取得することがあるが、取得した知識や技能が、従業員が自ら又は他の使用者のもとで取得できるような一般的なものにとどまる場合には、退職後、それを活用して営業等することは許される。

2 しかしながら、当該従業員が会社内で取得した知識が秘密性が高く、従業員の技能の取得のために会社が開発した特別なノウハウ等を用いた教育等がなされた場合などは、当該知識等は一般的なものとはいえないのであって、このような秘密性を有する知識等を会社が保持する利益は保護されるべきものであり、これを実質的に担保するために、従業員に対し、退職後一定期間、競業避止を認めることは、合理性を有している。

3 会社との間で取引関係のあった顧客を従業員に奪われることを防止するという目的のみでは、競業避止条項に合理性を付与する理由に乏しいが、この目的を主たる理由とする場合でも、会社が保有していた顧客に関する情報の秘密性の程度、会社側において顧客との取引の開始又は維持のために出捐(金銭的負担等)した内容等の要素を慎重に検討して、会社に競業避止条項を設ける利益があるのか確定する必要がある。そして、他の従業員への影響力、競業制限の程度、代替措置等の要素の存否を検討し、会社と従業員の利益を比較考量して、競業避止条項を設ける合理的事情がある場合には、公序良俗に反しない場合もある。

4 Y社が競業避止条項を設けた目的は、XによってY社の顧客を奪われることを防止することにあるところ、顧客情報等の秘密性に乏しく、Y社がXに対し競業避止を求める利益は小さいと言わざるを得ない。
他方、競業避止の対象となる取引の範囲(種類、地域)は広範で、期間も長期に及び、競業避止条項により、Xの生存権、職業選択の自由、営業の自由に対する侵害の程度が大きいことが認められる。
そして、Xは、Y社において役職等を有しておらず、退職後、Y社従業員に対し影響力を有する地位等にあったとはいえない。また、Y社がXに対し競業避止に関する代替措置を講じた事実は認められない。

この裁判例では一般論がしっかりと書かれており、非常に参考になります。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。